投資で負けやすい人の共通点は「ニュースや雰囲気で銘柄を選び、数字で検証しない」ことです。逆に言えば、最初に“見る数字”を固定すると、判断の質が一気に上がります。
ただし指標は万能ではありません。単体で結論を出すと誤判定が増えます。この記事では、投資家が最初に覚えるべき指標を5つに絞り、どう使うか、どこで間違えるか、組み合わせる順序まで、具体例込みで整理します。
- なぜ「指標は5つで十分」なのか
- 指標1:営業利益率(稼ぐ力のコア)
- 指標2:ROE(伸びる力と資本効率)
- 指標3:フリーキャッシュフロー(利益の質の最終チェック)
- 指標4:自己資本比率(潰れない力の最低ライン)
- 指標5:PER(割高・割安の“期待値”を読む)
- 5指標を「順番」で使う:スクリーニングの実務フロー
- ケーススタディ:同じ「優良企業」に見えても結果が変わる例
- ケース1:景気後退局面で残る企業
- ケース2:成長局面で伸びる企業
- 初心者がやりがちな“指標の誤読”を潰すチェックリスト
- おすすめの情報の取り方:どこを見れば早いか
- この5指標で“勝ちやすくなる”具体的な運用例
- よくある質問
- まとめ:数字は“迷いを減らす道具”
- 付録:手元のメモだけで再現できる「1銘柄1分」テンプレ
- もう一段だけ精度を上げたい人へ:次に足すなら何か
なぜ「指標は5つで十分」なのか
初心者が陥る罠は、指標を増やして安心した気になることです。売上成長率、利益率、キャッシュフロー、株価バリュエーション、財務安全性…全部大事ですが、最初から全てを追うと「覚える→忘れる→結局雰囲気」のループになります。
まずは、企業の状態を大きく5つに分解します。
- 稼ぐ力(本業でどれだけ利益を出せるか)
- 伸びる力(利益が増える構造になっているか)
- 潰れない力(財務が耐えられるか)
- 株価の割高・割安(期待が先に乗りすぎていないか)
- 現金の質(会計上の利益が“現金”に変わっているか)
この5分類に対応させる形で、指標を1つずつ選ぶのが最短です。次章の「5指標」はこの設計図に沿っています。
指標1:営業利益率(稼ぐ力のコア)
営業利益率=営業利益 ÷ 売上高。本業の強さを最も素直に表します。売上が大きくても、利益が薄ければ景気や競争で簡単に崩れます。逆に営業利益率が高い企業は、価格決定力(値上げしても売れる力)や効率の良さを持っている可能性が高い。
目安としては、同業他社比較が基本です。業種で水準が違うため、「◯%なら優良」と一律で決めると失敗します。例えば小売は薄利、ソフトウェアは高利益率になりやすい。よって、過去5年の推移と同業平均との差を見るのが実戦的です。
具体例(イメージ):A社(部品メーカー)は営業利益率が5%→8%→10%と改善。一方でB社は6%→6%→5%で横ばい。A社は値上げや生産性改善が効いている可能性があり、材料高局面でも耐性が出る。一方B社はコスト上昇を転嫁できない構造かもしれません。
落とし穴は、一時的な要因です。為替差益、補助金、資産売却益が営業利益に混ざるケースもあります。決算短信や有価証券報告書で、営業利益の内訳(その他収益・費用)に異常値がないかを確認すると精度が上がります。
指標2:ROE(伸びる力と資本効率)
ROE=当期純利益 ÷ 自己資本。株主が出した資本を、どれだけ利益に変えているかの指標です。長期で資産が増える企業は、概ねROEが安定して高いか、改善トレンドにあります。
ただしROEは“高ければ良い”ではありません。理由は3つ。
- レバレッジ(借金)でROEが上がる:自己資本が薄いだけの可能性。
- 一過性の利益でROEが跳ねる:資産売却や税効果で歪む。
- 自社株買いで自己資本が減る:ROEが上がって見える。
そこで、ROEを見るときは自己資本比率(後述)とセットにします。「ROEが高いのに自己資本比率が低い」なら、借金で回している可能性が高い。逆に「ROEがそこそこでも自己資本比率が高く、営業利益率が改善」なら、まだ伸びしろがあることも多い。
実戦の見方:ROEを「5年平均」と「直近」の2点で見る。平均が高く、直近が落ちていない企業は“地力”があります。直近だけ高い企業は“事故”の可能性もあるので、利益の質(次の指標)で確認します。
指標3:フリーキャッシュフロー(利益の質の最終チェック)
会計上の利益は、売掛金や減価償却などの会計処理で“見た目”が変わります。そこで最後に見るのがフリーキャッシュフロー(FCF)です。基本形は、営業キャッシュフロー − 投資キャッシュフロー(定義は企業やサイトで差がありますが、まずこの理解で十分)。
なぜ重要か。株主還元(配当・自社株買い)も、設備投資も、借金返済も、全部「現金」が必要だからです。利益が出ているのにFCFがマイナス続きなら、どこかで資金繰りが詰まり、増資や借入に頼る展開になりやすい。
具体例(イメージ):C社は当期純利益が毎年黒字なのに、営業CFが弱くFCFがマイナス。売掛金が増えており、実際には現金が回収できていない。D社は純利益が横ばいでも営業CFが安定し、投資CFも適度でFCFがプラス。D社の方が“耐久性”が高い可能性があります。
落とし穴は、成長期の企業です。成長のために投資が先行するとFCFはマイナスになり得ます。ここで重要なのは「マイナスの理由」。投資CFが増えているなら前向きの可能性、営業CFが細っているなら警戒です。つまり、FCF単体ではなく、営業CFと投資CFを分解して見るのがポイントです。
指標4:自己資本比率(潰れない力の最低ライン)
自己資本比率=自己資本 ÷ 総資産。財務の安全性のざっくり指標です。市場が荒れたとき、資金調達が難しくなったとき、金利が上がったときに生き残る確率に直結します。
ここでも「◯%が正解」とは言えません。銀行や不動産のようにレバレッジが前提の業種もあります。一方で製造業やITサービスなら、一定の厚みがある方が安心です。実戦では次のように扱うとミスが減ります。
- 同業比較:同じ業種の中で弱すぎないか。
- トレンド:比率が下がり続けていないか(借入増や赤字の兆候)。
- ROEとの整合:ROEが高いのに自己資本比率が急低下しているなら要注意。
具体例(イメージ):E社はROEが15%で見栄えが良いが、自己資本比率が20%台で、ここ数年下がり続けている。景気後退や金利上昇で一気に苦しくなるシナリオがある。F社はROEが10%だが自己資本比率が50%近く、FCFも安定。派手さはないが、長期では“落ちにくい”タイプになりやすい。
指標5:PER(割高・割安の“期待値”を読む)
PER=株価 ÷ 1株利益(EPS)。市場がその企業にどれだけ期待を織り込んでいるかの目安です。PERが高い=割高、低い=割安、という単純理解は危険ですが、「期待が過剰かどうか」を把握するには有効です。
実戦の使い方は、次の3段階で考えることです。
- 同業比較:同業より極端に高い/低い理由があるか。
- 成長率とセット:利益成長が鈍化すると高PERは崩れやすい。
- “E”の質:EPSが一時的に膨らんでPERが低く見えていないか。
ここで初心者がやりがちなのが「PERが低いから買う」です。PERが低いのは、市場が将来の利益減少を見込んでいることも多い。いわゆるバリュートラップです。逆にPERが高い銘柄でも、営業利益率が高く、ROEが安定し、FCFが強いなら、高い期待を“実力で支える”企業の可能性があります。
具体例(イメージ):G社のPERは8倍で「安い」に見えるが、営業利益率が下落、FCFもマイナス、自己資本比率も低下。市場が見ているリスクが数字に表れている可能性が高い。一方H社はPERが30倍で高いが、営業利益率が高水準で安定し、ROEも高く、FCFもプラスが続く。高PERは「将来も稼ぐ前提の価格」なので、その前提が崩れないかを数字で追う発想になります。
5指標を「順番」で使う:スクリーニングの実務フロー
指標は“見る順番”が重要です。おすすめの流れは以下です。
- 営業利益率で稼ぐ力がある企業を残す(同業比較+推移)。
- ROEで資本効率を確認(高い or 改善傾向)。
- 自己資本比率で財務の地雷を外す(急低下や極端な低さを避ける)。
- FCFで“利益が現金になっているか”を検証(営業CFが弱い企業を警戒)。
- PERで期待の乗り具合を確認(高すぎる期待・安すぎる悲観の理由を調べる)。
この順番だと、PERで先に迷子になりません。最初に“稼ぐ力と財務”で候補を絞ってから、最後に価格(PER)を見ます。価格から入ると、安い理由探し(そして都合の良いストーリー作り)に引っ張られます。
ケーススタディ:同じ「優良企業」に見えても結果が変わる例
初心者は「有名企業=安全」と思いがちですが、同じ優良カテゴリでも局面で結果が変わります。ここでは2つの典型を見ます。
ケース1:景気後退局面で残る企業
景気後退では売上が落ち、資金調達環境も悪化します。生き残りやすいのは、営業利益率が高く、自己資本比率が高めで、FCFが安定している企業です。こういう企業は、売上が減っても利益が残りやすく、借入依存も低いので、相場が荒れても致命傷になりにくい。
逆に危険なのは、ROEが高く見えても自己資本比率が薄い企業です。金利上昇や信用収縮でコストが増えると、ROEが一気に崩れ、株価も割り引かれやすい。
ケース2:成長局面で伸びる企業
成長局面ではPERが上がりやすく、数字が“割高に見える”状態が続きます。このとき重要なのは、高い営業利益率とFCFの改善です。利益率が高い企業は、成長投資をしながらも利益を残しやすい。FCFがマイナスでも、営業CFが強く投資CFが増えているなら、成長投資の可能性があります。
ここでの罠は、PERが高い銘柄を「高いから危険」と決めつけること。高PERが危険なのは、期待を満たせないときです。だから「期待に対して実力が追いつく構造か」を、営業利益率・ROE・FCFで確認するのが合理的です。
初心者がやりがちな“指標の誤読”を潰すチェックリスト
- 単年の数字で判断していないか:最低でも3〜5年の推移を確認する。
- 同業比較をしているか:業種で水準が違う。横比較が基本。
- ROEの高さを借金と混同していないか:自己資本比率とセットで見る。
- FCFマイナスの理由を分解したか:営業CFが弱いのか、投資CFが強いのか。
- PERの低さを“安さ”と決めつけていないか:利益減少リスクの織り込みを疑う。
おすすめの情報の取り方:どこを見れば早いか
数値は、証券会社の銘柄ページ、企業IR、EDINET、有価証券報告書、決算短信などで取れます。初心者はまず「証券会社の指標一覧→IRで裏取り」の順が速いです。
見る箇所のコツは、決算短信のサマリーで全体像を把握し、違和感があればキャッシュフロー計算書と貸借対照表に降りること。FCFや自己資本比率の変化は、ここに出ます。
この5指標で“勝ちやすくなる”具体的な運用例
最後に、実際の運用に落とし込む形を提示します。ここでは個別銘柄の推奨ではなく、意思決定の型です。
ステップA:候補作り:普段使う指数(TOPIX、S&P500など)や業界テーマから、気になる銘柄を10〜30個リスト化します。ニュースで知った銘柄もここに入れて構いません。
ステップB:5指標を機械的に点検:営業利益率(推移)、ROE(平均と直近)、自己資本比率(推移)、FCF(分解)、PER(同業比較)を表にして埋めます。ここで“数字が説明できない銘柄”は一旦保留にします。
ステップC:2パターンに分類:①ディフェンシブ(財務厚め・FCF安定)②グロース(利益率高め・投資先行でも営業CF強い)に分け、相場環境に応じて比率を調整します。初心者ほど、片方に偏るより、性格が違う2群を持った方がメンタルが安定します。
ステップD:買う前の“逆質問”:その銘柄が崩れる理由を5指標で想定します。例えば「営業利益率が落ちるとしたら何が起点か」「FCFが悪化するとしたら売掛金か投資か」など。これを先に考えると、買った後に狼狽しにくい。
よくある質問
Q:配当利回りやPBRは見なくて良い?
A:重要ですが、最初の5つに入れない理由は“誤読しやすい”からです。配当利回りは減配で一気に前提が崩れますし、PBRは資産の質(含み損・のれん等)で歪みます。まずは稼ぐ力・財務・現金・期待値を固め、その後に配当利回りやPBRで精度を上げる方が失敗が減ります。
Q:指標は何のサイトで見れば良い?
A:入口はどこでも良いですが、最終的には企業IRや有価証券報告書で裏取りしてください。指標計算の前提(EPSの種類、特別損益の扱いなど)がサイトごとに違うことがあります。
Q:5指標だけで銘柄を決めて良い?
A:最終判断は、事業内容(何で稼ぐか)と競争優位(なぜ勝てるか)まで見てください。ただし、数字で地雷を外すだけでも勝率は上がります。初心者は「ストーリー先行」より「数字で除外→ストーリーで確信」の順が合理的です。
まとめ:数字は“迷いを減らす道具”
投資は、完璧な正解を当てるゲームではありません。大きなミスを減らし、勝ちやすい状況で勝負をするゲームです。そのために、営業利益率・ROE・FCF・自己資本比率・PERの5つを“順番”で使うと、判断のブレが減ります。
次に銘柄を見たときは、まず営業利益率とFCFから入ってください。ニュースの熱量より、現金と利益率の方が裏切りません。
付録:手元のメモだけで再現できる「1銘柄1分」テンプレ
初心者が継続できる形に落とすため、最後に“メモ用テンプレ”を置きます。これをそのままコピペして埋めるだけで、分析が習慣化します。
- 営業利益率:直近◯%/5年平均との差◯pt/下落要因は(価格競争・原価上昇・販管費増)どれ?
- ROE:直近◯%/5年平均◯%/改善(している・していない)/改善の理由は(利益増・自社株買い・自己資本減)どれ?
- 自己資本比率:直近◯%/3年で(上昇・横ばい・低下)/負債が増えているなら用途は(投資・運転資金・買収)どれ?
- FCF:直近(+/−)/営業CFは(強い・弱い)/投資CFは(拡大・平常)/マイナスの理由を一言で説明できる?
- PER:直近◯倍/同業平均◯倍/差の理由は(成長期待・収益安定・不祥事・構造不利)どれ?
ポイントは「一言で説明できるか」です。説明できない数字は、買った後に必ず不安材料になります。逆に、数字の変化を自分の言葉で説明できる銘柄は、下落局面でも保有判断がブレにくい。
もう一段だけ精度を上げたい人へ:次に足すなら何か
5指標に慣れたら、追加する候補は多いですが、効果が大きいのは次の2つです。
- EPS成長率(利益成長の速度):PERは“期待の価格”なので、期待を満たす速度としてEPSの成長が必要です。最低でも「過去3年のEPSが増えているか」を見ると、バリュートラップを減らせます。
- 配当性向(還元の持続性):配当利回りは魅力的でも、配当性向が高すぎると減配リスクが高い。高配当狙いほど、配当性向とFCFの整合が重要になります。
ただし、最初は“足し算”より“反復”が効きます。5指標を毎回同じ順で見て、同じテンプレでメモする。これだけで、判断精度は確実に上がります。


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