暗号資産の価格は「ニュース」や「雰囲気」でも動きますが、長期で見ると最終的に効いてくるのは需給です。なかでも初心者が見落としがちな需給イベントが、トークンアンロック(ロック解除)です。これは、これまで売れなかった(市場に出てこなかった)トークンが、一定条件で売却可能になるイベントを指します。
アンロックは「必ず暴落するイベント」ではありません。ですが、供給が増えるのは事実で、しかも売り手の性質(チーム、VC、エアドロ受領者など)によっては、短期の売り圧が一気に出ます。この記事では、トークンアンロックを“怪談”として恐れるのではなく、供給増の量・タイミング・売り手の行動を数値で捉え、相場の読み筋を作る方法を、具体例付きで徹底解説します。
- トークンアンロックとは何か:まず「ロックされていた供給」が市場に出る話
- 初心者が混乱する3つの言葉:総供給・流通供給・希薄化
- アンロックの主な種類:誰のトークンが解除されるかで売り圧の質が変わる
- まず見るべきは「アンロック率」:流通供給に対して何%増えるか
- 次に見るべきは「出来高耐性」:市場が吸収できるかを現実の取引量で判断する
- 価格が下がるパターン、下がらないパターン:需給の“ズレ”がどこにあるか
- 初心者でもできる実務手順:アンロックを“数字”で読む5ステップ
- 具体例:架空トークンで“読み筋”を作る(数字の組み立て方)
- アンロックが“材料出尽くし”になりやすい条件:ショートの積み上がりを読む
- 逆に危険な条件:解除が“連続”する銘柄は下落が長引きやすい
- アンロック情報の“罠”:数字の見せ方に騙されない
- 初心者のためのリスク管理:アンロック相場で“やってはいけない”3つ
- アンロックを逆手に取る発想:価格ではなく「構造」を取りに行く
- チェックリスト:あなたの銘柄を5分で判定する(最低限これだけ)
- まとめ:アンロック分析は「枚数」ではなく「率」と「胃袋」で考える
- オンチェーンで“実際の売り”を確認する:アンロック後に見るべき入出金の流れ
- 板と時間帯の癖:同じアンロックでも“薄い時間”に崩れやすい
トークンアンロックとは何か:まず「ロックされていた供給」が市場に出る話
トークンアンロックは、トークンの一部が一定期間「ロック(売れない状態)」に置かれ、時間経過や条件達成で段階的に解除される仕組みです。プロジェクト側は、初期から大量のトークンが市場に流れ込んで価格が崩れるのを防いだり、開発継続のインセンティブを与えたりするためにロックを設計します。
重要なのは、アンロックは「供給の増加」であり、需給の片側(供給)だけが変化するイベントだという点です。需要が同時に増えるなら価格は保たれますし、需要が弱ければ供給増は価格の下押し要因になりやすい。つまり、アンロックを読む本質は“供給増に対して、需要と流動性が耐えられるか”の評価です。
初心者が混乱する3つの言葉:総供給・流通供給・希薄化
アンロック分析でまず整理すべきは、供給の定義です。用語が混ざると、数字を見ても判断できません。
総供給(Total Supply)は、すでに発行済みのトークン量です。バーン(焼却)で減る場合もあります。
最大供給(Max Supply)は、将来的に発行されうる上限です。
流通供給(Circulating Supply)は、市場で実際に売買に回りうる量です。ロック中の分は通常ここに含まれません。
アンロックが価格に効くのは、総供給よりも流通供給の増加です。流通供給が増える=市場で売れる量が増える、だからです。そして流通供給の増加によって、トークン1枚あたりの希少性が薄れることを、投資の世界では希薄化(Dilution)と呼びます。
アンロックの主な種類:誰のトークンが解除されるかで売り圧の質が変わる
同じ「供給増」でも、売り手の性格が違えば市場へのインパクトが変わります。典型例は次のとおりです。
チーム・創業者分:含み益が大きい場合、生活資金や税金支払い、リスク分散のために売却が出やすい。一方で、長期視点で保有し続けるケースもあり、必ずしも全量売りではありません。
投資家(VC)分:ファンドはIRRや回収期限があるため、一定のタイミングでキャッシュ化する動機が強めです。特にロック解除直後は「まず元本回収」が起きやすい。
エコシステム/インセンティブ:流動性マイニングや報酬配布が解除されるタイプ。受領者が多数で、小口の売りが継続的に出ることが多い。
財団・トレジャリー:運営資金のために売る場合もありますが、透明性が高いプロジェクトほど計画的にOTCや分割売却を行い、急激な売り圧を避ける傾向があります。
初心者がやりがちなのは、「アンロック量が多い=即売り圧」と短絡することです。実際には誰の分が解除されるのかで、売り圧の“即効性”が変わります。
まず見るべきは「アンロック率」:流通供給に対して何%増えるか
アンロックの量(枚数)だけ見ても、トークンの単位が違えば比較できません。そこで使うのがアンロック率です。
アンロック率(対流通供給)= 今回アンロックされる枚数 ÷ 現在の流通供給
例として、流通供給が1億枚のトークンが、月初に1,000万枚アンロックされるなら、アンロック率は10%です。これは「市場で売れる量が一気に10%増える」ことを意味し、需要が同じなら価格は下がりやすい構造です。
逆に、流通供給が10億枚で月のアンロックが1,000万枚なら1%です。これなら日々の出来高や新規需要で吸収できる可能性が高い。つまり、初心者の第一関門は「アンロック量を、流通供給に対する比率に落とす」ことです。
次に見るべきは「出来高耐性」:市場が吸収できるかを現実の取引量で判断する
供給増が価格を押すかどうかは、流通供給だけでなく流動性(どれだけ取引されているか)に依存します。そこで見るのが出来高耐性です。
出来高耐性(目安)= 今回アンロックの想定売却額 ÷ 直近平均の現物出来高(USD)
ここで“想定売却額”は、アンロック枚数×現在価格で近似します。もちろん全量が売られるわけではありませんが、上限評価として役立ちます。たとえば、アンロックが5,000万ドル相当で、現物出来高が1日あたり2,500万ドルなら、2日分の出来高に相当します。売りが集中すれば短期で吸収しきれず、価格が下方向に動きやすい状況です。
逆に、アンロックが5,000万ドルでも、現物出来高が5億ドルあるなら、相対的には軽い。初心者はこの「市場の胃袋(出来高)」を無視して、アンロック量だけで怯えたり突っ込んだりしがちです。
価格が下がるパターン、下がらないパターン:需給の“ズレ”がどこにあるか
アンロックが近づくと、相場の反応は大きく4パターンに分かれます。ここを理解すると、「アンロック=売り」という単純化から抜けられます。
パターンA:事前に下落し、当日はあまり動かない。市場が織り込み済みで、ショートも積み上がっている。解除当日に材料出尽くしで反発することもあります。
パターンB:事前は横ばい、解除直後に下落。参加者が過小評価していたか、実際に売りが強く出たケース。
パターンC:事前に上昇し、解除で急落。イベント前に“期待買い”が入り、解除で利益確定売りと実需売りが重なる。最も痛い形になりやすい。
パターンD:解除が来ても上昇(または堅い)。強い需要(上場、提携、プロダクト進捗、強い市場トレンド)が同時にあり、供給増を吸収したケース。
重要なのは、アンロックは単独で起きるわけではないことです。大抵の場合、同時期にマクロの流れ(BTCのトレンド、金利、リスクオン/オフ)や、プロジェクト固有のニュースが重なります。だからこそ、あなたが見るべきは「アンロックという供給増に対して、いま需要の側が強いのか弱いのか」です。
初心者でもできる実務手順:アンロックを“数字”で読む5ステップ
ここからは、明日から使える手順に落とします。難しいモデリングは不要です。最低限の数字を集めて、判断の一貫性を作ります。
ステップ1:アンロック日程と内訳を拾う
見るべきは「次の解除がいつか」「何枚か」「どのカテゴリ(チーム/VC/報酬など)か」です。公式のトークノミクス資料、ダッシュボード、アナウンス、オンチェーンのベスティングコントラクトが一次情報です。二次サイトのカレンダーは便利ですが、誤差があるので最終確認は一次情報で行います。
ステップ2:流通供給とアンロック率を計算する
流通供給は主要データサイトのCirculating Supplyで足ります。アンロック枚数÷流通供給で率を出し、「1回で何%増えるのか」を把握します。初心者はここだけで視界がかなりクリアになります。
ステップ3:出来高耐性を計算する
直近7日〜30日の平均現物出来高(USD)を取り、アンロックの想定売却額が何日分かを見ます。出来高が薄い銘柄ほど、少しの売りで価格が歪みます。
ステップ4:売り手の“売る動機”を推定する
VCなら回収期限、チームなら税金・生活資金・分散、報酬なら受領者の短期現金化が起点になります。ここは定量化が難しいので、あなたは「売り圧が出やすい順」を自分の中でルール化します。例:報酬>VC>チーム>財団、のように。
ステップ5:需給に合わせてポジションサイズと時間軸を調整する
アンロック率が大きく、出来高が薄く、売り手が売りやすいなら、短期のボラティリティが上がる想定になります。逆に、アンロック率が小さく、出来高が厚く、売り手が長期志向なら、アンロックを過度に恐れる必要は薄い。
具体例:架空トークンで“読み筋”を作る(数字の組み立て方)
ここでは架空の「ALP」というトークンで、読み筋の作り方を示します。実銘柄を決め打ちしないのは、あなたが手元の銘柄に同じ手順を移植できるようにするためです。
前提:ALPの流通供給は2億枚、価格は0.50ドル。月末に2,000万枚がアンロックされる(内訳:VC 1,200万、チーム 800万)。直近の現物出来高は1日平均3,000万ドル。
まずアンロック率は2,000万÷2億=10%。これは供給増として重い部類です。次に想定売却額は2,000万×0.50=1,000万ドル。出来高耐性は1,000万÷3,000万=0.33日分なので、出来高だけ見ると吸収は可能そうに見えます。
しかし内訳がVC中心です。VCは解除直後にある程度売る動機が強いことが多く、売りは「短期間に集中しやすい」。この場合、市場が吸収できる“平均出来高”があっても、実際の売りが数時間〜1日に偏れば、板の薄い時間帯に価格が急落することがあります。
この読み筋から導けるのは、「解除直前に上げているなら利確が出やすい」「解除当日は流動性の高い時間帯を避けないと滑る」「急落時の反発もあり得るが、安易な逆張りは危険」というような、行動上の注意点です。ここで大事なのは“当てる”ではなく、相場が荒れたときに破綻しない前提を作ることです。
アンロックが“材料出尽くし”になりやすい条件:ショートの積み上がりを読む
アンロック前に価格が下がり続けるのに、解除後に反発する場面があります。理由は単純で、ショートが溜まっているからです。解除が来ても追加の悪材料がなければ、ショートカバーが入りやすい。
初心者がここでやるべきは、難しい指標を追うことではなく、「市場がすでに悲観に寄っているか」を定性的にチェックすることです。たとえば、SNSやコミュニティがアンロックの恐怖で埋まり、価格がサポートを割っても出来高が細り、先物の資金調達がショート優勢に偏るといった状況は、“織り込みが進んでいる”可能性があります。
もちろん、これは反発を保証しません。ですが、アンロック分析に「参加者ポジション」を加えると、単純な需給計算より現実に近づきます。
逆に危険な条件:解除が“連続”する銘柄は下落が長引きやすい
初心者が最も損失を出しやすいのは、単発アンロックではなく、毎週・毎月の連続アンロックが続く銘柄です。なぜなら、反発しても上値でまた供給が出るため、上昇トレンドが育ちにくいからです。
ここで見るべきは「今後3〜6か月のアンロックカレンダー」です。単月だけ軽く見えても、次月も同程度、さらにその次も…となると、需給の天井が低くなります。相場の上昇局面では伸び負け、下落局面では下げが深くなりやすい。これが連続アンロックの基本構造です。
アンロック情報の“罠”:数字の見せ方に騙されない
トークノミクス資料は、投資家向けに見栄えよく作られます。初心者が引っかかる典型的な罠は次のとおりです。
「総供給に対して小さい」アピール:総供給が大きいと、アンロックの割合が小さく見えます。しかし価格に効くのは流通供給に対してです。
「長期ロック」アピール:ロック期間が長くても、解除後の分配が短期間(例:3か月で一気に解除)ならショックが大きい。
「ユーティリティがある」アピール:ユーティリティは需要を生みうるが、実際にユーザーが増えていないなら需給は改善しない。データで確認する必要があります。
あなたがやるべきことは、資料の見せ方ではなく、流通供給の増え方と市場の胃袋に翻訳することです。
初心者のためのリスク管理:アンロック相場で“やってはいけない”3つ
アンロック期の相場は、通常よりもボラティリティが上がりやすく、感情で動くと負けます。初心者が避けるべき行動を、理由付きで挙げます。
1. レバレッジで当てに行く
アンロックの値動きは「時間帯」と「板の厚さ」で歪みます。正しい方向を見ていても、一瞬のヒゲでロスカットされることがある。レバレッジはこの歪みに弱い。
2. 解除直前の上げに飛び乗る
解除前は思惑で上がることがありますが、そこに“解除後の売り”がぶつかると急落しやすい。特に連続アンロック銘柄は上値が重いので、飛び乗りは期待値が悪化しやすい。
3. “安いから”だけで逆張りする
需給が崩れていると、安さはさらに安さを呼びます。逆張りするなら、少なくとも「売りが一巡した兆候(出来高の急増、下ヒゲ、ニュースの出尽くし)」など、何らかの条件が必要です。
アンロックを逆手に取る発想:価格ではなく「構造」を取りに行く
ここまで読むと、アンロックは危険イベントに見えるかもしれません。しかし、相場で勝つ人は「イベントの構造」を利用します。初心者に現実的なのは次の2つの発想です。
発想1:銘柄選別に使う
同じテーマ(AI、L2、DeFiなど)でも、アンロックが軽い銘柄は上昇局面で伸びやすい。まずは“需給が重い銘柄を避ける”だけで、無駄な損失を減らせます。
発想2:時間分散で受け止める
どうしても長期で持ちたいなら、アンロック前後のボラティリティを前提に、買いを複数回に分けます。単発でエントリーするより、価格の歪みに巻き込まれにくい。
チェックリスト:あなたの銘柄を5分で判定する(最低限これだけ)
最後に、最低限のチェックリストを文章でまとめます。以下の問いに答えられない銘柄は、アンロック局面で不用意に触らない方が安全です。
・次のアンロック日はいつか。何枚解除されるのか。
・それは流通供給の何%か(アンロック率)。
・想定売却額は直近出来高の何日分か(出来高耐性)。
・解除の内訳は何か(VC/チーム/報酬/財団)。
・今後3〜6か月で同様の解除が続くか(連続性)。
・市場全体(BTC等)がリスクオンかリスクオフか(需要の地合い)。
アンロックは“当て物”ではなく、銘柄の需給構造を見抜くレンズです。あなたがこのレンズを持てば、値動きの理由が説明できるようになり、無駄な売買が減り、長期でも短期でも意思決定の質が上がります。
まとめ:アンロック分析は「枚数」ではなく「率」と「胃袋」で考える
トークンアンロックは、暗号資産特有の供給イベントです。怖いのは事実ですが、怖いからこそ、初心者が体系化しやすい分野でもあります。ポイントは3つだけです。アンロック率(対流通供給)、出来高耐性(市場の胃袋)、そして売り手の性質。この3点に落とせば、情報が整理され、相場の反応が“理解できる形”になります。
あなたの次の一手はシンプルです。保有・監視している銘柄について、次回のアンロックを調べ、率と出来高耐性を計算してください。数字が出た瞬間に、相場の見え方が変わります。
オンチェーンで“実際の売り”を確認する:アンロック後に見るべき入出金の流れ
アンロックは「売れるようになる」だけで、売ったかどうかは別問題です。ここで強い武器になるのがオンチェーン観測です。初心者でも、難しい解析をしなくても、“どこに動いたか”だけで売りの可能性を推定できます。
基本は次の順番です。まず、ベスティング(ロック)コントラクトや財団ウォレットなど、解除元アドレスを特定します。次に、解除直後にトークンがどこへ送られたかを追います。もし大量が取引所(CEX)の入金アドレスへ送られているなら、売却準備である可能性が上がります。逆に、マルチシグやコールドウォレットに留まる、あるいはステーキングコントラクトへ移動するなら、即時売りの可能性は下がります。
ここで注意したいのは、取引所アドレスは複雑で、単純に“それっぽいアドレス”を見て決めつけると誤判定します。初心者は、まずはエクスプローラー上でラベル付けされている有名取引所、または公表されている入金アドレスを手掛かりにし、確度が低い場合は「不明」として扱う方が賢明です。
板と時間帯の癖:同じアンロックでも“薄い時間”に崩れやすい
暗号資産は24時間市場ですが、流動性は常に一定ではありません。一般に、欧米勢が動く時間帯は出来高が増え、アジアの早朝などは薄くなりやすい。アンロック当日に大口の売りが薄い時間に出ると、平均出来高が十分でも価格が一段下にワープすることがあります。
初心者ができる対策はシンプルで、「薄い時間帯に逆指値を置かない」、そして「成行を避け、指値を基本にする」ことです。アンロックの局面では、スプレッド拡大や一時的な板消失が起きやすく、成行は想定以上に不利約定になりやすい。これは需給というより市場構造の問題ですが、損失の原因として非常に多いポイントです。


コメント