半導体は「景気敏感の代表」に見えますが、実際はもっと複雑です。PCやスマホの需要だけでなく、データセンター、車載、産業機器、通信、そして設計(ファブレス)と製造(ファウンドリ)と装置(製造装置)でサイクルの位相がずれます。だからこそ、底打ち局面を正しく捉えられれば、株価が先に反応する「一番おいしい区間」を取りやすい。この記事では、半導体サイクルの“底”を定義し、データで判定し、実際の売買ルールに落とし込む手順を、初心者でも再現できる形にします。
半導体サイクルの「底」とは何か:まず定義を固定する
「底打ち」と言うと、価格が上がり始める瞬間を想像しがちですが、投資判断では定義をズラす方が勝ちやすいです。理由は単純で、株価は“実体の底”より先に動くからです。ここでは底を3段階に分けます。
底①:在庫調整のピークアウト(悪化が止まる)
需要が弱くても、在庫の積み上がりが止まり始めた瞬間が第一の底です。企業は在庫を吐き出すために生産調整をしますが、その調整が行き過ぎると、供給が不足し始めます。株価はこの「悪化の止まり」を最も好みます。
底②:価格の下落が止まる(値崩れの終焉)
メモリ(DRAM/NAND)や一部の汎用ロジックはスポット価格が分かりやすいので、価格が横ばいになると心理が変わります。ただし価格が上がるまで待つと遅いことが多いので、底②は“確認材料”として扱います。
底③:業績が反転する(決算で数字が良くなる)
決算で売上や利益が回復してから買うのは安心ですが、株価の上昇初動は取りにくくなります。初心者がやりがちな「良くなってから買う」を、どう“安全に早めるか”が本題です。
半導体サイクルを読むための地図:どの指標がどの立場の企業に効くか
半導体株を一括りにすると判断がブレます。最低でも「ファブレス」「ファウンドリ」「IDM(垂直統合)」「メモリ」「製造装置」に分けて見ます。底打ちの“順番”が違うからです。
ファブレス(設計):需要の変化に最速で反応する
例:AI向けGPUやネットワーク、スマホSoCなど。強いテーマがあるとサイクルを無視して伸びる一方、在庫調整が始まると急に減速します。注目すべきは受注ではなく「顧客の在庫」と「ガイダンス(見通し)」です。
ファウンドリ(製造):稼働率がボトム判定の中心
稼働率が下がっている間は値引き圧力が強く、利益率が削られます。底打ちは「稼働率の下げ止まり」と「先端ノード(例:3nm/2nm)への投資継続」が同時に起きた時が狙い目です。
メモリ:価格が最重要、ただし株価は価格より先に動く
メモリは典型的な供給主導サイクルです。設備投資(Capex)を絞った結果として価格が持ち直します。ここでは“価格上昇”より前に出る「供給側の行動変化」を拾います。
製造装置:サイクルの後半で落ち、回復も遅れがち
装置は受注から売上計上までタイムラグがあります。底打ち局面で“最速反転”を狙うなら装置は後回し、ただし「一番安く放置される」ことも多く、遅行でも大きく取れる局面があります。
底打ちを見抜く「5つの観測点」:これだけ追えば迷いが減る
観測点1:在庫(日数)と出荷の関係
基本は在庫日数(Days of Inventory)です。決算資料で「棚卸資産」「売上原価」から推定できますし、多くの企業は在庫水準をコメントします。重要なのは絶対水準よりも、増加ペースが鈍ること。例えば、在庫が前年+40%→+20%→+10%と鈍化するなら、悪化の止まりが近い可能性が高い。ここで株価は反応し始めます。
観測点2:受注・出荷(Book-to-Bill)とリードタイム
装置メーカーや一部部材ではBook-to-Bill(受注/出荷)が使えます。1.0を下回る期間が長いほど調整が深い。底打ちは「1.0未満でも改善方向に転じる」ことがトリガーになります。さらに現場のリードタイムが短縮→横ばい→再び延び始める流れも重要です。リードタイムの“短縮が止まる”のは需給が締まり始めたサインです。
観測点3:価格(メモリ・一部ディスクリート)と契約改定
メモリのスポット価格はニュースになりやすいですが、投資で効くのは契約価格の改定方向です。企業コメントで「価格下落が緩和」「下期は安定」などの言い回しが出ると、市場は“底②”を織り込みます。価格データを見る場合は、日々の上下ではなく、3か月移動平均の下げ幅が縮小しているかを見ます。
観測点4:Capex(設備投資)の削減と再開のタイミング
メモリやファウンドリはCapexが需給を決めます。底打ちの典型は「Capex大幅減→供給成長率が下がる→価格が安定→Capexが再開」です。投資家が狙うのは、Capexが減り切った“直後”です。ここは業績が最悪でも、翌年の需給改善を先取りできます。
観測点5:指数(SOXなど)とクレジット環境
半導体は市場のリスクオン/オフの影響も強い。SOX指数が底値圏で高値を切り上げる「ダブルボトム形成」や、長期金利が落ち着いてグロース全体が買われやすくなる局面は追い風です。また、ハイイールドスプレッドが拡大している最中は、個別の底打ちシグナルが出ても株価が伸びにくい。クレジット環境の“悪化停止”は、底打ち戦略の成功率を上げます。
実践:底打ち局面の売買を「ルール化」する
初心者が勝てない最大の理由は、判断基準がその場の気分になることです。ここでは、半導体サイクルの底打ちを取りに行くための“最低限のルール”を提示します。完璧は狙いません。再現性を優先します。
ステップ1:対象を3グループに分ける(先行・中間・遅行)
(A)先行:ファブレス/AI関連など、需要が戻ると最初に動く銘柄。
(B)中間:ファウンドリや高付加価値部材。
(C)遅行:製造装置、汎用部材。
底打ち初動を狙うならAとBを中心に、Cは「遅れてでも割安なら拾う」という位置づけにします。
ステップ2:エントリー条件を「悪化停止+バリュエーション」の二段構えにする
半導体はボラが大きいので、シグナルだけで飛びつくと痛い目を見ます。エントリー条件は2つ必要です。
条件①(需給):在庫増加ペースの鈍化 or ガイダンスの下方修正幅が縮小
決算コメントで「在庫調整は進捗」「需要は安定」など、ニュアンスが変わる瞬間を拾います。重要なのは“良いこと”ではなく、“悪いことが弱まる”こと。
条件②(価格):過去サイクル比で割高ではない
P/S、EV/EBITDA、PERなど指標は銘柄特性で使い分けます。赤字テックにPERは無意味です。ファブレスはP/SやEV/売上、装置は受注サイクルを踏まえたEV/EBITDAが効きます。目安は「前回のサイクル天井の何割まで落ちたか」を見ると分かりやすい。株価が半値以下でも割高なケースがあるので、売上や粗利率の正常時水準とセットで見るべきです。
ステップ3:分割で入る(3回に分ける)
底は一点では取れません。最初から全力で入るのは“当て物”になります。おすすめは3分割です。
1回目:悪化停止のシグナルが出た時に、予定枠の30%
2回目:価格の下落が止まった/指数が高値切り上げを確認した時に、40%
3回目:決算で業績の反転が見えた時に、残り30%
こうすると、早く入って取り逃しを減らしつつ、外れた時のダメージも限定できます。
ステップ4:出口は「期待の剥落」で切る
半導体は上がる時は派手ですが、テーマが崩れると落ちます。出口を“価格目標”だけにすると、天井で欲が出ます。使いやすいのは「期待の剥落」のサインです。
・在庫が正常化したのに、受注が伸びない(需要が本物ではない)
・価格が上がっているのに、企業がCapexを急拡大(供給過剰の芽)
・指数が高値圏で失速し、悪材料に過剰反応する
これらが重なるなら、ポジションを軽くする判断が合理的です。
具体例で理解する:3つの“底打ち局面”シナリオ
シナリオA:メモリ不況からの回復(供給調整が主因)
メモリは供給側のCapexが鍵です。典型的には、価格下落→在庫積み上がり→各社が投資削減と減産→供給成長率が落ちる→価格が横ばい→回復、の流れになります。投資家がやるべきは「投資削減が本気か」を確認することです。決算でCapex計画が大幅に引き下げられ、在庫日数の増加が鈍化した段階が狙い目です。価格上昇を待つと初動を逃しやすいので、供給側の行動変化を先に拾います。
日本株ならメモリそのものより、部材・装置に波及するタイムラグを利用する考え方もあります。例えば、メモリが底打ちしても装置受注はすぐ戻らないことが多い。そこで、まずサイクル先行の銘柄で上昇の恩恵を取り、遅行の装置は“割安放置”が続く間に分割で仕込む、という順番です。
シナリオB:AI需要は強いが、その他が弱い(二極化サイクル)
近年多いのがこの形です。データセンター向けは強いのに、PC/スマホが弱い。こうなると「半導体全体の底」というより「サブセクターごとの底」を取りに行く必要があります。ここで重要なのは、AI関連の強さを過信して、割高なファブレスを高値で追いかけないこと。強いテーマは“高いまま”で、サイクルの底打ちとは別物になりがちです。
二極化では、底打ち戦略の中心は(B)中間に置くのが安定します。具体的には、先端ノードに強いファウンドリ、先端パッケージング、電源・冷却・基板などの周辺需要です。これらはAI投資の恩恵を受けつつ、バリュエーションがファブレスほど過熱しにくい。エントリーは「顧客の在庫調整が止まる」+「設備投資の継続」が同時に見える局面が狙い目です。
シナリオC:景気後退懸念で全面調整(マクロ主因)
マクロで売られる局面では、個別の底打ちシグナルが効きにくいです。ここでのコツは「最初から当てに行かない」。まずはETFや指数(例:半導体指数連動)で小さく入って市場全体の反転を待ち、個別は2回目以降に回す。理由は、信用収縮や急なリスクオフでは“良い銘柄ほど売られる”ためです。
この局面で見るべきはクレジット環境と金利です。ハイイールドスプレッドが落ち着き、長期金利の急騰が止まったあたりから、半導体は反応しやすい。そこで初めて、在庫・受注・価格の改善を上乗せして個別を増やします。
銘柄選定の考え方:初心者が避けるべき罠
罠1:サイクル最悪期に「高PERだから割安」と勘違いする
半導体は利益が急減するため、底ではPERが異常に高く見えます。これを「割高」と誤解して買えない人が多い一方、「PERが下がったから割安」と錯覚して天井で買う人も多い。サイクルではPERは役に立ちにくいので、P/SやEV/売上、あるいは“正常時の利益率”から逆算した利益水準で見る方が事故が減ります。
罠2:「装置は絶対に先に戻る」と決めつける
装置は景気が良いときの成長が大きい反面、受注の崩れが激しく、回復も遅れがちです。底打ち初動の取りやすさでは、装置より先行するサブセクターが存在します。装置は“最後に効いてくる”枠として、評価とタイミングを分けるのが合理的です。
罠3:テーマ人気で「強い銘柄=安全」と思う
強いテーマ銘柄は、下落局面でバリュエーションの調整が大きくなります。安全なのは、ビジネスの強さではなく、買値の余裕です。底打ち戦略は「良い銘柄を安く」が基本で、「最強銘柄を高値で」は別ゲームです。
ポートフォリオ設計:半導体のボラとどう付き合うか
半導体は値動きが大きいので、資金管理が成否を決めます。ここでは初心者がやるべき最低限の設計を示します。
ルール1:最大損失を先に決める(%で固定)
「この銘柄は強いから大丈夫」は通用しません。ポジションごとに、想定外の下落が起きた時の最大損失を%で決めます。例えば、1銘柄あたりの損失許容を資産の1%にする、などです。損切り水準はテクニカル(直近安値割れ等)でも良いですが、重要なのは“守れる水準”にすることです。
ルール2:半導体の比率上限を決め、超えたら利確する
底打ちが当たると、半導体がポートフォリオ内で急に膨らみます。これが天井での崩壊につながる。例えば「半導体関連は最大で全資産の20%まで」など上限を決め、超えた分は機械的に利確して他資産へ回す。これだけで成績が安定しやすくなります。
ルール3:ETFを“緩衝材”に使う
個別を当てる自信がないなら、最初はETF比率を高めるのが合理的です。ETFは分散が効き、決算ショックの影響が薄まります。底打ち初動はETFで拾い、シグナルが強くなったら個別へ移す。この順番は初心者向きです。
チェックリスト:底打ちを狙う前に必ず確認すること
最後に、実際に行動するためのチェックリストを置きます。これを満たすほど、底打ち戦略の“外れ”が減ります。
- 在庫が増えていても、増加ペースが鈍っている(または企業が在庫正常化を明言)
- ガイダンスの下方修正が続いていても、修正幅が縮小している
- メモリや汎用品の価格下落が、3か月移動平均で弱まっている
- Capex削減が具体的(%や金額)で、供給成長率が下がる見込みがある
- 指数(SOX等)が底値圏で高値を切り上げ、悪材料への反応が鈍い
- クレジット環境(スプレッド)が拡大し続ける局面ではない
- 分割エントリーの計画(30/40/30など)があり、損失許容が決まっている
まとめ:半導体の底打ちは「悪化停止」を買うゲーム
半導体サイクルの底打ちは、業績が良くなってから買うのではなく、「悪化が止まり始めた」段階で分割して入る戦略が中心です。在庫・受注・価格・Capex・指数の5点を追い、銘柄をサブセクターで分けて、ルールで淡々と判断する。これだけで、ニュースに振り回される回数が減り、再現性が上がります。半導体は難しそうに見えますが、見るべき指標を固定すれば、むしろ“型”が作りやすいテーマです。
データの集め方:無料で揃う範囲で十分戦える
「指標が大事」と言われても、どこで見るか分からないと続きません。高価な端末は不要です。初心者はまず、(1)企業決算資料、(2)業界団体の統計、(3)価格ニュース、(4)指数チャート、の4つに絞れば十分です。
企業決算資料:在庫・ガイダンス・Capexはここで取る
在庫(日数)の厳密計算までやる必要はありません。決算説明資料や質疑応答で「在庫は高いが改善傾向」「顧客在庫は正常化」などのコメントが出たらメモします。Capexは計画値が明示されることが多いので、前年対比で増減率を表にしておくと、供給サイクルが見えます。
業界統計:出荷・受注の温度感を補強する
半導体全体の売上統計、装置の出荷・受注統計など、業界団体のデータは遅行ですが、トレンド確認に使えます。ポイントは「水準」ではなく「変化率」です。前年比がマイナスでも、マイナス幅が縮んでいるなら“底①”に近いと判断できます。
価格ニュース:メモリは“方向”だけ拾う
価格はノイズが多いので、日々追うと疲れます。週1回、主要品目の価格が「下落加速→下落減速→横ばい」に変わっていないかを見るだけで十分です。価格が上がり始めたら、すでに市場は“底②”を織り込んでいる可能性が高いので、買い増しはルールに従って慎重に行います。
指数チャート:個別ではなく地合いを判定する
チャートは当て物にしません。用途は「地合い確認」です。例えば、指数が底値圏で移動平均線を回復した、出来高が増えた、下げてもすぐ戻す、など“売りの勢いが弱い”状態を確認します。個別に入る前に指数が崩れているなら、分割の1回目だけに抑える、といった使い方が現実的です。
日本株で半導体サイクルを取る場合の考え方
日本株の半導体関連は、ファブレスよりも装置・材料・製造周辺が中心になります。そのため、世界のサイクルに対して遅行しやすい一方、ピークやボトムで過剰に売られやすい。ここを逆手に取ります。
為替(円安・円高)の影響を分離する
日本の装置・材料は外需比率が高いので、円安は追い風、円高は逆風です。サイクルの底打ち局面で円高が進むと、業績の回復が見えにくく株価も鈍ります。しかし、サイクルの反転が本物なら、為替で押された局面は“安く仕込める時間”になります。逆に円安で上がっているだけの局面をサイクル回復と誤認しないことが重要です。
「受注残」と「顧客の投資計画」を読む
装置は受注残がクッションになります。受注が落ちても、受注残が厚いと売上は急に崩れません。底打ちは、受注残が減り始める“前”に訪れることが多いので、受注残のピークアウトと、新規受注の改善方向(悪化停止)をセットで見ます。
やってはいけない運用:底打ち戦略を台無しにする3つの行動
行動1:ナンピンを“無限に”する
分割エントリーは有効ですが、ルールのないナンピンは破滅します。3回と決めたら、それ以上は増やさない。追加したいなら、条件(指数回復、決算反転など)を満たした時だけに限定します。
行動2:短期で結果を求めて、サイクルを待てない
底打ちは当たっても、すぐには上がりません。市場が確信を持つまで“待ち時間”が発生します。この待ち時間に焦って損切りすると、いちばん良いところを捨てます。だからこそ、最初からポジションサイズを小さくし、メンタルの負荷を下げるのが合理的です。
行動3:決算前に全力で賭ける
半導体は決算でギャップが出やすい。底打ち狙いでも、決算またぎを全力でやる必要はありません。分割の設計は、むしろ決算をまたぐ前提で作ります。決算でシグナルが強まったら買い増し、外れたら損失を限定、という運用にしておくと継続できます。


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