NFT(Non-Fungible Token)は2021年前後の急騰と急落で、「もう終わった」「詐欺の温床」と一括りにされがちです。しかし投資判断として重要なのは、市場が消滅したかではなく、どの用途・どの流動性帯が縮小し、どこが生き残っているかを分解して把握することです。株でもテーマ株ブームが終わった後に本命銘柄だけが残るように、NFTも“バブル商品”から“デジタル権利のインフラ”へと局面が移りました。
この記事では、NFT市場を「アート/コレクティブル」「ゲーム/UGC」「実用NFT(会員権・チケット・証明書)」「金融化(レンディング/担保)」に分け、終わった領域と残る領域を定量・定性の両面から整理します。さらに、初心者でも実行できる「参入前チェック」「保有中の撤退ライン」「損失を小さくする売却手順」を、具体例つきで解説します。
- NFT市場は「終わった」のか:結論を先に
- なぜ「終わった」と感じるのか:3つの構造変化
- NFTを4つに分解する:用途別に“生存率”が違う
- 「終わったNFT」と「残るNFT」を見分ける実務指標
- 初心者がハマる典型的な失敗パターン
- 具体例で理解する:3つのNFTケーススタディ
- 個人投資家向け:NFTで“勝ちに行く”より先にやるべき運用ルール
- 「終わったかどうか」を自分の投資判断に落とす:3段階フレーム
- よくある質問
- まとめ:NFT市場は“終わった”のではなく、“甘い相場”が終わった
- 実践手順:初めてNFTを買う前にやること(具体的チェックリスト)
- 参入の“優先度”を決める:初心者向けの現実的ポートフォリオ発想
- 最後に:NFTは「好き」と「投資」を分けた瞬間に強くなる
NFT市場は「終わった」のか:結論を先に
結論はシンプルです。
- 「全体が終わった」わけではない。ただし、過去のような“誰でも買えば上がる相場”は終わった。
- 今は「出来高の薄いコレクティブル」に資金が集中しにくい一方、用途が明確なNFT(会員権・チケット・ゲーム内資産等)は粛々と伸びる。
- 投資としての難易度は上がった。勝ち筋は「情報の早さ」ではなく、流動性管理・需給分析・撤退ライン設計にある。
つまり、NFTは“ブーム”としては一巡しましたが、“市場”としては残っています。個人投資家の論点は、伸びる領域に小さく張り、伸びない領域は触らないことです。
なぜ「終わった」と感じるのか:3つの構造変化
1) 流動性が消えた(板が薄くなった)
NFTの価格は、株式のようにマーケットメイクが厚くありません。買い手がいないと価格は成立しないため、バブル期に比べて参加者が減ると「フロア価格(最安値)」が機能しにくくなります。価格が下がったというより、売りたい時に売れないという体感が「終わった」に直結します。
2) “ストーリー相場”が崩れた(期待の前借りが剥落)
バブル期は「このプロジェクトは次の〇〇だ」「メタバースが来る」など、将来期待が先に価格へ反映されました。しかし期待が剥落すると、残るのはキャッシュフロー(または実需)です。NFTは配当を生まないものが多く、実需が弱いコレクティブルほど調整が深くなります。
3) 供給過多(誰でも発行できる)
NFTは技術的には誰でも発行可能です。供給が無限に近い商品は、希少性を維持するために「ブランド」「コミュニティ」「利用価値」が必要です。これが弱いと、発行直後だけ盛り上がっても二次流通で沈みます。
NFTを4つに分解する:用途別に“生存率”が違う
A. アート/コレクティブル(PFP等)
最も“終わった感”が出やすい領域です。理由は、価格の根拠が「文化」「流行」「共同体」に依存し、マクロ環境(リスクオン/オフ)と参加者数で需給が激しく動くからです。ここで勝つには、アート市場やブランド形成の目利きが必要で、初心者が参入すると「買った瞬間に出口がない」状態になりがちです。
投資としてのポイントは、価格ではなく「出来高」「保有者分布」「リスト率(売り出し比率)」です。フロアが高くても、出来高が細れば実質的に売れません。
B. ゲーム/UGC(ゲーム内資産、スキン等)
「ゲームが面白い」ことが前提条件です。ゲームが回れば、NFTは“アイテムの所有証明”として機能します。逆に言えば、ゲームが過疎れば即死です。株で言えば、売上が立つ事業があるかどうか。
ここは短期的な投機よりも、ユーザー数(DAU/MAU)と課金動機が重要です。ユーザーが増えているゲームは、二次流通が活性化しやすい一方、トークン報酬だけでユーザーを集める設計は長続きしません。
C. 実用NFT(会員権・チケット・証明書)
「終わった」とは逆方向の領域です。なぜなら価値の源泉が“投機”ではなく、アクセス権・優待・入場権・証明にあるからです。例えば、イベントのチケット、限定コミュニティへの入会、店舗の会員証、修了証明などは、NFTである必要が「転売の透明性」「偽造防止」「譲渡の容易さ」と結びつきます。
投資というより、“値上がり益”ではなく“利用価値”の回収で損益が決まるため、初心者でも判断しやすいのが強みです。
D. 金融化(NFTレンディング、担保、分割所有)
最もリスクが高い領域です。担保評価が不安定で、強制清算やオラクル/契約バグのリスクがあるため、初心者が手を出すべきではありません。ここは「利回り」に見えて、実態は流動性リスクと信用リスクの塊です。
「終わったNFT」と「残るNFT」を見分ける実務指標
指標1:出来高(Volume)と取引件数(Sales)の“下げ止まり”
価格は操作されやすいですが、出来高と件数は相対的に嘘をつきにくいです。最低限、以下を確認します。
- 直近30日で出来高が右肩下がりでないか
- 1日の取引件数が“数件”まで落ちていないか(板が死んでいる)
- 特定の少数取引(疑似売買)で出来高が作られていないか
指標2:保有者分布(Whale比率)
上位数名が大量保有しているNFTは、売り浴びせで相場が壊れます。株で言えば大株主のロックアップ解除のようなものです。以下が目安です。
- 上位1〜5アドレスの保有比率が極端に高い → 需給が脆い
- 保有者数が増えているか → 新規資金が入っている可能性
指標3:リスト率(Listed / Supply)
全体のうち何%が売りに出されているか。高すぎると「売りたい人が多い」=弱いです。逆に低すぎても流動性不足で売れません。“適度に回転している”状態が重要です。
指標4:ロイヤリティとマーケット構造
NFTはマーケットの仕様変更で経済圏が壊れることがあります。ロイヤリティ(制作者への手数料)が維持されないと、プロジェクト運営が干上がるケースもあります。マーケット依存度と、運営が“売上以外の収益”を持つかを確認します。
指標5:ユーティリティの“継続性”
「今だけの特典」か、「継続して利用する理由がある」か。例えば会員権型なら、毎月のイベント、限定情報、優待などが継続提供される仕組みが必要です。
初心者がハマる典型的な失敗パターン
失敗1:フロア価格だけ見て“割安”と判断する
NFTのフロアは株価のような基準になりません。フロアは「最安の売り出し」ですが、実際に約定する価格ではないことが多いです。出来高が薄いと、フロアは“飾り”になります。割安に見えても出口がありません。
失敗2:コミュニティの熱量を“価格上昇”と混同する
DiscordやXが盛り上がっていても、買い手が増えるとは限りません。コミュニティの熱は大事ですが、投資判断では「新規流入」と「二次流通の回転」を見ます。
失敗3:ガス代とスリッページを軽視する
売買コストが意外と効きます。特に小額投資では、ガス代やブリッジ、取引手数料で期待値が削れます。“薄利で回す”ほど不利になりがちです。
失敗4:保管とセキュリティを甘く見る
NFTは盗難・フィッシングが現実的な損失要因です。銘柄選定より先に、ウォレット運用の基礎(ハードウェアウォレット、別PC/別ブラウザ、署名内容の確認、承認の定期解除)を固めるべきです。
具体例で理解する:3つのNFTケーススタディ
ケース1:PFPコレクションを“底値拾い”したつもりが売れない
状況:フロアが過去高値から90%下落。SNSでは「底値」と話題。あなたは1点購入。
結果:出来高が月数件。あなたが売りに出しても、買い手がいない。フロアはさらに下がる。
回避策:価格ではなく、直近の取引件数と新規保有者の増加を確認。月数件なら「投資」ではなく「趣味」と割り切る。
ケース2:会員権NFTを購入し、値上がりしなくても得をする
状況:月1回の限定イベント参加、提携店舗の割引、限定情報配信が付くNFT会員権。あなたは年に複数回そのサービスを使う。
結果:転売益はなくても、優待の利用価値で実質回収。さらに会員が増えれば価格が上がる可能性もある。
回避策:ここは“投機”ではなく、利用価値ベースの損益計算(年間で何回使うか、割引はいくらか)を事前に行う。
ケース3:ゲームNFT:ユーザー増で回転が生まれるが、運営方針変更で崩れる
状況:人気ゲームのアイテムNFT。ユーザー増で価格も上昇。あなたは複数保有。
結果:運営がバランス調整でアイテム価値が低下。価格が急落。
回避策:ゲームNFTは株の“規制リスク”に似ています。一点集中を避け、保有比率を下げる。また、運営の収益モデル(課金・手数料)が健全かを確認。
個人投資家向け:NFTで“勝ちに行く”より先にやるべき運用ルール
ルール1:投資額を「消えても生活に影響しない額」に固定する
NFTは価格変動よりも「換金できない」リスクが大きい資産です。生活防衛資金と分離し、最大損失を先に決めます。目安は、総金融資産のごく一部(数%以下)から始めるのが無難です。
ルール2:撤退ラインは“価格”ではなく“流動性”で決める
株の損切りは価格で決めがちですが、NFTは「売れるかどうか」が生命線です。例えば、以下のように決めます。
- 直近30日出来高が一定以下に落ちたら撤退
- 取引件数が週に数件以下なら撤退
- リスト率が急上昇し、売り圧が明確なら撤退
ルール3:購入前に“売却シナリオ”を2本作る
シナリオA:想定通り上がったらどこで利確するか(分割利確の基準)
シナリオB:想定と違ったら何を根拠に撤退するか(流動性・運営・ハック等)
これを紙1枚に書けないNFTは、買わない方が良いです。
ルール4:ウォレット運用を「業務手順」にする
投資以前に、資産保護が最優先です。最低限のチェックリストは以下です。
- 取引用ウォレットと保管用ウォレットを分離
- 署名要求(Sign)と承認(Approve)の違いを理解
- 不要な承認は定期的に解除
- 怪しいリンクは踏まない、DMは基本無視
「終わったかどうか」を自分の投資判断に落とす:3段階フレーム
ステップ1:市場全体ではなく“対象カテゴリ”を決める
あなたが狙うのは、コレクティブルなのか、会員権なのか、ゲームなのか。カテゴリが違えば評価軸が違います。まずカテゴリを固定します。
ステップ2:定量(流動性)→定性(ユーティリティ)の順でスクリーニング
最初に出来高・件数・保有者分布で足切りし、その後に「なぜ買われるのか」を確認します。順番を逆にすると“好き”が先行して損します。
ステップ3:ポジションサイズと撤退ラインを先に確定
NFTは「買い方」より「売り方」で結果が決まります。購入ボタンを押す前に、撤退条件を決めます。
よくある質問
Q1. NFTは今から参入しても遅い?
遅いかどうかは“価格水準”ではなく、あなたが狙う用途がこれから普及する領域かで決まります。会員権やチケット、証明書のように、NFTがインフラとして使われる領域は今後も拡大余地があります。一方、PFPの一攫千金狙いは難易度が高いです。
Q2. 結局、NFTで儲かるのは一部の人だけ?
はい。しかも「情報が早い人」より「流動性を管理できる人」の比重が上がりました。勝ちやすいのは、(1)利用価値で回収できるものを買う、(2)薄い板に大金を入れない、(3)撤退基準を守る、の3点を徹底できる人です。
Q3. NFTを買うなら何を見ればいい?
最低限、出来高・取引件数・保有者分布・リスト率・ユーティリティの継続性です。これが揃わないNFTは、話題でも触らないのが合理的です。
まとめ:NFT市場は“終わった”のではなく、“甘い相場”が終わった
NFT市場は、バブル期の幻想が剥がれて「実需・流動性・運用ルール」が問われる市場になりました。個人投資家が取れる現実的な戦略は次の通りです。
- コレクティブルは“趣味”寄り。投資で入るなら流動性を最優先
- 会員権・チケット等の実用NFTは、利用価値ベースで損益計算できる
- ゲームNFTはユーザー数と運営方針が命。一点集中を避ける
- 撤退ラインは価格ではなく「売れるか(流動性)」で決める
「終わったか?」という問いに対しては、市場全体の感想ではなく、自分の資金量と運用ルールに照らして“触る領域を限定する”のが、最も実務的な答えです。
実践手順:初めてNFTを買う前にやること(具体的チェックリスト)
1) 取引所→ウォレット→マーケットまでの“資金導線”を作る
NFTは「どこで買うか」以前に、資金がどのネットワーク(チェーン)にあるかで手数料とリスクが変わります。初心者は、まず以下の導線を一度小額で通して“詰まり”がないか確認してください。
- 国内取引所で暗号資産を購入(送金可能な銘柄を選ぶ)
- 外部ウォレットに送金(送金テストは必ず少額で)
- 対象チェーンへブリッジが必要なら、手順と手数料を事前に把握
- マーケット(例:主要NFTマーケット)に接続して閲覧・購入まで確認
ここで躓く人が多いのは「ネットワークの選択ミス」「アドレスのコピー間違い」「ブリッジ先の誤り」です。一度でも誤送金すると基本的に戻りません。必ずテスト送金を挟みます。
2) “承認(Approve)”の管理を最初から設計する
NFT売買では、トークンやNFTの移転許可(承認)を与える場面があります。承認を出しっぱなしにすると、悪意あるコントラクトに資産を抜かれるリスクが上がります。対策は次の通りです。
- 取引頻度が低いなら、取引後に承認を解除する
- 保管用ウォレットは承認を極力出さない
- “署名内容が読めない”画面で安易にOKしない
3) 税務・記録の癖をつける(後で詰む人が多い)
NFTの損益計算は、売買だけでなく、交換(スワップ)やブリッジ、ガス代が絡むと複雑化します。初心者ほど、「買った日」「買値(暗号資産建て/円換算)」「ガス代」「売った日」「売値」を、取引の都度メモしておくのが強いです。後からチェーン上の履歴を追うのは、想像以上に手間です。
参入の“優先度”を決める:初心者向けの現実的ポートフォリオ発想
NFTは値動きが大きいので、投資全体の中ではサテライト(衛星)枠に置くのが合理的です。例えば、以下のように役割分担を作ると判断がブレにくくなります。
- コア:インデックス/債券等の長期資産(生活防衛の中心)
- サテライト:個別株/テーマ投資(学習と収益機会)
- ハイリスク枠:暗号資産/NFT(小額で実験、撤退を早く)
NFTを“資産形成の主役”に置くと、損失の痛みで判断が歪みます。小さく始め、ルールを守れる範囲で運用するのが正攻法です。
最後に:NFTは「好き」と「投資」を分けた瞬間に強くなる
NFTは文化・コミュニティ要素が強く、好きなプロジェクトを応援したくなるのが自然です。ただし投資として扱うなら、好き=買い、ではありません。好きは「支出」、投資は「期待値と撤退ライン」で切り分ける。この線引きができる人だけが、バブル後のNFT市場で生き残れます。


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