セクターETFローテーションは、「市場全体に投資する」のではなく、相対的に勝ちやすいセクターへ資金を移すことで超過リターンを狙う方法です。個別株より分散が効き、インデックスよりもテーマ性が強い。つまり、個人投資家が“運用ルール”として扱いやすい領域です。
一方で、ローテーションは「勘」でやると高確率で負けます。セクターの強弱はニュースより先に価格に出ますし、景気や金利の“転換点”は後から説明されるからです。必要なのは、事前に決めたサイン(指標)と、淡々と回す手順です。
この記事では、景気循環・金利・インフレを軸に、セクターETFをどう選び、いつ入れ替え、何に注意して運用するかを、初心者でも実装できるレベルまで落とし込みます。最後に、実際に回せる「ルール例」を複数提示します。
セクターETFローテーションとは何か
セクターETFは、GICSなどの業種分類に沿って、特定の産業セクター(例:情報技術、金融、生活必需品、エネルギー等)にまとめて投資するETFです。ローテーション戦略は、この複数セクターを横断し、相対的に強いセクターに寄せ、弱いセクターを外すことを狙います。
超過リターンの源泉は大きく2つです。
- マクロ要因の非対称性:金利上昇はグロースに逆風、信用環境の改善は金融に追い風など、セクターごとに感応度が違う。
- 需給と期待のズレ:景気後退が「噂」され始める段階と、実体経済が底打ちする段階では、強いセクターが入れ替わる。
ここで重要なのは、「景気が良いから景気敏感株」では遅い、ということです。市場は先読みするので、“今の景気”より“これからの変化”を扱う必要があります。
まず押さえる:セクターの性格(感応度)を覚える
ローテーションの精度は、セクターの“性格”を理解しているかで決まります。難しい理屈は不要で、以下の3軸で把握してください。
1)金利に強い/弱い(デュレーションの違い)
将来利益への期待が大きいグロース系(情報技術、一般消費財の一部など)は、割引率(=金利)が上がると相対的に不利です。逆に、金融は金利上昇局面で利ざや改善が期待されやすい。一方で急激な金利上昇は信用不安を誘発し、金融にも逆風になり得ます。“金利が上がる”だけでなく“上がり方”まで見るのがコツです。
2)景気に強い/弱い(景気感応度)
景気が良いと売上が伸びやすいのが景気敏感(資本財、素材、エネルギー、一般消費財の一部)。逆に、景気が悪くても売上が大きく落ちにくいのがディフェンシブ(生活必需品、ヘルスケア、公益)。
3)インフレに強い/弱い(価格転嫁力)
インフレ局面では、原材料価格に連動しやすいエネルギーや素材が強くなりやすい一方、コスト増を価格に転嫁しづらい業種は利益が圧迫されます。「インフレ=全部株にプラス」ではなく、勝者と敗者が分かれるのが現実です。
ローテーションを“勘”から“ルール”に落とすための設計図
初心者が最初にやるべきは、複雑なモデルを組むことではありません。ローテーションは「判断→売買→検証→修正」を回す仕組みです。ここでは、再現性を上げるための設計図を示します。
ステップA:ユニバースを固定する
扱うETF群(ユニバース)を固定します。毎回銘柄を変えると、検証も運用も破綻します。例えば米国なら主要セクターETF(例:S&P500のセクター系)を11本程度に揃える。日本ならTOPIXのセクターETF群、または自分が理解できる範囲で「銀行」「電力・ガス」「医薬品」などに絞る。
ユニバースを固定するメリットは、比較(相対強弱)が明確になることです。ローテーションの本質は「相対的に強いものを買う」なので、比較対象がぶれると戦略が成立しません。
ステップB:リバランス頻度を決める
個人投資家は、日次で回す必要がありません。むしろ短期はノイズが多く、売買回数が増えてコストが勝ち筋を削ります。基本は以下のどちらかで良いです。
- 月1回(毎月末 or 翌月初):実装が簡単で、指標も月次で揃いやすい。
- 四半期1回(決算シーズン後):売買回数が減り、税務・手数料面で楽。
最初は月次がおすすめです。理由は、検証サイクルが速く、改善が早いからです。
ステップC:サイン(指標)を2系統にする
サインを1つにすると、外れたときに全損します。2系統にして、片方が誤作動してももう片方がブレーキになります。例として、以下の組み合わせが実務的です。
- 景気系:PMI/ISM、景気先行指数、雇用の変化、企業の利益修正の方向
- 金融条件系:政策金利の方向、実質金利、クレジットスプレッド、長短金利差
ニュースではなく、数値で条件を決めるのがポイントです。「利下げが近い気がする」ではなく、「市場金利がピークアウトして低下トレンドに入った」など、条件化します。
ステップD:売買ルールを単純にする(上位N本)
ローテーションの定番は相対モメンタムです。やり方はシンプルで、過去3〜12か月のリターンが強いセクター上位N本を保有する。これだけでも「勝ちやすいところに乗る」構造になります。
ただし、相対モメンタムはトレンドが反転する局面で弱い。そこで、次の“条件フィルター”を足します。
- 市場全体(例:S&P500)が200日移動平均を下回っているなら、保有数を減らす、あるいはディフェンシブへ寄せる
- クレジットスプレッドが急拡大中なら、景気敏感の比率を落とす
こうすることで、トレンドフォローの弱点である「急落局面の追随遅れ」を緩和できます。
景気循環で見る:4局面と勝ちやすいセクター
景気循環をざっくり4局面に分けると、ローテーションの地図が描けます。厳密に当てにいく必要はありません。重要なのは、局面が変わると“勝ちやすいセクター”が変わる、という事実です。
局面1:回復初期(金融条件が緩む/景況感が底打ち)
株式市場は景気の底より先に反応します。回復初期は、悲観が残る中で政策や金融条件が緩み、景気指標が改善に転じる局面です。このとき強くなりやすいのは、景気敏感の中でもβが高い領域です。例として、資本財、一般消費財(裁量消費)、素材などが候補になります。
具体例:PMIが底を打って上向き、長短金利差が改善し始めたら、景気敏感セクターの上位モメンタムを拾う。ただし、信用不安が残るなら金融は慎重に扱う。
局面2:拡大中期(景気が強く、需給も良い)
拡大中期は、企業利益が伸び、市場がリスクを取りやすい局面です。成長期待が高まりやすく、情報技術や通信のような成長セクターが強くなりがちです。ここでの注意点は、金利上昇が同時進行しやすいことです。「成長セクターが強いが、実質金利も上がる」という綱引きになります。
具体例:米国なら、ハイテクのアウトパフォームが続く一方、実質金利が急騰した瞬間にハイテクが崩れることがある。上位モメンタムに乗りつつ、金利急騰のフィルター(例えばTIPS利回りの急上昇)でポジションを軽くする。
局面3:減速後期(インフレ・金利が上振れ/利益率が圧迫)
減速後期は、金融引き締めの影響が出始め、需要が落ちてくる局面です。ここではディフェンシブ(生活必需品、ヘルスケア、公益)が相対的に強くなりやすい。さらに、インフレが残るならエネルギーが粘ることもあります。
具体例:雇用が鈍化し、信用スプレッドが拡大、景況感が悪化する中で、上位モメンタムがディフェンシブに移るなら、素直に寄せる。無理に景気敏感を握り続けない。
局面4:後退・危機(リスクオフ/流動性が支配)
危機局面は「業績」より「流動性」が支配します。多くのリスク資産が同時に売られ、セクター間の差が縮むこともあります。ここでローテーションを無理に続けると、売買だけが増えます。“戦略を止める”ルールを用意してください。
具体例:市場が大きく下落し、クレジットが壊れ、VIXが急騰する局面では、セクター選択より現金比率やヘッジが重要。ローテーションはディフェンシブを持つ程度に抑えるか、一時停止して再開条件を待つ。
実装ルール例1:相対モメンタム(上位3セクター)+市場フィルター
ここからは、実際に個人が回せる形に落とします。ルールは最初から完璧でなくて良いですが、必ず「手順」と「例外条件」を書いてください。
ルール
毎月、以下を実行します。
- 対象:固定したセクターETF群(例:11セクター)
- 指標:過去6か月リターンで順位付け
- 保有:上位3本を等金額で保有
- フィルター:市場全体が200日移動平均を下回る場合、上位3本のうちディフェンシブ(生活必需品・ヘルスケア・公益)を優先し、該当が少なければ現金比率を増やす
狙いと強み
相対モメンタムは、「強いものは強い」性質を利用します。セクターは個別株よりトレンドが持続しやすいことがあり、月次運用と相性が良い。市場フィルターは、下落相場での被弾を減らす役割です。
弱点と対策
弱点は“往復ビンタ”です。レンジ相場や転換点で、上位が入れ替わり続けると損が積み上がる。対策は2つあります。
- 順位の入れ替えに閾値を設ける:例えば、現保有の順位が4位に落ちても、4位との差が小さいなら継続保有する。
- 保有期間の最小値を設ける:最低2か月は保有し、売買回数を抑える。
実装ルール例2:景気サインで「攻め/守り」を切り替える
相対モメンタムだけだと不安なら、“景気の温度計”でモードを切り替える方法が有効です。ここではシンプルな二段階を示します。
サイン(例)
- 攻めモード:PMI/ISMが上向き、かつクレジットスプレッドが縮小傾向
- 守りモード:PMI/ISMが下向き、またはクレジットスプレッドが拡大傾向
ポートフォリオ(例)
攻めモードでは、景気敏感の上位モメンタム(例:資本財、一般消費財、素材、情報技術など)を中心に上位3〜4セクターを保有。守りモードでは、ディフェンシブ(生活必需品、ヘルスケア、公益)を中心にし、必要なら債券ETFや短期資金を組み合わせます。
ここでのポイントは、守りモードでも“完全に降りる”必要はないことです。市場は後退の初期に大きく下げ、底打ち前に反発しがちです。極端な売買を避けるために、攻め:守り=70:30のように段階的に比率を変えるのも現実的です。
実装ルール例3:金利局面で「金融/グロース/ディフェンシブ」を再配分する
金利はセクターパフォーマンスを左右します。ただし、政策金利そのものより、市場が織り込む金利(中長期金利)と実質金利の動きが効きやすい。そこで、金利のトレンドで配分を変えるルールを作ります。
ルールの考え方
以下の3状態に分類します。
- 実質金利上昇トレンド:グロースを軽くし、金融やバリュー寄りへ
- 実質金利低下トレンド:グロース(情報技術など)や長期資産(REIT等)が有利になりやすい
- 金利急変・信用不安:セクター選択より守り(ディフェンシブ、現金比率)を優先
具体的な運用イメージ
毎月、実質金利(例:インフレ連動債の利回り)または長期金利の移動平均を見て、上昇なら金融・資本財寄り、低下なら情報技術・REIT寄り、急変ならディフェンシブ寄り、といった大枠のバイアスを設定します。その上で、相対モメンタムで上位を拾うと、“宏観”と“相対強弱”が噛み合います。
個人がやりがちな失敗パターンと回避策
ローテーションは、やり方を間違えると損が膨らみます。代表的な失敗を先に潰してください。
失敗1:ニュースを見てから乗る(遅い)
「AIが熱い」「原油が上がっている」「利下げが来る」というニュースが増えた頃には、すでに相場は進んでいることが多い。ニュースは事後説明になりがちです。回避策は、価格ベースの相対モメンタムを主軸にし、ニュースは“理解”の補助に留めることです。
失敗2:当てにいき過ぎる(局面認定に固執)
景気循環の局面をピタリと当てようとすると、外したときに対応が遅れます。必要なのは「今はこうに違いない」ではなく、「サインがこう変わったから、配分をこう変える」という機械的手順です。局面は後からでもいい。運用は先に動きます。
失敗3:売買回数が多すぎる(コスト負け)
セクターETFは比較的売買しやすい一方で、頻繁に入れ替えると手数料とスプレッド、税金で勝ち筋が削れます。月次・四半期のリバランスにし、閾値や最小保有期間で売買を減らしてください。
失敗4:為替を無視する(日本在住の落とし穴)
米国セクターETFを円で評価する場合、リターンの一部は為替です。セクターが当たっても円高で相殺されることがあります。回避策は3つです。
- 為替ヘッジ型ETFを使う(商品がある場合)
- 円建ての投資比率を別枠で管理する(国内資産や短期資金を持つ)
- 為替のトレンドで投資額を調整する(ドル高トレンドで積み増し、など)
どれが正解というより、「為替が入っている」と自覚して管理することが重要です。
検証(バックテスト)の最低限:個人が守るべきルール
ローテーション戦略は検証しないと改良できません。ただし、凝ったバックテストで“良さそうに見える”ものほど危険です。最低限の守るべきポイントをまとめます。
1)データの先読みをしない
月次指標を使うなら、発表日を考慮する。発表前の数値を使って売買したことになっていないかを疑う。先読みが入ると、成績は簡単に“盛れます”。
2)コストを入れる
手数料、スプレッド、税金(課税口座の場合)を概算でも入れます。売買回数が多い戦略ほど、現実の成績は落ちます。ローテーションではここが致命傷になりがちです。
3)期間を長く、局面を跨ぐ
自分が都合の良い期間だけ切り取ると、偶然当たっただけになります。最低でも複数の金利局面、複数の景気局面を跨ぐ期間で見ます。
4)シンプルな基準に勝てるかを確認する
比較対象は「全世界株」や「S&P500」などのシンプルな長期保有です。これに勝てないローテーションは、やる意味が薄い。勝てるなら“どの局面で勝っているか”を確認し、負ける局面の損失を制御できるか考えます。
運用の現場:毎月やるチェックリスト(これだけで回る)
最後に、実際の運用を“作業”に落とし込みます。月次で十分です。
- ユニバース(セクターETF群)の6か月リターンを算出し、順位を作る
- 市場全体のトレンド(例:200日移動平均)を確認する
- 信用環境(クレジットスプレッドの拡大/縮小)を確認する
- ルールに従って上位N本を選び、必要な入れ替えを実行する
- 売買理由を一行で記録する(例:「上位3に入った」「市場が下回ったので守りへ」)
- 3〜6か月ごとに成績と売買回数を見て、閾値・保有数・フィルターを微調整する
これを回せば、ローテーションは「思いつき」ではなく「運用」になります。重要なのは、勝ち続ける魔法の組み合わせを探すことではありません。相場の変化に合わせて、負けを小さく、勝ちを伸ばすための仕組みを作ることです。
まとめ:ローテーションは“当てる”より“外しても致命傷にならない設計”
セクターETFローテーションは、うまく設計すれば個人でも扱いやすい戦略です。ただし、局面を当てるゲームにすると負けやすい。相対モメンタムと少数のフィルターでルール化し、月次で淡々と回す。これが最も現実的です。
最初の一歩は「上位3セクターを月次で持つ」だけで良い。そこから、あなたの投資目的(成長重視/安定重視/為替許容度)に合わせて、保有数やフィルターを調整してください。市場は常に変わりますが、手順を固定すれば、判断はブレません。


コメント