債券ETFは「株より安全」というイメージで買われがちですが、実際には金利の変動に強烈に左右されます。特に長期債ETFは、株並みに値動きが荒れる局面があります。
そこで鍵になるのがデュレーション管理です。これは難しい数式遊びではなく、「金利が1%動いたら、だいたい価格が何%動くか」を把握して、ポートフォリオ全体のリスクを設計する技術です。
この記事は、投資経験が浅くても実務に落とし込めるように、考え方→計算→ETF選び→運用ルールまで、具体例ベースで徹底的に解説します。
- デュレーションとは何か:1%で何%動くかの「感度」
- なぜETFでデュレーション管理が重要になるのか
- まず押さえる3つの金利:政策金利・短期金利・長期金利
- 「デュレーションの長短」でETFを分類する:地図を作る
- 具体例:デュレーション7年と17年、何が違うか
- 初心者がやりがちな失敗:利回りだけ見て長期債ETFを買う
- デュレーション管理の目的を3つに分ける
- 実践ルール1:まず「許容損失」から逆算してデュレーションを決める
- 実践ルール2:債券ETFを「コア」と「サテライト」に分ける
- 実践ルール3:デュレーションを“組み合わせ”で作る(ラダー/バーベル)
- ラダー(はしご)構造:中間を厚くして再投資を平準化
- バーベル構造:短期で守り、長期でヘッジ/リターンを狙う
- ETF選びの見方:デュレーション以外にチェックする5項目
- 金利局面別のデュレーション運用:4つの代表シナリオ
- シナリオA:インフレ再燃で長期金利が上がる
- シナリオB:景気後退で長期金利が下がる
- シナリオC:政策金利は下がるが長期金利は下がらない(ベア・スティープ化)
- シナリオD:金利が横ばいでレンジ相場
- 「金利1%」は本当に1%か:ストレステストの設計
- 「デュレーションを短くすれば安全」は半分正しいが半分危険
- 個人投資家向け:デュレーション管理の具体的な運用テンプレ
- テンプレ1:保守型(債券を“安定枠”として使う)
- テンプレ2:標準型(分散の一部として債券を使う)
- テンプレ3:攻守両立(景気後退ヘッジを明確に取りに行く)
- “デュレーションを動かすトリガー”を決める:裁量を減らす
- 社債ETFを使うときの注意:デュレーション以外の爆発がある
- 日本の債券ETFで考える場合:金利が低くてもデュレーションは効く
- 為替ヘッジ有無とデュレーション:混ぜるなら役割を分ける
- よくある質問:デュレーションは毎日変わる?どれを信じる?
- まとめ:デュレーション管理は“債券ETFを危険物にしない”ための設計図
デュレーションとは何か:1%で何%動くかの「感度」
デュレーション(duration)は、ざっくり言うと金利変化に対する債券価格の感度です。厳密には複数定義がありますが、ETF運用で使うのは「修正デュレーション」に近いイメージで十分です。
基本の近似はこれです。
価格変化率(%) ≒ − デュレーション × 金利変化(%)
たとえば、デュレーション7年の債券ETFがあり、長期金利が+1.0%上がると、価格は概ね−7%下がる、という見立てになります(近似なのでズレます)。逆に金利が−1.0%下がれば、概ね+7%上がる方向です。
ここで重要なのは「債券は安全」というより、デュレーションの長短がリスク量そのものだという点です。株式のボラティリティを銘柄で選ぶのと同じで、債券ETFはデュレーションで選びます。
なぜETFでデュレーション管理が重要になるのか
個別債券なら「満期まで持てば額面で戻る」という直感があります。しかしETFは常に組み入れ債券を入れ替えるため、満期が来て終わる商品ではありません。つまり、金利上昇局面で値下がりしても「いつか満期で戻る」という救済は薄く、代わりにクーポン(利回り)上昇が時間をかけて回収します。
このため、ETF運用は「保有期間」を前提にした設計が必要です。短期で売買するなら価格変動が直撃しますし、中長期で持つなら「利回り上昇の恩恵」も加味した評価が必要です。
まず押さえる3つの金利:政策金利・短期金利・長期金利
初心者が最初に混乱するのが「金利ってどれ?」問題です。ETFに効くのは主に市場金利で、特にイールドカーブ(利回り曲線)のどの部分が動くかで損益が変わります。
ざっくり分けると次の3つです。
1) 政策金利:中央銀行が決める短期の基準。
2) 短期金利:1年〜3年程度の国債利回り。政策金利の影響が大きい。
3) 長期金利:10年〜30年程度の国債利回り。景気・インフレ期待・財政・需給で動く。
長期債ETF(例:20年超国債)を持っているのに、政策金利だけ見ていると判断を誤ります。ETFの「効く金利」を把握するのが、デュレーション管理の第一歩です。
「デュレーションの長短」でETFを分類する:地図を作る
実務では、債券ETFを「デュレーション帯」で棚卸しすると一気に理解が進みます。目安は以下です(厳密な年数は商品ごとに異なるため、目論見書やFactsheetのデュレーションを確認します)。
短期(0〜3年):価格変動が小さい。キャッシュ代替に近い。
中期(3〜7年):バランス型。金利感応度はそこそこ。
長期(7〜15年):金利局面で値動きが大きい。
超長期(15年〜):金利の方向性次第で株並みに暴れる。
ここで「債券=守り」のイメージが崩れます。超長期債ETFは守りではなく、金利に賭けるレバレッジに近い性質があります。
具体例:デュレーション7年と17年、何が違うか
同じ「国債ETF」でも、デュレーションが違えば別商品です。イメージが湧くように数値で見ます。
ケースA:デュレーション7年のETF(中期〜長期)
ケースB:デュレーション17年のETF(超長期)
長期金利が+0.5%上昇した場合:
ケースA:価格変化率 ≒ −7 × 0.5% = −3.5%
ケースB:価格変化率 ≒ −17 × 0.5% = −8.5%
この差は致命的です。株のポジションサイズを2倍にするのと同じくらい、リスクが跳ねます。しかも債券ETFは「分散されているから安全」と錯覚しやすい。だからこそ、デュレーションが管理指標になります。
初心者がやりがちな失敗:利回りだけ見て長期債ETFを買う
金利が上がる局面では、長期債ETFの分配利回り(または利回り表示)が魅力的に見えます。しかし、その利回りは「今後の金利水準」を反映した結果であり、金利上昇の途中で買うと、まず価格下落を食らうことが多いです。
ここで重要なのは「どの損益を許容して、何を狙うか」です。短期〜中期債ETFでボラティリティを抑え、長期債は金利低下局面(あるいは景気後退リスクヘッジ)として位置づける、という設計が現実的です。
デュレーション管理の目的を3つに分ける
「デュレーションを短くする/長くする」は手段です。目的を言語化すると、判断がブレません。目的は大きく3つです。
目的1:金利上昇局面でのドローダウン抑制
→長期債を減らし、短期債やキャッシュに寄せる。
目的2:景気後退・リスクオフ時のクッション
→株が落ちる局面で長期金利が低下しやすいなら、長期債を持つ意味がある。
目的3:ポートフォリオの「金利ベット」を明確化
→長期債ETFを持つなら「金利低下に賭けている」ことを自覚する。
実践ルール1:まず「許容損失」から逆算してデュレーションを決める
投資は結局、リスク許容度のゲームです。債券ETFも同じで、まず「金利が急変したら、どのくらいの損失が出ると困るか」を決めます。
例えば「債券部分だけで最大−5%まで」を許容するとします。ストレスとして「金利+1%」を置くなら、近似式から許容デュレーションは5年程度です(−5% ≒ −D×1% → D≒5)。
つまり、債券部分を超長期債ETF中心にすると、許容損失を簡単に超えます。初心者はここを数値で縛ったほうが、事故りにくいです。
実践ルール2:債券ETFを「コア」と「サテライト」に分ける
デュレーション管理は、株式のコア・サテライトと同じ発想が有効です。
コア:短期〜中期債ETFで安定性を確保(デュレーション短め)。
サテライト:長期債ETFを必要なときだけ上乗せ(景気後退ヘッジ、リスクオフ対応)。
これにより「常に長期債を握って金利上昇に焼かれる」という構造を避けられます。サテライトは「いつでも外せる」設計にするのがコツです。
実践ルール3:デュレーションを“組み合わせ”で作る(ラダー/バーベル)
ETFは1本で完結させる必要はありません。複数ETFで目的のデュレーション帯を作れます。ここが個人投資家の強みです。
ラダー(はしご)構造:中間を厚くして再投資を平準化
ラダーは満期(あるいはデュレーション帯)を分散し、金利変動の影響を平均化する考え方です。ETFでやるなら、短期・中期・長期を一定比率で持ち、定期的にリバランスします。
例:短期40%+中期40%+長期20%
これで平均デュレーションを中庸にしつつ、リスクオフ時のクッションも残します。
バーベル構造:短期で守り、長期でヘッジ/リターンを狙う
バーベルは短期と長期を両極端に置き、中期を薄くする設計です。短期は金利上昇耐性、長期は景気後退ヘッジを担います。
例:短期70%+長期30%
このとき長期の比率は「株式の下落耐性をどれだけ作りたいか」で調整します。
ETF選びの見方:デュレーション以外にチェックする5項目
デュレーションが主役ですが、他の項目も無視できません。
1) 組み入れ債券の種類:国債か社債か。信用リスクを取るか。
2) 平均格付け:社債ETFなら投資適格かハイイールドかで別物。
3) 経費率:長期保有で効く。
4) 流動性(出来高・スプレッド):売買コストが増えると戦略が崩れる。
5) 分配方針:分配型か、内部留保型(再投資効率)か。
「長期債=国債で安全」ではなく、国債でもデュレーションが長いほど価格リスクが増える点に注意してください。
金利局面別のデュレーション運用:4つの代表シナリオ
ここからは「どう運用するか」を、局面別に設計します。未来は読めないので、シナリオで準備します。
シナリオA:インフレ再燃で長期金利が上がる
この局面では長期債ETFの値下がりが痛いので、基本は短期〜中期に寄せるのが安全です。具体的には、平均デュレーションを短くし、余力を残すイメージです。
ただし、利回り上昇は将来のリターン源泉でもあります。焦って全売りすると、金利ピークアウト後の反発を取り逃がします。ここで有効なのが「段階的にデュレーションを伸ばす」運用です。例えば、長期金利が一定の水準を超えたら長期債比率を少しずつ増やす、といったルール化です。
シナリオB:景気後退で長期金利が下がる
株が下がりやすい局面で、長期債は上がりやすい(絶対ではない)ため、ポートフォリオのクッションとして機能する可能性があります。株式比率が高い人ほど、長期債を一定持つ意味が出ます。
ただし「長期債が上がる前提」に賭けすぎると、リスクオフ局面でクレジット(社債)スプレッドが拡大して社債ETFが下がるなど、想定外の組み合わせが起きます。初心者のヘッジ用途なら、まず国債系で考えるのが無難です。
シナリオC:政策金利は下がるが長期金利は下がらない(ベア・スティープ化)
ここが落とし穴です。「利下げ=債券上昇」と決めつけると、長期債ETFで痛い目を見る典型です。財政懸念やインフレ期待が残ると、短期は下がっても長期は下がりにくく、カーブが立つことがあります。
この局面では、短期〜中期が相対的に有利です。長期債で取りに行くより、中期までのデュレーションで利下げ恩恵を取り、長期は慎重にという発想が現実的です。
シナリオD:金利が横ばいでレンジ相場
金利が方向感なく、上下を繰り返す局面では「当てに行く」より「取りこぼさない」設計が勝ちます。平均デュレーションを中庸にし、定期リバランスで価格変動を収益化します。
債券ETFは株ほど話題になりませんが、レンジ相場ではリバランスが効きやすい資産です。上下に振れるほど、機械的なリバランスが仕事をします。
「金利1%」は本当に1%か:ストレステストの設計
デュレーション管理の実務は、ストレス幅をどう置くかで難易度が変わります。現実の金利は、短期に0.5%〜1.5%動くことがあります。自分の投資期間が短いほど、ストレス幅は大きめに置くべきです。
おすすめは次の2段階です。
軽ストレス:金利±0.5%(通常変動)
重ストレス:金利±1.5%(イベント・急変)
この2つで、債券部分の想定損益を計算しておくと、暴落時にパニックになりにくいです。
「デュレーションを短くすれば安全」は半分正しいが半分危険
短期債ETFは価格変動が小さい反面、利回りが低くなりやすい、または利回り上昇の恩恵が薄いことがあります。短期に寄せすぎると、インフレ局面で実質リターンが厳しくなり、結果的に資産が目減りするリスクもあります。
だからデュレーション管理は「短くする」だけではなく、状況に応じて最適化するのが本質です。守るために短くし、取りに行くために伸ばす。その境界をルール化します。
個人投資家向け:デュレーション管理の具体的な運用テンプレ
ここからは、実際に回せるテンプレを提示します。銘柄名は例示で、同等のETFで置き換えて構いません(デュレーション帯を揃えるのが条件)。
テンプレ1:保守型(債券を“安定枠”として使う)
狙い:金利ショックに強く、キャッシュ代替に近い安定運用。
設計:短期80%+中期20%(平均デュレーションを低く保つ)
運用ルール:月1回、比率が±5%ずれたらリバランス。長期債は原則持たない。株が大きく下げたときだけ、例外的に長期債を10%まで追加してヘッジする(条件付き)。
テンプレ2:標準型(分散の一部として債券を使う)
狙い:金利局面を当てに行かず、ポートフォリオの変動を抑える。
設計:短期40%+中期40%+長期20%
運用ルール:四半期ごとにリバランス。長期金利が急上昇した局面では長期比率を一時的に10%まで下げ、価格が落ち着いたら戻す。これだけでもドローダウンが改善しやすい。
テンプレ3:攻守両立(景気後退ヘッジを明確に取りに行く)
狙い:株が崩れる局面で、債券が“本当に効く”可能性を最大化する。
設計:短期60%+長期40%(バーベル)
運用ルール:長期債比率は固定しない。株のバリュエーションと景気指標が悪化し始めたら長期比率を増やし、インフレ再燃・財政懸念が強い局面では削る。大事なのは「長期は常時コアにしない」ことです。
“デュレーションを動かすトリガー”を決める:裁量を減らす
個人投資家が負ける原因の多くは、情報過多による売買です。デュレーション管理でも同じなので、トリガーを決めて裁量を減らします。実務で使いやすいトリガー例は次です。
トリガー例1:長期金利が過去12か月レンジの上限付近 → 長期債比率を段階的に増やす準備。
トリガー例2:長期金利が急騰(例:1か月で+0.7%など) → まずデュレーション短縮で守る。
トリガー例3:株のボラ上昇+景気悪化シグナル → 長期債をヘッジとして追加。
重要なのは「正確に当てる」より「大外しを避ける」ことです。デュレーションは、当てに行く武器にも、事故を減らす保険にもなります。
社債ETFを使うときの注意:デュレーション以外の爆発がある
社債ETFは利回りが魅力ですが、リスクは金利だけではありません。景気後退局面では、国債金利が下がっても、信用スプレッドが拡大して社債価格が下がることがあります。つまり、「金利低下=上がる」が崩れやすいのが社債です。
社債ETFを組み込むなら、デュレーション管理に加えて「信用リスク(景気)」の管理も必要です。初心者は、まず国債ETFでデュレーションの感覚を掴んでからのほうが良いです。
日本の債券ETFで考える場合:金利が低くてもデュレーションは効く
日本の金利は長らく低位でしたが、それでもデュレーションの概念は有効です。むしろ金利が低いほど、わずかな上昇が価格に効きます。さらに、為替をまたぐ(米国債ETFを円で持つ)場合は、為替ヘッジの有無が損益の主役になることもあります。
この場合、管理すべきリスクは二段です。金利リスク(デュレーション)と為替リスク。どちらが主因かを切り分けられないと、運用が崩れます。
為替ヘッジ有無とデュレーション:混ぜるなら役割を分ける
米国債ETFを円投資家が買うと、ドル円の変動が効きます。為替ヘッジ付きは金利変動を純粋に取りやすい一方、ヘッジコストが利回りを削ることがあります。ヘッジなしは為替が収益源にも損失源にもなります。
現実的な折衷は、「ヘッジあり=金利リスク管理用」「ヘッジなし=外貨資産分散用」と役割を分けることです。1本のETFに全部を背負わせると、判断が曖昧になります。
よくある質問:デュレーションは毎日変わる?どれを信じる?
ETFのデュレーションは、組み入れ債券の入れ替えや金利水準の変化で動きます。とはいえ、日々の微差を追いかける必要はありません。実務では「短期・中期・長期のどこにいるか」が重要で、厳密な小数点以下は誤差です。
確認先は、運用会社のFactsheetや公式ページの数値が基本です。証券会社の表示は遅れたり簡略化されることがあります。
まとめ:デュレーション管理は“債券ETFを危険物にしない”ための設計図
債券ETFは、使い方次第で「安定資産」にも「金利ベットの武器」にもなります。その分かれ目がデュレーションです。
最後に、実務の要点を文章で整理します。まず、債券ETFは金利変動に反応し、デュレーションが長いほど値動きが大きい。次に、目的(守り・ヘッジ・金利ベット)を明確にし、許容損失からデュレーションを逆算する。さらに、コア(短期〜中期)とサテライト(長期)に分け、ラダーやバーベルで平均デュレーションを設計する。最後に、トリガーとリバランスルールで裁量を減らす。これが、個人投資家が債券ETFを“武器”として使うための現実的な方法です。
ここまでできれば、債券ETFは「よく分からないけど安全そう」から、「リスク量を設計して使う」へ変わります。そこから先は、あなたの投資期間と目標リターンに合わせて、最適なデュレーション帯をチューニングしてください。


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