NFT(Non-Fungible Token)は、2021年前後の「話題性と価格高騰」が中心だったフェーズから、2023〜2026にかけて“市場の仕組みそのもの”が変わるフェーズへ移っています。ここで重要なのは、「NFTはもう終わり/まだ上がる」といった感想戦ではなく、市場構造の変化が、どのリスクとリターンを増幅させるかを分解して捉えることです。
本稿は、NFTを単体の投機商品ではなく、流動性(売れる市場の深さ)、ロイヤリティ(収益分配のルール)、規制・税務(許容される運用の枠)の3つの軸で整理します。投資初心者でも「何を見れば地雷を避けられるか」が分かるように、具体例と手順で解説します。
- NFT市場は何が「構造変化」しているのか
- まず押さえる:NFTは“流動性ゲーム”である
- ロイヤリティ崩壊がもたらした“収益モデルの再編”
- 規制・税務:2026年に効いてくるのは「運用コスト」と「出口の自由度」
- 2026年型のNFT投資フレームワーク:3ステップで地雷を減らす
- 具体例で理解する:3つの典型ケース
- NFT投資で負けやすいパターンと回避策
- ポートフォリオ設計:NFTを“サテライト”に置く考え方
- まとめ:NFT市場の構造変化に合わせて、見るべきKPIを変える
- 価格評価の考え方:NFTは「ファンダ+需給」でしか説明できない
- オンチェーン/マーケットデータで“やらせ”を避ける
- 売買の設計:エントリーより“エグジット設計”を先に決める
NFT市場は何が「構造変化」しているのか
構造変化とは、価格の上げ下げではなく、価格が決まるメカニズムや参加者の行動原理が変わることです。NFTでは特に、次の5点が大きいです。
- 取引所(マーケットプレイス)の寡占化と分散化が同時進行:大手の流動性は強いが、手数料や規約変更リスクも大きい。
- ロイヤリティの“任意化”:二次流通のたびに発生していたクリエイター収益が、必ずしも保証されなくなった。
- 出来高の薄さが常態化:一部の「売買が成立するコレクション」だけが生き残り、その他は実質的に流動性ゼロになりやすい。
- ユーティリティの実装競争:画像の所有証明から、コミュニティ権利、ゲーム内資産、チケット、会員権などへ用途が拡張。
- 規制・税務の現実化:マネロン対策、証券性の議論、広告規制、課税タイミングなどが運用上のコストになる。
これらは「NFTが成熟して健全化している」という面もあれば、「投資家にとっての収益機会が変質している」という面もあります。つまり、以前と同じ儲け方が通用しないことが最大のポイントです。
まず押さえる:NFTは“流動性ゲーム”である
NFT投資で初心者が最初につまずくのは、「価格がある=売れる」と誤解することです。NFTは株式や大型暗号資産と違い、板が薄く、買い手がいなければ値段がつきません。したがって、NFTは実質的に流動性(いつ・いくらで・どれだけ売れるか)のゲームです。
流動性の3階層:Floor、Depth、Exit
流動性は「フロア価格(最安値)」だけ見ても不十分です。次の3階層で評価します。
- Floor(見かけの価格):最安値の出品があるだけ。買いが弱いと“張りぼて”になる。
- Depth(厚み):フロア近辺にどれだけ買い需要があるか。短期での価格変動耐性に直結。
- Exit(出口の確度):自分の保有数量を、想定期間内に換金できるか(部分約定、スリッページを含む)。
具体例:フロアが高いのに売れない“死んだフロア”
あるコレクションAのフロアが1.0 ETH、直近24hの取引が1件、出品数が多く、最安値付近の出品が何日も動いていない。こういうケースは、フロアは「過去の記憶」で、実態は流動性が枯れています。あなたが買った瞬間に、売却時は0.7 ETHでも買い手がいないということが普通に起きます。
一方、コレクションBはフロア0.3 ETHでも、毎日複数件の売買があり、フロア近辺の出品が短時間で入れ替わる。Bは“値幅は小さいが換金性が高い”資産です。初心者が最初に優先すべきは、ほぼ例外なく換金性です。
チェックリスト:流動性を数字で見る
初心者でも再現可能な形に落とすなら、次のチェック項目を「YES/NO」で潰します。
- 直近7日での取引件数が継続している(単発の急騰ではない)
- 出品数が総供給の一定割合を超えすぎていない(売り圧)
- フロア近辺の出品が“置物”になっていない(入れ替わりがある)
- ホルダー分布が極端に偏っていない(クジラの投げ売り耐性)
- 主要マーケットプレイスが複数あり、取引手段が限定されていない
この段階で引っかかるものは、「コンテンツとして面白い」可能性はあっても、投資対象としては難易度が跳ね上がります。
ロイヤリティ崩壊がもたらした“収益モデルの再編”
NFTが特殊だったのは、二次流通のたびにクリエイターへロイヤリティが支払われる(設計される)点です。これにより、プロジェクト側が「二次流通を活性化させたい」というインセンティブを持ち、コミュニティ運営が成立しやすかった。
しかし市場競争の中で、ロイヤリティを“任意”にするマーケットプレイスが増え、買い手・売り手はコストとしてのロイヤリティを回避できるようになりました。結果、プロジェクト側は二次流通収益に依存できないため、収益モデルの作り直しが必要になっています。
ロイヤリティ任意化の勝者と敗者
勝者は「二次流通が減っても事業が回る」タイプです。たとえば、次のような構造を持つプロジェクトです。
- 一次販売・再販の設計が上手い(ミント価格、供給管理、追加発行の透明性)
- 会員権モデル(保有者向けサービス、イベント、限定商品、情報提供など)
- ゲーム・アプリ内での消費(NFTが“使われる”ことで価値が維持される)
- 企業提携・IP活用(キャラクター、ブランド、チケット等で収益源が多様)
敗者は「コミュニティ熱と二次流通手数料」が主な燃料だったタイプです。熱量が落ちるとマーケ費が出せず、活動が止まり、流動性も枯れやすい。
投資家の視点:ロイヤリティは“負担”ではなく“品質指標”になり得る
ロイヤリティがある=損、ではありません。重要なのは、ロイヤリティの使途と透明性です。たとえば「毎月の収支報告」「運営チームのロックアップ」「マーケ費の上限」などが明確で、ロイヤリティがコミュニティ価値の再投資に回るなら、長期的な“ブランド資本”を作りやすい。
逆に、使途が曖昧で、運営が不透明な場合、ロイヤリティは単なる“税金”になり、買い手が回避に走るため、結果として流動性が死にやすい。投資家はロイヤリティ率そのものより、ガバナンスの設計を見たほうが当たりやすいです。
規制・税務:2026年に効いてくるのは「運用コスト」と「出口の自由度」
NFTは国・地域によって扱いがブレます。投資家にとって重要なのは、「それが違法か」よりも、運用の手間とコストがどれだけ増えるか、そして最終的に現金化できるかです。
規制が市場構造に与える実務的な影響
- KYC/AML強化:取引所やマーケットで本人確認が必須化し、匿名流動性が減る。短期回転が効きにくくなる。
- 証券性の議論:分配・利回り・収益還元をうたう設計は、証券的に見られやすく、取り扱い停止や地域制限が起きる。
- 広告・勧誘の制約:インフルエンサー起点の急騰が起きにくくなり、“自然流入”型のプロジェクトが相対的に強くなる。
税務の落とし穴:利益より先に“納税イベント”が来る
NFT取引は、暗号資産の交換を伴うため、課税計算が複雑になりがちです。特に、以下は初心者が損しやすいパターンです。
- NFTを買うためにETHへ交換した時点で、暗号資産の損益が発生する
- NFT同士のスワップでも、評価額ベースで損益が出る扱いになり得る
- 含み益のままNFTが売れなくなり、税金だけが残る(最悪)
したがってNFTは、短期で派手に回すよりも、取引回数を抑え、出口の確度が高いものだけを触るほうが、実際の手残りが良くなりやすいです。
2026年型のNFT投資フレームワーク:3ステップで地雷を減らす
ここからは、初心者でも実行できる形に落とした手順です。ポイントは「見た目」や「SNSの熱量」より、構造(流動性・収益モデル・規制耐性)で判断することです。
ステップ1:まず“売れる市場”か(流動性)
候補が出たら、最初に流動性で足切りします。コレクションの魅力を語る前に、売買が成立する市場でなければ投資ではなく寄付になります。最低限、直近7〜30日での継続的取引と、フロア近辺の入れ替わりを確認します。
ステップ2:次に“続く事業”か(収益モデル)
運営がどこでお金を生むかを言語化します。ロイヤリティが任意化された今、プロジェクトが継続できる理由は次のどれかに集約されます。
- 一次販売や追加販売の設計(供給管理が合理的)
- 会員権・サービス提供(収益が継続する)
- ゲーム/アプリ内の消費(NFTが使われ続ける)
- IP/企業提携(外部キャッシュフローが入る)
ここが曖昧なら、短期の値動きはあっても、長期保有の根拠が弱いと判断します。
ステップ3:最後に“事故らない運用”か(規制・保全)
最後は、技術と運用です。NFTはハッキングや詐欺の世界でもあり、自己責任の範囲が大きい。以下を最低限押さえます。
- 保管はハードウェアウォレット中心、署名要求は都度確認(盲目的承認をしない)
- ブリッジ・怪しいミントサイトを避け、公式導線だけを使う
- 高い利回り、エアドロの過剰期待、分配を強調する案件は慎重に扱う
- 税務計算の手間を見積もり、取引頻度を抑える
具体例で理解する:3つの典型ケース
ケース1:アート系PF(プロフィール画像)コレクション
強みは、コミュニティ形成とブランド化です。弱みは、ユーティリティが弱いと熱量が落ちた瞬間に流動性が枯れること。投資として触るなら、出来高の継続と運営の情報発信頻度、そして二次流通以外の収益源の有無が鍵です。ロイヤリティが任意化されても、ブランドが強ければ一定の回転が残ります。
ケース2:ゲーム内資産NFT
価値は「使われること」から生まれます。したがって、ゲーム自体のアクティブユーザーが落ちればNFT価格も下がります。見るべきは、トークン経済と同じで、インフレ(新規発行)と消費(バーン/シンク)のバランスです。初心者は、過剰な利回りや“稼げる”を前面に出す設計ほど危険信号と捉えたほうが安全です。
ケース3:チケット・会員権NFT
ここは構造的に強い可能性があります。なぜなら、価値が「転売益」ではなく実体サービスの利用に紐づくため、価格がゼロに近づきにくいからです。ただし、規制やKYCの強化で転売が難しくなる可能性があるため、投資としては「転売で儲ける」より、保有価値(使う価値)を軸に判断するとブレにくいです。
NFT投資で負けやすいパターンと回避策
負けパターン1:フロアだけ見て買い、出口がない
回避策は単純で、フロアではなく取引件数と入れ替わりを見ること。売買が成立しないコレクションは、価格表示があっても資産とは言いにくいです。
負けパターン2:運営の収益源がロイヤリティ一本
ロイヤリティ任意化により、プロジェクトの資金繰りは不安定になりやすい。回避策は、一次販売・会員権・IPなど、二次流通以外のキャッシュフローを確認することです。
負けパターン3:詐欺・署名ミスで資産を抜かれる
NFTは「買ったら終わり」ではなく、保有中も攻撃対象です。回避策は、ウォレット運用を分けること(保管用と取引用を分離)、署名内容を読み、公式リンク以外を踏まない。面倒ですが、この手間を省くと一発退場になり得ます。
ポートフォリオ設計:NFTを“サテライト”に置く考え方
NFTは、リターンが出る可能性があっても、流動性と運用リスクが高い資産です。したがって、資産配分の基本は、コア(現金/債券/株式インデックス等)と、サテライト(暗号資産、NFT、オプション等)を分け、NFTはサテライト側でサイズを管理します。
目安としては、「ゼロになっても生活に影響しない」範囲に抑えるのが合理的です。NFTは分散が効きにくいので、少額でも銘柄分散より、“触る数を絞って深く理解する”ほうが事故率が下がります。
まとめ:NFT市場の構造変化に合わせて、見るべきKPIを変える
NFTはブームが終わったのではなく、市場の勝ち筋が変わっただけです。2026年型の投資判断は、次の3点に集約されます。
- 流動性:フロアではなく、取引件数・厚み・出口の確度を見る。
- ロイヤリティ/収益モデル:任意化の中でも続く事業構造か、ガバナンスが機能しているかを見る。
- 規制・税務・保全:手残りと事故率を左右する“運用コスト”を見積もる。
この3軸で候補をスクリーニングし、少額で検証しながら、自分の許容リスクに合う運用に落とし込む。これが、NFT市場の構造変化に対して最も再現性の高いアプローチです。
価格評価の考え方:NFTは「ファンダ+需給」でしか説明できない
NFTの価格は、株のように利益から逆算しづらい一方、完全な人気投票でもありません。実務上は、次の2つを掛け合わせて考えるとブレにくいです。
- ファンダ(価値の源泉):会員権としての便益、ゲーム内での稼働、IPの収益化、運営の資金力など。
- 需給(マーケット構造):供給量、保有者分布、取引所の流動性、短期資金の流入出など。
例えば会員権NFTなら、年会費が10万円相当の便益を提供する場合、理屈としては「年会費の前払い」に近い評価が可能です。ただし、転売の自由度やサービス品質の変動でディスカウントが入ります。ここを数字で置けるNFTは、投機よりも投資に近づきます。
“割安”という言葉の危険性
NFTで「以前は10 ETHだったのに今は1 ETH、割安」という判断は危険です。なぜなら、価格が下がった理由が流動性枯渇や運営停止なら、割安ではなく別物(もはや換金不能)だからです。割安判断は、必ず「今も売買が成立するか」とセットで行います。
オンチェーン/マーケットデータで“やらせ”を避ける
NFT市場は、出来高の演出(ウォッシュトレード)や、インサイダー的な動きが起きやすい。初心者は「急に出来高が増えた」だけで飛びつきがちですが、次の視点を持つと地雷率が下がります。
怪しい出来高の典型シグナル
- 同じウォレット同士で売買が往復している(循環取引)
- 不自然に同価格で連続約定している(板作り)
- 取引件数は多いのにユニーク買い手が増えていない(参加者が広がらない)
- 特定の時間帯だけ極端に出来高が偏る(イベント演出)
これらは必ずしも違法とは限りませんが、投資家にとっては「価格発見が歪む」ので危険です。特に、出口で買い手がいない状況を招きます。
売買の設計:エントリーより“エグジット設計”を先に決める
NFTは、買うのは簡単で、売るのが難しい資産です。だからこそ、買う前に出口を設計します。次の3点を事前に決めておくと、感情での保有が減ります。
- 保有期間:イベント通過までの短期か、便益を享受する中期か。
- 損切り条件:価格ではなく、出来高が一定期間途切れた、運営が沈黙した等の“構造条件”で決める。
- 利確条件:急騰時は分割で売る(全部売ろうとすると板が薄く刺さらない)。
小さく始める実行プラン
初心者の現実的なやり方は、次の順序です。
- 観察対象を2〜3コレクションに絞り、毎日出来高とフロアの推移を見る
- 最小ロットで1つだけ買い、売却まで一往復して“手数料と滑り”を体験する
- 税務計算に必要なログを整理し、自分の管理コストを把握する
このプロセスを踏むと、SNSの熱狂より「自分の運用として回るか」が判断できるようになります。NFTで最も大事なのは、情報ではなく運用設計です。


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