暗号資産の世界では「次のレイヤー1(L1)はどれか?」という問いが繰り返されます。ところが、L1の勝者は“速いチェーン”や“話題のチェーン”がそのまま勝つほど単純ではありません。投資家が見るべきは、技術スペックの表面ではなく、ネットワークが時間を味方につけて強くなるための「鎖の強さ」です。
本記事では、L1を初めて触る人でも判断できるように、勝者条件を10項目に分解し、具体的な確認方法・よくある負け筋・ポジション管理まで落とし込みます。銘柄名は例として触れますが、目的は“当て物”ではなく、再現性のある見立てを作ることです。
レイヤー1とは何か:投資対象としての位置づけ
L1は、トランザクションを最終確定させる基盤レイヤーです。アプリ(DeFi、ゲーム、NFT、RWAなど)はL1の上に構築され、利用が増えるほど手数料や需要が生まれます。ここで重要なのは、L1が「プラットフォーム」であると同時に「経済圏の通貨発行体」である点です。
株式で言えば、L1は“取引所+決済網+OS”を同時に持つようなものです。だから評価軸も、売上高だけではなく、参加者(開発者・ユーザー・資本)が集まる構造、セキュリティの強さ、ガバナンスの安定性など多面的になります。
勝者条件の全体像:L1の強さを作る5つの資本
L1競争は、次の5つの資本(capital)が積み上がるかで決まります。ここを押さえると、ニュースやSNSのノイズに振り回されにくくなります。
1. 開発者資本(Developer Capital)
開発者が集まるチェーンは、アプリが増えます。アプリが増えればユーザーが増え、ユーザーが増えれば資本が集まり、さらに開発者が増える。これがL1の基本フライホイールです。投資家がやるべきは「開発者が増えているか」を定量・定性で確認することです。
- 開発者向けドキュメントやSDKが“読んで実装できる”水準か
- 主要言語(例:Solidity、Rust等)とツールチェーンが成熟しているか
- 障害時の情報公開が速く、根本原因分析(RCA)が出る文化があるか
要するに、技術力そのものより「開発者が長期で居続けられる環境」があるかが勝敗を分けます。
2. 流動性資本(Liquidity Capital)
L1は流動性がないと“使えません”。DEXの板が薄い、ステーブルコインが乏しい、主要取引所での取扱いが限定的だと、ユーザー体験が悪化し資金が逃げます。流動性はアプリの成長と直結するため、L1評価の核心です。
ここでのポイントは「一時的な流動性」ではなく「粘着性のある流動性」です。高利回りキャンペーンで一瞬集めても、報酬が終われば抜けます。流動性の質は、手数料収益や実需に支えられているかで見ます。
3. 信頼資本(Security & Trust Capital)
L1の最終商品は“確定性”です。チェーンが停止する、ロールバックする、検閲される、あるいは大規模ハックが頻発するなら、そのL1は資本コストが上がります。投資家は「安全だから使われる」ではなく「安全でなければ大口資金が滞留しない」と捉えるべきです。
4. 分散資本(Decentralization Capital)
分散は宗教ではなくリスク管理です。バリデータが少数に偏る、インフラが特定クラウドに依存する、財団や少数ノードが実質的に停止・再起動を決められる――こうした集中は、規制・攻撃・障害の単一障害点(SPOF)になります。
5. 規制・社会資本(Regulatory & Social Capital)
現実世界との接点(取引所、オンランプ、企業利用、RWA)が増えるほど、規制との整合性が無視できなくなります。ここで重要なのは「規制に迎合するか」ではなく、予見可能性です。突然の制限でエコシステムが壊れると、投資の時間軸が崩れます。
鎖の強さ10項目:投資家の点検チェックリスト
項目1:ファイナリティ(最終確定)の速さと“質”
TPSより先に見るべきは、取引が“覆らない”までの時間です。さらに重要なのは、ファイナリティが速いだけでなく、ネットワーク障害時に維持されるか。平時のスペックは当てになりません。
項目2:セキュリティ予算(Security Budget)の持続性
L1のセキュリティは、バリデータへの報酬(手数料+インフレ)で買っています。問題は、その予算が長期で維持できるかです。インフレで釣っているだけなら、価格が下がった瞬間に利回りの魅力が消え、バリデータが離脱しやすくなります。
投資家の実務はこうです:「手数料収入が増える構造」があるか、また「インフレを下げても安全を維持できる設計」に向かっているかを確認します。
項目3:分散度(バリデータ数・地理・クライアント多様性)
バリデータの数だけで判断すると騙されます。重要なのは、同一運営体・同一ホスティング・同一クライアント実装への偏りです。たとえばクライアントが単一だと、バグ1つで全体停止が起こり得ます。
項目4:トークンの価値捕捉(Value Accrual)
「チェーンが使われる」ことと「トークン価格が上がる」ことは別です。価値がどこに溜まる設計か(手数料バーン、ステーキング需要、MEVの帰属など)を分解して見ます。
典型的な落とし穴は、アプリが儲かっているのに、L1トークンに価値が戻らないケースです。投資家は“利用量”だけでなく“価値捕捉のメカニズム”を読む必要があります。
項目5:MEV設計(搾取を抑え、予見可能性を上げるか)
DeFiが増えるほどMEV(マイナー/バリデータが順序を操作して得る利益)の問題が表面化します。MEVが暴れるチェーンは、ユーザー体験が悪化し、特に一般ユーザーが離れます。MEV対策(例:順序付けの工夫、提案者-構築者分離、プライベート取引など)にどれだけ向き合っているかは、長期の“摩擦コスト”を左右します。
項目6:開発者体験(DX)と互換性戦略
EVM互換か、独自VMか、あるいは複数VMを抱えるか。これは宗派ではなく採用戦略です。互換性が高いほど移植は速い一方で、差別化が弱くなりがちです。独自路線は差別化できる反面、開発者の学習コストが増えます。
投資家が見るべきは「どちらが正しいか」ではなく、“採用を増やすための設計と支援が揃っているか”です。開発者補助金より、デバッグがしやすい、監査会社が対応できる、障害時に原因が追える、という地味なDXが効きます。
項目7:ステーブルコインとオンランプの厚み
暗号資産の実需は、かなりの部分がステーブルコインで発生します。主要ステーブルの厚み、ブリッジの安全性、法定通貨オンランプの整備状況は“経済圏の血液”です。ステーブルが薄いL1は、結局どこか別チェーンに流動性を依存します。
項目8:ガバナンスの一貫性とアップグレード運用
アップグレードの頻度は多ければ良いわけではありません。重要なのは「互換性破壊が少ない」「意思決定が透明」「緊急対応の手順が定着」していること。たとえば重大障害時のコミュニケーションが遅いプロジェクトは、資本が逃げる速度が速くなります。
項目9:エコシステムの“勝ち筋”が明確か
L1の差別化は「何でもできます」では弱いです。強いL1は、得意領域(例:DeFiの流動性、ゲーム向けUX、企業利用、特定地域コミュニティなど)の勝ち筋が明確で、そこに開発者・資本・ツールが集中します。
項目10:供給構造(アンロック、財団保有、インサイダー構造)
価格は需要だけでなく供給で決まります。アンロック(ロック解除)スケジュール、財団やVCの保有比率、初期配分の透明性は、長期投資で致命的になります。特に“売り圧が読めない”プロジェクトは、上がっても戻されやすい。
具体例で理解する:同じ「高性能」でも差が出るポイント
例えば、あるチェーンが「高速・低手数料」を売りにしていたとしても、次の差が出ます。
- 停止経験の扱い:停止の有無より、原因分析と再発防止、ユーザーへの補償設計があるか
- 開発者の離脱率:助成金が切れても残る開発者がいるか(ツールと文化の問題)
- 流動性の質:高APRが終わってもDEX出来高や手数料が維持されるか
このように、スペックが同じでも“運用文化”と“経済設計”で勝敗が分かれます。
負け筋パターン:投資家が踏みやすい地雷
1)利回りで買って、利回りで死ぬ
「ステーキング年利○○%」は、ほぼ例外なく原資がインフレです。インフレは希薄化なので、利回りが高いほど価格上昇が必要になります。初心者がやりがちなのは、利回りを“収入”と誤解して、価格下落と希薄化のダブルパンチを食らうことです。
2)ブリッジ依存で事故る
エコシステムの血液(資本)がブリッジ経由で入る場合、ブリッジは最大の攻撃面になります。ブリッジが弱いL1は、資金が集まっても定着しません。資本保全の観点では、ブリッジが「外付け」なのか「ネイティブに近い」扱いなのかを見ます。
3)“中央集権の高速”は、非常時に脆い
中央集権は短期の性能を作れますが、規制・障害・攻撃に弱い。特に、少数運営体がネットワークの実質的な停止権限を持つ場合、資本は長期で居着きにくいです。
4)トークン価値がアプリに吸われる
アプリが伸びるほどトークンが上がるとは限りません。L1トークンの価値捕捉が弱いと、ユーザーはアプリのトークンやステーブルに滞留し、L1は“通過点”になります。ここは設計の問題であり、後から改善できるかも重要です。
投資家の実践:チェック→点数化→ポジション設計
ステップ1:10項目を0〜2点で粗く点検する
精密な評価は不要です。まずは10項目を「弱い(0)/普通(1)/強い(2)」で粗く採点します。目的は、候補を絞り、負け筋を避けることです。
- 0が多い:投資対象としては“観察枠”。買うなら小さく、理由を明確に
- 1が多い:分散枠。急上昇を狙うより、アップサイドと下振れ耐性のバランス
- 2が多い:中核枠。長期保有を前提にリバランスで増減
ステップ2:買いの理由を「1行」にする
例:「開発者体験が強く、ステーブル流動性が厚く、価値捕捉が改善方向。アンロックも読める。」のように、10項目のうち3つに絞って主張します。理由が散ると、下落時に損切り・買い増し判断が崩れます。
ステップ3:退出ルールを先に決める
暗号資産はボラが大きいので、ルールなしの長期保有は“祈り”になります。初心者向けの退出ルール例は次の通りです。
- 重大事故(停止・ハック)後に、RCAが出ない/再発防止が不透明なら縮小
- アンロックで供給が急増する時期は、事前に比率を落としてイベントを跨がない
- 流動性が急減(DEX出来高やステーブル残高の継続低下)したら観察枠へ
初心者の最小構成:無理に当てに行かないポートフォリオ
「次の覇者」を一点張りで狙うと、外した時に回復不能になりがちです。初心者は次のように“役割”で分けると事故率が下がります。
- 中核(基盤枠):最も信頼資本が厚いL1を中心に。分散と流動性を優先
- 成長(挑戦枠):勝者条件のうち3〜4項目が強く、改善が続くL1を少量
- 待機(流動性枠):ステーブル等で機会損失を抑えつつ、下落時の買い余力を確保
割合は人によりますが、初心者ほど「挑戦枠」を小さくする方が生存確率が上がります。L1は当たれば大きい一方、外すと“長い冬”が来ます。
まとめ:L1はスペック競争ではなく「時間に勝つ設計」
レイヤー1の勝者条件は、TPSや話題性ではなく、開発者・流動性・信頼・分散・規制適合という5つの資本が積み上がるかで決まります。投資家は10項目チェックで負け筋を避け、理由を3点に絞り、退出ルールまで含めて設計してください。勝者を当てるより、負けを避ける方が、結果として資産は増えやすい。これがL1投資の現実です。
どのデータを見ればいいか:初心者でも追える観測ポイント
開発者資本:コードより「継続」を見る
開発者の増減を正確に測るのは難しいですが、初心者でも“傾向”は掴めます。ポイントは「一発の大型アップデート」ではなく「小さな改善が継続しているか」です。例えば、ウォレットやRPC、エクスプローラの改善、バグ修正の頻度、ドキュメント更新の粒度が継続していれば、現場が回っています。
GitHubのコミット数を盲信する必要はありません。むしろ、重要リポジトリのIssueが放置されていないか、リリースノートが丁寧か、監査結果が公表されるか、といった“運用品質”が効きます。
流動性資本:TVLだけでなく「ステーブルの残高」と「出来高」をセットで
TVLは便利ですが、インセンティブで盛れます。そこで、チェーン上のステーブルコイン残高(ネイティブ発行かブリッジかも含む)と、DEX出来高・手数料収益をセットで見ます。残高が増え、出来高も増え、手数料も増えているなら、実需が育っている可能性が高い。
逆に、TVLだけ増えて出来高が伸びない場合は、固定化された“置き資金”か、報酬目的の一時滞留かもしれません。
信頼資本:障害の「回数」より「対応品質」
過去に障害があったチェーンでも、その後の改善で強くなる場合があります。見るべきは、障害発生時の透明性、原因分析の深さ、再発防止策の実装速度です。ここが弱いと、次の障害で資本が一気に逃げます。
供給構造:アンロックは“イベント”として扱う
アンロックは需給イベントです。長期で強いL1でも、アンロックが集中する時期は価格が不安定になりやすい。投資家は「価格が上がるか下がるか」を当てるのではなく、ボラティリティが上がることを前提に、ポジションを小さくする、オプションがあるならヘッジする、といった対策を取ります。
タイミングの考え方:L1投資は「相場」と「改善」の二軸で見る
L1はマクロ(流動性環境)に強く影響されます。同じ良いプロジェクトでも、相場が悪ければ下がります。だから、タイミングは「相場の追い風」と「プロジェクト改善」の二軸で整理すると判断がブレません。
- 相場が追い風+改善が続く:中核比率を上げやすい局面
- 相場が逆風+改善が続く:分割で拾う。観察→小さく→増やす順番
- 相場が追い風+改善が止まる:上がっても脆い。利確・縮小を検討
- 相場が逆風+改善が止まる:撤退の合理性が高い
初心者ほど「相場が良いから買う」「相場が悪いから売る」になりがちですが、L1では“改善が続くか”が生存に直結します。
よくある誤解Q&A
Q:TPSが高いチェーンが勝つのでは?
A:TPSは重要ですが、勝者条件の一部に過ぎません。ファイナリティの質、停止耐性、MEV対策、開発者体験、流動性の質が揃わないと、ユーザーは定着しません。高速でも事故が多いと資本コストが上がり、結果としてエコシステムが痩せます。
Q:ステーキング利回りが高いほどお得?
A:多くの場合、インフレで希薄化しているだけです。利回りは“分配”ではなく“通貨発行”であることが多い。見るべきは、手数料収益が育って利回りの質が改善しているか、インフレを下げても安全を維持できるかです。
Q:新しいL1は全部ハイリスク?
A:原則ハイリスクです。ただし、リスクを“管理”することはできます。観察枠として小さく持ち、改善が確認できたら増やす。アンロックやブリッジ依存など、明確なリスクイベントは跨がない。この運用で、致命傷を避けつつ上振れを狙えます。
鎖の強さスコアの運用例:月1回の点検で十分
毎日ニュースを追う必要はありません。月1回、10項目のうち「変化しやすい項目」だけ点検すると効率的です。変化しやすいのは、流動性(出来高・ステーブル残高)、供給(アンロック)、開発者体験(リリース状況)、信頼(障害・セキュリティ事故)です。分散度やガバナンスは急に変わりにくいので四半期ごとでも構いません。
点検の手順はシンプルです。
- 先月より改善した項目が2つ以上 → 比率を少し増やす(例:+10〜20%)
- 悪化した項目が2つ以上 → 比率を減らす(例:-10〜30%)
- 重大事故が発生し、説明が不十分 → 一度ゼロ近くまで落として再評価
ここでのコツは、価格ではなく“指標の変化”で動くことです。価格で判断すると感情が入りやすい。指標で判断すると、同じルールを繰り返せます。
ポジション管理の現実解:一点勝負を避け、期待値で勝つ
L1投資の上振れは大きい一方、下振れも大きい。だから、最初から「当てに行く」設計にしない方が結果は安定します。たとえば挑戦枠は複数に分け、1つが失速しても全体が壊れないようにする。逆に中核枠は、信頼資本が厚いところに寄せる。こうすると、勝ちチェーンに乗る確率を上げつつ、外した時の損失を限定できます。
暗号資産は“正しさ”より“生存”が優先です。生き残れば次の強気相場に参加できます。生き残れなければ、正しい分析も意味がありません。


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