オンチェーンデータ分析入門:個人投資家が“需給の地図”を読むための実践手順

暗号資産

暗号資産は「価格が全て」と見られがちですが、ブロックチェーン上には需給の痕跡(誰が、いつ、どの程度の量を、どこへ動かしたか)が残ります。これを“オンチェーンデータ”として読み解くと、単なるテクニカル分析では見えにくい局面(投げ売りの終盤、上昇の過熱、蓄積の進行、取引所の在庫枯渇など)を、確率の高いシナリオとして把握できます。

本記事では、個人投資家が無理なく再現できる範囲で、オンチェーン分析の全体像、代表指標の意味、チェック手順、そして売買判断へ落とし込むための「運用ルール」を整理します。目的は“未来を当てる”ことではなく、相場の状態を構造的に理解して損失を小さくし、勝てる局面でだけ大きく張れるようにすることです。

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オンチェーンデータとは何か:価格の裏側にある「行動ログ」

オンチェーンデータは、ブロックチェーン上のトランザクションやUTXO(ビットコイン)、アドレス残高、スマートコントラクトの状態変化(イーサリアム)などから生成される統計です。株式でいえば、出来高・信用残・機関のポジション・需給イベントを束ねた“需給の地図”に近い概念です。

重要なのは、オンチェーンは「全参加者の行動を完全に見られる」わけではない点です。OTC取引、取引所内での板約定(オーダーブック)はチェーン外で完結します。またアドレス=個人ではなく、ウォレットのまとめ、取引所のホット/コールドウォレットなど、解釈には推定が混ざります。それでも、大局の資金移動保有者の心理(含み益/含み損)取引所在庫の増減といった“方向性”は掴めます。

まず押さえるべき4カテゴリ:供給・需要・損益・コホート

オンチェーン指標は無数にありますが、個人が売買に使うなら以下4カテゴリに絞るのが合理的です。最初から100指標を追うと、相関が強い指標を重複して見てしまい、結局は迷います。

1) 供給(Supply):長期保有が増えているのか、流通が増えているのか。取引所残高や「休眠供給」の動きが中核です。

2) 需要(Demand):新規参加が増えているのか、ネットワーク利用が増えているのか。アクティブアドレス、取引件数、手数料、ステーブルコイン供給などが該当します。

3) 損益(Profit/Loss):市場参加者が含み益か含み損か。実現損益、MVRV、NUPLなどが代表です。

4) コホート(Cohort):短期勢(STH)と長期勢(LTH)のどちらが主導か。保有期間別の供給、売り圧力の主体を切り分けます。

使うデータソース:無料枠で十分に戦える

オンチェーンデータは「どこで見るか」が実務上のボトルネックになりがちです。結論から言うと、無料枠でも“相場状態の判定”はできます。

代表例は、Glassnode、CryptoQuant、Santiment、IntoTheBlockなどです。加えて、Dune(SQLでダッシュボード)、DefiLlama(DeFi全体のTVL)、各チェーンのエクスプローラ(Etherscan等)も併用します。無料枠は指標の遅延や解像度制限がある場合がありますが、短期の瞬間芸よりも「局面認識」に使うなら十分です。

最重要の入口:取引所フロー(Exchange Flow)で「売り圧」を測る

個人投資家が最初に手応えを得やすいのが取引所フローです。基本ロジックはシンプルで、取引所への流入が増える=売却準備が増える可能性流出が増える=保管(長期保有)やDeFi移動が増える可能性です。

ただし、注意点が2つあります。第一に、取引所間のウォレット移動や内部再配置を「流入/流出」と誤認するケースがあります。第二に、流入が増えても必ず売られるわけではありません(担保、先物の証拠金、OTC清算などの可能性)。したがって、フローは単独ではなく、価格の局面と損益指標と組み合わせて読むのが必須です。

実践手順としては、(1) BTC/ETHの取引所残高のトレンド(数週間〜数カ月)、(2) 急増する瞬間のスパイク(数日)、(3) そのタイミングの価格(高値圏か安値圏か)をセットで見ます。高値圏で流入が増え、同時に実現利益が膨らむなら「利確圧力が顕在化している」可能性が高まります。逆に、安値圏で流入が増えても実現損失がピークアウトしていれば「投げの終盤」のサインになり得ます。

保有期間で相場の主導権を切る:STH/LTHという考え方

オンチェーン分析の強みは、参加者を“保有期間”で分解できる点です。一般に、短期保有者(STH)はトレンドに追随しやすく、長期保有者(LTH)は相場の終盤で利確し、弱気相場の底で蓄積しやすい傾向があります。

例えばBTCでは「155日」を境にSTH/LTHを分ける概念がよく使われます(厳密な定義はデータ提供者で差があります)。実務では、次の2つを見ると判断が速くなります。STHの含み損益(STH-MVRV等)と、LTHの供給比率です。上昇初期はSTHが含み益に転じ、弱い手から強い手へ供給が移る局面が出ます。上昇終盤は、LTHが利確を始め、供給が市場に戻ってくるため、上値が重くなります。

初心者が陥りやすい失敗は「LTHが売っている=暴落だ」と短絡することです。現実には、健全な強気相場でもLTHの利確は起きます。重要なのは、利確が価格上昇を伴って吸収されているのか、吸収されずに急落として表面化しているのかです。ここで取引所フローと出来高、先物の建玉やファンディングを重ねると、誤判定が減ります。

損益指標の読み方:MVRVとNUPLで「割高/割安」を雑に判定する

損益系の代表がMVRV(Market Value / Realized Value)です。ざっくり言えば、現在価格が“平均取得価格(実現時価総額ベース)”と比べてどれだけ上か下か、という指標です。MVRVが高い=含み益が大きい=利確圧力が出やすい、という方向感を示します。

もう一つがNUPL(Net Unrealized Profit/Loss)です。市場全体が含み益優勢か含み損優勢かを0近辺で分けて見ます。強気相場の過熱局面ではNUPLが高水準になり、弱気相場の終盤では低下していきます。これらは“天底当て”ではなく、リスクを上げるか下げるかの判断に使うのが正攻法です。

具体例:MVRVが高水準で、取引所流入が増え、先物の資金調達率が過熱しているなら「上値余地よりも急落リスクが大きい」局面です。この局面でレバレッジを上げるのは期待値が悪い。逆に、NUPLが低迷し、実現損失が落ち着き、取引所残高が減り始めるなら「売りが枯れてきた」可能性が出ます。このときは買い増しを検討する価値があります。

実現損益(Realized P/L)で「投げの終わり」と「利確の天井」を読む

オンチェーンで最も“相場感”に直結しやすいのが実現損益です。これは、コインが移動したときに「取得価格との差」で確定した損益を推定したものです。弱気相場の底近辺では、損失確定(実現損失)が連発しやすく、強気相場の天井圏では利益確定(実現利益)が膨らみやすい。

実務のコツは、実現損益を「絶対値」で見るのではなく、トレンドとして“波が小さくなるか”を見ることです。たとえば暴落局面で実現損失が巨大化した後、価格がさらに下がっても実現損失が膨らまなくなる(売る人が減る)なら、底打ちの条件が揃い始めます。逆に上昇局面で実現利益が増え続け、ある時点で利益確定の波が急拡大するなら、上昇の持続性は落ちます。

マイナーと発行サイド:供給者の売り圧を過小評価しない

BTCではマイナーが新規供給の源泉です。マイナーの収益性(ハッシュレート、難易度、手数料、BTC価格)と、マイナーの保有/売却動向(マイナー残高、取引所への送金)が需給に影響します。特に価格が下落し、収益性が悪化すると、設備投資や電気代のために売却が増えやすい。

ここで注意すべきは「マイナー売り=常に悪」とは限らないことです。市場全体の投げが一巡する局面では、マイナーの投げ売りも“最後の売り”として底形成に寄与することがあります。指標としては、マイナーから取引所への送金の急増が出た後に、売り圧が収束するかどうかを観察します。

イーサリアムのオンチェーンは「ガス」と「ステーキング」が中核

ETHの場合、UTXOではなくアカウントモデルで、さらにL2やブリッジ、DeFiによって活動が分散します。そのため、ETHオンチェーンはBTCより複雑です。まず見るべきは、(1) ガス代(手数料)とバーン量、(2) ステーキング残高と解除(アンステーク)動向、(3) 取引所残高、の3点です。

ガス代が上がる局面はネットワーク需要が強い反面、ユーザー負担が増えるため、過熱の兆候にもなります。ステーキングは供給をロックし、売り圧を下げる要素ですが、解除が集中すると短期の売り材料になります。したがって、「ステーキングが増えているから強い」と単純化せず、解除待ちキューやLSD(リキッドステーキング)周りの流動性も含めて確認します。

DeFiとステーブルコイン:暗号資産市場の“購買力”を見る

暗号資産の上昇局面では、ステーブルコイン供給の増加や取引所のステーブル残高増加が“購買力の準備”として機能することがあります。逆に、ステーブル供給が減少し、DeFiのTVLが縮小する局面は、リスクテイクが細っている可能性が高い。

ただし、ステーブル供給は発行体の方針、規制環境、金利(短期国債利回り)などにも左右されます。オンチェーンだけで完結させず、マクロ環境や規制ニュースと併せて読むことで、誤判定を減らせます。

実践フレーム:週次でやる「オンチェーン点検」チェックリスト

オンチェーン分析は、毎日細かく追うと疲弊します。個人投資家は週次で十分です。以下の順に確認し、最後にポジション調整へ落とし込みます。

Step1:相場の局面:レンジかトレンドか。主要移動平均や高値安値の更新状況を確認します。

Step2:取引所残高:BTC/ETHの取引所残高が減っている(供給が締まる)か増えている(売り待機が増える)か。

Step3:取引所フロー:直近の流入/流出スパイクが高値圏・安値圏のどちらで出たか。

Step4:損益:MVRV・NUPL・実現損益が“過熱”か“冷え込み”か。

Step5:コホート:STHが苦しいのか(含み損拡大)回復しているのか(含み益化)。LTHが売りに転じているか。

Step6:外部市場:先物の建玉、資金調達率、オプションIV、ドル流動性、株式のリスクオン/オフ(ナスダック等)。

この6点だけでも、感情で売買する回数が減り、期待値の高い局面を待てるようになります。

ケーススタディ:3つの典型シナリオと打ち手

シナリオA:上昇トレンドの過熱:価格は急騰、SNSで強気が増え、先物の資金調達率が高止まり。オンチェーンではMVRV/NUPLが高水準、取引所への流入が増加、実現利益が急増。
打ち手:新規の追随買いを抑え、分割利確、損切りラインの引き上げ、レバレッジを下げる。次の押し目まで“キャッシュ温存”。

シナリオB:弱気相場の投げ終盤:価格は下落が続くが値幅が縮小。オンチェーンでは実現損失のピークアウト、取引所残高の減少が始まり、STHの痛みが最大化してから改善。
打ち手:一括ではなく分割で現物を積む。レバレッジは基本的に使わない。反発局面での撤退ラインも先に決め、損失限定を徹底する。

シナリオC:レンジ相場の“仕込み”:価格は方向感がない。オンチェーンでは取引所残高がじわじわ減り、LTH比率が上がり、実現損益が平常化。
打ち手:レンジ下限付近で小さく買い、上限で一部利確。ブレイク時だけ追随し、ブレイク失敗なら撤退する。資金配分ルール(例:現物70%、待機資金30%)を固定する。

落とし穴:オンチェーン分析で負ける人の共通点

1) 指標の“都合の良い解釈”:自分のポジションに合わせて解釈を曲げると、オンチェーンはただの自己正当化になります。見る順番(チェックリスト)を固定し、逆のシナリオも必ず書き出します。

2) データの遅延と改定:提供元によって集計方法が違い、遅延もあります。短期の売買に使うほど誤差が致命傷になります。週次・局面認識に寄せるのが安全です。

3) “アドレス数=ユーザー数”の誤認:アドレスは増やせます。取引所・ブリッジ・MEVなどで数が増えることもあるため、単純な増減で強弱を断定しない。

4) マクロ無視:ドル金利・流動性・株式のリスクセンチメントで暗号資産は大きく動きます。オンチェーンは強力ですが、万能ではありません。

売買判断に落とす「運用ルール」:初心者が再現しやすい形

最後に、オンチェーンを“投資行動”に変換するためのルール例を提示します。目的は、判断の一貫性を保つことです。

ルール1:過熱時は新規買いを止める
条件例:MVRV高水準+取引所流入増+資金調達率過熱(3点中2点以上)。このときは「買わない」を選ぶ。機会損失よりも急落リスクの方が大きい。

ルール2:底打ち候補は“分割”で拾う
条件例:実現損失ピークアウト+取引所残高減少トレンド開始。ここで初回の買いを入れ、価格がさらに下がっても買い増し余地を残す。

ルール3:オンチェーンは“レバレッジの判断”に使う
現物の積立は多少の誤差が許容されますが、レバレッジは許容されません。オンチェーンが弱いのにレバを上げない。オンチェーンが強くても、ボラ急増やファンディング過熱ならレバを下げる。

ルール4:チェック頻度は週1回に固定
データに振り回される最大要因は「見すぎ」です。週末に点検し、平日は価格アラートだけにする。これだけで売買が改善する人は多い。

まとめ:オンチェーンは“予言”ではなく、リスク管理の武器

オンチェーン分析は、暗号資産市場の「需給」「心理」「主体」を可視化する強力な手段です。一方で、チェーン外の取引やマクロ要因を無視すると簡単に負けます。だからこそ、指標を絞り、チェック手順を固定し、局面認識とリスク調整に使うのが最も再現性が高いアプローチです。

まずは取引所残高・取引所フロー・MVRV/NUPL・実現損益・STH/LTHの5点に絞り、週次で点検してください。そこから先、必要に応じてDeFi・ステーブル・オプション市場へ拡張していくと、過剰な情報に溺れずに“勝てる確率”を積み上げられます。

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