アイアンコンドルは「当たる(勝率が高い)」だけで語られがちな戦略ですが、現実の損益は勝率×平均利益−敗率×平均損失−手数料で決まります。勝率を上げようとして建て方を雑にすると、たしかに勝率は上がる一方で、たった一回の負けがそれまでの小さな勝ちを全部吹き飛ばします。逆に、負けを小さく抑えようとして安全側に寄せ過ぎると、今度は受取プレミアムが薄くなり、手数料とスリッページに負けます。
本記事は、アイアンコンドルを「勝率の見せかけ」ではなく、期待値(エッジ)と破綻回避の両面から設計するための具体的なルール集です。初心者が迷いがちなポイント(どこに売るか、いつ建てるか、いつ閉じるか、サイズはどうするか)を、数式・指標・例で噛み砕きます。個別銘柄にも指数にも使えますが、説明は米国指数オプション(SPX/ES)や米国ETF(SPY/QQQ)を念頭に置きます。
- アイアンコンドルの構造:何を“売って”何を“買って”いるのか
- 勝率設計の本質:勝率を上げるほど期待値が下がる罠
- まず決めるべき3つの設計軸:Δ距離・満期・クレジット/リスク
- 設計軸1:売るストライクは“Δ(デルタ)”で決める
- 設計軸2:満期は“0DTE”ではなく「20〜45DTE」を基本にする
- 設計軸3:クレジット/最大損失(R)の比率を固定する
- IVと環境認識:同じ形でも“建てていい日”と“ダメな日”がある
- IVランク/IVパーセンタイルを使う
- イベントカレンダー:建てる前に必ずチェックする3つ
- 具体例:SPYで“標準形”コンドルを組む手順
- 利益確定ルール:50%利確が“単なる慣習”で終わらない理由
- 損切りルール:負けを小さくする“機械的”閾値を持つ
- 調整(ロール)は“損切りの先延ばし”にしない
- 勝率を“壊す”犯人:ガンマとギャップ、そしてボラ拡大
- ストライク幅(スプレッド幅)の決め方:幅が広いほど“プロ向け”になる
- ポジションサイズ:1回の最大損失を資金の何%にするか
- 勝率を上げる“フィルター”:コンドルを建てる前のチェックリスト
- “勝率”の定義をアップデートする:P(満期勝ち)ではなくP(ルール勝ち)
- バックテストの考え方:個人が現実的に検証するなら“擬似テスト”で十分
- よくある失敗パターンと処方箋
- 実戦テンプレ:初心者がそのまま使える“標準ルールセット”
- まとめ:勝率は“設計”できるが、設計の中心は期待値と破綻回避
アイアンコンドルの構造:何を“売って”何を“買って”いるのか
アイアンコンドルは、コール・スプレッド(コール売り+さらに外側のコール買い)と、プット・スプレッド(プット売り+さらに外側のプット買い)を同時に建てる戦略です。中心価格を挟んで上下に「売りの壁」を作り、価格がレンジに収まれば受取プレミアムが利益になります。
ここで重要なのは、あなたが売っているのは「方向」ではなく、値動きの大きさ(実現ボラ)です。市場が想定する将来の変動(IV)が高く、実際の値動き(RV)がそれより小さい局面で優位性が出ます。逆に、イベントで一方向に走る局面や、IVが低いのに後から荒れる局面は、戦略が根本的に不利になります。
勝率設計の本質:勝率を上げるほど期待値が下がる罠
「遠いストライクを売れば勝率が上がる」というのは事実です。しかし、そのときの受取プレミアムは薄くなり、勝率は上がっても期待値は上がらないことが多いです。なぜなら、オプション価格は(理想化すれば)確率に応じて決まるからです。市場が合理的なら、単に遠くを売ってもエッジは生まれません。エッジが生まれるのは、主に次のような「歪み」があるときです。
(1)IVが過大(リスクプレミアム):投資家は下落を恐れ、保険(プット)に割高なプレミアムを支払いがちです。
(2)イベント後のIVクラッシュ:決算・FOMCなどが過ぎると、IVが急低下して売り手が得をします。
(3)需給で歪むスキュー:OTMプットが特に高い、などの構造があると、同じ“確率距離”でも受取が厚くなることがあります。
まず決めるべき3つの設計軸:Δ距離・満期・クレジット/リスク
勝率設計を「感覚」から「ルール」へ落とすには、まず3つの軸を固定します。
設計軸1:売るストライクは“Δ(デルタ)”で決める
初心者がよくやるのは「何ドル離す」「何%離す」で売ることですが、銘柄ごとのIVや時間価値が違うため再現性が落ちます。そこで、売るストライクはデルタ(|Δ|)で揃えます。デルタは粗い確率の代理変数として使えます(厳密には同値ではありませんが、運用上の目安として強力です)。
実戦的な初期設定は次の通りです。
・基本形(バランス型):売りストライク |Δ|=0.15〜0.20
勝率は高めだが、クレジットも残る。迷ったらここから。
・防御寄り(高勝率・低リターン):|Δ|=0.10〜0.15
“当たりやすい”が、薄利で手数料負けしやすい。
・攻め寄り(中勝率・高クレジット):|Δ|=0.20〜0.25
勝率は落ちるが、1回の勝ちが大きい。損切りルール必須。
なお、上下のΔを対称にする必要はありません。多くの市場では下落側(プット側)にスキューがあり、同じ|Δ|でもプットの受取が厚い傾向があります。そこでプット側を少し遠め(|Δ|小さめ)にし、コール側を少し近めにしてクレジットを稼ぐ、という非対称設計が成立します。
設計軸2:満期は“0DTE”ではなく「20〜45DTE」を基本にする
0DTEはガンマが極端に大きく、短時間で損失が膨らみます。初心者が安定運用を狙うなら、まずは20〜45DTE(満期まで20〜45日)を基本にしてください。この帯域は、時間価値(シータ)がそこそこありつつ、ガンマがまだ暴力的になり過ぎないため、調整と撤退が効きます。
さらに実務上は、建てるのは45DTE前後、クローズは21DTE前後のルールが扱いやすいです。理由は2つあります。
(1)21DTEを切るとガンマが急増し、急変に弱くなる。
(2)早めに利益確定して次のサイクルへ回す方が、テール負け(大負け)の頻度を下げやすい。
設計軸3:クレジット/最大損失(R)の比率を固定する
勝率を語る前に、まず「負けたときにどれだけ失うか」を固定するべきです。アイアンコンドルの最大損失は、片側スプレッド幅−受取クレジットで概算できます。ここで、受取クレジットを最大損失に対して何%確保するかをルール化します。
実戦の目安は以下です。
・保守:クレジットがスプレッド幅の20〜25%
・標準:25〜35%
・攻め:35〜45%
クレジットが薄すぎる(例:15%未満)なら、勝っても利益が残りにくく、テールで死にやすいです。逆にクレジットが厚すぎると、売りが近くて負けやすい。標準帯を基本にし、IVが高い局面だけ保守寄りにしてもクレジットが取れる、という発想が合理的です。
IVと環境認識:同じ形でも“建てていい日”と“ダメな日”がある
アイアンコンドルの期待値は、ほぼIVの水準とIVの変化で決まります。ここを雑にすると、ストライクや幅をいくら工夫しても勝率が崩れます。
IVランク/IVパーセンタイルを使う
IVが「高い/低い」を主観で判断すると事故ります。そこでIVランク(過去レンジ内の位置)やIVパーセンタイル(過去N日での順位)を使います。運用ルールとしては、たとえば次のように決めます。
・仕掛け優先:IVパーセンタイル 50以上
・強気に仕掛け:70以上
・見送り:30未満
IVが低い局面は、受取が薄いだけでなく、後からIVが上がったときに含み損が一気に拡大します。つまり“売りの逆風”です。低IVのときは、コンドルをやるならロングボラ(買い)系に切り替えるか、そもそも休む判断が有効です。
イベントカレンダー:建てる前に必ずチェックする3つ
次のイベントを跨ぐと、レンジ前提が崩れます。
・FOMC/重要統計(雇用統計、CPI等)
・指数の決算集中週(大型テック決算)
・個別銘柄なら決算
「イベントでIVが高いから売りたい」気持ちは分かりますが、イベント後に大きくギャップすると、最大損失に近い負け方をします。初心者の現実的ルールは、イベントを跨がない(または跨ぐならサイズを半分以下)です。
具体例:SPYで“標準形”コンドルを組む手順
ここでは例として、満期35DTE、売りストライク|Δ|=0.16、スプレッド幅は各5ドル、受取クレジットはスプレッド幅の30%を目標、という標準形を組みます。
手順は次です。
(1)満期35DTEを選ぶ。
(2)プット側:Δ=-0.16近辺のストライクを売り、さらに外側に5ドル離して買う。
(3)コール側:Δ=+0.16近辺のストライクを売り、さらに外側に5ドル離して買う。
(4)全体の受取クレジットが、片側幅5ドルに対して1.5ドル前後(=30%)取れているか確認。取れないなら、ストライクを少し近づけるのではなく、その日は見送るか、IVが上がるまで待つ。
(5)建てたら、利益確定と損切りのルールを同時に指値で置く。
利益確定ルール:50%利確が“単なる慣習”で終わらない理由
コンドルの利益は時間とともに増えますが、満額(クレジット100%)を狙うほど、残り期間のテールリスクを抱え続けます。多くの実務では、受取クレジットの50〜70%を回収したらクローズが合理的です。
例:受取1.50ドルなら、0.75ドルで買い戻して利確(50%)。
これで「残り0.75ドル」を取りに行く間に起きる暴落・急騰リスクを切れます。勝率設計の観点では、利確を早めるほど勝率は上がり、平均利益は下がります。したがって、勝率と平均利益の最適点を探る必要があります。初心者の安全運用ならまず50%利確で十分です。
損切りルール:負けを小さくする“機械的”閾値を持つ
コンドルで最悪なのは「含み損を見守って最大損失まで行く」ことです。勝率が高い戦略ほど、負け方が雑だと破綻します。そこで損切りは、感情ではなく閾値で決めます。
代表的なルールは2つです。
(A)クレジットの2倍で損切り:受取1.50なら、3.00で買い戻したら撤退。
(B)最大損失の50%で損切り:片側幅5ドル、受取1.50なら最大損失は3.50。損失が1.75に達したら撤退。
どちらも「小さく負ける」ためのルールです。初心者は(A)の方が運用が簡単です。
調整(ロール)は“損切りの先延ばし”にしない
コンドルの調整は魅力的に見えますが、初心者が手を出すと「負けを確定できずに期限を延ばす」だけになりがちです。調整をやるなら、調整した瞬間にリスクが下がっていることを定量で確認してください。
最低限のルールは次です。
・片側が試され、デルタが偏ったら反対側をクローズしてリスクを落とす
たとえば上方向に走ってコール側が危ないなら、先にプット側を利確してポジションを軽くし、残りをコールスプレッド(実質クレジットスプレッド)として管理する。これなら“両刃の剣”を片刃にできます。
一方で、満期を遠ざけるロールは、時間を買っているだけで、損失が消えるわけではありません。ロールするなら、(1)受取クレジットが十分に厚い、(2)新しい満期でIVが高い、(3)リスク単位が増えていない、の3条件を満たすときだけに限定するのが安全です。
勝率を“壊す”犯人:ガンマとギャップ、そしてボラ拡大
コンドルの負けは、だいたい次の3タイプです。
(1)終盤ガンマ負け:21DTEを切ってから急変し、短時間で損失が拡大。
対策:21DTEで強制クローズ、またはガンマが上がる前に利確。
(2)ギャップ負け:寄り付きで飛び、損切り注文が滑る。
対策:イベント跨ぎを避ける、サイズを落とす、指数(SPX)など現金決済・欧州型で早期行使リスクが少ない商品を検討。
(3)IV拡大負け:価格はレンジでもIVが上がって含み損。
対策:低IV局面で売らない、IVパーセンタイルでフィルタ。
ストライク幅(スプレッド幅)の決め方:幅が広いほど“プロ向け”になる
同じΔで売っても、買いのストライク(保険)をどれだけ遠くに置くかで、最大損失と必要証拠金が変わります。幅が広いほど最大損失が大きくなり、資金管理が難しくなります。一方で、幅が狭いと最大損失は小さいが、クレジットも薄くなりがちです。
初心者の実用ルールは、銘柄の1日ATR(平均的な1日の値幅)の1.0〜1.5倍程度を片側スプレッド幅の上限にすることです。たとえばATRが3ドルなら幅は3〜5ドル程度。これなら“想定外の1日”でも最大損失に直撃しづらい。
ポジションサイズ:1回の最大損失を資金の何%にするか
勝率設計の最終形は資金管理です。どれだけ良い設計でも、サイズが大きければ一撃で退場します。目安として、1回の最大損失(片側幅−クレジット)が、資金の0.5〜1.5%に収まるようにします。攻めても2%を超えない方が現実的です。
例:資金1000万円、最大損失が1回あたり7万円なら0.7%。このくらいなら連敗しても立て直せます。逆に最大損失が30万円(3%)だと、数回の事故で戦略寿命が尽きます。
勝率を上げる“フィルター”:コンドルを建てる前のチェックリスト
ここまでの内容を、建てる前のチェックリストに落とします。文章で書きますが、やることは単純です。
・IVパーセンタイルは50以上か(理想70以上)
受取が薄い局面は見送り。
・次の7日〜10日に大イベントがないか
跨ぐならサイズ半分以下、できれば回避。
・トレンドが強すぎないか(移動平均の傾き、ADXなど)
強トレンドはレンジ戦略の敵。トレンドが出ているときは、片側スプレッドに寄せるか、そもそもやらない。
・売りストライクは|Δ|0.15〜0.20に乗っているか
数値で揃えることで再現性を確保。
・クレジット/幅が25〜35%あるか
薄利でやらない。これは手数料負けとテール負けを避ける最低条件。
“勝率”の定義をアップデートする:P(満期勝ち)ではなくP(ルール勝ち)
多くの人が勝率を「満期まで持って勝つ確率」と捉えます。しかし、運用は利確・損切りを含むため、あなたが設計すべき勝率はP(ルールに従って利益で終える)です。50%利確を採用するなら、満期勝ちの確率より高くなります。逆に損切りを早めれば勝率は下がることもありますが、平均損失が小さくなることで期待値が上がる可能性があります。
この発想に立つと、勝率設計は次の分解ができます。
勝率(ルール)=勝ちトレードの割合
期待値=勝率×平均利益−敗率×平均損失−コスト
勝率だけを追うのではなく、平均損失とコストを同時に削ることが“プロの設計”です。
バックテストの考え方:個人が現実的に検証するなら“擬似テスト”で十分
オプションの厳密バックテストはデータが高価で大変です。しかし個人でも、次の擬似テストで十分に方向性を掴めます。
(1)期間を分ける:高IV期(危機・調整局面)と低IV期(平穏期)で分けて、成績がどう変わるかを見る。
(2)建てる条件を固定:DTE=45で建て、21でクローズ、|Δ|0.16、クレジット30%、利確50%、損切り2倍。ここを固定して検証する。
(3)コストを必ず入れる:手数料とスリッページを控えめに見積もっても入れる。薄利戦略はここで死にます。
重要なのは「最適化」ではなく、「このルールが環境で死ぬときはいつか」を掴むことです。低IV期で成績が悪いなら、IVフィルターを強める、もしくは低IV期は別戦略に切り替える、という運用設計に繋がります。
よくある失敗パターンと処方箋
失敗1:建てた直後に逆行して動揺し、ルール外の調整を連発する
処方箋:損切りラインを先に置く。損切りがあると、余計な判断が減ります。
失敗2:勝っているのに利確できず、最後に事故って吐き出す
処方箋:50%利確を機械化。勝ちの取りこぼしより、事故の回避が重要です。
失敗3:薄いクレジットで回し、コスト負けする
処方箋:クレジット/幅の最低ライン(例:25%)を守り、条件が悪ければ休む。
失敗4:0DTEで始めて、ガンマに焼かれる
処方箋:まず20〜45DTEで“時間”を味方にする。0DTEは別物です。
実戦テンプレ:初心者がそのまま使える“標準ルールセット”
最後に、この記事の内容を「テンプレ」に落としておきます。これをベースに、慣れてきたら1項目ずつ調整してください。
・対象:SPY/QQQなど流動性の高いもの(スプレッドが狭い)
・仕掛け:45DTEで建てる(±5日許容)
・売りストライク:プット|Δ|=0.14〜0.16、コール|Δ|=0.16〜0.18(やや非対称)
・買いストライク:売りから5ドル〜(ATR×1.0〜1.5を目安)
・クレジット:幅の25〜35%が取れるときだけ
・利確:受取の50%回収でクローズ
・損切り:建値の2倍でクローズ(例:受取1.50→3.00で撤退)
・時間撤退:21DTEで強制クローズ(利益が残っていても)
・IVフィルター:IVパーセンタイル50以上のみ(理想70以上)
・サイズ:最大損失が資金の0.5〜1.5%以内
まとめ:勝率は“設計”できるが、設計の中心は期待値と破綻回避
アイアンコンドルは、勝率を上げようと思えばいくらでも上げられます。しかしその代償として、利益が薄くなり、テール負けが濃くなります。したがって、勝率設計の中心は「当たりやすさ」ではなく、(1)IV環境の選別、(2)Δでの距離管理、(3)機械的な利確・損切り、(4)サイズ管理です。
この4つが揃うと、コンドルは“当て物”ではなく、レンジ相場でコツコツ削るための戦略になります。逆にどれか1つでも欠けると、たった数回の事故でそれまでの成果が消えます。まずは標準ルールセットで小さく回し、ログ(建値、IV、DTE、利確/損切り理由)を残しながら、あなたの市場・時間軸に合うように調整していくのが最短ルートです。


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