- はじめに:トークンアンロックは「事前に分かる需給ショック」
- トークンアンロックの基本:何が解除され、誰が受け取るのか
- 価格が動くメカニズム:アンロック→売り圧力の伝達経路
- まず数字で把握する:アンロック・インパクトの簡易モデル
- アンロックが“効きやすい”銘柄の特徴
- 個人投資家の戦い方:3つの実戦パターン
- 具体例で理解する:3つの典型シナリオ
- アンロック分析で見るべきデータ:チェック項目を固定化する
- 実戦ルール:初心者が守るべきリスク管理
- よくある誤解と落とし穴
- アンロックを「投資判断」に落とす:長期保有の視点
- 最後に:チェックリスト(これだけは固定化)
- 補足:アンロックを使った“上級者のヘッジ”の考え方(参考)
- まとめ:アンロックは“恐れる”のではなく“数えて扱う”
はじめに:トークンアンロックは「事前に分かる需給ショック」
暗号資産の価格はニュースや技術だけでなく、単純な需給でも大きく動きます。トークンアンロック(ロック解除)は、将来の供給増がスケジュールとして可視化されている点が特徴です。つまり「起きるかどうか」ではなく「いつ、どれだけ、誰の手に渡るか」が分析対象になります。
多くの初心者が陥る失敗は、アンロック=必ず暴落、または、アンロックは織り込み済みで無視していい、のどちらかに極端化することです。現実は、解除の規模・市場の流動性・保有者の属性・地合い・直前の上げ下げで、反応は大きく変わります。本稿では、価格に効く因子を「分解して定量化」し、個人投資家が再現できる判断ルールに落とし込みます。
トークンアンロックの基本:何が解除され、誰が受け取るのか
アンロックとベスティングの違い
一般にアンロックは、ロックされていたトークンが移転・売却可能になることを指します。ベスティング(権利確定・割当の段階的実行)は、チームや投資家などが一定期間にわたりトークンを受け取れるようになる仕組みです。実務的には、ベスティングの進行に伴い「定期的にアンロックが発生する」ケースが多い、と理解すると混乱しません。
よくある配分先(アロケーション)
解除されるトークンは、主に次のいずれかです。どれが大きいかで、売り圧力の性質が変わります。
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チーム・創業者:生活費や税金、分散目的で売る可能性がある一方、ロングのインセンティブも強いです。
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VC・シード投資家:投資回収フェーズに入ると売りが出やすい反面、ロック解除後にOTCやヘッジで処理することもあります。
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財団・エコシステム:補助金や流動性供給、開発費に使うため、売りは「分散的」に出やすいです。
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コミュニティ配布:エアドロップ等は売りが出やすいと言われますが、参加者の属性(長期派か短期派か)で反応が変わります。
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マイニング・ステーキング報酬:日次・週次で供給が増える「恒常的な売り圧力」になり得ます。
価格が動くメカニズム:アンロック→売り圧力の伝達経路
重要なのは「解除量」ではなく「市場が吸収できる量」
解除量が大きく見えても、出来高が十分で、買い需要が強い局面では価格が崩れないことがあります。逆に解除量が小さくても、流動性が薄く、板がスカスカな銘柄では数%〜数十%の急落が起きます。したがって、分析の主役は「解除量÷吸収能力」です。
吸収能力を測る3つの物差し
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日次出来高(実効):見かけの出来高ではなく、主要取引所の現物と主要パーペチュアルの合算で把握します。出来高が薄いほどアンロックの影響は増幅します。
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板の厚み(スリッページ耐性):指値の厚みが薄いほど、まとまった成行が価格を飛ばします。板が厚い銘柄はアンロックのインパクトが相対的に小さくなります。
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保有集中(上位アドレス比率):少数の大口が解除分を受け取る場合、売りが「塊」で出やすく、急落の形になりやすいです。
心理の増幅:織り込みの“ズレ”が一番危険
アンロックはカレンダーに載りやすく、多くの市場参加者が意識します。しかし「いつから織り込むか」「どの程度織り込んだと判断するか」が揃わないため、直前に思惑が偏ると反対売買が起きます。典型例は次の2つです。
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直前の過度なショート積み上げ:解除日に材料出尽くしでショートが踏まれ、上に跳ねる。
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解除前の“安心上げ”:皆が無視していると思い込み、解除直前に急落する。
まず数字で把握する:アンロック・インパクトの簡易モデル
個人が再現しやすい形に、アンロックの影響を「上振れ・下振れの幅」で見積もる簡易モデルを提示します。完全な予測ではなく、リスクの大きさを比較するための道具です。
ステップ1:解除額(USD換算)を出す
解除トークン数×想定価格で解除額を推定します。価格は直前価格で構いません。ここでの目的は厳密さより、銘柄間の相対比較です。
ステップ2:解除額を出来高で割る
インパクト比(Unlock/Volume)=解除額÷日次出来高(直近7日平均)。
目安として、インパクト比が0.1未満なら「イベント単体では吸収可能」、0.1〜0.3なら「地合い次第で揺れる」、0.3超なら「需給ショックになりやすい」と評価します。もちろん板の厚みや先物建玉で補正が必要ですが、第一段階として強力です。
ステップ3:売却される割合(Sell-through)を仮定する
解除分がすべて市場で売られるわけではありません。ここが初心者が最も誤解しやすいポイントです。売却割合は、受け取り主体によって大きく変わります。例えば、VCはリスク管理のため段階的に売ることが多い一方、税金や運営費が必要なチームは定期的に現金化する可能性があります。
実務上は、保守的に10%・30%・50%の3シナリオで見積もると意思決定しやすくなります。解除額×売却割合を「想定売り額」として、同様に出来高で割れば、ショックの大きさのレンジが出ます。
アンロックが“効きやすい”銘柄の特徴
1)流動性が薄いのに時価総額が大きく見える
FDV(Fully Diluted Valuation:完全希薄化後評価額)が大きい銘柄ほど「見た目は大型」でも、実際の流通量(Circulating)が小さく、板が薄いことがあります。このタイプはアンロックで流通量が増えると、価格形成が一段変わります。
2)解除が“集中日”に偏っている
毎月少しずつ解除される「リニア」型より、数か月ごとにまとめて解除される「クリフ(cliff)」型の方がショックになりやすいです。特に、ローンチ後の最初の大型解除(初回クリフ)は要注意です。
3)上位保有者の集中が高い
上位アドレスの保有比率が高い銘柄は、大口の意思決定が価格を支配しやすいです。解除先が単一の財団ウォレットや投資家ウォレットに集中している場合、取引所への送金が「前兆」になります。
4)先物市場が過熱している
パーペチュアルの資金調達率(Funding)が極端にプラスならロング過多、極端にマイナスならショート過多です。アンロックは現物の供給イベントですが、実際の値動きはデリバティブの清算(ロング/ショートの強制決済)で増幅します。
個人投資家の戦い方:3つの実戦パターン
アンロック局面は「何もしない」も合理的な選択です。そのうえで、リスクを制御できる人だけが、次のパターンを検討します。
パターンA:アンロック回避(ロングの縮小・入れ替え)
最も再現性が高いのは「勝負しない戦略」です。具体的には、アンロック比が高い銘柄はイベント前にポジションを落とし、同テーマのより流動性が高い銘柄(例:L1→主要L1、L2→主要L2、AI→流動性の高い関連銘柄)へ入れ替えます。
回避戦略の利点は、当たり外れの問題を「回避」できることです。弱点は、イベントが材料出尽くしで上がった場合に取り逃すことですが、長期では事故回避の期待値が勝ちやすいです。
パターンB:事前ショート(ただし条件を厳格に)
アンロックを理由にショートする場合、条件を厳しくしないと、踏み上げで負けやすいです。最低限、次の条件が揃うまで待ちます。
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インパクト比が高い(解除額/出来高が大きい)
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解除前に上昇している(利確売りが出やすい)
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Fundingがプラスに偏っている(ロング過多で崩れやすい)
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現物の出来高が減っている(買いの燃料が弱い)
エントリーは「解除日当日」より、数日前の過熱を確認してからの方が良いケースが多いです。一方で、解除日直前はボラティリティが上がり、ストップが狩られやすくなるため、サイズを小さくします。
パターンC:材料出尽くしの逆張り(ショートの巻き戻しを狙う)
アンロックで一度下げた後、想定より売りが出ずに反発する局面があります。ここを狙うのが材料出尽くしの逆張りです。ただし、初心者が最も火傷しやすい領域でもあります。条件は次の通りです。
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解除後に価格が下落したが、出来高が急増し、売りが一巡した形跡がある
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取引所への大口送金がピークアウトしている(連続していない)
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Fundingがマイナスに傾き、ショートが積み上がっている
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重要なサポート(直近安値帯)で反応が出ている
逆張りは「当てにいく」より「外したら小さく負ける」設計が重要です。分割で入り、損切り幅を事前に決めます。
具体例で理解する:3つの典型シナリオ
シナリオ1:大規模クリフ解除+薄い流動性→急落しやすい
ローンチ直後は流通量が少なく、価格が軽く上がりがちです。ここで初回クリフ解除が来ると、突然流通量が増え、買い板が吸収できずに急落します。特に「FDVは高いが、現物出来高が薄い」銘柄で起きやすいです。対策はシンプルで、初回クリフ前の長期保有は避け、イベント後に改めて評価します。
シナリオ2:解除は大きいが、地合いが強く吸収→横ばい〜上昇もあり得る
強気相場で資金流入が強いと、解除があっても買いが吸収し、価格は崩れません。むしろ「悪材料が出たのに下がらない」は強さのサインです。この場合、アンロック当日に売られると決め打ちせず、価格反応(下がらない)を確認してから判断します。
シナリオ3:事前に下げ続け、解除日に反発→織り込み過多の巻き戻し
カレンダーを見た参加者が早い段階から売り、解除前に十分下げていると、解除日に“出尽くし”で反発することがあります。これは解除が無視されたのではなく、価格が先に調整を終えた結果です。こうした局面では、解除日にショートを追加すると踏まれやすいです。
アンロック分析で見るべきデータ:チェック項目を固定化する
1)解除スケジュールの構造
毎月リニアか、クリフか、解除の山がいつか。特に「初回の大きな山」と「次に大きい山」を把握します。分散解除でも、特定月だけ山があるケースがあります。
2)流通量とFDVのギャップ
流通比率が低いほど、アンロックで市場構造が変わります。流通比率が低い銘柄は、価格が“トークノミクスに負ける”局面が出やすいです。
3)主要取引所の現物出来高と板
出来高が分散しているか、特定取引所に偏っているかも重要です。偏りが強いほど、取引所の事情(上場・手数料・マーケットメイク)の影響を受けます。
4)先物の建玉・Funding・清算データ
アンロックは需給イベントですが、短期の値動きはデリバティブが決めることが多いです。Fundingが偏っていると、反対側の清算が起きて値幅が拡大します。
5)大口ウォレットの取引所送金
解除先のウォレットから取引所へ送金が始まると、売却可能性が上がります。ただし、送金=必ず売りではなく、担保移動やマーケットメイク目的もあります。重要なのは「頻度」と「規模」と「継続性」です。
実戦ルール:初心者が守るべきリスク管理
サイズ(数量)を落とす
アンロック前後はボラティリティが上がりやすいです。通常のトレードと同じロットで挑むと、損切りが追いつかず、資金効率も悪化します。まず数量を落とし、負けても致命傷にならない設計にします。
ストップの置き方:価格ではなく“シナリオ破綻”で切る
「解除で下がるはず」と思い込むと、損切りが遅れます。例えばショートなら「解除前に上昇して過熱している」が前提なら、過熱が崩れていないのに逆行したら切る、というように前提条件で撤退ルールを決めます。
レバレッジは原則低く、清算を前提にしない
アンロックのようなイベントは、思惑で瞬間的に大きく振れます。清算ラインが近いポジションは、それだけで負け筋になります。レバレッジを下げ、証拠金に余裕を持たせます。
分割と時間分散:当日一点張りを避ける
解除当日だけに賭けると、ノイズに巻き込まれます。回避なら早めに縮小、ショートなら数日に分けて、逆張りなら解除後に段階的に、という時間分散が効きます。
よくある誤解と落とし穴
「解除量が大きい=必ず下がる」ではない
解除量が大きくても、買い需要が強ければ吸収されます。逆に解除量が小さくても、流動性が薄ければ崩れます。見るべきは「出来高で割った比率」です。
「織り込み済み」を言い訳にしない
織り込みは結果論になりやすいです。織り込みを判断するなら、価格が事前に下げているか、建玉が偏っているか、解除後に売りが継続するか、など“観測可能な指標”で判定します。
カレンダー情報の取り違え
アンロック日時がUTC基準だったり、複数の区分(チーム、投資家、財団)で別日だったりします。分析する前に、日時・対象・解除量の定義を揃えます。
アンロックを「投資判断」に落とす:長期保有の視点
短期トレードだけでなく、長期保有でもアンロックは重要です。長期では、解除が終わるまで上値が重い「供給の天井」が発生しやすいからです。長期で狙うなら、次の考え方が合理的です。
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供給が軽い期間に無理に買わない:初期は価格が派手に動き、評価が難しいです。
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解除がピークアウトする時期を把握する:供給が落ち着くと、評価が需給からファンダメンタルへ戻りやすいです。
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同テーマ内で相対比較する:L1、L2、AI、DeFiなど、同セクターの中で供給圧力が軽い銘柄を優先します。
最後に:チェックリスト(これだけは固定化)
アンロック分析は、考え方がシンプルでも、毎回ゼロからやるとブレます。最後に、判断を固定化するチェックリストを提示します。
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解除量(トークン数とUSD換算)を把握したか
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解除量÷出来高(7日平均)でインパクト比を計算したか
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解除先の内訳(VC/チーム/財団/コミュニティ)を確認したか
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リニアかクリフか、初回大型解除はいつか
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流通量とFDVのギャップを見たか
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板の薄さ、主要取引所の偏りを確認したか
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Fundingと建玉の偏り(ロング/ショート過多)を見たか
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大口の取引所送金が継続しているか(前兆)を見たか
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戦略はA回避/Bショート/C逆張りのどれか、条件を明文化したか
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ロットを落とし、撤退ルール(シナリオ破綻)を決めたか
このチェックを通したうえで「やらない」を選べるようになると、アンロックは怖いイベントではなく、管理可能なリスクになります。相場は常に不確実ですが、事前に見える不確実性は、ルール化して味方にできます。
補足:アンロックを使った“上級者のヘッジ”の考え方(参考)
ここから先は、初心者が無理に実行する必要はありません。ただ、相場で何が起きているかを理解すると、ニュースに振り回されにくくなります。
現物ロング+先物ショートで「供給イベントだけを相殺」する
長期でそのプロジェクトを保有したいが、短期のアンロックだけは避けたい、という状況があります。その場合、現物を保有したまま、イベント前後だけ先物でショートを入れて値下がり分を相殺する手法が取られます。重要なのは、これは「利益を狙う」より「損失を抑える」ための運用だという点です。
ただし、Fundingが高い局面でショートを持つと、支払い(または受け取り)が発生します。ヘッジ期間が長くなるほどコストが積み上がり、結果としてヘッジの意味が薄れることがあります。ヘッジは短期に限定し、コストが想定内か必ず計算します。
OTC・分散売却の影響:市場で見える売りと見えない売り
大口が解除分を処理するとき、必ずしも取引所の板に成行でぶつけるとは限りません。OTCで相対取引したり、マーケットメイカーに渡して時間分散で売却したりすることもあります。この場合、市場で見える「大きな売り」は出ないのに、価格がじわじわ重くなる現象が起きます。
この“じわ重”を見抜くには、短時間の急落より、数日〜数週間の上値の重さ、反発の弱さ、出来高の萎みを観察する方が有効です。初心者は「派手な下げがない=安全」と判断しがちですが、供給圧力は静かに効くこともあります。
アンロックと“ストーリー相場”の相性
AI、L2、RWAなど、テーマが強い局面では資金が流入しやすく、アンロックの悪材料が相殺されることがあります。逆にテーマが冷えると、同じ解除量でも一気に効きます。つまり、アンロックは単独要因ではなく、テーマの資金循環の中で評価すべきです。
実務的には「テーマが強い=解除を無視して良い」ではなく、テーマが強いほど、解除で下がらない銘柄が勝者という見方が有効です。下がらない銘柄は需給を吸収できている可能性が高く、相対的に強いからです。
まとめ:アンロックは“恐れる”のではなく“数えて扱う”
トークンアンロックは、暗号資産特有の供給イベントです。感覚で語ると極端に走りますが、解除額、出来高、流動性、受け取り主体、デリバティブの偏りという順番で分解すれば、十分にコントロール可能なリスクになります。まずはインパクト比(解除額/出来高)と、売却割合のレンジ推定だけでも、判断精度は大きく上がります。
最後にもう一度だけ強調します。アンロック局面で最も強い戦略は「勝負しない判断をルール化すること」です。勝負するなら、条件を厳格にし、数量を小さくし、撤退を早くする。この3点が守れれば、アンロックは“事故”ではなく“イベント”になります。


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