「債券=安全資産」と信じて債券ETFを買ったのに、評価損が膨らんで驚いた——。この経験は、ここ数年で珍しくありません。債券ETFは、個別債券と同じ“債券”という言葉を持ちながら、価格の動き方・回復の仕方・リスクの出方がまったく違う局面があります。
本記事は、債券ETFを「安全資産として機能させる」ための実務ではなく実践的な設計図です。金利(デュレーション)・信用(スプレッド)・為替(円建て購買力)という3つのリスクを分解し、あなたの目的に合う債券ETFを選べる状態にします。最後に、ありがちな失敗パターンと、それを回避する具体的運用ルールまで落とし込みます。
- 結論:債券ETFは“安全資産”になり得るが、条件付き
- まず押さえる:債券ETFが個別債券と違う3点
- リスク①:金利リスク(デュレーション)—安全資産を“危険資産”に変える主犯
- リスク②:信用リスク(スプレッド)—国債と社債は別物
- リスク③:為替リスク — 日本の投資家が見落としがちな“安全の破壊者”
- 債券ETFを“目的別”に使い分ける設計図
- 目的1:暴落時のクッション(株が落ちたときに上がる/下げにくい)
- 目的2:生活防衛資金の置き場(数年以内に使う可能性がある資金)
- 目的3:インフレ耐性(購買力を守る)
- 目的4:利回り収入(インカム)
- 初心者がやりがちな失敗パターン5つ
- 「安全資産としての債券ETF」チェックリスト
- 実践ルール:債券ETFをポートフォリオの“部品”として管理する
- まとめ:債券ETFは“安全”ではなく“設計すれば守りになる”
- もう一段深掘り:価格下落後に“回復”が起きるロジック(ここを誤解すると損切り地獄)
- 利回りの見方:分配利回りより“最終的な稼ぐ力”を優先する
- ETF特有の論点:乖離率・流動性・再投資リスク
- 日本の個人投資家向け:税務と口座設計で“実質利回り”は大きく変わる
- ミニケーススタディ:3人の投資家の“正しい”債券ETFの持ち方
- 最後に:買う前に“紙に書く”べき3行
結論:債券ETFは“安全資産”になり得るが、条件付き
債券ETFは、ポートフォリオの目的が「暴落時のクッション」「生活費の安定」「短期資金の置き場」など何かで変わります。安全資産として機能するかどうかは、銘柄名ではなく、①残存期間(デュレーション)、②信用リスク、③為替リスク、④あなたの保有目的、の整合性で決まります。
極端に言えば、長期国債ETFは“株より安全”な時もあれば、“株より落ちる”局面もあります。これは債券の「利回り」と「価格」の仕組み、そしてETFの運用構造を理解すると、再現性を持って説明できます。
まず押さえる:債券ETFが個別債券と違う3点
1)満期がない:個別債券は満期まで持てば元本償還があり、利回りが確定しやすい。一方、債券ETFは満期がなく、ファンド内で債券を入れ替え続けるため、「いつか必ず額面に戻る」とは限りません。価格は市場金利と信用スプレッドで日々変動します。
2)“平均的な残存期間”を持つ:債券ETFは「〇年程度の債券を束ねた箱」です。箱の中身が回転することで、ファンドの平均残存期間(=デュレーション)はおおむね一定に保たれます。だから金利が上がれば、その影響を継続的に受けます。
3)分配金は“利回り”ではない:分配金は受取利息だけでなく、債券売却益・為替差益・場合によっては元本の取り崩しに近い形で出ることがあります。分配金が多い=安全、ではありません。見るべきはトータルリターン(価格変動込み)です。
リスク①:金利リスク(デュレーション)—安全資産を“危険資産”に変える主犯
債券は金利が上がると価格が下がります。理由はシンプルで、低いクーポン(利息)の債券は新発債に比べ魅力が落ちるため、価格が調整されるからです。ここで重要なのがデュレーションです。
デュレーションは「金利が1%動いたとき、価格が概ね何%動くか」の近似指標です。例えばデュレーションが7なら、金利が+1%で価格が約-7%動くイメージです(厳密には凸性がありますが、実務的にはこの近似で十分戦えます)。
具体例で整理します。
ケースA:短期国債ETF(デュレーション1):金利+1%でも価格は約-1%。現金に近い“置き場”として機能しやすい。
ケースB:中期国債ETF(デュレーション5):金利+1%で約-5%。株の下落耐性は期待できる一方、利上げ局面の損失は無視できない。
ケースC:超長期国債ETF(デュレーション15〜20):金利+1%で約-15〜20%。利下げ局面では強烈な上昇余地があるが、利上げ局面では“株並みに落ちる”ことが現実に起きます。
「債券は安全」という認識が崩れるのは、主にケースCを安全資産枠で持ってしまうときです。長期債は“金利ベット”に近く、インフレや財政懸念が出る局面では価格が想定以上に揺れます。
リスク②:信用リスク(スプレッド)—国債と社債は別物
債券には「返してくれる確率」があります。これが信用リスクです。信用リスクは通常、国債利回りに上乗せされるスプレッドとして価格に織り込まれます。景気が悪化すると、投資家はデフォルトを恐れて社債を避け、スプレッドが拡大し、社債ETFは下落します。
ここで初心者がやりがちなミスが、「利回りが高い債券ETF=儲かる&安全」と誤解することです。高利回りの源泉は、信用リスク(ハイイールド)だったり、期間が長い(金利リスク)だったり、為替だったりします。利回りは“リスクの見返り”であり、無料のプレミアムではありません。
具体例を挙げます。
投資適格社債ETF:企業の信用力が高めの社債が中心。株暴落時には下げることもあるが、ハイイールドよりは耐性が高い。ただし金利上昇には普通に弱い。
ハイイールド債ETF:景気後退局面で株と一緒に売られやすい。安全資産としての役割は薄く、むしろ“株の高ベータ版”に近い挙動をすることがある。
リスク③:為替リスク — 日本の投資家が見落としがちな“安全の破壊者”
米国債ETFなど外貨建て債券ETFを買う場合、日本円ベースのリターンは「債券の値動き+為替」です。円高になると、債券が上がっても円換算では負けることがあります。逆に円安で勝っているように見えても、債券としてのクッション性能は弱いまま、ということもあります。
ここで重要なのが為替ヘッジの有無です。為替ヘッジ付きは円ベースの値動きを安定させる代わりに、ヘッジコスト(主に金利差)がリターンを削ります。金利差が大きい局面では、ヘッジコストが重く、長期保有の期待収益を下げる要因になります。
実践的な判断軸はこうです。
「クッション目的」ならヘッジ優先:株暴落時に“円ベースで守る”のが目的なら、為替のブレは邪魔です。
「円安ヘッジ(購買力防衛)」なら非ヘッジ:日本円の購買力低下に備えたいなら、外貨エクスポージャーを残す意味があります。ただしこれは安全資産というより、通貨分散のテーマです。
債券ETFを“目的別”に使い分ける設計図
債券ETFは「何のために持つか」で選び方が変わります。ここを曖昧にすると、買った瞬間に失敗が確定します。以下は目的別の考え方です。
目的1:暴落時のクッション(株が落ちたときに上がる/下げにくい)
クッションの要件は「株と逆相関になりやすい」「急落時に流動性がある」「為替で相殺されにくい」です。歴史的に見ると、景気後退→利下げの局面で、国債(特に中長期)がクッションになりやすい。一方でインフレ懸念が強い局面では“株も債券も同時に下げる”ことがあります。ここが近年の難所です。
実践上は、中期の国債(ヘッジ付き)を核にして、金利ショックに弱い超長期への偏りを避けるのが無難です。超長期を使うなら、比率を小さくし、利下げ局面のオプションとして扱う感覚が現実的です。
目的2:生活防衛資金の置き場(数年以内に使う可能性がある資金)
この目的で最優先すべきは「元本変動を小さくすること」です。つまり短期債・超短期債の領域です。ここで長期債を選ぶのは、車のブレーキにアクセルを付けるようなものです。利回りが高く見えても、価格変動で簡単に利回り分を吹き飛ばします。
判断基準はシンプルで、資金を使うまでの期間より短いデュレーションに寄せます。1〜2年以内に使う可能性があるなら、デュレーション1前後の債券ETF(またはMRF・短期商品)に寄せる。これだけで“事故率”が激減します。
目的3:インフレ耐性(購買力を守る)
インフレ局面では、名目債券は弱いことがあります。そこで候補になるのがインフレ連動債(TIPS)系のETFです。ただしTIPSも「実質金利」の上昇には弱く、万能ではありません。さらに日本円投資家は為替が絡みます。インフレ耐性が欲しいのか、円安耐性が欲しいのか、混同しないことが重要です。
目的4:利回り収入(インカム)
インカム目的で社債ETFやハイイールド債ETFに行く場合、これは“安全資産枠”ではなく、リスク資産の一部として設計するのが正しい整理です。利回りは魅力ですが、信用イベント(景気悪化・デフォルト増加)で価格と分配が同時に傷むことがあります。
ここでの実践は「銘柄選び」より「損益管理」です。具体的には、信用スプレッドが極端に縮んでいる(楽観が行き過ぎ)局面では比率を落とす、逆にスプレッドが拡大して悲観が強い局面では段階的に買う、という“景気循環の逆張り”が効きやすい分野です。
初心者がやりがちな失敗パターン5つ
失敗1:長期国債ETFを現金代わりに持つ:利回りに釣られて買うと、利上げで普通にマイナス10〜20%が起きます。短期資金には不適です。
失敗2:分配金を利回りだと思い込む:分配が多い=儲かる、ではありません。価格下落でトータルが負けている例は多い。
失敗3:社債・ハイイールドを“守り”として持つ:景気悪化時に株と一緒に落ちます。守りのつもりが攻めになっている。
失敗4:為替リスクを放置して目的を壊す:クッション目的なのに非ヘッジで円高にやられる。逆に円安ヘッジ目的なのにヘッジ付きで効果が薄い。
失敗5:債券ETFの“回復メカニズム”を理解せずに投げる:金利上昇で下げた後、利回りが上がることで将来の回復力は増します。短期で損切りを繰り返すと、最悪のタイミングで売買してしまいます。
「安全資産としての債券ETF」チェックリスト
購入前に、以下を文章で説明できないなら、まだ買わない方がいいです。
①このETFのデュレーション(もしくは平均残存期間)はどれくらいで、金利+1%で概ね何%動くか。
②中身は国債か社債か、格付け分布はどうか。景気後退で株と同時に売られそうか。
③円ベースで守りたいのか、外貨を持ちたいのか。ヘッジの有無は目的と合っているか。
④あなたの資金の使用予定(1年以内/3年/10年)と整合しているか。
⑤評価損が出たときの行動ルール(買い増し/放置/入れ替え)を事前に決めたか。
実践ルール:債券ETFをポートフォリオの“部品”として管理する
債券ETFの運用は「買って放置」で成功することもありますが、目的がクッションや資金置き場なら、最低限のルール化が有効です。ここでは再現性が高い運用ルールを提示します。
ルール1:目的ごとにバケツを分ける:生活防衛(短期)・クッション(中期)・通貨分散(外貨)・インカム(信用)を混ぜない。同じ“債券”に見えて、役割が違うからです。
ルール2:デュレーション上限を決める:短期資金はデュレーション1〜2まで、クッションは中期中心、超長期は“オプション枠”として上限比率を決める。これだけで大事故を避けられます。
ルール3:リバランスは“価格”ではなく“比率”で行う:債券が下がったから売る、ではなく、株が上がって比率が膨らんだから債券を追加する、という比率基準のリバランスは合理的です。感情売買を減らします。
ルール4:ヘッジは“目的の維持装置”:ヘッジコストが気になるのは分かりますが、目的がクッションなら、為替で目的を壊す方が痛い。コストではなく目的達成で評価します。
まとめ:債券ETFは“安全”ではなく“設計すれば守りになる”
債券ETFを安全資産として語るなら、条件は明確です。短期資金には短期債、クッションには中期国債(目的によりヘッジ)、インカムは信用リスクとして扱い、為替は目的に合わせて管理する。これができれば、債券ETFはポートフォリオの安定性を高める強力な部品になります。
逆に、利回りだけで選ぶ、満期がないのに個別債券の感覚で持つ、目的が曖昧なまま買う——この3つをやると「債券なのに危険」という最悪の体験になります。債券ETFは、理解した人にだけ優しい道具です。理解した上で、あなたの資産設計に組み込んでください。
もう一段深掘り:価格下落後に“回復”が起きるロジック(ここを誤解すると損切り地獄)
債券ETFで最も重要な誤解は、「下がったら終わり」ではない点です。金利上昇で価格が下がる一方で、ファンドが保有する債券の利回りは上がり、時間が経つほど受取利息(クーポン)と入れ替え後の高利回り債への移行で、将来の期待リターンは改善します。
直感的にはこうです。金利が上がると、既存債券は値下がりしますが、同時に市場では“より高い利回りの債券”が存在するようになります。債券ETFは入れ替えを続けるため、一定期間を経るとポートフォリオが高利回り側へ移り、分配原資も増えます。つまり、価格下落は痛い一方で、その後の“稼ぐ力”は強くなります。
ただし回復に要する時間はデュレーションに概ね比例します。短期債なら回復が早く、中長期債は時間がかかります。だから短期資金に長期債を使うと「回復まで待てない」問題が致命傷になります。
利回りの見方:分配利回りより“最終的な稼ぐ力”を優先する
債券ETFには、分配利回り、SEC yield(米国ETF)、加重平均クーポン、償還までの利回り(YTM)など複数の指標が併存します。初心者は分配利回りだけを見て判断しがちですが、分配は過去のポートフォリオ構成の影響を強く受けます。金利が急上昇した直後は、価格が大きく下がっているのに分配が追いつかず、分配利回りが“低く見える”ことすらあります。
実践的には、①そのETFが保有する債券の平均利回りが上がっているか、②デュレーションがどれくらいか、③コスト(経費率)がどれくらいか、の3点で「将来の稼ぐ力」を推定します。短期で分配が多い/少ないは、ノイズであることが多いです。
ETF特有の論点:乖離率・流動性・再投資リスク
債券ETFは株式ETFに比べ、基礎資産(個別債券)の取引が相対的に不透明になりやすく、ストレス局面で一時的に価格が純資産(NAV)から乖離することがあります。通常は裁定取引で戻りますが、急変動時は“思った価格で売れない/買えない”が起こり得ます。
また、債券ETFは受け取った利息をファンド内で再投資します。金利が下がる局面では再投資利回りが低下し、将来の分配原資が減ることがあります。個別債券のようにクーポンを固定で受け取る感覚とはズレます。
このズレを吸収する最も堅い方法は、目的を短期・中期に限定し、流動性の高い大型ETF(出来高が多い)を選び、指値やスプレッドを意識して売買することです。細かいテクニックですが、長期で積み上げるほど効いてきます。
日本の個人投資家向け:税務と口座設計で“実質利回り”は大きく変わる
債券ETFのリターンは、①利息(分配)、②価格変動(譲渡益)、③為替差損益、の混合です。どこに課税されるか、どの口座で保有するかで、手取りが変わります。一般論として、課税口座では分配に課税がかかり、再投資効率が落ちます。非課税枠(NISA)では分配の複利効果を活かしやすい一方、短期売買を繰り返すと枠の効率が落ちます。
実務ではなく実践としての考え方は、「長期で持つ可能性が高い債券ETFほど非課税枠に寄せ、短期で入れ替える可能性が高いものは課税口座で機動的に」という発想です。特に“クッション目的”の債券は、株が大きく下げたときに売却して株を拾う役割が出るため、売却益の扱いまで含めて設計します。
ミニケーススタディ:3人の投資家の“正しい”債券ETFの持ち方
ケース1:30代・積立中心・リスク許容度高め:株比率が高いので、クッションは薄めで良い。中期国債(ヘッジ付き)を少量持ち、暴落時のリバランス弾として使う。短期資金は現金・短期商品で確保し、長期債を現金代わりにしない。
ケース2:40代・教育費が3年後に必要:最優先は元本変動の小ささ。短期債中心で、デュレーション上限を明確に。利回りを追わず、教育費の安全性を買う。クッション目的の中期債は別枠で小さく持つ。
ケース3:60代・生活費補填と値動きの安定が最重要:インカム目的の社債に寄り過ぎると景気後退で同時被弾する。中期国債+投資適格社債を組み合わせ、信用リスクを取り過ぎない。為替は生活通貨が円ならヘッジを基本とし、外貨は通貨分散枠として比率上限を決める。
最後に:買う前に“紙に書く”べき3行
債券ETFで勝ちやすい人は、銘柄選びより前に、次の3行を言語化しています。
1)この債券ETFは、私の資産の中で「何を守るため」に入れるのか。
2)金利・信用・為替のうち、どれを取り、どれを捨てるのか(捨てる=ヘッジする/短期化する)。
3)評価損が出たとき、私は“何もしない”のか、“買い増す”のか、“別のバケツに移す”のか。
この3行が決まれば、債券ETFは安全資産として機能しやすくなります。決まっていないなら、いま買う理由はありません。


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