カバードコールとは何か:利益の源泉は「時間」と「ボラ」
カバードコールは、保有している株式(またはETF)に対してコールオプションを売り、オプション・プレミアム(受取金)を得る戦略です。株価が上がりすぎると上値が限定されますが、横ばい〜緩やかな上昇局面では「株の値動き+プレミアム」でトータルリターンを底上げできます。
ポイントは、利益の源泉がキャピタルゲインではなく、主に「時間価値の減少(セータ)」と「期待変動率(IV)に対する上振れ」であることです。つまり、いつでも万能ではありません。最適市場を外すと、プレミアム以上の下落を食らって普通に負けます。ここを先に割り切って設計します。
最適市場の結論:カバードコールが機能しやすい4条件
最適市場は一言でいえば「レンジ〜緩やかな上昇で、IVがほどよく高い市場」です。もう少し分解すると、次の4条件が揃ったときに期待値が上がります。
条件1:トレンドが強すぎない(上方向の加速が起きにくい)
強烈な上昇トレンドでは、コール売りで「上昇分を放棄」するコストが大きくなりがちです。特に急騰局面では、プレミアムは増えても、上昇幅がそれを上回りやすい。カバードコールは「上がらないことに賭ける」わけではないですが、上がりすぎると相対的に損をします。
最適なのは、上値が重い、もしくは上昇してもジリ高で、日々の上下動がほどほどにある局面です。例としては、政策金利の見通しが安定し、企業業績も大崩れしないが、バリュエーションの上限が意識される時期が典型です。
条件2:IVが高め(プレミアムが厚い)
同じレンジ相場でも、IVが低いと受け取れるプレミアムが薄く、手間に対して見返りが出ません。逆にIVが高いと、同じデルタのコールでもプレミアムが増え、想定レンジ内での「インカム」が大きくなります。
実務的には、IVそのものより「自分が売っているボラが、過去の実現ボラ(RV)や、直近の急落後に跳ねた水準に対して割高か」を重視します。IVが高い=危険でもありますが、危険だからこそ価格がつく。危険を避けるのではなく、危険を条件として織り込み、サイズとルールで管理します。
条件3:大きなイベントが近すぎない(ギャップリスクが過大)
決算、規制判断、訴訟、承認・不承認、金融政策イベントなど「一発で価格が跳ぶ」局面は、カバードコールの弱点が出ます。上に跳べば上値取り逃し、下に跳べば株の損失が直撃します。プレミアムはイベント前に増えますが、ギャップが想定外だと簡単に負けます。
結論として、イベントドリブンの銘柄ほど、カバードコールは「短期で売って細かく逃げる」か、そもそも避けるかの二択です。長期投資のつもりで握るなら、イベントをまたぐ売りは慎重にした方がいいです。
条件4:流動性が高い(スプレッドが狭い)
初心者ほど見落とすのがコストです。オプションの板が薄くスプレッドが広いと、プレミアムをもらっているつもりが、売買コストで削られます。カバードコールは回転する戦略なので、コスト耐性が収益性を左右します。
目安として、出来高が十分で建玉が厚く、ストライク刻みが細かい市場(指数オプション、主要ETFオプション、超大型株のオプション)が適しています。日本でも選択肢はありますが、流動性の差は無視できません。
「最適市場」を定量化する:3つのスクリーニング指標
感覚ではなく、チェック項目を固定するとブレが減ります。ここでは初心者でも使える指標に絞ります。
1) IVランク(IVR)またはIVパーセンタイル
IVが過去レンジのどの位置にあるかを見る指標です。IVRが高いほどプレミアムが厚く、カバードコールに有利になりやすい。ただし、IVRが高い理由が「破綻懸念」「増資懸念」「訴訟」など本質的リスクのときは避けます。IVRの高さは入口で、質のチェックが本丸です。
2) 直近の実現ボラ(RV)とIVの乖離
IV>RVの差が大きいほど、売り手に有利な価格がつきやすいです。ただし、RVは後追いで、イベントが近いと急にRVが跳ねます。したがって、イベントカレンダーの確認とセットで使います。
3) トレンド強度(移動平均の傾き+乖離)
強烈な上昇局面を避けるため、移動平均の傾きと価格乖離を使います。具体的には「短期移動平均が急角度で上向き」「価格が短期移動平均から大きく乖離」しているときは、コール売りは取り逃しリスクが大きい。
逆に、移動平均が横ばい〜緩やかで、価格が上下に揺れているときは、プレミアム収入が生きます。
実装の基本設計:ストライクと満期をどう選ぶか
カバードコールで一番大事なのは「どのくらい上値を捨てる代わりに、どのくらいのプレミアムを確定させるか」というトレードオフ設計です。ここを曖昧にすると、勝っても負けても納得できない運用になります。
デルタで考える:初心者向けの目安
権利行使価格は、銘柄の性格と相場環境で決めますが、迷ったらデルタ基準が実用的です。
・守り寄り:デルタ0.15〜0.25(離れたアウト・オブ・ザ・マネー)。上値余地を残しつつ、そこそこのプレミアム。
・標準:デルタ0.25〜0.35。最もバランスが取りやすいゾーン。
・攻め寄り:デルタ0.35〜0.45。プレミアムは増えるが、上値は削られやすい。
初心者は「標準〜守り寄り」から始めた方が事故りにくいです。攻め寄りは、相場観とロール技術がないとストレスが大きい。
DTE(残存日数)の目安:30〜45日を基本にする理由
満期は短すぎても長すぎても難しいです。初心者にとって扱いやすいのは30〜45日程度です。
短期(〜7日):ガンマが強く、少しの上昇でデルタが急増し、ロール判断が頻発します。手数が増え、精神的にも忙しい。
中期(30〜45日):セータが程よく、ポジション管理がしやすい。ロールの選択肢も豊富。
長期(60日以上):セータ効率が落ちやすく、途中で相場環境が変わると調整が遅れます。
運用のルールとしては、「建てた後、プレミアムの50〜70%を獲れたら早めにクローズして次へ」という回転が安定しやすいです。満期まで引っ張ると、終盤はガンマに振り回されやすい。
ロールの規律:勝つための“運用ルール”を先に決める
カバードコールは、建て方よりもロールと撤退が成績を決めます。場当たり的にやると「上昇を取り逃し、下落も食らう」という最悪の体験になります。ここではシンプルな規律を提示します。
ルールA:プレミアムが当初の50〜70%減ったら買い戻し
時間価値が減ったら利益確定する、という最も素直な規律です。利益を早めに確定し、残りの期間に潜む急変リスクを減らします。回転率が上がるので、トータルのプレミアム収入が積み上がりやすい。
ルールB:株価がストライクに近づいたら「前倒しロール」
株価がストライクに迫ると、デルタが上がり、上値を削る圧力が強まります。上昇を残したいなら、まだ時間価値が残る段階でロールします。やり方は「今のコールを買い戻し、同じデルタ帯でより遠いストライク(またはより先の満期)を売り直す」です。
重要なのは、ロールの目的を明確にすることです。
・上値余地を確保したい:ストライクを上へ、満期は近めでも可。
・プレミアムを厚くしたい:満期を先へ、ストライクは同程度。
・とにかく手間を減らしたい:満期を先へ、デルタは守り寄り。
ルールC:急落時は「売り続けない」
急落するとIVが跳ねてプレミアムが魅力的に見えます。しかし急落局面は“まだ落ちる”リスクが高く、株の含み損が拡大しやすい。ここでコールを売っても、回復局面で上値を抑えてしまい、取り返しが遅れます。
したがって、急落局面では次のどちらかを推奨します。
・コール売りを止め、株の回復を優先する(最もシンプル)。
・売るならデルタを極端に下げ、回復余地を多く残す(守りの売り)。
具体例で理解する:3つの典型シナリオ
シナリオ1:レンジ相場でコツコツ(理想形)
例えば、指数ETFを中長期で保有しつつ、相場が明確にレンジ化している時期に、デルタ0.25前後・DTE30〜45日のコールを売る。株価が行ったり来たりして満期までに大きな上抜けが起きなければ、プレミアムが収益として残ります。
ここでの勝ち筋は「月次のプレミアムを複数回積み上げ、下落耐性を少しずつ作る」ことです。株価が横ばいでも、受取プレミアムがトータルリターンを押し上げます。
シナリオ2:緩やかな上昇で“取り過ぎない”運用
株価がジリ高で上がる局面は、カバードコールでも勝てます。ただしコツは「デルタを守り寄りにして、上値を残す」ことです。具体的にはデルタ0.15〜0.25に寄せ、ストライクをやや遠くします。
上昇に合わせてストライクに近づいたら前倒しロールを行い、上値余地を再確保します。これにより、プレミアムとキャピタルの両方を“薄く”取る形になります。欲張ってデルタを上げると、上昇を大きく放棄して不満が残ります。
シナリオ3:急落局面での失敗(最悪形)
典型的な失敗は、急落後にIVが跳ねたのを見て「プレミアムが大きいから」と安易に売り続けるケースです。株が含み損を抱えた状態で、回復時にコールが上値を抑え、戻りの利益が削られます。さらに、下落が続けば株の損失が拡大します。プレミアムは“保険料”のように見えて、実態は「下落リスクを消していない」点が重要です。
急落時に必要なのは、売りの継続ではなく、ポジション全体の許容損失を守ることです。損切り、ヘッジ、現金比率の調整など、株側のリスク管理が主役になります。
カバードコールの弱点と対策:3つの構造リスク
1) 上昇取り逃し(機会損失)
上昇取り逃しは、戦略の仕様です。対策は「デルタを守り寄りに」「ロールで上値余地を再確保」「そもそも強い上昇局面では売らない」です。特に、長期で強いテーマを握っているなら、売らない期間を作る方が結果が良いことが多いです。
2) 下落には弱い(プレミアムはクッションに過ぎない)
カバードコールは下落を止めません。プレミアム分だけ損失が緩和されるだけです。対策は、最初から「最大許容ドローダウン」を決めることです。具体的には、一定下落で株を減らす、ヘッジを入れる、現金を積むなど、株側のルールが必要です。
3) ロールの泥沼化(判断が遅れると取り返しにくい)
ストライク付近で迷って放置すると、デルタが膨らみ、上昇に追随できずストレスが増えます。対策は「近づいたら前倒しロール」「ロールしないなら受け入れて利確」と二択にすることです。中途半端が一番悪い。
初心者向けの実践手順:最短で事故を減らす運用プロセス
ステップ1:対象を決める(銘柄ではなく“市場の性質”で選ぶ)
まずは流動性が高い市場(主要指数ETFなど)で練習します。個別株はイベントリスクが濃く、初心者には難易度が上がります。練習段階では「スプレッドが狭い」「建玉が厚い」「情報が多い」ものを優先します。
ステップ2:相場環境チェック(レンジ+IV)
移動平均の傾きが緩いか、直近レンジかを確認します。次にIVが低すぎないかを見る。どちらかが欠けるなら、無理に実行しない。カバードコールは“毎月必ずやる”戦略ではありません。
ステップ3:ルールを固定(デルタ・DTE・利確・ロール)
おすすめの初期設定は次の通りです。
・デルタ0.20〜0.30
・DTE30〜45日
・プレミアムが50〜70%減少で買い戻し
・株価がストライクに接近したら前倒しロール
これで1サイクルを回し、実績とストレス耐性を見ながら調整します。
ステップ4:サイズを小さく始める(“手法の検証”が先)
最初は資金効率より、ルール運用が守れるかが重要です。オプションは数字のゲームですが、人間は感情で崩れます。小さく始め、同じルールを繰り返し、判断を自動化します。
“最適市場”の見極めチェックリスト
最後に、実行前に見るべきポイントを文章でまとめます。
・相場はレンジか、ジリ高か。急騰局面ではないか。
・IVは十分か。IVが高い理由は健全か(単なる不安定さか、致命的リスクか)。
・決算や重要イベントをまたがない設計になっているか。
・オプションの板は厚いか。スプレッドで削られないか。
・ストライクとDTEは、上値放棄とプレミアムのトレードオフとして納得できるか。
・利確とロールのルールは先に決めたか。場当たりで延命しない仕組みになっているか。
・下落時の対応(売りを止める/ヘッジする/株を減らす)は決めたか。
まとめ:カバードコールは「市場を選ぶ」ほど強くなる
カバードコールは、万能な儲け話ではありません。勝てる市場は限定されます。レンジ〜緩やかな上昇で、IVがほどよく高く、イベントが近すぎず、流動性が高い。ここを満たす市場で、デルタとDTEを規律化し、利確とロールを機械的に回す。これが最短で“再現性”を作る道です。
逆に、強い上昇トレンドや急落局面では、やらない勇気が必要です。やるべきときにだけ、淡々とやる。カバードコールは、そこで初めて「積み上がる戦略」になります。


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