プット売りで「欲しい株を安く買う」:キャッシュセキュアード・プット取得戦略の設計と落とし穴

オプション戦略

プット売りは「オプションのプレミアム(保険料)を受け取る代わりに、株価が下がったら株を買う義務を負う」取引です。うまく使うと、単なる指値注文よりも有利に株式取得を狙えます。一方で、急落・ギャップ・流動性不足などで損失が膨らみやすく、設計が甘いと破壊力が大きい戦略でもあります。

この記事では、プット売りを「欲しい株を狙って買うための建設的な道具」として扱い、初心者でも理解できるレベルから、実際に運用できるレベルまで落とし込みます。結論から言うと、プット売りは“利回り商品”ではなく“取得プロセスの設計”です。株式の選定とリスク管理が9割です。

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プット売りは何をしているのか:指値注文との本質的な違い

まず「指値で買う」と「プットを売って買う」の違いを、誤解が起きない形で整理します。

指値注文は「株価がこの価格まで下がったら買う」というシンプルな条件です。一方、プット売りは「(満期までに)株価が権利行使価格(ストライク)を下回ると、あなたが買う側になる可能性が高い」という仕組みです。違いは2つあります。

1つ目は、プット売りは“条件付きの指値”に加えて“今すぐプレミアムが入る”点です。あなたは保険を売る側なので、保険料を先に受け取ります。結果として、実質的な取得単価は ストライク − 受け取ったプレミアム になります。

2つ目は、指値は「約定しなければ何も起きない」のに対し、プット売りは「約定(割当)しなくても、ポジションは時間と価格の影響を受け続ける」点です。相場が荒れると、損失や要求証拠金が膨らむことがあります。

超基本:プット売りの損益構造を“数字”でつかむ

例として、A社株が現在100ドルとします。あなたはストライク95ドル、満期30日、プレミアム2ドルのプットを1枚売りました(米国株オプションは通常100株分)。

このとき、あなたが受け取るプレミアムは 2ドル×100株=200ドル です。満期まで何もせずに持った場合の結果は大きく3つです。

ケース1:満期に株価が95ドル以上 → プットは価値0になり、あなたは200ドルをそのまま利益として確定します。株は買いません。

ケース2:満期に株価が94ドル → 原則として割当され、あなたは95ドルで100株を買う義務が発生します。市場価格は94ドルなので、含み損は(95−94)×100=100ドルですが、プレミアム200ドルを受け取っているので、トータルでは+100ドル相当です。

ケース3:満期に株価が80ドル → 95ドルで買う義務なので、(95−80)×100=1500ドルの含み損。プレミアム200ドルを差し引いても −1300ドルです。ここがプット売りの“破壊力”です。プレミアムは上限が小さく、下落リスクは大きい。

この損益の形を理解すると、プット売りが「小さな利益を積み上げる」ように見えても、実態は「大きな下落を引き受けている」ことが腹落ちします。

キャッシュセキュアード・プットとは:個人がまず採用すべき前提

プット売りには大きく2種類あります。

キャッシュセキュアード・プット:割当されたときに株を買えるだけの現金(または同等の余力)を確保してプットを売る。実質的に「買う準備ができた指値+保険料受取」です。

裸(マージン)プット:必要現金を満額は用意せず、証拠金だけで売る。相場急落時に追証・強制決済のリスクが急増します。

株を取得するのが目的なら、原則はキャッシュセキュアードで設計します。勝ち負けの以前に、運用の継続性が違います。裸売りは、取得戦略というよりレバレッジ取引です。

「どの株でやるか」が勝負の9割:対象銘柄の選定基準

プット売りの本質は「下落を引き受ける」ことです。つまり、下落局面で買わされても耐えられる銘柄でなければ成立しません。ここでの選定基準は、テクニカルよりファンダメンタルが主役になります。

(1)倒産・上場廃止リスクが低い:黒字が安定している、ネットキャッシュが厚い、資金調達が容易、ビジネスが景気に左右されにくい等。プット売りは“最悪ケース”が重要です。

(2)下落しても保有できる理由が明確:あなたがその株を欲しいと思う根拠(成長率、競争優位、配当、バリュエーションなど)が言語化できるか。言語化できない銘柄は、割当された瞬間に損切り衝動が出て、最も悪い形で行動しがちです。

(3)流動性が十分:オプションの出来高・建玉(OI)が薄い銘柄は、スプレッドが広くなりコストが跳ねます。プット売りは「入り口の価格」が期待値を左右します。

(4)イベントが少ない(または織り込める):決算、FDA承認、訴訟、M&Aなどはギャップ下落を呼びやすい。イベント前に売るなら、プレミアムが高い理由(=リスク)を理解した上で、サイズを落とすかストライクを深くします。

ストライクの決め方:デルタで“確率設計”する

プット売りのストライク決定は、感覚よりもデルタ(Δ)で管理すると安定します。デルタは厳密には「価格変化に対するオプション価格の感応度」ですが、実務上は“満期までにイン・ザ・マネーになる確率の近似”として使えます(市場の期待を反映した近似です)。

目安として、Δ=−0.30 付近は「割当される可能性がそこそこある」、Δ=−0.15 付近は「割当されにくいがプレミアムも薄い」、Δ=−0.40以上 は「プレミアムは厚いが買わされやすい」と捉えます。

株式取得が目的なら、よくある設計は次の2択です。

取得優先型:Δ=−0.30〜−0.40、期間は短め(14〜30日)。取得確率を上げ、プレミアムも確保する。

プレミアム優先型:Δ=−0.15〜−0.25、期間は短め(14〜30日)。“買えなくても良い”前提で、受け取りを積み上げる。

ただし、プレミアム優先型は「結局買えずに上昇して取り残される」リスクがあります。欲しい株なら、取り残されるくらいなら最初から現物を買う判断も合理的です。

期間の選び方:なぜ30〜45日がよく語られるのか

オプションには“時間価値の減り方”があり、満期が近づくほど加速します(一般にセータが効きやすい)。この性質から、30〜45日あたりは「時間価値がほどよく大きく、ロールもしやすい」とされます。

ただし、株式取得戦略では、あまり長い期間は避けた方が無難です。理由は単純で、長いほどイベントを跨ぎやすく、価格変動の累積が増えるからです。個人が扱うなら、まずは 14〜35日 の範囲で十分です。

一方、短すぎる(0〜7日)は、ガンマが強くなり(価格変化が損益に直撃しやすい)、運用は一気に難しくなります。特に0DTE近辺は“取得戦略”というより短期取引です。

IV(インプライド・ボラティリティ)とプレミアム:高いのには理由がある

プット売りを始める人が最初に陥る罠は「プレミアムが高い銘柄に飛びつく」ことです。IVが高い=市場が大きな変動を警戒している、という意味です。プレミアムはご褒美ではなく、リスクの値札です。

ここでの実務的な判断は、IVを「その銘柄の過去分布と比べて高いか」で見ることです。たとえば“通常はIV20%前後なのに、決算前でIV60%になっている”なら、プレミアムは厚いがギャップリスクも跳ねます。運用するなら、ストライクを深く、枚数を小さく、満期を短く、が基本です。

具体例:米国大型株でのキャッシュセキュアード・プット設計

例として、B社(大型株)が200ドル、あなたは「180ドルなら欲しい」とします。次のように設計します。

・ストライク:180ドル(Δ=−0.25前後を想定)
・満期:28日
・プレミアム:仮に3.00ドル

受け取るプレミアムは 3.00×100=300ドル。割当された場合の実質取得単価は 180−3=177ドルです。あなたの当初希望は「180なら欲しい」なので、実質は少し有利に取得できる設計です。

ここで重要なのは、必要な現金が 180×100=18,000ドル である点です。これを“確保した上で”売るのがキャッシュセキュアードです。確保できないなら、サイズが大きすぎます。

ロール(期限延長)という武器:逃げではなく、条件再設計

株価が下がってプットが含み損になったとき、多くの人は「満期まで放置して割当を受けるか、損切りするか」の二択だと思いがちです。実務では第三の選択肢としてロールがあります。

ロールは、現在の建玉を買い戻して(損失を確定させつつ)、より先の満期や別ストライクのプットを新規に売り、差分で追加プレミアムを得る行為です。要するに、条件を組み直して時間を買います。

ただしロールは万能ではありません。相場が暴落してIVが急騰すると、ロールで“見た目の損失”を先送りできても、実質的には下落を引き受け続けています。ロールするなら「この株を取得してもよい」という前提が揺らいでいないことが条件です。

割当後の運用:いわゆる“ホイール”の現実的な使い方

割当で株を取得した後、次にコールを売ってプレミアムを得る(カバードコール)運用は、よく“ホイール戦略”と呼ばれます。手順は単純です。

(1)プットを売って取得(またはプレミアムだけ得る)
(2)取得したらコールを売る(上昇すると売却される)
(3)売却されたら再びプットへ戻る

これは“レンジ相場に強い”と言われますが、現実には「強いトレンド上昇で上値を取り逃がす」「急落で株を抱え込み続ける」という欠点があります。ホイールは万能ではなく、あなたが中長期で欲しい銘柄 に限定するのが無難です。

最大の敵:ギャップ下落と流動性枯渇

プット売りで最も痛いのは、緩やかな下落ではなく “一晩で落ちる” ギャップです。決算ミス、規制、訴訟、事故、不正、地政学などで、翌日寄り付きが大幅安になると、プット売りは防御が難しくなります。

対策は、(1)イベントを避ける、(2)ストライクを深くする、(3)期間を短くする、(4)サイズを小さくする、の組み合わせです。特にサイズ管理が最重要です。「1枚なら耐えられる」が「5枚だと耐えられない」は普通に起きます。

また、流動性枯渇は地味に効きます。スプレッドが広いと、ロールや損切りのコストが跳ねます。出来高の薄い銘柄でプット売りを“利回り狙い”でやるのは危険です。

よくある誤解:プット売りは“低リスクで儲かる”のか

答えは明確で、低リスクではありません。見た目の勝率は高くなりやすいですが、その代わり尾っぽ(テール)の損失が大きい形になりやすいからです。勝率より、損失の形と資金管理が重要です。

さらに「プレミアムをもらっているから実質安く買えている」というのも半分正しく半分危険です。あなたは“値下げ”をもらっている代わりに、“下落リスクの一部”を買っている。これが本質です。

資金管理:個人が破綻しないための実務ルール

ここからが運用上の核心です。プット売りは戦略というより“規律”です。個人が現実的に守れる形に落とします。

ルール1:1銘柄あたりの最大取得額を決める
割当されると100株単位で取得するので、取得額が一気に跳ねます。たとえば「ポートフォリオの10%まで」と上限を決め、1枚あたりの取得額(ストライク×100)で逆算します。

ルール2:同時に売る枚数は“最悪ケース”で決める
最悪ケースは、割当されてもさらに20〜40%下がることです。これを想定しても耐えられる枚数に抑えます。耐えられないなら、そもそもその銘柄でやるべきではありません。

ルール3:複数銘柄でも相関を意識する
大型テックに分散したつもりでも、ショック局面では同時に落ちます。プット売りは“株式ベータを抱えやすい”。セクター分散と、現金比率を残す設計が重要です。

ルール4:満期まで放置を前提にしない
含み損が増える局面で「放置していれば戻る」は危険です。あなたのシナリオが崩れたなら、損失を受け入れて撤退する判断も必要です。撤退基準を事前に決めます。

実務の手順:建てる前に決める“3つの出口”

プット売りは入口(売る)より出口(閉じる)が難しいです。建てる前に、少なくとも次の3つの出口を決めておきます。

出口A:早期利益確定:プレミアムの70〜90%が取れたら買い戻す。残りの利益のためにテールリスクを抱え続けない。

出口B:割当受容:権利行使価格で株を買って保有に移行する。取得後の平均単価と、次に売るコールの方針も決める。

出口C:撤退:想定外の悪材料で前提が崩れたら、ロールせずに損切りして撤退する。損失の上限(例:取得額の数%)を置くと機械的に判断できる。

日本の個人投資家が押さえるべき論点:税務・口座・通貨

日本居住者が米国株オプションを扱う場合、次の論点が現実問題になります。

(1)税区分:オプション取引の損益区分や申告方法は、取引形態・口座・商品で変わります。証券会社の取扱いと年次報告を確認し、損益通算の可否も含めて把握します。

(2)為替リスク:円建て資産管理でも、損益はドルで動きます。株価が想定通りでも、円高で評価が目減りすることがあります。オプションは短期なので、為替ヘッジを“入れすぎる”とコストで損なう場合もあります。運用目的(取得なのか短期収益なのか)で整理します。

(3)証拠金・必要資金の表示:ブローカーごとに必要資金表示が異なることがあり、特にロール時は必要資金が増えるケースがあります。キャッシュセキュアードのつもりでも、同時建てになって一時的に余力を使うことがあります。

バックテストの考え方:勝率より“損失の形”を見る

プット売りの検証でありがちな失敗は、勝率や平均利益だけで評価することです。重要なのは、最大ドローダウン最悪月(最悪週) です。具体的には、リーマン級・コロナ級の急落でどうなったか、似たショックが来たら耐えられるかを見ます。

また、プレミアムはボラティリティに依存します。平穏期に稼げた戦略は、荒れた局面で構造が変わります。検証するなら「IVが低い時」「IVが高い時」を分け、ロールルールを含めて評価します。

失敗パターン集:これをやると事故る

(1)高IVの小型株で高プレミアムを追う:ギャップで一撃を食らいやすい。スプレッドも広く出口が悪い。

(2)1銘柄に集中して枚数を増やす:割当が重なると資金が詰む。取得後の下落で心理的にも詰む。

(3)“利回り”として月次目標を置く:目標を達成するためにリスクを上げ、最終的に大損しやすい。プット売りは目標ドリブンではなくルールドリブン。

(4)ロールで逃げ続ける:前提が崩れているのに時間だけ先送りし、最後に大きく損失を出す。ロールは条件再設計であり、現実逃避ではありません。

実装テンプレ:初心者がそのまま使える設計手順

最後に、再現性の高いテンプレートを提示します。これをベースに、あなたの銘柄と相場観で調整します。

ステップ1:欲しい価格を決める
「この株は○○ドル以下なら買う」と、バリュエーションやサポート水準で決めます。ここが曖昧だと、プット売りはただのギャンブルになります。

ステップ2:満期を14〜35日に置く
イベントが近いなら避ける。避けられないなら満期を短くし、ストライクを深くします。

ステップ3:デルタ−0.20〜−0.35でストライクを選ぶ
取得優先なら−0.30寄り、慎重なら−0.20寄り。プレミアムだけ欲しいなら、そもそも目的と矛盾していないか再確認します。

ステップ4:早期利益確定ルールを置く
受取プレミアムの80%が取れたら買い戻して終了、など。小さな利益のために長く居座らない。

ステップ5:割当された後の行動を決める
保有するなら、次に売るコールのストライク(上値目標)を決めます。保有したくないなら、そもそもその株でプットを売るべきではありません。

まとめ:プット売りは「株を買う」ための戦略であり、利回り商品ではない

プット売りで安定的に運用するコツは、派手なプレミアムを追わず、欲しい株を“欲しい価格”で取得するために使うことです。銘柄選定、デルタと期間の設計、そして最悪ケースでも耐える資金管理。これらが揃って初めて、プット売りは有効な道具になります。

逆に言うと、これらが揃わないなら、指値で現物を買う方がシンプルで事故が少ない。プット売りは万能ではありません。あなたの投資プロセスに組み込めるかどうか、ここを基準に判断してください。

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