「セクターETFのローテーション」は、個別銘柄を当てにいく投資ではありません。景気と金利、リスク許容度の“潮目”に合わせて、株式の中で勝ちやすい場所へ資金を移す運用です。やることはシンプルで、①局面を判定 → ②有利なセクターに配分 → ③ルールで入れ替えるだけです。
ただし、ローテーションは雰囲気でやると失敗します。「今は◯◯が強そう」で動くと、天井で買い・底で売りになりがちです。この記事では、個人でも再現可能な形で、指標の読み方、ルール設計、実装例、そして負け方(崩れる瞬間)まで、具体例を交えて解説します。
セクターETFローテーションが機能しやすい理由
株式市場は「全体が上がる/下がる」だけではなく、同じ株式の中でも“景気と金利”で勝ち組が入れ替わる性質があります。代表例は以下です。
- 景気が加速:資本財・工業、素材、金融などが相対的に強くなりやすい
- 景気が減速:生活必需品、ヘルスケア、公益などが相対的に粘りやすい
- 金利が上昇:バリュエーションに敏感な成長株(テック等)が不利になりやすい
- 金利が低下:長期のキャッシュフローを持つ成長株が相対優位になりやすい
重要なのは、「当てに行く」よりも不利な場所から撤退し、有利な場所を厚くする発想です。ローテーションは“当たりを増やす”というより“外れを減らす”戦略です。
まず押さえるべきセクターETFの基本
セクターETFは、指数に沿って自動的に銘柄を入れ替えるため、個別株の決算・不祥事・倒産リスクを分散できます。米国では、セクター別ETF(例:SPDRのシリーズ)が代表的で、流動性が高く、スプレッドも比較的安定しています。
例として、よく使われる“11セクター”は以下のように整理できます(名称は一般的な分類)。
- 景気敏感(プロシクリカル):金融、一般消費財、資本財(工業)、素材、エネルギー
- ディフェンシブ:生活必需品、ヘルスケア、公益
- 金利感応度が高い:不動産、情報技術、通信(コミュニケーション)
この整理ができると、局面判定→配分のロジックが作れます。ここが曖昧だと、ただの“人気投票”になってしまいます。
ローテーションを「4つの軸」で設計する
ローテーションの成否は、局面をどう定義するかで決まります。私は個人向けには、次の4軸で十分だと考えています。
- ①景気(成長の加速/減速):実体の勢い
- ②金利(上昇/低下):バリュエーションの重力
- ③クレジット(リスク許容度):資金繰り・倒産懸念の温度
- ④需給(トレンド/巻き戻し):価格がどちらに動きやすいか
①景気:PMI・雇用・利益改定で“加速/減速”を見る
景気の判断は難しく見えますが、ローテーションに必要なのは“厳密なGDP予測”ではありません。加速しているのか、減速しているのかだけ分かれば十分です。
初心者でも扱いやすいのは、次の3つです。
- PMI/ISM:50を境に拡大/縮小の目安。水準よりも「上向き/下向き」を重視
- 雇用(失業率・雇用増減):悪化が連続するか、改善が続くか
- 利益(EPS)改定:市場全体やセクターの予想利益が上方/下方に動くか
ポイントは、単発の数字に反応しないことです。1回の悪化でディフェンシブへ全面移行すると、ノイズに振り回されます。基本は「2〜3回の連続性」をルールに入れます。
②金利:長期金利とイールドカーブで“重力”を見る
セクターの入れ替わりは金利の影響が大きいです。ここで使うのは「短期金利の予想」ではなく、長期金利(10年など)の方向と、イールドカーブの形です。
- 長期金利が上昇:成長株・長期資産(不動産等)に逆風。金融は追い風になりやすい
- 長期金利が低下:成長株・ディフェンシブが相対的に有利になりやすい
- 逆イールドが深い/長い:景気後退懸念が強まり、ディフェンシブに資金が寄りやすい
ここでも重要なのは“方向性”です。絶対水準の当てっこは不要です。上がっているか、下がっているか。それだけでローテーションの精度は上がります。
③クレジット:スプレッドは「リスクオフの煙探知機」
ローテーションで一番痛い負け方は、景気敏感を持ったまま、急な信用不安(リスクオフ)に巻き込まれることです。これを避けるために、クレジット指標を使います。
個人が見やすい代替としては、次のような“リスクプレミアムの温度”を観察します。
- 社債スプレッドの拡大(急拡大は赤信号)
- 株式のボラティリティ上昇(VIX等の急騰は需給悪化のサイン)
- 高βセクターの急失速(例えばハイテク・一般消費財の急落)
ここは“当てる”というより、危険を検知したら守る用途です。ローテーションは攻めだけでなく、防御ルールが必須です。
④需給:トレンド指標で「逆張り」を減らす
セクターは循環しますが、循環のタイミングを完璧に当てるのは無理です。そこで、需給(価格トレンド)でフィルタをかけます。
初心者でも実装しやすい定番は以下です。
- 移動平均(例:200日):価格が上にあるセクターだけ買う
- 相対強度(RS):S&P500等に対して強いセクターを上位から選ぶ
- モメンタム(例:6〜12カ月):過去一定期間で強いセクターに寄せる
これを入れるだけで、「本来強いはずのセクターを、弱いトレンドのまま買ってしまう」事故が減ります。ローテーションは“ロジックとトレンド”の二段構えが有利です。
実装の基本設計:3つの型(あなたの性格で選ぶ)
セクターETFローテーションには、主に3つの実装スタイルがあります。どれが正解ではなく、自分が守れるルールが正解です。
型A:マクロ・レジーム型(景気×金利で配分を決める)
景気(加速/減速)と金利(上昇/低下)の2×2で、あらかじめ“有利なセクターの組み合わせ”を決めておく方法です。
- 景気加速×金利上昇:金融・工業・素材(景気敏感寄り)
- 景気加速×金利低下:一般消費財・テック(成長寄り)
- 景気減速×金利上昇:難しい局面。現金比率を上げる/守備を厚くする
- 景気減速×金利低下:生活必需品・ヘルスケア・公益(ディフェンシブ)
メリットは納得感が高いこと。デメリットは、指標の解釈がブレると運用が崩れることです。指標は“連続性”で判断し、ルール化が必須です。
型B:モメンタム型(強いセクターを上位から買う)
相対強度や過去リターン順位で、上位セクターを買う方法です。例えば「過去6カ月で強いセクター上位3つを等金額で保有し、月1回入れ替える」など。
メリットはシンプルで迷いにくいこと。デメリットは、急落局面で“高値掴み”になりやすいことです。そこで、200日移動平均などのトレンドフィルタを必ず併用します。
型C:コア&サテライト型(広く持ちつつ、傾きを作る)
ローテーションに不安がある場合は、まず全世界株やS&P500などをコアに置き、セクターETFは上乗せ(サテライト)にすると安定します。
例:コア70%(広域株式)、サテライト30%(ローテーション)。この形なら、ローテーションが外れても致命傷になりにくく、改善の余地が残ります。
具体的な売買ルール例(個人が回せるレベル)
ここでは、実運用で回しやすい“型B(モメンタム)+リスク管理”のテンプレを提示します。数字は例なので、あなたの許容度で調整します。
ルール例1:月次ローテーション(上位3セクター)
- ユニバース:主要セクターETF(11セクター相当)
- 評価期間:過去6カ月のリターン(相対)
- 選定:上位3セクターを等配分
- 入替:月末に順位を再計算し、入れ替え(売買は翌営業日)
- フィルタ:各ETFが200日移動平均より上にある場合のみ保有対象
- 保険:フィルタを満たすETFが少ない場合は現金(または短期債ETF)に退避
この形のキモは「買うセクター」より「買わない局面」を作ることです。200日線フィルタは、強烈な下落相場での被弾を減らします。
ルール例2:景気×金利のレジームで“候補”を絞ってから順位付け
よりマクロを反映したいなら、まずレジームで候補を絞ります。
- 景気加速が確認できる月:金融・工業・素材・一般消費財を候補にする
- 景気減速が確認できる月:生活必需品・ヘルスケア・公益を候補にする
- 候補の中で、相対強度上位2〜3を買う
このやり方は、モメンタムのシンプルさを維持しつつ、景気循環に合わせた“偏り”を作れます。
具体例:3つの局面で何が起きるか(イメージで掴む)
ここでは、実際の相場を完全に当てる話ではなく、「ローテーションが何を狙っているか」を掴むために、典型的な局面を3つに分けて説明します。
局面1:景気加速(強気)→景気敏感が優位
景気が良くなり企業利益が伸びると、売上が景気に連動しやすいセクター(工業、素材、一般消費財など)が強くなりやすいです。さらに金利上昇が重なると、金融が相対的に選好されやすくなります。
この局面でやりがちな失敗は、強いセクターを増やすだけで、弱いセクターを減らさないこと。結果、ポートフォリオが散らかり、ローテーションの意味が薄れます。サテライト部分は「絞る」方が効きます。
局面2:景気減速(不安)→ディフェンシブが相対的に強い
景気が減速し、利益見通しが下方に向くと、生活必需品・ヘルスケア・公益のような“景気に左右されにくい”セクターが相対的に粘ります。
ここでの失敗は、下落を嫌ってディフェンシブを買ったのに、結局市場全体が大きく下がって同じように負けることです。ディフェンシブは「勝つ」より「負けを減らす」役割なので、現金(短期債)への退避ルールとセットで考えるべきです。
局面3:リスクオフ急変(信用不安)→“何でも売られる”
クレジットの悪化が急に進む局面では、セクターの理屈よりも「換金売り」が支配します。このとき、理屈でローテーションし続けるのは危険です。
この局面の対処は2つです。①ポジションサイズを落とす、②ルールで退避する。例えば「市場指数が200日線を割ったらサテライトを停止」「ボラティリティが急上昇したら現金へ」など、シンプルで機械的な条件が有効です。
セクターETF選定の実務:中身を見ないと事故る
同じセクター名でも、ETFの中身は時期によって偏ります。例えば“テック”は巨大銘柄の比率が高くなりがちで、実質的に数銘柄のベットになっていることがあります。ローテーションはETFを使うから安全、ではありません。
チェックポイント1:上位構成比の集中度
上位10銘柄で半分近くを占めるようなETFは、セクターというより“上位銘柄パッケージ”です。集中度が高いほど、ローテーションが個別要因に引っ張られやすくなります。
チェックポイント2:金利感応度(実質的なデュレーション)
成長株比率が高いセクターは、キャッシュフローの回収が長く、金利変動に敏感です。金利が上がる局面で、モメンタムだけで買うとやられます。ここで役立つのが“レジーム”の軸です。
チェックポイント3:分配金・コスト・税務
ETFはコスト(経費率)と税務の影響が積み上がります。短期売買の回転が速いほど、取引コストと課税が効いてきます。ローテーションは“当たり”より“摩擦”に負けることがあるので、回転数は慎重に設計します。
ローテーションのリスク管理:勝率を上げるのは「損失の設計」
ローテーションで最も重要なのは、実はセクター選びではなく、損失の設計です。以下は必須項目です。
1)最大ドローダウン上限を決める
例えば、サテライト部分で「最大-10%で縮小」「-15%で停止」など、ルールを先に決めます。裁量だと必ず遅れます。
2)リバランス頻度を“最適化しない”
バックテストで見た目が良い頻度に合わせると過剰最適化に陥ります。現実では、月次〜隔週程度が無難です。日次で回すとノイズが勝ち、コストが増えます。
3)相場急変時の例外ルールを用意する
「翌月まで待つ」と決めていても、急落局面では手遅れになることがあります。例外として、「市場指数が一定割合以上急落したら一部退避」「ギャップダウンが続いたら保有比率を半分にする」などの“ブレーカー”を用意します。
4)分散は「セクター数」より「因子」で考える
テックと通信を両方持っても、実質は似た因子(成長/金利感応)に偏ることがあります。セクター名ではなく、景気敏感・ディフェンシブ・金利感応などの因子で分散をチェックします。
初心者が陥りやすい失敗パターン(これを避けるだけで成績が改善する)
失敗1:ローテーションの“根拠”がニュース
ニュースを見てから動くと、だいたい遅いです。ローテーションは「価格・指標・ルール」に寄せるべきです。ニュースは確認材料であって、トリガーにしない方が安定します。
失敗2:上位1セクターに全集中
強いセクターは強いのですが、反転も急です。上位1つに絞ると、当たると大きい一方で、外すと回復に時間がかかります。個人は上位2〜3に分散し、コアで安定を取る方が続きやすいです。
失敗3:下げ相場で“入れ替えを続ける”
下げ相場は、強かったセクターが次々に崩れます。このとき、毎回入れ替えると売買だけ増えて損が拡大します。だからこそ、トレンドフィルタと現金退避をセットにします。
失敗4:銘柄の中身を見ずにセクター名だけで判断
同じセクターでも、上位構成銘柄で値動きが決まることがあります。月1回で良いので、上位構成比と主要銘柄の偏りを確認します。
運用チェックリスト(毎月10分で回す)
- 景気:PMI/雇用/EPS改定は「上向き/下向き」が継続しているか
- 金利:長期金利は上昇トレンドか低下トレンドか
- クレジット:スプレッドやボラの急拡大が起きていないか
- 需給:各ETFがトレンドフィルタを満たしているか
- 売買:今月の保有セクターはルール通りか(裁量が混じっていないか)
- リスク:最大損失ルールに抵触していないか(縮小/停止ライン)
まとめ:ローテーションは「再現性」と「継続性」で勝つ
セクターETFローテーションは、天才的な相場観より、単純なルールを守り続ける力で成果が出ます。おすすめの順番は次の通りです。
- まずはコア&サテライトで小さく始める
- 次にモメンタム+トレンドフィルタで迷いを減らす
- 慣れたら景気×金利のレジームで精度を上げる
- 最後にクレジットとブレーカーで大事故を避ける
「勝てるセクターを探す」より、「負ける状況で撤退できる」方が、最終成績に効きます。ローテーションは“攻めの戦略”に見えて、実態は“守りの設計”です。ここを押さえると、長期での再現性が一段上がります。


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