セクターETFのローテーションは、「強いセクターに乗り続け、弱いセクターから降りる」ことを、マクロ局面と相対強度でルール化する手法です。個別株の当たり外れを減らしつつ、市場全体の波(景気・金利・インフレ・信用)に合わせてポートフォリオを回転させます。
ただし、なんとなく「景気が良いから景気敏感」「金利が上がるから金融」といった雑な運用では、ローテの遅れやニュース追随で負けやすいのも事実です。この記事では、初心者でも再現できるように、判断を3層に分解して、売買まで落とし込む設計図を提示します。
- セクターETFローテーションが効く理由:個別株よりも「マクロβ」を取りにいく
- 失敗パターンを先に潰す:ローテーションで負ける3つの典型
- 本記事のコア:判断を「3レイヤー」に分ける
- レイヤーA:景気(成長)を測る実践指標
- レイヤーB:流動性(金融条件)を測る実践指標
- レイヤーC:リスクセンチメントで“守りスイッチ”を入れる
- ETFの選び方:国内ETFと海外ETFで考え方が違う
- ルール設計:月1回の“スコアリング”で上位セクターだけ持つ
- 具体例1:利下げ前後でのローテーション(米国イメージ)
- 具体例2:再インフレ局面でのローテーション(資源高+金利高)
- 具体例3:急落局面(クレジット悪化)の“やってはいけない”
- リバランス頻度:月1回が基本、例外は“危険信号”だけ
- コストと税の現実:トータルで勝てる設計にする
- 実行チェックリスト:次の月初にやること
- リスク管理の実装:ストップより“ポジション設計”が効く
- 一段上の精度を出す工夫:同じローテでも“中身”で差がつく
- 初心者でもできる簡易バックテスト:まずは“検証の型”を持つ
- 日本の投資家向け注意点:為替と取引時間のズレを織り込む
- まとめ:あなた用に落とす最短ルール
- まとめ:ローテーションは“予言”ではなく“規律”
セクターETFローテーションが効く理由:個別株よりも「マクロβ」を取りにいく
株価は最終的に企業利益に収れんしますが、短中期では「割引率(=金利)」「期待成長率」「信用環境」による評価の揺れが支配的です。セクターはこの揺れに対する感応度(因子エクスポージャー)が異なるため、同じ株式でも上がりやすい順番が入れ替わります。
例として、米国市場を想定すると、以下のような傾向が繰り返し観測されます(必ずしも毎回同じではありません)。
・ディスインフレ+利下げ:長期金利低下でグロース(情報技術、通信、一般消費財)に追い風
・再インフレ+利上げ:資源(エネルギー、素材)や金融、バリューに相対的追い風
・景気後退懸念:生活必需品、ヘルスケア、公益などディフェンシブが相対的に強くなりやすい
失敗パターンを先に潰す:ローテーションで負ける3つの典型
1) ニュースで後追いする(ローテが終わってから乗る)
「AIブーム」「原油高」「防衛需要」など、テーマが広く報道される頃には、先行資金はすでにセクターETFでポジションを作り終えています。ここで重要なのは、ニュースではなく価格と金利と信用で先に異変を捉えることです。
2) 1つの指標で決め打ちする(単因子で崩れる)
例えば「PMIが上がったから景気敏感」と単純化すると、同じPMI上昇でも「インフレ再燃で金融引き締めが強まる」局面では株式の評価が下がり、景気敏感が伸びないことがあります。ローテーションは景気(成長)と流動性(金融条件)を同時に見る必要があります。
3) “回転しすぎ”で手数が増え、コストと税で負ける
頻繁な乗り換えは売買コストだけでなく、課税タイミングも早めます。ローテーションは「毎日いじる」のではなく、月1回または四半期1回の定点観測に落として、ルールに合致したときだけ動かす方が実務的です。
本記事のコア:判断を「3レイヤー」に分ける
ここからがオリジナルの枠組みです。セクター選択を、次の3レイヤーに分けます。
レイヤーA:景気(成長)…需要の強弱。利益サイクルの方向。
レイヤーB:流動性(金融条件)…金利・クレジット・ドル。評価(PER)の上下。
レイヤーC:リスクセンチメント…ボラ急騰や急落局面の“守りスイッチ”。
この3つは役割が違います。AとBで「どのセクターが有利か」を決め、Cで「攻めていいか/守るべきか」を決めます。Cが悪いときは、AとBが良くてもポジションを縮めます。これが“生存”の設計です。
レイヤーA:景気(成長)を測る実践指標
PMI・ISMは「方向」だけ取る
製造業PMI(またはISM)は、50を境に景気拡大・縮小の目安と言われますが、実務では「50を超えた/下回った」で売買すると遅れます。使い方は3か月の方向だけで十分です。上昇基調なら景気敏感寄り、下降基調ならディフェンシブ寄り、という粗い分類でOKです。
雇用統計は“強すぎる”と逆効果になる
雇用が強い=株に良い、とは限りません。雇用が強すぎると賃金インフレが再燃し、利下げ期待が剥落しやすいからです。ローテーションでは「景気の強さ」ではなく、「金融政策が緩む余地が増えたか」を合わせて評価します。ここでレイヤーBが効きます。
レイヤーB:流動性(金融条件)を測る実践指標
最重要は“実質金利”と“クレジットスプレッド”
セクターの入れ替わりを最も早く伝えるのは、株よりも金利と信用です。難しく考えず、次の2つをウォッチします。
・長期実質金利の方向:上がるほどグロースは不利になりやすい(割引率上昇)。
・信用スプレッドの方向:広がるほどリスク資産全般が脆くなりやすい(資金調達の悪化)。
ドル高は“海外売上比率”と“資源価格”に効く
ドル高は、新興国やコモディティに逆風になりやすい一方、米国国内比率が高いセクターには相対的に中立です。資源(エネルギー、素材)はドル建て価格の影響を受けやすいため、ドル高局面では上値が重くなるケースがあります。ローテーションでは「資源が強いのに原油が伸びない」「ドル高で新興国が崩れる」など、矛盾が出たらポジションを軽くします。
レイヤーC:リスクセンチメントで“守りスイッチ”を入れる
シンプルに「ボラ急騰」と「急落」で縮小
ここは難しい指標は不要です。やることは一つ。「相場が壊れそうなときに、勝つことより先に負けを小さくする」。具体的には、
・株価指数が短期間で大きく下落した
・恐怖指数(VIX等)が急騰した
・クレジットスプレッドが急拡大した
このどれかが起きたら、セクターの当て物をやめて、現金比率を上げる、またはディフェンシブに寄せるのが合理的です。ローテーションは「当て続けるゲーム」ではなく、「生き残って回転を続けるゲーム」です。
ETFの選び方:国内ETFと海外ETFで考え方が違う
米国(例:SPDR Sector、iShares)
米国はセクターETFの流動性が高く、スプレッドが小さいことが多いので、ローテーションに向きます。テック、ヘルスケア、金融、資本財、一般消費財、生活必需品、公益、エネルギー、素材など、基本の11セクターを押さえれば十分です。
日本(TOPIX-17、テーマETF)
日本はセクターETFの選択肢が米国より少ない一方、テーマETFは多様です。ただしテーマETFは指数設計や組入れの偏りが大きく、ローテーションとしては「セクター」というより「テーマ賭け」になりがちです。初心者はまず広いセクターから入り、テーマはサテライト(少額)に留める方が事故が減ります。
ルール設計:月1回の“スコアリング”で上位セクターだけ持つ
ここからは手順を定型化します。ローテーションの意思決定を「会議」ではなく「計算」にします。
ステップ1:候補セクターを絞る(最初は6〜11でOK)
最初から全部のセクターを触ると管理が崩れます。米国なら11セクターを候補にしても良いですが、初心者は「景気敏感(金融・資本財・一般消費財・エネルギー)」と「ディフェンシブ(ヘルスケア・生活必需品・公益)」の7つ程度から始めると、判断がブレません。
ステップ2:相対強度(レラティブ・ストレングス)で順位付け
“相対強度”は、対象セクターETF ÷ 市場全体(例:S&P500連動ETF)の比率が上昇しているかで見ます。月足で、直近3か月が上向きなら加点、横ばいなら据え置き、下向きなら減点、というだけで十分です。ここで「強いセクターに寄せる」基礎ができます。
ステップ3:レイヤーA/Bで“局面フィルター”をかける
相対強度が強くても、局面が逆なら伸びが止まります。例えば、実質金利が急上昇しているのにテック比率を上げるのは無理筋になりやすい。ここでフィルターを入れます。
・実質金利が上向きなら:テック比率を上限設定(例:最大30%)
・クレジットが悪化なら:ディフェンシブを優先、持株数を減らす
・PMI/景気が上向きなら:景気敏感を優先、下向きならディフェンシブを優先
ステップ4:保有数と配分を固定し、迷いを減らす
初心者は「上位2〜3セクター+コア(市場全体)」が扱いやすいです。例として、コア60%(広い株式ETF)+サテライト40%(上位2セクターを各20%)のように、最初から比率を決めます。これで、当て物の比率調整で迷う時間が消えます。
具体例1:利下げ前後でのローテーション(米国イメージ)
典型例として、「インフレ沈静化→利下げが視野→景気は減速気味」の局面を考えます。
レイヤーA(景気):PMIは横ばい〜弱含み。景気敏感は強くない。
レイヤーB(流動性):実質金利は低下傾向。グロースに追い風。
レイヤーC(センチメント):信用が落ち着いているなら攻めやすい。
この場合、候補は「情報技術」「通信」「ヘルスケア」などになりやすい一方、景気が弱いので「一般消費財」への過度な期待は危険です。そこで、上位2セクターがテックとヘルスケアなら素直に採用し、センチメントが悪化したらヘルスケア比率を上げて守りを厚くします。“利下げ=全部買い”ではなく、割引率と利益サイクルを分けるのがポイントです。
具体例2:再インフレ局面でのローテーション(資源高+金利高)
次に、「原油高や供給制約で再インフレ、長期金利が上がり、利下げ期待が後退する」局面です。
レイヤーA(景気):名目は強く見えるが、実質購買力は圧迫されやすい。
レイヤーB(流動性):実質金利が上昇し、グロースの評価が縮む。
レイヤーC(センチメント):急騰・急落が増える。
このとき、エネルギーや素材が相対強度で上位に来やすいですが、同時に「ボラが高い」「政策が不確実」という罠があります。ここでの工夫は、資源セクターを“単独で最大化しない”ことです。金融(利ざや改善)と組み合わせ、資源は上限を設ける。さらにセンチメントが悪い場合は、資源を持つ代わりに公益や生活必需品を同居させ、ポートフォリオ全体の変動を落とします。
具体例3:急落局面(クレジット悪化)の“やってはいけない”
市場が急落し、クレジットスプレッドが拡大している局面では、「底値を当てる」より「破壊的な下落を避ける」方が期待値が高いです。ここでやってはいけないのは、相対強度が強かったセクターを“そのまま”保有し続けることです。相対強度はトレンドが壊れると急に機能しません。
ルールとして、センチメント警戒が点灯したら、サテライト比率を40%→20%に落とす、またはディフェンシブ2つだけに絞る、と決めておきます。これだけで致命傷の確率が下がります。
リバランス頻度:月1回が基本、例外は“危険信号”だけ
ローテーションは、基本は月1回の定点観測で十分です。なぜなら、セクターの優位性は週単位でコロコロ変わらないからです。例外は、レイヤーCが悪化したときだけ。ここは週次で見てもよいですが、やることは「縮小」だけにします。拡大は月次、縮小は随時。これがシンプルで強い運用です。
コストと税の現実:トータルで勝てる設計にする
初心者が見落としがちなのは、ローテーションの勝敗は「当たり外れ」ではなく、コスト差で決まることが多い点です。スプレッドが広いETF、信託報酬が高いETF、流動性が薄いETFを頻繁に回すと、それだけで期待値が削られます。
運用ルールとして、売買回数を増やさない、保有銘柄数を増やしすぎない、高コストETFを避ける、この3つを最初から制約として組み込みます。勝ち筋は「シンプルに続けられる」側にあります。
実行チェックリスト:次の月初にやること
最後に、実行手順を文章でまとめます。
まず、月初に候補セクターETFの相対強度(セクターETF ÷ 市場全体ETF)を見て、3か月上向きのものを上位から並べます。次に、実質金利とクレジットの方向を確認し、グロース上限やディフェンシブ優先などのフィルターを当てます。最後に、コア(市場全体)とサテライト(上位2〜3セクター)の比率を固定ルールで決め、売買は月1回だけ実行します。センチメントが悪化したときだけ、サテライトを縮小して守りに切り替えます。
リスク管理の実装:ストップより“ポジション設計”が効く
セクターETFは個別株より分散されますが、下落局面では普通に大きく下がります。初心者がやりがちな「根拠のない損切り幅(-3%で全部切る等)」は、ノイズで往復ビンタになりやすい。代わりに、損切りではなくポジション設計でリスクを管理します。
具体的には、サテライト(セクターETF)は最大40%まで、危険信号で20%まで縮小、残りはコアと現金に置く。これだけで、最悪局面での下振れが構造的に抑えられます。どうしてもストップを使うなら、日次ではなく週次で、セクターETFがコアETFに対して明確に弱くなった(相対強度が下向きに転じた)ときに乗り換える、という“戦略の前提が崩れた時だけ”に限定すると、余計な売買が減ります。
一段上の精度を出す工夫:同じローテでも“中身”で差がつく
キャップ加重か、等金額(イコールウェイト)か
同じセクターETFでも、時価総額加重だと上位数社の影響が極端に大きくなります。例えば米国テックは巨大企業の比率が高く、テックETFを買っているつもりが「数社集中」を抱える形になります。ローテーションの目的が“セクターの波”を取りにいくことなら、可能なら等金額型(Equal Weight)も候補に入ります。等金額型はリバランスで自然に「上がりすぎた銘柄を削り、出遅れを買い増す」構造があるため、長期では分散効果が出やすい一方、短期のトレンド局面ではキャップ加重に負けることもあります。どちらが正解ではなく、あなたが取りたいリターンの源泉に合わせます。
バリュエーションの“罠”を避ける(強い=割高とは限らない)
相対強度が強いセクターは、確かに資金が集まっていますが、それが割高化による“逆回転”の起点になることもあります。初心者がやるべき現実的な対策は、難しい理論ではなく、上限ルールです。例えば、上位セクターが同じものに偏り続ける場合でも、単一セクターは最大30〜40%まで、と上限を決めます。これだけで「一撃で崩れる集中」を避けられます。
ディフェンシブを“保険”として常時少し持つ
ローテーションは攻めの色が強いので、相場が壊れた時にパフォーマンスが急激に悪化しやすい。そこで、生活必需品・ヘルスケア・公益のようなディフェンシブを、たとえ局面が良くても10〜20%は残す、という設計が効きます。これを“保険プレミアム”と割り切ることで、いざという時の判断が鈍りません。
初心者でもできる簡易バックテスト:まずは“検証の型”を持つ
ローテーション戦略は、検証しないと「たまたま当たった/外れた」に振り回されます。大掛かりなプログラミングが不要な最初の検証として、次の型で十分です。
まず月次で、コア(市場全体ETF)と候補セクターETFのチャートを同じ期間で見ます。次に「セクターETF ÷ 市場全体ETF」の比率チャートを表示し、上向きが続く期間に乗れていたかを確認します。最後に、センチメント悪化(急落)の局面で、サテライト比率を落としていれば最大ドローダウンがどれだけ改善したかを見ます。ここで大事なのは、勝率ではなく大負けを減らせているかです。
検証の結論は、ルールの改良にだけ使います。検証して「未来を当てる」方向に行くと、過剰最適化になります。ローテーションは“当てる”より“崩れない”が優先です。
日本の投資家向け注意点:為替と取引時間のズレを織り込む
米国セクターETFを日本から取引する場合、為替(ドル円)がパフォーマンスに大きく効きます。ローテーションが当たっても、円高で相殺されることがあり得ます。ここでの現実的対応は2つです。
1つ目は、そもそもコア部分を円建て資産(日本株・国内債券・現金)と組み合わせ、ドル建てセクターETFを“外貨サテライト”として扱うこと。2つ目は、為替ヘッジ付き商品が利用できる場合は、センチメントが悪い局面だけヘッジ比率を上げるなど、守りの局面でだけ使うことです。常時ヘッジはコストが積み上がりやすいので、使い所を限定した方が管理が簡単です。
まとめ:あなた用に落とす最短ルール
最後に、この記事の内容を“最短の運用ルール”に圧縮します。月初に相対強度で上位セクターを2つ選ぶ。実質金利が上向きならグロース上限をかけ、クレジットが悪化ならディフェンシブ優先に切り替える。サテライト比率は40%を基本、危険信号が出たら20%に落とす。これだけです。ルールが守れるサイズで始め、回しながら微調整してください。
まとめ:ローテーションは“予言”ではなく“規律”
セクターETFローテーションの本質は、未来を言い当てることではなく、局面に応じて自分の行動を固定することです。景気・流動性・センチメントの3レイヤーで判断し、月1回のスコアリングに落とし込めば、初心者でも「思いつき売買」から脱却できます。最初は小さく始め、ルールを守れる形に整えるほど、長期的に安定しやすくなります。


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