- なぜ「デュレーション管理」が債券ETFの勝敗を分けるのか
- デュレーションの超基本:まずはこの3つだけ押さえる
- 債券ETFでよく使う指標の読み方
- 「デュレーション管理」とは何をすることか
- 局面別:金利環境で“効くデュレーション”は変わる
- 具体例1:3本で作る「デュレーション・ダイヤル」
- 具体例2:投資目的別のモデル配分(考え方だけ真似する)
- 社債ETFのデュレーション管理:金利だけでは足りない
- 為替の扱い:日本の個人投資家がつまずくポイント
- 運用ルール:再現性を上げる3つの規律
- よくある失敗パターンと回避策
- チェックリスト:買う前に必ず確認する10項目
- まとめ:デュレーションは「恐れるもの」ではなく「設計するもの」
- もう一段だけ深掘り:コンベクシティと「長期債が急に効く瞬間」
- イールドカーブで考える:同じデュレーションでも結果が違う
- デュレーションを数値で合わせる簡易計算
- リバランスの具体例:金利上昇で長期が減った時にどうするか
- 最後に:最小のスタートプラン
- 用語ミニ辞典(詰まったらここだけ見返す)
なぜ「デュレーション管理」が債券ETFの勝敗を分けるのか
債券ETFは「株より値動きが小さい」「分配金がある」という印象で買われがちですが、実際の損益は金利とデュレーションでほぼ決まります。デュレーションは、債券(と債券ETF)が金利変化にどれだけ敏感かを示す“レバレッジ係数”のようなものです。ここを理解せずに買うと、金利が少し動いただけで思った以上の含み損が出て、損切りや投げ売りにつながります。
一方、デュレーションを意図的に設計すると、「金利が上がっても崩れにくい」「利下げ局面で伸びやすい」「キャッシュ代替として安定運用」など、狙いに合わせて債券ETFを使い分けられます。本記事は、初心者でも再現できるように、指標の読み方→組み合わせ→運用ルールまで、順番に整理します。
デュレーションの超基本:まずはこの3つだけ押さえる
デュレーションは「金利1%変化で価格が何%動くか」の近似
一般に、修正デュレーション(Modified Duration)が8なら、利回りが1%(100bp)上がると価格は概ね8%下がり、1%下がると概ね8%上がる、という目安になります。あくまで近似で、実際は「コンベクシティ(凸性)」やクレジットスプレッド、為替、流動性でブレますが、方向性を読み違えることは減ります。
「平均残存年数」と混同しない
残存年数(maturity)は“いつ返ってくるか”の話、デュレーションは“金利にどれだけ反応するか”の話です。債券ETFは中身が入れ替わるため、平均残存年数が同じでも、保有債券のクーポンや利回り構造によってデュレーションは変わります。ファクトシートに載る「Effective Duration(実効デュレーション)」を見るのが基本です。
ETFでは「利回り」「デュレーション」「信用リスク」が三つ巴
利回りが高いETFは魅力的に見えますが、利回りは大きく2種類のリスクの対価です。①金利リスク(デュレーション)と、②信用リスク(クレジットスプレッド)です。たとえばハイイールド債ETFはデュレーションが短めでも、景気悪化でスプレッドが拡大すると価格が下がります。「金利だけ見て安全」と判断すると事故ります。
債券ETFでよく使う指標の読み方
Effective Duration(実効デュレーション)
ETFの“金利感応度”の中心指標です。国債ETFなら、だいたいこの数字が金利リスクを説明します。住宅ローン担保証券などオプション性がある債券を含む場合、金利低下で期限前償還が増えるなど挙動が変わるため、実効デュレーションの概念が重要になります。
Average Maturity(平均残存年数)とAverage Life
残存年数は「償還までの時間の平均」です。Average Lifeは、元本が返ってくるタイミングの平均をより意識した指標です。MBSやABSを含むETFで、デュレーションと一緒に見ると“想定外の動き”を減らせます。
Yield to Maturity(最終利回り)とSEC Yield
ETFの分配金利回りだけを見て判断すると危険です。分配金は過去のクーポンや配当タイミングの影響が大きく、今の金利水準を反映しにくいことがあります。可能ならSEC YieldやYTM(概算)を確認し、「今の運用環境での期待収益」を把握します。
クレジットスプレッドと格付け分布
社債ETFでは、金利リスクだけでなくスプレッドが価格を動かします。格付けの構成(AAA〜Bなど)と、セクター比率(金融・通信・エネルギーなど)を見て、景気局面での耐性を想定します。
「デュレーション管理」とは何をすることか
デュレーション管理は、ざっくり言えば「ポートフォリオ全体の金利感応度を、狙った水準に固定・調整する」ことです。ETF単体のデュレーションを見るだけでなく、株式・現金・コモディティなどと合わせた全体の振れ幅を設計します。
最初に決めるべき2つの目的
- 目的A:下落局面のクッション(株が下がる局面で、債券が上がって相殺してほしい)
- 目的B:現金代替(短期資金を置く場所として、価格変動を抑えたい)
目的Aなら中長期国債ETFを混ぜる価値があります。目的Bなら短期債や超短期ETF、場合によっては変動金利系が中心です。目的が曖昧だと、金利局面が変わった瞬間に「こんなはずでは」となります。
局面別:金利環境で“効くデュレーション”は変わる
金利上昇局面(インフレ再燃・財政懸念・タームプレミアム上昇)
この局面で長期デュレーションを持つと、分配金を上回る価格下落が起こりやすいです。対処は3つです。①デュレーション短縮(短期国債・短期投資適格社債へ)、②変動金利・短期ローリングで利回りを取りに行く、③あえて長期を保有するなら“量を減らす”か“他資産で相殺する”です。
利下げ局面(景気減速・金融緩和)
利下げでは長期デュレーションが効きます。ただし利下げの理由が「深い景気後退」なら、社債スプレッドが広がって社債ETFは伸びにくいことがあります。利下げ=社債が必ず上がる、ではありません。国債(または高格付け中心)と、信用リスクを分けて考えるのがコツです。
逆イールド(短期金利が高い)
逆イールドでは短期の利回りが相対的に魅力的で、あえて長期を持たずに短期で回す選択が合理的になりやすいです。一方で、逆イールドの解消が「短期金利低下」で起きる局面では長期が急伸することもあります。ここで重要なのが“ルール化”です。相場観で当てにいくより、リバランス規律で取りこぼしを減らす方が再現性が高いです。
具体例1:3本で作る「デュレーション・ダイヤル」
債券ETFのデュレーション管理は、難しい商品を使う必要はありません。基本は「短期」「中期」「長期」の3本で十分です。米国例なら短期国債(例:1〜3年)、中期国債(7〜10年)、長期国債(20年超)のように分けます。日本でも同じ発想で、残存年限帯で分けられます。
ダイヤルの回し方(考え方)
- 守り重視:短期比率を増やし、ポートフォリオの実効デュレーションを下げる
- 景気後退リスクを織り込みたい:中期〜長期を増やし、株の下落クッションを厚くする
- 両方欲しい:短期+長期の“バーベル”で、利回りとクッションを両立させる
ポイントは、長期を増やすときも「いきなり100%」にしないことです。金利が上昇基調のまま長期を厚くすると、心理的に耐えられず撤退しやすい。小さく始め、ルールで増減させると継続できます。
具体例2:投資目的別のモデル配分(考え方だけ真似する)
モデルA:現金代替(価格変動を最小化)
短期国債ETFを中心に、デュレーションを1〜2程度に抑えます。目標は「金利1%上がっても価格下落が1〜2%程度」にすることです。分配金は派手ではありませんが、運用の安定性が最大のメリットです。生活防衛資金や、株の買い増し資金の置き場に向きます。
モデルB:株式のクッション(下落局面の相殺を狙う)
中期国債を軸に、少量の長期国債を混ぜてポートフォリオの実効デュレーションを5〜7あたりに設定します。株が急落する局面で、金利低下が伴えば債券側が上昇しやすい構造です。ただしインフレショック型の株安(スタグフレーション気味)では、債券も下がりやすい点は割り切りが必要です。
モデルC:利下げを取りにいく(ただし“張りすぎない”)
長期国債をある程度入れ、実効デュレーションを8〜12程度まで上げます。リターン源泉は金利低下による価格上昇です。ただし逆方向に動いたときの損失も大きいので、リスク資産として扱い、株と同じ感覚でポジション管理します。長期債を「安全資産」と誤解すると破綻します。
社債ETFのデュレーション管理:金利だけでは足りない
投資適格(IG)社債:金利+スプレッドの二重リスク
投資適格社債は、国債より利回りが高い分、スプレッド拡大リスクを持ちます。景気が悪化すると、たとえ利下げでもスプレッドが広がって価格が伸びにくいことがあります。デュレーション管理をするなら、国債部分(純金利リスク)と社債部分(信用リスク)を分けて、役割を明確にします。
ハイイールド(HY):デュレーション短めでも“株っぽい”
HYはデュレーションが短めに見えることがありますが、最大のドライバーは信用不安です。デュレーションを短くしても、景気後退でデフォルト懸念が上がれば下落します。「短期だから安全」ではありません。HYを使うなら、株式のサテライトとして小さく、ルールで上限を決めるのが現実的です。
為替の扱い:日本の個人投資家がつまずくポイント
外貨建て債券ETFを買うと、損益に為替が乗ります。デュレーション管理をきれいにやっても、円高で相殺されて意味が薄れることがあります。逆に、円安が続くと「債券で儲かった」と錯覚しやすい。そこで、次のどちらかに割り切ります。
- 為替ヘッジあり:金利(デュレーション)を主役にしたい。短期運用や、金利局面の読みで勝負したい場合。
- 為替ヘッジなし:外貨資産の長期保有が目的。為替も含めた分散を狙う場合。
ヘッジにはコスト(ヘッジコスト=金利差)があります。ヘッジコストが高い局面では、ヘッジ付きの利回りが大きく削られます。つまり「ヘッジすれば安全」ではなく、目的に合わせて選ぶものです。
運用ルール:再現性を上げる3つの規律
規律1:目標デュレーションを“数値”で決める
「短め」「長め」ではなく、例えば「債券部分の実効デュレーションを3〜4に保つ」のように決めます。ETFごとのデュレーションが分かれば、比率の加重平均で概算できます。厳密でなくて構いません。狙いが明確になり、相場のノイズで売買しにくくなります。
規律2:リバランスは“時間”か“乖離幅”で機械的に
推奨は、月1回または四半期1回の定期リバランス、もしくは「目標配分から±5%乖離で調整」のようなルールです。金利のニュースで毎回動くと、手数料と判断ミスが増えます。ルールで淡々と戻す方が、結果的に大崩れしません。
規律3:ストレステストで“耐えられる損失”を先に把握
金利が1%動いたらどうなるか、2%ならどうなるかを、デュレーションでざっくり見積もります。たとえばデュレーション10の長期債は、金利2%上昇で約20%下落し得ます。この絵を見て「無理」と感じるなら、最初から長期比率を落とすべきです。事前に耐久力を見積もることが、最大のリスク管理です。
よくある失敗パターンと回避策
失敗1:分配金利回りだけ見て長期債を“貯金代わり”にする
長期債は価格変動が大きく、貯金代わりには向きません。利回りが上がって魅力的に見える局面ほど、価格下落が進行中の可能性があります。回避策は「目的を分ける」こと。現金代替は短期、クッション目的は中期、利下げ取りは長期、と役割で分離します。
失敗2:社債ETFを“国債の上位互換”だと思う
社債は金利だけでなく景気で動きます。株が下がる局面で社債も下がることがあるため、クッションとしての純度は国債より落ちます。回避策は、クッション部分は国債中心にし、社債は利回り目的のサテライトとして管理することです。
失敗3:為替で損益がぐちゃぐちゃになり、判断が崩れる
金利が当たっていても円高で負ける、金利が外れていても円安で勝つ、という状態になると学習が進みません。回避策は、短期の金利局面を取りにいくならヘッジあり、長期の外貨分散ならヘッジなし、と目的で切ります。
チェックリスト:買う前に必ず確認する10項目
- ETFのEffective Durationは何年か
- 平均残存年数と、デュレーションの差が大きくないか(オプション性の匂い)
- 利回り指標(SEC Yield/YTM)を確認したか
- 国債・社債・MBSなど、構成は何か
- 社債なら格付け分布とセクター比率を見たか
- 為替ヘッジの有無と、ヘッジコストの方向性を理解しているか
- 金利1%上昇時の概算損失(デュレーション×1%)を許容できるか
- リバランス頻度(毎月・毎四半期など)を決めたか
- “目的”が現金代替なのか、クッションなのか、利下げ取りなのか明確か
- 最悪ケースで売らずに持てるサイズになっているか
まとめ:デュレーションは「恐れるもの」ではなく「設計するもの」
債券ETFは、デュレーションを理解した瞬間に、性格が“よく分からない安定資産”から“設計可能なリスク資産”へ変わります。重要なのは、当てにいく予想ではなく、目的→数値→ルールの順で組み立てることです。まずは短期・中期・長期の3本で、自分が耐えられるデュレーション帯を作り、定期リバランスで淡々と運用してください。これだけで、金利局面が変わっても行動が崩れにくくなります。
もう一段だけ深掘り:コンベクシティと「長期債が急に効く瞬間」
デュレーションは便利ですが、金利変化が大きいと誤差が出ます。その主因がコンベクシティ(Convexity)です。直感的には「金利が下がる局面では価格上昇がやや大きく、金利が上がる局面では価格下落がやや小さくなる」という“曲がり”です(国債のようにオプション性が薄い場合)。このため、利下げが一気に進む局面では、長期国債ETFがデュレーションの近似以上に跳ねることがあります。
ただし、MBSなど期限前償還の影響を受ける債券を多く含むと、逆にコンベクシティが悪化し、金利低下局面で思ったほど上がらないケースもあります。ETFの中身が国債中心か、MBS比率が高いかを確認する意味はここにあります。
イールドカーブで考える:同じデュレーションでも結果が違う
金利は「短期だけ動く」「長期だけ動く」「全体が平行に動く」など、動き方が複数あります。これがイールドカーブの変形(スティープ化、フラット化、ベア/ブル)です。たとえば“利下げ”でも、短期金利が先に下がって長期があまり動かないなら、長期債ETFの上昇は限定的です。逆に、景気後退懸念が強まって長期金利が急低下する局面では、長期が大きく効きます。
初心者が実務的に扱うなら、難しいモデルは不要で、次の2点だけで十分です。
- 短期金利が高すぎる(逆イールドが深い):短期の“保有メリット”が大きい。長期に寄せるなら少量から。
- 長期金利が急上昇している(タームプレミアムが拡大):長期は損失が出やすい。目的がクッションなら“薄く残す”、目的が現金代替なら短期へ寄せる。
デュレーションを数値で合わせる簡易計算
厳密な計算は不要ですが、目標を持つと運用が安定します。例として、短期ETFのデュレーションを2、中期を6、長期を15と仮定し、比率をそれぞれ30%・50%・20%にすると、加重平均デュレーションは「2×0.3 + 6×0.5 + 15×0.2 = 6.6」です。ここから「もう少し守りたい」なら長期を10%に下げ、短期を増やす、といった調整ができます。
この方法の利点は、金利ニュースに振り回されずに“ダイヤル操作”で意思決定できることです。目標が6.0なら、6.6は少し長い。4.0ならだいぶ長い。こういう形で自分の許容範囲が見えてきます。
リバランスの具体例:金利上昇で長期が減った時にどうするか
たとえば長期債ETFが金利上昇で下落し、比率が20%→15%に減ったとします。ここで多くの人は「下がったから怖い」と売りたくなりますが、当初の目的が“クッション”なら、むしろ元の比率に戻すのがルールです。逆に、目的が“現金代替”で、長期を持つ理由が薄いなら、戻さずに短期へ寄せる判断もあり得ます。重要なのは、相場観でなく目的に従うことです。
最後に:最小のスタートプラン
いきなり複雑にしない方が長続きします。まずは「短期債ETF 70%+中期債ETF 30%」のように、低デュレーションから始め、月1回の定期リバランスを3か月だけ回してください。その上で、株式の下落クッションが足りないと感じたら、中期を増やすか、長期を5〜10%だけ足す。これが一番安全で、学習速度も速いです。
用語ミニ辞典(詰まったらここだけ見返す)
- デュレーション:金利変化に対する価格感応度の目安。大きいほど値動きが大きい。
- 修正デュレーション:金利1%変化あたりの価格変化率に近い形に調整した指標。
- コンベクシティ:デュレーション近似の誤差を生む“曲がり”。国債は概ねプラス。
- クレジットスプレッド:国債に上乗せされる信用上の利回り。景気で拡大・縮小する。
- タームプレミアム:長期債を持つための上乗せ利回り。インフレ不確実性や財政懸念で動く。


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