クレジットスプレッド戦略の設計図:勝率と損益を“数式で”管理するオプション運用

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【DMM FX】入金

クレジットスプレッドとは何か:一言でいえば「保険料を取りつつ、最悪損失を上限固定する」

クレジットスプレッドは、オプションを「売る(プレミアムを受け取る)」と同時に、より外側のストライクを「買う」ことで、損失を有限に抑えた戦略です。代表例は、プットのクレジットスプレッド(ブル・プット・スプレッド)と、コールのクレジットスプレッド(ベア・コール・スプレッド)です。

単純なオプション売りは、見かけ上の勝率が高くても、極端なイベントで致命傷を負いやすい構造です。一方、クレジットスプレッドは、保険(買いオプション)を同時に持つことで、破滅リスクを「数値」で管理できる点が本質です。

損益の骨格:最大利益・最大損失・損益分岐点を3行で確定させる

まず、設計で迷ったら「この3つ」を紙に書きます。ここが曖昧なまま発注すると、負け方が最悪になります。

例:SPY(米国S&P500 ETF)でプットのクレジットスプレッド
・売り:ストライク 470P を売る(受取プレミアム 2.20)
・買い:ストライク 465P を買う(支払プレミアム 1.10)
・ネット受取(クレジット)= 2.20 − 1.10 = 1.10(= 110ドル/枚)
・スプレッド幅= 470 − 465 = 5(= 500ドル/枚)

最大利益=受取クレジット(110ドル/枚)
最大損失=スプレッド幅(500)−受取クレジット(110)=390ドル/枚
損益分岐点(満期)=売りストライク − 受取クレジット= 470 − 1.10=468.90

この時点で「勝っても+110、負けたら最大−390」です。勝率が高そうでも、負けたときのダメージが大きいなら、長期の残存確率で負けます。よってクレジットスプレッドは、勝率と損益比を“同時に”最適化するゲームです。

勝率を上げる最短手段:デルタを「確率の近似」として使う

初心者が最初にやるべきは、複雑なモデルより「デルタ」を実務の近似として使うことです。一般に、満期近くのアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)オプションのデルタの絶対値は、ざっくりと「そのストライクを割る確率」に近い挙動になります。

例えば、470Pのデルタが−0.20なら、「満期までに470を割る確率が約20%」という目安です(厳密には違いますが、意思決定には十分使えます)。プットのクレジットスプレッドでは、売りストライクをデルタ0.10〜0.25程度に置くと、勝率寄りの設計になりやすいです。

ただしデルタだけで決めると、地合いが悪い局面で“連敗”します。次章の「IV環境」とセットで使ってください。

本当に重要なのはIV環境:同じデルタでも「割高な保険料」を売る

クレジットスプレッドは、保険料を取る側です。つまり「市場が恐れているとき(IVが高いとき)」に優位性が出やすい一方で、「平穏(IVが低い)」で無理に売ると、もらえるクレジットが薄く、損益比が崩れます。

実務で見るべきは次の3点です。

① IVランク(IVR)/ IVパーセンタイル
過去に比べて現在のIVが高いほど、クレジットは厚くなります。理想はIVRが高い局面で、過度なギャップダウン直後など、恐怖が上乗せされたタイミングです。

② スキュー(プットが高いか)
株式指数は下落を恐れるためプットが高くなりやすい。ブル・プット・スプレッドは、この「下落保険の割高さ」を取りに行く戦略です。スキューが薄いときは、思ったより旨味が出ません。

③ 予定イベント(決算・FOMC・雇用統計など)
イベント前はIVが盛られ、イベント後にIVが落ちる(IVクラッシュ)ことがあります。クレジットスプレッドは、このIV低下が追い風になりますが、同時に価格が大きく動く可能性もあります。イベント跨ぎは、クレジットが厚い代わりに「ギャップ」のリスクが増えます。

満期(DTE)の選び方:短期はガンマ地獄、長期は資金効率が悪い

クレジットスプレッドの難所は、満期が近づくとガンマが急増し、価格が少し動いただけでP/Lが激しくぶれる点です。短期(例:7DTE以下)で売ると、勝率が高く見えても、数回の事故で利益を吐き出します。

一方、長期(例:90DTE超)は時間価値(セータ)の減衰が遅く、資金を拘束する割にリターンが薄く見えることが多いです。

実務では、30〜60DTEあたりがバランスが取りやすいゾーンです。さらに「利益確定を満期まで引っ張らない」ことでガンマ地獄を回避します(後述)。

設計の肝①:受取クレジットの“最低ライン”を決める

「デルタ0.20で売ったのに全然儲からない」問題は、スプレッド幅に対してクレジットが薄いのが原因です。目安として、次のように最低ラインを置くと設計が安定します。

受取クレジット / スプレッド幅(いわゆるクレジット率)を見ます。
・クレジット率が低すぎる(例:10%未満)→損益比が悪化し、連敗に弱い
・クレジット率が高すぎる(例:35%超)→リスクが大きい(市場が危険を示唆)

現実的には、15〜30%のレンジが設計しやすいことが多いです(銘柄・IV環境で変わります)。前の例では 1.10 / 5 = 22% で、悪くない部類です。

設計の肝②:スプレッド幅は「損切り設計」と「流動性」で決める

スプレッド幅を広げるほど、同じデルタでも最大損失が増えます。一方で、幅が狭すぎると、買いオプションのコスト比率が高くなり、受取クレジットが薄くなります。

初心者がまず選ぶべきは、流動性が高い銘柄(指数ETF、超大型株)で、板が厚いストライク間隔に合わせた幅です。板が薄いと、約定コスト(スリッページ)が期待値を削ります。クレジットスプレッドは、手数料よりもスリッページが致命傷になりやすいです。

また、幅は「損切りを実行できるか」で決めるべきです。幅が広いほど、損切りの閾値に到達する前に含み損が膨らみ、心理的に逃げ遅れます。

実例:ブル・プット・スプレッドの“勝ちやすい”局面の作り方

同じ銘柄でも、入る場所で成績は別物になります。勝ちやすい局面は、概ね次のセットです。

① 下落でIVが上がった → ② 支持帯で反発の兆し → ③ 売りストライクを支持帯の外側に置く

具体例として、指数が数日で急落し、VIXが跳ね、ニュースが悲観に偏った局面を想定します。ここで、テクニカルの支持帯(直近安値、移動平均、出来高の厚い価格帯)を確認し、「支持帯を割れたら撤退する」前提で、支持帯よりさらに下に売りストライクを置くと、確率設計がしやすくなります。

ポイントは、相場観で当てにいくのではなく、「支持帯が機能するなら高確率、機能しないなら早めに撤退」というプロトコルに落とすことです。

利益確定ルール:満期まで粘らない。50%で切り上げる発想

クレジットスプレッドの典型的な失敗は、「あと少しで満額だから」と粘り、最後の1〜2日で逆噴射を食らうことです。ガンマが最大化するのは満期直前で、そこが最も危険です。

実務では、受取クレジットの50〜70%を獲れたら早めにクローズというルールが機能しやすいです。
例:受取110ドルなら、55〜77ドルの利益で手仕舞いを検討する。
このルールは「勝率の維持」と「尾部リスクの回避」を同時に叶えます。

損切りルール:値動きではなく“建玉価格”で決めるのがブレない

損切りでよくあるのは、「どこまで下げたら損切り?」という価格ベースの悩みです。しかし、同じ価格でもIVが変わればオプション価格は変わります。よって、建玉の評価額(スプレッドの値段)でルール化するほうがブレません。

代表的なルールは次の2つです。

① クレジットの2倍で損切り
受取が1.10なら、スプレッド価格が2.20付近になったら損切り(損失は約−110ドル)。
勝率は上がりますが、損切り回数が増える場合もあります。

② 最大損失の50%で損切り
前例の最大損失390ドルの50%=195ドル付近で撤退。
事故を小さくしつつ、ノイズで切られにくい設計です。

どちらが良いかは、あなたのエントリー精度(入る場所)と銘柄のボラティリティで決まります。重要なのは、ルールを固定し、後から検証できる形にすることです。

ロール(延命)の是非:やるなら“時間を買う”と割り切る

クレジットスプレッドは、逆行したときにロール(満期を先送り、ストライク調整)で建て直す手が取れます。ただし、これは魔法ではありません。ロールは「時間を買う」行為であり、状況によっては損失を先送りするだけです。

ロールを使うなら、次の条件を満たすときに限定すると破綻しにくいです。

・基礎資産の見立て(レンジ回帰、支持帯)がまだ生きている
・IVが高い(ロール時にクレジットが得やすい)
・ロール後の新ポジションで、最大損失が許容内に収まる
・ロールのたびに「デルタが上がりすぎる(危険が増える)」形にしない

逆に、トレンド崩れが明確なのにロールを繰り返すのは、統計的に破滅しやすいです。撤退すべき局面で撤退しないと、スプレッドの“有限損失”の意味が消えます。

資金管理:最大損失を「口座の何%」に固定する

クレジットスプレッドは、最大損失が事前に分かるため、資金管理が非常にやりやすい戦略です。逆にここを守らないと、簡単に崩壊します。

基準として、1ポジションの最大損失を、口座資産の0.5〜2%程度に抑えると、連敗や急変動に耐えやすくなります。
例:口座1,000万円で最大損失を1%=10万円にするなら、最大損失390ドル(約6万円想定)のスプレッドは1枚が上限、2枚は過剰、という判断になります(為替や証拠金条件で変動)。

「どの市場で強いか」:レンジ〜緩やかなトレンドが最適

クレジットスプレッドが最も機能しやすいのは、レンジ、もしくは緩やかなトレンドです。急激なトレンド相場(暴落・急騰)は、スプレッドが一気にイン・ザ・マネーに入り、調整の猶予が消えます。

よって、運用の現場では「相場レジーム」をまず分類します。

低ボラ・持ち合い:クレジットが薄くなりがち(無理に売らない)
高ボラ・反転局面:クレジットが厚く、優位性が出やすい(ただしサイズ管理必須)
トレンド加速:スプレッドが捕まる(損切り・撤退を優先)

初心者は、トレンド加速相場でクレジットスプレッドを“逆張り”で連打しがちです。やるなら回数ではなく、厳選して一撃の期待値を上げる方が合理的です。

よくある誤解:勝率が高い=儲かる、ではない

クレジットスプレッドは勝率が高く見える戦略です。しかし、最重要は「損益比×勝率×回数」で決まるトータルの期待値です。勝率が90%でも、10%の負けが致命傷なら、長期では負けます。

初心者がまずやるべきは、スプレッドを組むたびに、以下をテンプレとして記録することです。

・売りデルタ、DTE、IVR、スプレッド幅、受取クレジット、最大損失
・利確(何%でクローズしたか)/損切り(何倍で切ったか)
・入った理由(支持帯、イベント、レジーム判断)

この記録があると、「自分はどの局面で勝てるか/負けるか」が見えてきます。オプションは“知識”より“検証”が強いです。

実務プロトコル:初心者が破綻しないためのチェックリスト

最後に、運用を機械化するためのチェックリストを提示します。これを満たさない取引は、見送ったほうが成績が良くなることが多いです。

① 銘柄は流動性が高いか(指数ETF・超大型株か)
② DTEは30〜60程度か(満期直前のガンマを避ける)
③ IV環境は高いか(IVR/パーセンタイルを確認)
④ クレジット率は15〜30%程度か(薄すぎないか)
⑤ 最大損失は口座の許容%に収まるか(サイズ過多でないか)
⑥ 利確ルール(50〜70%)と損切りルール(2倍等)が事前に決まっているか
⑦ イベント跨ぎの意図は明確か(ギャップを許容できるか)

この戦略は「当てる」より「崩れない」ことが価値です。崩れなければ、勝率と時間価値の積み上げで、結果としてリターンが残ります。

まとめ:クレジットスプレッドは“保険料ビジネス”。だから設計と管理がすべて

クレジットスプレッドは、単なるオプションのテクニックではありません。確率(デルタ)・価格(クレジット率)・環境(IV)・時間(DTE)・資金(最大損失)を一枚の設計図に落とし込む「運用プロセス」です。

最初は小さく、ルール固定で検証し、勝てる局面だけを増やす。この順番を守れば、初心者でも“破綻しない”ところから到達できます。利益はその副産物として付いてきます。

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