- 結論:同じREITでも「稼ぎ方」と「弱点」がまるで違う
- まず押さえるREITの基礎:株でも債券でもない「不動産キャッシュフロー商品」
- 商業REITとは:人の流れと売上が賃料を決める“消費連動型”
- 物流REITとは:立地・規格・供給制約で賃料が決まる“インフラ型”
- 決定的な違い①:テナントの“撤退コスト”が違う
- 決定的な違い②:賃料の上げやすさ(インフレ耐性)が違う
- 決定的な違い③:供給ショックの起き方が違う
- 決定的な違い④:金利上昇への耐性は“借入の質”で決まる
- 実例で理解:同じ不況でも「起きること」が違う
- 初心者でもできる「商業REITの見抜き方」チェックリスト
- 初心者でもできる「物流REITの見抜き方」チェックリスト
- 利回りだけで選ぶと負ける:分配金の“質”を分解する
- あなたの目的別:商業REITと物流REITの使い分け
- 買ってはいけないパターン:初心者が避けるべき地雷
- まとめ:アセットタイプの理解は“タイミング”の精度を上げる
- 価格の見方:NAV倍率・キャップレート・スプレッドで「割高/割安」をざっくり判定する
- 売買タイミングの実務:買う前に「悪材料の棚卸し」を終わらせる
- ポートフォリオ例:目的に合わせて“比率”でリスクを管理する
結論:同じREITでも「稼ぎ方」と「弱点」がまるで違う
商業REITと物流REITは、どちらも賃料収入を原資に分配金を出す不動産投資信託(REIT)ですが、収益ドライバーとリスク源泉が違います。商業REITは「消費」と「テナントの売上」に間接的にぶら下がりやすく、物流REITは「サプライチェーン」と「立地×代替性」に強く依存します。さらに、賃料改定のしやすさ(インフレ耐性)と資本コスト(借入金利)への耐性も異なるため、同じ金利上昇局面でも勝ち負けが分かれます。
この記事では、初心者でも判断できるように、両者の構造差を“投資判断に落とし込める形”で分解します。銘柄名を挙げることはありますが、特定銘柄の推奨ではなく、どのREITにも適用できるチェック項目として整理します。
まず押さえるREITの基礎:株でも債券でもない「不動産キャッシュフロー商品」
REITの株価(投資口価格)は、ざっくり言えば「将来の分配金を、金利水準に合わせた利回りで割り引いたもの」です。つまり、分配金が増える期待が強いほど価格は上がり、求められる利回りが上がる(=金利上昇など)ほど価格は下がりやすい、という性格を持ちます。
一方でREITは企業のように“事業を伸ばす”というより、不動産の賃料収入を安定的に集め、借入と増資で物件を入れ替えながら分配を最大化する商品です。ここで効いてくるのが、商業か物流かという「アセットタイプ」です。
商業REITとは:人の流れと売上が賃料を決める“消費連動型”
商業REITは、ショッピングセンター(SC)、駅前商業、都心の商業ビル、郊外モールなどを中心に保有し、テナントから賃料を得ます。商業物件の賃料は、契約形態によって大きく2つに分かれます。
①固定賃料型:月額の賃料が基本的に固定。インフレ時は賃料改定が遅れやすい一方、景気悪化でも賃料が急に下がりにくいメリットがあります。
②歩合(売上連動)を含む型:固定賃料に加えて、売上の一定比率を追加賃料として受け取る形。好景気・インバウンド・イベント需要で上振れしやすい反面、消費が落ちる局面では上振れ分が消えます。
ここで重要なのは、商業REITの本質が「テナントの採算」と「来店動線の競争力」にある点です。賃料を上げられる商業施設は、単に“立派な建物”ではなく、人が継続して来る理由(立地、交通結節、テナント構成、周辺人口、観光需要)を持っています。
物流REITとは:立地・規格・供給制約で賃料が決まる“インフラ型”
物流REITは、マルチテナント型物流施設、BTS(Build-to-Suit:特定企業向け)倉庫、冷凍冷蔵などの特殊物流施設を保有し、賃料を得ます。物流は「EC(ネット通販)需要が伸びると強い」と言われがちですが、実際はもっと構造的です。
物流施設は、高速IC・港湾・空港へのアクセス、労働力(雇用)を確保できるエリア、大型車が出入りできる道路、天井高・床荷重・ドック数などの規格が揃って初めて“代替しにくい資産”になります。だから賃料は、単純な景気よりも、供給(新規開発)と立地の希少性の影響を強く受けます。
また、物流は長期契約になりやすく、WALT(加重平均賃貸借期間)が長めのケースが多い。これは分配金の見通しを立てやすい一方で、インフレ局面で賃料をすぐに上げにくいという面もあります(契約に賃料改定条項がない場合)。
決定的な違い①:テナントの“撤退コスト”が違う
投資判断で最も効くのが撤退コストです。テナントが「出ていく」と決めた時、代替テナントがすぐ埋まるかどうかで賃料の強さが決まります。
商業:撤退コストは比較的低いケースが多い。店舗は内装投資がありますが、立地が悪い/客足が弱いと撤退判断が早い。さらに、同じ商圏内で競合施設が出ると、テナント側の交渉力が一気に上がります。結果として、リースアップ時に賃料が伸びない、空室が長引くリスクが出ます。
物流:撤退コストが高い。倉庫移転は、在庫・システム・配送網・人員の再配置が必要で、単なる“引っ越し”ではありません。特にBTSは撤退コストが極めて高い。そのため、契約更新で急に空室化しにくい傾向があります。ただし、特定テナント依存が強すぎると、逆に“その企業が弱った時”に痛いという裏返しもあります。
決定的な違い②:賃料の上げやすさ(インフレ耐性)が違う
インフレ局面で重要なのは「賃料がどの速さで上がるか」です。物価だけ上がって賃料が上がらないと、修繕費や人件費、電気代の上昇に負けて利益が削られます。
商業:売上連動がある施設は、インフレで名目売上が伸びると賃料も伸びやすい。逆に固定賃料中心だと、賃料改定は遅れる。ただし、優良立地の商業は“代替が少ない”ため、更新時に賃料交渉が通りやすい場合があります。
物流:需給が逼迫しているエリア(首都圏の高速IC近接など)では、更新時に賃料を上げやすい。一方、供給過剰エリアでは賃料が伸びにくい。さらに長期契約が多い分、契約期間中は賃料が固定されがちなので、賃料上昇の反映が“段階的”になりやすいです。
決定的な違い③:供給ショックの起き方が違う
商業と物流では「新しい競合」が出るメカニズムが異なります。
商業:新規大型商業施設の開発は時間がかかりますが、既存施設のリニューアルやテナント入替で競争環境が急に変わることがあります。加えて、オンライン購買の浸透は構造変化として効きます。商業は“立地が良い”だけでは足りず、体験価値(飲食・エンタメ・イベント)に投資し続ける必要があるため、CAPEX(設備投資)負担が重くなりがちです。
物流:物流は開発のハードルが相対的に低く、「用地さえあれば」供給が増えやすい。特に金利低下期はデベロッパーが積極的に建てるため、後から供給過剰が来ます。つまり物流は、需給サイクル(建設→竣工→空室→賃料調整)がはっきり出やすいアセットです。
決定的な違い④:金利上昇への耐性は“借入の質”で決まる
「金利が上がるとREITは弱い」という理解は半分正しく、半分雑です。重要なのは、アセットタイプよりも、借入の質(固定/変動、残存期間、ヘッジ比率)と、物件の利回り(NOI利回り)の差です。とはいえ、商業と物流で傾向差はあります。
物流は設備投資・開発色が強い分、物件の入替や取得に資金を使いやすく、借入規模も大きくなりがちです。一方、商業は物件の立地が資産価値の大部分を占めるため、借入の安定運用がしやすいケースもあります。ただし、これは“銘柄ごとの設計”が支配的なので、アセットタイプで決め打ちしないことが重要です。
実例で理解:同じ不況でも「起きること」が違う
ここからは、現実に起きがちな局面を想定して、商業と物流で何が違うかを具体的に描きます。
ケースA:消費が落ちる不況(雇用悪化、実質賃金低下)
商業は客数・客単価が落ち、売上連動賃料が縮む。弱いテナントが撤退し、空室・フリーレント(無料期間)で分配金が圧迫されやすい。物流は、生活必需品や企業間物流は残るため、短期的には相対的に耐性がある。ただし、景気後退が深いと在庫調整で倉庫需要も落ち、供給過剰エリアから空室が増える。
ケースB:金利上昇+インフレ(コスト上昇が先行)
商業は、売上連動がある施設は賃料がついてきやすいが、固定賃料中心だとコスト増に負けやすい。物流は、需給がタイトな立地なら更新時に賃料を上げられるが、長期契約が多い分、反映は遅い。どちらも借入が変動中心だと厳しい。
ケースC:構造変化(オンライン化・省人化)
商業は“買い物目的”の施設ほど逆風で、体験型への転換が必要。物流は、EC・宅配の高度化で「拠点の分散(ラストワンマイル)」が進み、都市近郊の物流が強くなる一方、郊外大量供給が裏目に出ることがある。
初心者でもできる「商業REITの見抜き方」チェックリスト
商業REITで見てほしいのは、決算資料に必ず出てくる“運営の質”です。難しい財務モデルを作らなくても、次の要素で勝率が上がります。
1)立地の説明が具体的か:「主要駅徒歩圏」「広域集客」など抽象語だらけの資料は要注意。来館者属性、周辺人口、競合施設、交通手段が語られているかを見ます。
2)テナント構成の偏り:ファッション比率が高い、単一アンカー依存が強い、特定業態に偏る場合は、消費トレンドの変化に弱い。飲食・サービス・日用品など、需要が分散しているかが重要です。
3)賃料形態:固定賃料中心か、売上連動がどれくらいか。売上連動が多いほど好況の上振れがある一方、不況時の下振れもあります。
4)CAPEX(改装投資)の履歴:商業は“手を入れ続けないと死ぬ”資産です。リニューアル投資の計画と、その結果(売上・賃料の改善)が説明されているかを確認します。
初心者でもできる「物流REITの見抜き方」チェックリスト
物流REITは“立地と需給”が命です。資料で見るべきポイントは次の通りです。
1)エリア別の供給状況:首都圏でも、湾岸・内陸・外環周辺で需給が違います。エリア別稼働率や新規供給の言及があるかを見ます。
2)物件の規格:天井高、床荷重、ランプウェイ、ドック数など、現代物流に必要な仕様か。古い規格の倉庫は競争力が落ち、賃料が伸びません。
3)テナント分散:テナント数、上位テナント比率、業種分散。BTS中心で単一テナントが多い場合、信用力と契約条件(賃料改定条項)をより慎重に見る必要があります。
4)WALTと賃料改定条項:契約が長いほど安定ですが、インフレへの追随が遅れる。更新時の賃料上昇余地が語られているかがポイントです。
利回りだけで選ぶと負ける:分配金の“質”を分解する
REIT初心者がやりがちな失敗は「分配金利回りの高さだけ」で選ぶことです。高利回りには必ず理由があります。分配金の質を、次の3つに分けて考えると判断がシャープになります。
①賃料由来の増配余地:稼働率改善、賃料アップ、物件入替で分配が増える余地があるか。
②財務由来の持続性:LTV(借入比率)が高すぎないか、金利上昇に耐える固定化ができているか、期限分散は十分か。
③一時的要因の混入:物件売却益や一時金で分配が膨らんでいないか。これが多いと、翌期に減配しやすい。
商業・物流どちらでも、この分解は効きます。高利回りでも“①と②が強い高利回り”は買い場になり得ますが、“③で盛られた高利回り”は罠になりやすい。
あなたの目的別:商業REITと物流REITの使い分け
「結局どっちが良いのか?」は、目的で変わります。ここでは目的別に、合理的な選び方を提示します。
分配金の安定重視:テナント分散が効き、稼働率が高い物流(特にマルチテナント型)や、生活必需品寄りの商業(食品スーパーを核とするSCなど)が候補になります。ポイントは“需要の底”があるかです。
景気回復の上振れを取りたい:売上連動要素がある商業、インバウンド・都市回帰の恩恵を受ける立地の商業が効きやすい。景気敏感度が上がる分、買うタイミング(景気の底)を意識します。
インフレ耐性を取りたい:需給がタイトで賃料改定が通りやすい物流(都市近郊)や、強い集客力で賃料交渉力がある商業。契約条項の違いで結果が分かれるので、IR資料の“賃料改定”の記述を追います。
買ってはいけないパターン:初心者が避けるべき地雷
最後に、アセットタイプを問わず“避けた方がいい”典型例をまとめます。ここを外すだけで、損をする確率が大きく下がります。
1)LTVが高く、借入の固定化が弱い:金利上昇で分配金が削られるリスクが高い。アセットが良くても資本コストで負けます。
2)物件の説明が薄い:不動産はブラックボックスになりやすい。説明が薄いものは“何かを隠している”というより、単に運営が雑な場合があり、結果として賃料が伸びません。
3)分配金の維持が売却益頼み:売却益は繰り返せない。これが常態化していると、将来の減配リスクが高い。
4)物流で供給過剰エリアに偏る:竣工ラッシュがあるエリアは、空室と賃料下落が同時に来ます。物流は需給を外すと痛い。
5)商業でテナントの新陳代謝が止まっている:リニューアル投資を嫌い、古いテナントに依存している施設は、構造変化に飲み込まれます。
まとめ:アセットタイプの理解は“タイミング”の精度を上げる
商業REITと物流REITの違いは、単なる「景気に強い/弱い」ではありません。撤退コスト、賃料改定の速度、供給サイクル、そして資本コスト耐性の組み合わせで勝敗が決まります。
実務的に一番効くのは、「不況で何が起きるか」を想像してから買うことです。商業なら客足とテナント採算、物流なら需給と規格・立地。そこに、財務(固定金利比率、期限分散、LTV)を重ねる。この順番で見れば、初心者でも“利回りの罠”を避けやすくなります。
最後に、あなたが次にやるべき行動はシンプルです。気になるREITのIR資料を開き、この記事のチェック項目に沿って「強い理由」と「弱点」を文章で説明できるか試してください。説明できないものは、買わない。これだけで、投資の失敗はかなり減ります。
価格の見方:NAV倍率・キャップレート・スプレッドで「割高/割安」をざっくり判定する
株式と違い、REITのバリュエーションは「成長率」よりも「不動産の利回りと資本コストの差」で決まりやすい。初心者でも最低限、次の3つを押さえると、買い急ぎが減ります。
1)NAV倍率(P/NAV):NAVは保有不動産を時価評価した純資産のイメージです。投資口価格がNAVを上回る(倍率が1倍超)ほど、将来の増配期待や資金調達力が織り込まれている状態。逆に1倍割れが続く場合は、物件の競争力や成長余地に疑義があるか、金利上昇で利回りが要求されている可能性があります。重要なのは「なぜ割れているのか」を説明できるかです。
2)不動産キャップレートと借入金利の差:物件のNOI利回り(ざっくりキャップレート)より借入金利が十分低いと、レバレッジで分配金が増えやすい。逆に金利が上がって差が縮むと、増配の余地が消えます。ここはアセットタイプより“財務設計”が支配的ですが、物流は開発・取得が活発な分、差の縮小が痛手になりやすいことがあります。
3)分配金利回りの「国債スプレッド」:長期金利(10年国債など)が上がると、同じ分配金でも要求利回りが上がり、価格が下がりやすい。逆に、スプレッドが過去レンジの上限まで広がっている時は、心理が冷えすぎているサインになり得ます。ここで大事なのは、利回りが高い=お得ではなく、市場が何を怖がっているかを読むことです。
売買タイミングの実務:買う前に「悪材料の棚卸し」を終わらせる
REITは配当目的で長期保有する人が多い一方、価格は金利とリスクオフで急落します。初心者が勝ちやすいのは「上がり始めを当てる」より「下がり切った後に拾う」戦い方です。実務的には、買う前に次の棚卸しをします。
商業REITの棚卸し:消費が弱い、インバウンドが鈍い、競合施設が増える、改装投資が重い——これらが“すでに価格に織り込まれているか”を確認します。悪材料がニュースとして出尽くしているのに稼働率が崩れていないなら、過度に売られている可能性があります。
物流REITの棚卸し:竣工ラッシュ、空室率の悪化、フリーレント増加、賃料の伸び鈍化——この4点がどのエリアで起きているかを見ます。物流はエリア差が大きいので、全体の市況悪化でも“強い立地は耐える”ことがあります。
この棚卸しをせずに「利回りが高いから」で買うと、減配や増資のショックを直撃します。逆に、棚卸しを終えてから買うと、下落局面でも保有継続の根拠が残ります。
ポートフォリオ例:目的に合わせて“比率”でリスクを管理する
最後に、個人投資家が実務で使いやすい“比率設計”の例を示します。ここでの狙いは、当てに行くのではなく、外しても致命傷にならない設計です。
例1:分配金の安定を最優先(守り):商業30%(生活必需品寄り)、物流50%(都市近郊・規格新しい物件中心)、残り20%は現金や債券ETFなどで金利ショック時の買い増し余力を残す。REIT内で“景気連動度”を分散させる発想です。
例2:景気回復での上振れも狙う(バランス):商業50%(売上連動・都心回帰の恩恵がある立地も混ぜる)、物流40%(需給がタイトなエリア中心)、現金10%。商業のボラティリティは上がるが、回復局面の伸びも取りに行く形です。
例3:インフレ・金利変動に備える(機動):商業40%、物流40%に加え、金利が急騰した時のヘッジとして現金20%を厚めに残す。REITは“買い増しが強い”ので、最初からフル投資しない設計が機能します。
もちろん最適解は人によって違います。ただ、初心者が負けるパターンは「一点集中+買い増し余力ゼロ」です。比率で設計し、余力を残す。これが最も再現性の高い勝ち筋です。


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