トークンアンロックで崩れる需給:ベスティング解除を先回りする暗号資産の供給ショック分析

暗号資産

暗号資産の価格は「需要が増えた/減った」だけで決まりません。現実には、供給がいつ・どれだけ・誰の手元に出てくるかが、短期〜中期の値動きを大きく歪めます。その代表がトークンアンロック(ベスティング解除)です。

多くのプロジェクトは、初期投資家(VC)、チーム、アドバイザー、財団、エコシステム報酬などにトークンを配分し、一定期間ロックして段階的に解除します。解除されるトークンは、売却されれば供給増として価格を押し下げますし、売却されなくても「売り圧力の潜在在庫」として市場心理を冷やします。

ここでは、初心者でも再現できるように、アンロックを(1)需給(2)参加者行動(3)データと手順の順に分解し、最後に実運用の意思決定フレームまで落とし込みます。結論だけ欲しい人向けに先に言うと、アンロックは「イベント」ではなく供給構造そのものであり、見誤るとFDV(完全希薄化後評価額)の罠に落ちます。

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  1. トークンアンロックとは何か:価格に効くのは「解除量」より「解除の性質」
  2. なぜアンロックは効くのか:希薄化の「事実」より需給の「タイミング」
  3. アンロックのパターン分類:価格に効く4タイプ
    1. タイプA:巨大なクリフ解除(Cliff)
    2. タイプB:毎月定額の機械的解除
    3. タイプC:報酬系の恒常売り(エコシステム・インセンティブ)
    4. タイプD:裁量的な放出(財団・運営資金)
  4. まず見るべき一次情報:トークノミクス文書の読み方
  5. 「FDVの罠」:流通供給が小さい銘柄ほどアンロックが致命傷になりやすい
  6. 価格インパクトの定量化:3つの比率で「効きやすさ」を測る
    1. ①解除量 ÷ 30日平均現物出来高
    2. ②解除量 ÷ 流通供給量
    3. ③解除量の「売却可能性係数」
  7. イベント前後の値動きパターン:ありがちな3シナリオ
    1. シナリオ1:事前下げ→当日反発(噂で売って事実で買う)
    2. シナリオ2:当日無風→数日遅れて下落
    3. シナリオ3:解除と同時に上昇(需給よりストーリーが勝つ)
  8. オンチェーンで追う:初心者でもできる「送金の見張り方」
  9. 実運用のフレーム:アンロック銘柄を触る前の「5つの質問」
  10. 具体例で理解する:架空プロジェクト「ALPHA」のアンロックを読む
  11. よくある誤解と落とし穴
  12. アンロック局面のリスク管理:個人投資家が守るべき最小ルール
  13. まとめ:アンロックは「需給ショックのカレンダー」ではなく「供給構造の監査」

トークンアンロックとは何か:価格に効くのは「解除量」より「解除の性質」

トークンアンロックは、ロックされていたトークンが流通可能になることです。ニュースやカレンダーでは「○月○日に○○%解除」と単純に扱われがちですが、実務で効くのは次の3点です。

①解除の受け取り手は誰か:VC・チーム・財団・コミュニティなど、売りやすさが違います。VCはファンドの償還やIRR目標で売りが出やすい一方、財団は運営資金として計画的に売ることが多い。コミュニティ報酬は小口が分散しやすく、売りはジワジワ出がちです。

②解除される形は何か:即時にウォレットへ送られるのか、まず財団のコントラクトへ入り、そこから段階的に配布されるのか。移動が「段階」を持つと、市場への到達速度が変わります。

③解除が市場のどこに当たるか:現物の板の薄さ、先物建玉、資金調達率、出来高の季節性で影響は変わります。出来高が薄い局面の解除は、量が小さくても効きます。

なぜアンロックは効くのか:希薄化の「事実」より需給の「タイミング」

アンロックは希薄化(dilution)と混同されますが、希薄化は会計的・評価的な概念で、価格形成に直接効くのは需給のタイミングです。

例を挙げます。あるトークンが時価総額100億円、日次出来高5億円、流通供給量が1億枚だとします。ここで1週間にわたり1000万枚が解除される(流通供給の+10%)としても、解除分が全部売られるとは限りません。しかし「売られるかもしれない」という期待が先に動き、買い手が様子見になり、板が薄くなる。その結果、少量の成行売りでも下がりやすい地合いが出来上がります。

つまり、アンロックは「供給増」だけでなく、流動性の低下リスクプレミアム上昇(買い手が要求する割引率の上昇)として二重に効きます。

アンロックのパターン分類:価格に効く4タイプ

経験上、アンロックは次の4タイプに分けると読みやすくなります。

タイプA:巨大なクリフ解除(Cliff)

一定期間ゼロが続いた後、ドカンと解除されるタイプです。需給ショックが大きく、イベント前から「逃げ相場」になりやすい。ポイントは、当日だけでなく数週間前からボラが上がり、先物のショートが積み上がることです。ショート過多になると、逆に「アンロック通過で踏み上げ」も起こり得ます。

タイプB:毎月定額の機械的解除

最初は下がりやすいですが、回数が増えるほど市場が織り込みます。ただし、出来高が落ちたタイミングや、プロジェクトの悪材料と重なると再び効きます。実務では、解除比率より当月解除量÷30日平均出来高をまず見ます。

タイプC:報酬系の恒常売り(エコシステム・インセンティブ)

ステーキング報酬、流動性マイニング、エアドロなどです。解除というより「日々の新規発行」として効きます。価格は上がりにくく、上がっても戻りやすい。ここでは、実質インフレ率(年率)と、受益者が「すぐ売る動機」を持つかが重要です。

タイプD:裁量的な放出(財団・運営資金)

カレンダーに載りにくい厄介なタイプです。財団のマルチシグから取引所へ送金が増える、マーケットメーカーに貸し付ける、などが含まれます。オンチェーンで追う価値が最も高い領域です。

まず見るべき一次情報:トークノミクス文書の読み方

アンロック分析の出発点は「公式のトークノミクス」です。読むときの実務ポイントは、配分表よりもベスティング条件の文章です。表は見栄えが良い一方、重要な例外条件が脚注に隠れます。

具体的には、次を拾ってメモ化します。

クリフ期間:何か月/何年解除されないのか。
解除頻度:月次、四半期、日次など。
解除の主体:Team、Investors、Foundation、Ecosystem、Rewards 等。
ロック解除の条件付き条項:上場後○日、TGE後○か月、マイルストーン達成、など。
買い戻し/バーン/ロック延長の権利:存在すれば需給を緩和しますが、実行される保証はない点に注意です。

「FDVの罠」:流通供給が小さい銘柄ほどアンロックが致命傷になりやすい

初心者が最もやりがちな失敗が、時価総額だけ見て割安と判断することです。流通供給が少ないと時価総額は小さく見えますが、FDV(完全希薄化後)で見ると高すぎるケースが多い。アンロックはこのFDVへ現実を近づけるプロセスなので、FDVが高いほど下方向のバイアスがかかります。

実務では、次の2つを同時に見ます。

・流通率(circulating / total):流通率が低いほど、将来の供給増余地が大きい。
・解除スケジュールの前倒しリスク:市場環境悪化で資金需要が増えると、財団が放出を増やすことがあります。

価格インパクトの定量化:3つの比率で「効きやすさ」を測る

複雑そうに見えますが、最初は比率で十分です。私は次の3指標をセットで使います。

①解除量 ÷ 30日平均現物出来高

最も直感的です。解除量が出来高の何日分か。3日分を超えると、売りが一部出るだけでも板が受けきれない可能性が上がります。逆に0.5日分以下なら、影響は限定的になりやすい。

②解除量 ÷ 流通供給量

解除が「既存ホルダーの持分」をどれだけ薄めるかを見る指標です。5%を超える解除が連続する銘柄は、買い手が付きにくくなります。

③解除量の「売却可能性係数」

ここがオリジナリティの核心です。解除量をそのまま売り圧と見なさず、主体ごとに売りやすさで重み付けします。例えば、VCは高め、チームは中、コミュニティ報酬は中〜高、財団はケースバイケース、といった具合です。

重要なのは「係数の正しさ」ではなく、自分の仮説を明文化して、結果と照合できる形にすることです。これができると、次の銘柄で精度が上がります。

イベント前後の値動きパターン:ありがちな3シナリオ

アンロックは「当日ドカ下げ」と決めつけると逆に損します。よくあるのは次の3つです。

シナリオ1:事前下げ→当日反発(噂で売って事実で買う)

参加者が早めにリスクを落とし、当日には売り尽くされ、ショートも積み上がっている。解除が想定内なら踏み上げで反発します。ここで重要なのは、解除当日に買うことではなく、ショート過多の兆候(資金調達率の低下、先物建玉の偏り)を前から観察することです。

シナリオ2:当日無風→数日遅れて下落

解除されたトークンがすぐには売られず、数日〜数週間かけて取引所へ移動し、売りが出るパターンです。特にチームや財団の運営資金売りはこの形になりやすい。オンチェーンで「取引所入金」を追えると優位性が出ます。

シナリオ3:解除と同時に上昇(需給よりストーリーが勝つ)

強い材料(大型提携、プロダクトのPMF、売上指標など)が出ると、解除のマイナスを相殺します。ただしこの相殺は永続ではなく、材料が一巡すると再び供給圧が効くことが多い。上昇しても「解除は消えない」点を忘れないのがリスク管理です。

オンチェーンで追う:初心者でもできる「送金の見張り方」

アンロックの本番は、解除後にトークンがどこへ動くかです。最初は高度な解析は不要で、次の順で観察すれば十分です。

①公式が公開するロック・ベスティングコントラクトのアドレスを特定します。プロジェクトのドキュメント、監査レポート、エクスプローラのVerified Contractなどが手掛かりです。

②主要保有者のウォレット(チーム、財団、投資家)をラベル付きで把握します。全ては無理でも、上位数個で影響の大半をカバーします。

③「取引所アドレス」への移動を最優先で監視します。取引所へ入れば売却の可能性が上がる。逆に、マーケットメーカーへの移動は「流動性供給」名目でも、実質的には売り圧と同等になり得ます。

ここで大事なのは、移動を見ても即断しないことです。取引所入金があっても、担保差し入れやOTC準備の可能性がある。そこで、入金頻度と規模価格反応板の厚みをセットで見て判断します。

実運用のフレーム:アンロック銘柄を触る前の「5つの質問」

銘柄選定やトレードの前に、必ず次の質問に答えられる状態にします。

Q1. 次の3か月で解除される供給は、流通供給の何%か?
短期目線なら3か月が実務的です。これが大きい銘柄は、よほどの材料がない限り難易度が上がります。

Q2. 解除主体は誰で、売る動機は何か?
「売るかどうか」は感情ではなく構造です。VCはファンド構造、チームは生活費・税金、財団は運営資金。動機の理解が最重要です。

Q3. 流動性は十分か?
現物出来高だけでなく、板の厚み、主要取引所の分散、先物の有無、スプレッドの広さを見ます。流動性が薄いほどアンロックは効きます。

Q4. 市場参加者は織り込んでいるか?
SNSの話題性だけでなく、デリバティブのポジション偏り、価格の事前下落幅、ボラ上昇など「価格に織り込まれた形跡」を探します。

Q5. もし逆に動いたら、どこで撤退するか?
アンロックは方向当てゲームになりやすいので、損切りルールが生命線です。撤退点を決められないなら触らない方が良い。

具体例で理解する:架空プロジェクト「ALPHA」のアンロックを読む

架空の例で手順を通します。ALPHAは、流通供給20%、FDVが高い、毎月VC解除がある、という典型的な難しい銘柄だとします。

まず、次月の解除が「流通供給の6%」で、30日平均出来高の「2.5日分」だと分かった。ここでシナリオは二つです。(A)事前に下げ続けるか、(B)材料で支えられるか。

次に主体を見る。解除の7割がVCで、ファンドの償還が近いという情報があるなら、売却可能性係数は高く置きます。すると、「解除量×係数」で見た実質売り圧が重い。買いで触るなら、解除直前に突っ込むのではなく、解除後の取引所入金が落ち着くタイミングを待つ方が合理的です。

一方で、もし先物で資金調達率が極端にマイナス、建玉がショートに偏り、価格が既に大きく下げているなら、アンロック通過で反発する余地もあります。この場合も「当日買い」ではなく、反発の初動を確認してから入り、撤退点をタイトに置く。これが初心者でも事故りにくい手順です。

よくある誤解と落とし穴

誤解1:解除=必ず売られる
実際は「売る能力がある」状態になるだけです。ただし市場は潜在売りを嫌うので、心理面では効きます。

誤解2:解除日は当日だけ見ればいい
多くは事前に織り込み、事後に売りが出ます。前後2週間くらいの窓で見ると現実に合います。

誤解3:時価総額が小さい=上がりやすい
流通率が低いだけのケースが多い。FDVで見る癖を付けると、地雷を踏みにくくなります。

誤解4:ロック延長やバーンがあるなら安心
「権利がある」と「実行される」は別です。実行履歴と資金繰りを確認しないと、期待だけで買うことになります。

アンロック局面のリスク管理:個人投資家が守るべき最小ルール

最後に、初心者でもすぐに実装できる最小ルールをまとめます。

①ポジションサイズを落とす:アンロック前後は想定よりボラが出る前提で、通常より小さくします。
②「解除量/出来高」が大きい銘柄はスイングしない:短期で触るなら触る、長期で持つなら解除が落ち着くまで待つ。中途半端が一番危険です。
③オンチェーンの取引所入金が増えたら警戒を上げる:売りの事実ではなく、売りの準備として扱い、撤退判断を早めます。
④上昇局面でも供給圧は消えない:材料で上がっても、解除スケジュールが続く限り「上値が重い期間」が出やすい。利確を機械化すると事故が減ります。
⑤自分の仮説(売却可能性係数)を記録する:当たった外れたではなく、何が違ったかを残す。これが次の優位性になります。

まとめ:アンロックは「需給ショックのカレンダー」ではなく「供給構造の監査」

トークンアンロックは、暗号資産特有の「供給が設計されている市場」で生じる歪みです。解除量だけ追っても足りません。誰が受け取り、どんな動機で、どの速度で市場へ到達するのかを分解して、比率で定量化し、オンチェーンで実態を確認する。これができるだけで、初心者でも無駄な損失をかなり減らせます。

最後にもう一度だけ強調します。アンロックを「イベント」として見てしまうと、当日だけに意識が向きます。実際は、解除は供給構造の一部で、価格はその構造に沿って歪みます。だからこそ、分析手順を持っている人ほど、落ち着いて行動できます。

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