暗号資産の世界では「どのレイヤー1(L1)が覇権を取るか」という議論が尽きません。しかし投資で重要なのは、流行り言葉やSNSの熱量ではなく、勝者になれる“構造”を見抜くことです。レイヤー1は株式でいえばOS・クラウド基盤に近く、ネットワーク効果が働く一方で、失敗すれば価値がゼロに近づく非対称性もあります。
本記事では、初心者でも再現性を持って評価できるように、L1の勝者条件を「技術」「経済(トークノミクス)」「エコシステム」「規制・ガバナンス」「資本市場」の5レイヤーに分解し、具体例とチェック手順を提示します。読み終えた時点で、あなたは“推しチェーン”ではなく“勝ち筋があるチェーン”を選別できるようになります。
- そもそもレイヤー1とは何か:投資対象としての本質
- 勝者条件① 技術:スケーラビリティではなく“検証可能な信頼”
- (1)分散性:ノード要件と検閲耐性
- (2)安全性:設計思想と“攻撃コスト”
- (3)アップグレード容易性:改善速度と互換性のバランス
- 勝者条件② 経済(トークノミクス):需要の源泉と“売り圧”の設計
- (1)需要:手数料・ステーキング・担保需要の“質”
- (2)供給:インフレ率と発行の使い道
- (3)バーン設計:デフレ=正義ではない
- 勝者条件③ エコシステム:開発者とユーザーの“移動コスト”を作れるか
- (1)開発者:学習コストと生産性(DevEx)
- (2)ユーザー:オンボーディングとUX(ウォレット・手数料・復旧)
- (3)資金循環:TVLではなく“実態のある収益”
- 勝者条件④ 規制・ガバナンス:大衆化するほど“摩擦”が増える
- (1)分散ガバナンス:実質的に誰が決めているか
- (2)企業採用:コンプライアンス対応と“チェーン選択”の現実
- 勝者条件⑤ 資本市場:VC主導か、利用者主導か
- (1)トークン配分:アンロック曲線とインサイダー比率
- (2)“物語”の寿命:ナラティブ依存の危険性
- 初心者でもできる“勝者候補”の見抜き方:5ステップ実務フレーム
- ステップ1:用途を固定する(投機ではなく需要の仮説を置く)
- ステップ2:技術を点数化する(速さではなく信頼の設計)
- ステップ3:トークノミクスを“損益計算”する
- ステップ4:エコシステムの“粘着性”を測る
- ステップ5:ポジション設計で失敗を防ぐ(集中投資の罠を避ける)
- ありがちな誤解と地雷パターン:初心者が避けるべき3つ
- 誤解1:技術が優れている=勝つ
- 誤解2:パートナー発表=需要がある
- 誤解3:利回りが高い=安全に増える
- まとめ:勝者は“速度”ではなく“持続する需要と信頼”で決まる
- 追加視点:相互運用性と“ブリッジ地獄”をどう評価するか
そもそもレイヤー1とは何か:投資対象としての本質
レイヤー1とは、ブロックチェーンの基盤そのものです。アプリ(DApps)を動かす土台であり、取引の記録・合意形成・セキュリティを提供します。L2(レイヤー2)はその上で処理を分担する拡張層、DeFiやNFTはアプリ層です。
投資判断として大切なのは、L1は「製品」というより市場(マーケットプレイス)に近いという点です。参加者(開発者・ユーザー・バリデータ・企業)が増えるほど価値が増えるネットワークビジネスであり、勝者総取りが起こりやすい一方、技術の差別化が崩れると一気にコモディティ化します。
したがって勝者条件は「速い」「手数料が安い」だけでは足りません。速さと安さは競合も真似できます。最終的に残るのは、信頼(安全性)×需要(使われ方)×持続可能な経済設計の三位一体です。
勝者条件① 技術:スケーラビリティではなく“検証可能な信頼”
初心者が最初に陥る罠は「TPS(毎秒取引数)が高いほど強い」という単純化です。TPSはベンチマーク条件で大きく変わり、しかも取引の中身(簡単な送金か、複雑なスマートコントラクトか)で意味合いが異なります。重要なのは、高い処理能力を、分散性と安全性を犠牲にせず実現しているかです。
技術面で見るべきポイントは次の通りです。
(1)分散性:ノード要件と検閲耐性
分散性は「誰でも検証に参加できるか」で決まります。たとえばノード運用に高価なサーバーが必要、帯域・ストレージ要件が極端に重い、クライアント実装が事実上一社依存、といった場合、障害や政治的圧力に弱くなります。
具体的なチェックとしては、フルノードの要件(CPU/RAM/SSD、同期にかかる時間)、ノード数の推移、クライアントの多様性(複数実装が現実に使われているか)を見ます。ここを雑にすると「速いが、実質的に中央集権」という地雷を踏みます。
(2)安全性:設計思想と“攻撃コスト”
安全性は「バグがない」ではなく「攻撃するのに高コスト」かどうかです。PoWならハッシュパワー、PoSならステーク集中度やスラッシング設計、最終性(finality)までの時間と確率などが絡みます。
初心者向けに言い換えると、大口が一時的に支配しても、被害が限定的な仕組みになっているかが要点です。たとえば、バリデータが偏りすぎているチェーンは、停止・再編・検閲リスクが上がります。逆に、手当てがある(分散を促すインセンティブ、運用者の多様性、監査文化)チェーンは長生きします。
(3)アップグレード容易性:改善速度と互換性のバランス
チェーンは「固定された完成品」ではなく、継続的な改善プロジェクトです。アップグレードが遅いと競争に負けますが、早すぎても互換性が壊れ、開発者が離れます。勝者はこのバランスを取ります。
実務的には、過去のアップグレード履歴(どの程度の頻度で何を改善したか)、フォーク時の混乱(バグ・分裂・延期の頻度)、仕様変更の影響範囲を確認します。「毎月のように大改革」も「数年放置」も、どちらも危険です。
勝者条件② 経済(トークノミクス):需要の源泉と“売り圧”の設計
L1の価値は「チェーンが便利」だけでは価格に直結しません。価格は需給で決まります。だから投資家は、そのトークンを保有したくなる理由と、市場に降ってくる売り圧の量を同時に評価する必要があります。
(1)需要:手数料・ステーキング・担保需要の“質”
需要には大きく3つあります。①取引手数料を払う需要、②ステーキング(検証参加)の需要、③DeFi等で担保として使う需要です。ただし「需要があるように見える」偽装も多いので、質の判定が重要です。
具体例で説明します。あるチェーンで取引数が多くても、ほとんどがボットやエアドロップ狙いの小額トランザクションなら、手数料収入が伸びず、実需とは言えません。逆に、少数でも高付加価値の取引(現物決済、オンチェーン証券、企業のサプライチェーン連携など)が増え、手数料が安定しているなら強いです。
(2)供給:インフレ率と発行の使い道
多くのL1は、バリデータ報酬としてトークンを発行します。これは株式で言えば希薄化です。問題は「発行されること」ではなく、その希薄化が、ネットワークの価値増加と釣り合っているかです。
チェック手順はシンプルです。年間インフレ率(発行率)と、手数料収入やバーン(焼却)がどれだけ相殺しているかを見ます。さらに、報酬が誰に渡り、受け手がすぐ売る構造か(運用コストが高く短期売却が必須)も重要です。発行が多く、受け手が即売却するなら、価格は上がりにくい。
(3)バーン設計:デフレ=正義ではない
バーンは人気のキーワードですが、バーンがあるだけで勝てるわけではありません。バーンは「手数料が増えるほど供給が減る」仕組みなので、利用が増えた時の価格反応を強める効果があります。しかし利用が増えなければ何も起きません。
さらに、手数料が高すぎるとユーザーは離れます。つまりバーンは「高い手数料を正当化する道具」ではありません。勝者のバーン設計は、手数料は抑えつつ、長期で供給が管理される方向に落ち着きます。
勝者条件③ エコシステム:開発者とユーザーの“移動コスト”を作れるか
技術とトークノミクスが整っていても、エコシステムが育たなければ勝てません。エコシステムとは「アプリの数」だけではなく、開発者が学習し、ユーザーが資産を置き、企業が統合する総合的な環境です。
(1)開発者:学習コストと生産性(DevEx)
開発者は最も重要な顧客です。開発者が増えるとアプリが増え、ユーザーが増え、手数料が増える。ここがL1のフライホイールです。勝者は開発者体験(DevEx)が良い。具体的には、ドキュメントが整備され、SDKが安定し、テスト環境が使いやすく、監査・デバッグの文化があることです。
初心者ができる現実的な評価は、GitHubの活動量やコミットの継続性、主要ライブラリの更新頻度、開発者イベントの質、求人の増減などを追うことです。「価格が上がっているから開発者も増えているはず」という推測は危険です。逆で、開発者が増え続けるから価格がついてくる方が筋が通ります。
(2)ユーザー:オンボーディングとUX(ウォレット・手数料・復旧)
一般ユーザーは、秘密鍵管理やガス代の概念で脱落します。勝者はこの摩擦を下げます。具体例としては、ガス代の抽象化(アプリ側が負担する設計)、アカウント抽象化、セキュアな復旧方法、法定通貨オンランプの整備などです。
ここで重要なのは「使いやすい=中央集権」になっていないかの見極めです。便利さの裏で、特定企業の管理に依存している場合、規制や経営判断でサービスが止まります。勝者は、分散性を保ちながらUXを改善する方向に進化します。
(3)資金循環:TVLではなく“実態のある収益”
DeFi指標としてTVL(預かり資産)がよく使われますが、TVLはインセンティブで作れます。重要なのは、手数料収入や借入需要など、外部から入ってくる価値があるかです。インセンティブが切れた瞬間にTVLが崩壊するチェーンは、地盤が弱い。
具体的には、主要アプリの収益(プロトコル収益や手数料)、アクティブユーザー、継続率を見ます。数字が伸びていても、短期キャンペーン頼みなら評価を下げます。
勝者条件④ 規制・ガバナンス:大衆化するほど“摩擦”が増える
暗号資産は、普及すればするほど規制の射程に入ります。規制は悪ではありませんが、プロジェクトの設計次第で致命傷になります。勝者条件の一つは、規制と共存できる余地を持つことです。
(1)分散ガバナンス:実質的に誰が決めているか
ガバナンスは「投票があります」では評価できません。実態として、創業チーム、財団、VC、取引所、少数のバリデータが支配していないかを見ます。支配構造が強いと、特定地域の規制や政治リスクが直撃します。
投資家ができるチェックは、財団の支出、トレジャリーの透明性、主要アドレスの保有比率、バリデータの集中度、投票参加率などです。投票参加率が極端に低い場合、形だけのガバナンスになりがちです。
(2)企業採用:コンプライアンス対応と“チェーン選択”の現実
企業は「面白いから」では動きません。法務・監査・会計・セキュリティの壁を越える必要があります。勝者は、企業が採用しやすい仕組み(監査可能性、取引履歴の追跡、権限管理、KYC/AMLと接続できる設計)を提供します。
ここでの落とし穴は、企業向け機能を強化しすぎて、公共財としての分散性を壊すことです。勝者は両立の道を探ります。たとえば、パブリックチェーン上でプライバシーを担保する技術、許可制ネットワークとの相互運用、監査・証明のレイヤーなどが鍵になります。
勝者条件⑤ 資本市場:VC主導か、利用者主導か
レイヤー1の初期は資金が必要で、VCや財団が入ります。しかし資本市場の構造は、その後の価格形成に強烈な影響を与えます。勝者条件は、VC主導の“売り圧”を超えて、利用者主導の需要が育つことです。
(1)トークン配分:アンロック曲線とインサイダー比率
トークンがどこに配分され、いつ市場に出てくるかは、株式でいうロックアップ解除に似ています。初心者は「時価総額」だけを見がちですが、本当に重要なのは、流通している量(流通時価総額)と、今後のアンロック予定です。
具体例として、流通率が低く、今後大量アンロックが控えている場合、価格が上がっても供給増で相殺されやすい。逆に、流通率が高く、供給増が限定的なら、需要増が価格に反映されやすい。
(2)“物語”の寿命:ナラティブ依存の危険性
暗号資産はナラティブ(物語)で動きます。AI、RWA、DePINなど、トレンドが生まれて資金が集中します。しかし勝者は、トレンドが変わっても生き残る基盤です。物語に依存したチェーンは、物語が終わった瞬間に資金が抜けます。
投資家の視点では、「そのチェーンは何のために必要か」を一文で説明できるかが重要です。説明が「速い」「安い」「次世代」だけなら危険信号です。勝者の説明は、特定の需要(開発者・企業・ユーザー)の痛みを解決している形になります。
初心者でもできる“勝者候補”の見抜き方:5ステップ実務フレーム
ここまでの要素を、実際にどう判断に落とすか。以下の5ステップで、初心者でも再現性のあるスクリーニングができます。
ステップ1:用途を固定する(投機ではなく需要の仮説を置く)
まず「このチェーンが何に使われるのか」を仮説として固定します。たとえば「企業の決済・会計に統合される」「DeFiの担保基盤になる」「ゲームやSNSの大量トランザクションを吸収する」などです。用途が曖昧だと、評価基準もブレます。
ここで重要なのは“あなたが好きな用途”ではなく、市場が本当に求めている用途です。市場が求める用途は、痛みが強い領域(手数料が高すぎる、遅すぎる、監査できない、資本効率が低い)にあります。
ステップ2:技術を点数化する(速さではなく信頼の設計)
次に、ノード要件、クライアント多様性、バリデータ集中度、最終性、過去の障害、アップグレードの安定性を点数化します。数字が取れない項目もありますが、定性的でも良いので、比較できる形にします。
例:候補AはTPSは高いが、ノード要件が重く、運用者が偏っている。候補BはTPSは中程度だが、ノードが多く、障害が少ない。長期ではBが勝ちやすい、というように判断できます。
ステップ3:トークノミクスを“損益計算”する
トークノミクスは難しく見えますが、要点は「売り圧」と「買い圧」です。年間発行量(インフレ)をざっくり把握し、その量を市場が吸収できるだけの手数料需要・担保需要があるかを考えます。言い換えると、ネットワークが稼ぐキャッシュフロー(手数料)に、トークン価格が見合っているかです。
例えば、手数料が年間1億円程度しか出ないのに、時価総額が1兆円で、さらにインフレで毎年数百億円分発行されるなら、価格維持は厳しい。逆に、利用が増え手数料が伸び、バーンで供給が管理されるなら、上昇余地があります。
ステップ4:エコシステムの“粘着性”を測る
開発者が定着しているか、ユーザーが資産を置いているか、主要アプリが収益を生んでいるかを見ます。短期のインセンティブではなく、止めたら困る理由があるかが重要です。
具体例として、同じDeFiでも「単なる高利回り農場」より「オンチェーンでの担保・清算が産業として回っている」方が粘着性が高い。ゲームなら「トークン配布で人が来ている」より「課金・二次流通・コミュニティが自然に回っている」方が強い。
ステップ5:ポジション設計で失敗を防ぐ(集中投資の罠を避ける)
最後は投資手法です。L1は当たれば大きい一方、外れれば大きく沈みます。初心者がやりがちなのは「将来性があるから一括で大きく買う」ことです。これは失敗確率を上げます。
現実的な方法は、①候補を2〜4本に絞り、②時間分散(買い下がりではなく分割購入)し、③想定が崩れたら機械的に縮小するルールを持つことです。重要なのは、価格が上がったか下がったかより、勝者条件が満たされ続けているかで判断することです。
ありがちな誤解と地雷パターン:初心者が避けるべき3つ
誤解1:技術が優れている=勝つ
技術は重要ですが、技術だけで勝てません。市場は「最強の技術」ではなく「最も採用された標準」を選びます。メールの技術が最適だから皆が使うわけではないのと同じです。標準になるには、開発者・企業・資本が動く必要があります。
誤解2:パートナー発表=需要がある
提携のニュースは華やかですが、実際にオンチェーン取引が増え、手数料が増え、ユーザーが定着しない限り、価値にはなりません。提携が“PoC止まり”で終わるケースは多い。指標で裏取りできない話は、投資判断では割り引くべきです。
誤解3:利回りが高い=安全に増える
ステーキング利回りやDeFi利回りは、リスクの対価であることがほとんどです。利回りが高いほど、インフレが高い、価格変動が大きい、スマコンリスクが高い、流動性が薄い、といった裏事情があると考えるのが合理的です。利回りだけ見て買うと、価格下落で簡単に相殺されます。
まとめ:勝者は“速度”ではなく“持続する需要と信頼”で決まる
レイヤー1競争の勝者条件は、単一の指標で決まりません。重要なのは、①分散性と安全性を犠牲にしない技術設計、②需要と供給のバランスが取れたトークノミクス、③開発者・ユーザー・企業が定着するエコシステム、④規制・ガバナンスと共存できる構造、⑤資本市場の売り圧を超える実需の成長、の総合力です。
あなたがやるべきことは「どれが一番すごいか」を当てることではなく、勝者条件が積み上がっているプロジェクトに、無理のないポジションで乗ることです。L1は夢がある一方で、現実は厳しい。だからこそ、構造を見抜ける投資家が優位に立てます。
追加視点:相互運用性と“ブリッジ地獄”をどう評価するか
レイヤー1の競争では、単体で完結する時代から「チェーン同士がつながる時代」へ進んでいます。ここで最大のリスクがブリッジです。ブリッジは資産移動を可能にする一方、過去に大規模流出が繰り返されてきた弱点でもあります。勝者候補を選ぶなら、相互運用性の戦略が“夢”ではなく“現実装”として機能しているかを見ます。
チェックポイントは3つです。第一に、ブリッジの設計が信頼最小化(trust-minimized)に近いか。マルチシグ管理や単一企業運営のブリッジは、利便性は高い反面、攻撃対象として魅力的です。第二に、流動性が断片化していないか。相互運用性が弱いと、同じ資産がチェーンごとに分裂し、スリッページや清算リスクが増えます。第三に、障害時の“止め方”が設計されているか。ブリッジが壊れた時に被害を限定できないチェーンは、エコシステム全体が連鎖崩壊します。
初心者向けの現実的な見方としては、過去にインシデントが起きた場合の対応速度、損失補填の有無ではなく再発防止策の具体性、監査の公開度を確認してください。インシデント自体はどの技術領域でも起きますが、勝者は“学習して強くなる”一方、負け組は“隠して同じ事故を繰り返す”傾向があります。


コメント