相場で「理由なく急騰する日」があります。ニュースは薄い、材料も弱い、それでも株価だけが垂直に上がる。こういう場面の裏側で頻繁に起きているのがガンマ・スクイーズです。
結論から言うと、ガンマ・スクイーズは「オプション市場のポジション(建玉)とヘッジ取引」が、現物の需給を強制的に偏らせる現象です。個人が理解して使える武器は2つだけ。①発火点(どこで起こるか)と②終わり方(どこで壊れるか)を、事前に“数字”で見積もることです。
ガンマ・スクイーズとは何か:まず「デルタ」と「ガンマ」を日本語に翻訳する
オプションの専門用語が壁になりますが、やることは単純です。
デルタは「株価が1動いたとき、オプション価格がどれくらい動くか」という感応度です。たとえばコール(買う権利)を持っていると、株が上がるほど得をします。その“得の増え方”がデルタです。
ガンマは「デルタがどれくらい速く変化するか」です。株価が上がるほどコールのデルタは大きくなり、さらに上がるほど“もっと”大きくなる。この加速度がガンマです。
そして重要なのが、オプションを売っている側(市場の流動性供給者やディーラー)は、損失を抑えるためにデルタヘッジをします。コールを売っていると株高で損するので、現物を買って中立化する。このヘッジ買いが、株価をさらに押し上げます。
なぜ株価が垂直に動くのか:ディーラーのヘッジが「買いの自己増殖」を起こす
ガンマ・スクイーズの核心は、次のループです。
(1)個人やファンドがコールを買う → (2)ディーラーがコールを売って受ける → (3)ディーラーがヘッジのために現物を買う → (4)株価が上がり、コールのデルタが増える → (5)ヘッジ量を増やすためにさらに現物を買う → …
つまり「オプション買い」がトリガーでも、実際に現物を買い上げているのはヘッジ取引です。だから出来高が急に増え、板が薄い銘柄ほど上に走りやすい。
逆に言うと、ガンマ・スクイーズはいつでも起きるわけではない。必要条件が揃ったときだけ、異様な上昇になります。
必要条件:ガンマ・スクイーズが起きやすい「3点セット」
初心者が実務的に見ておくべき条件は3つです。
1)コール建玉が「特定行使価格」に集中している
行使価格(ストライク)に建玉が偏ると、その価格帯が“磁石”になります。株価がそこに近づくほどヘッジが増えやすい。特に、今の株価のすぐ上に巨大なコール建玉があると、上抜けの瞬間にヘッジ買いが連鎖しやすい。
2)満期が近い(ガンマが大きくなる)
満期が近いほど、デルタの変化が急になります。つまりガンマが大きくなり、ヘッジ調整が激しくなる。週次オプションや月次の最終週は要注意です。
3)現物の流動性が薄い(ヘッジ買いが価格に効く)
大型株でも起きますが、より“飛びやすい”のは、浮動株が少ない、空売り比率が高い、信用残が偏っている、といった需給が歪んだ銘柄です。
個人投資家が取れる戦い方:3つの戦術
ガンマ・スクイーズは魅力的ですが、勘で飛び乗ると焼かれます。個人が現実的に勝率を上げるなら、以下の3戦術です。
戦術A:発火点の“直前”で現物(または小ロット)を仕込む
いちばん再現性が高いのは、巨大建玉があるストライク直下での先回りです。ポイントは「上抜けたら買い」ではなく、上抜けが起こる確率が高い局面で、あらかじめ小さく持つことです。
例:株価が980円、1000円ストライクにコール建玉が集中。出来高が増え始め、上値の板が薄い。こういうときに、980〜995で小さく持ち、1000を超えたら“増やす”のではなく、利確プランを動かすのが安全です。なぜなら、上抜け後は値動きが速すぎて、個人が最適にエントリーできないからです。
戦術B:スクイーズ中は「利確の分割」と「逆指値の機械化」だけに集中する
スクイーズ中は、チャートの教科書は役に立ちません。最優先は、利益を確定しながら、想定外の反転で利益を吐き出さない設計です。
おすすめは、(1)利確を3回に分ける、(2)逆指値を必ず置く、この2点です。たとえば含み益が伸びたら、1/3を売って原資を回収、次にもう1/3を売って利益を固定、最後の1/3は伸びるだけ伸ばす。この“取りこぼし前提”が、結果的に一番安定します。
戦術C:終わりのサインを見たら「買いポジは即撤退」、ショートは“触らない”
初心者がやりがちなミスは、「上がりすぎだからショート」です。ガンマ・スクイーズ局面のショートは、構造的に不利です。ヘッジ買いが続く限り、損失は青天井になり得ます。
やるべきは、買いの撤退です。終わりのサインが出たら利益を守って逃げる。ショートで取り返しに行かない。これが資金を生き残らせます。
終わり方(崩壊パターン):ガンマが「追い風」から「逆風」に変わる瞬間
ガンマ・スクイーズには“終わり”があります。代表的な崩壊パターンは次の3つです。
1)巨大ストライクを超えた直後の失速(買いが尽きる)
磁石だった行使価格を超えると、追加のヘッジ需要が減ることがあります。超えた瞬間がピークになりやすい銘柄も多い。ここで重要なのは、超えたかどうかではなく、超えた後の出来高と値幅です。上昇の勢いが鈍ったら、利確の優先度を上げます。
2)満期接近での急反転(ディーラーのヘッジ解消)
満期が近いと、ガンマが大きい一方で、満期をまたぐポジションが消えます。コールが消滅したり、行使されなかったりすると、ディーラーは買っていた現物を売ってヘッジを落とす。これが急落になります。
3)ボラ急騰後のIV低下(オプション買いが止まる)
スクイーズが進むとインプライド・ボラティリティ(IV)が跳ね、コールが高くなりすぎます。新規のコール買いが止まると、ヘッジの新規需要も止まる。ここからは“燃料切れ”で崩れやすい。
チェックリスト:入る前・乗ってる最中・降りる時に見る数字
初心者でも見られる指標に絞ります。外部ツールがなくても、証券会社アプリと無料情報で足ります。
入る前
・直近の出来高が平常時の何倍か(最低でも2〜3倍が目安)
・直上の節目(ラウンドナンバー、直近高値)に売り板が薄いか
・空売りが溜まっているか(貸借銘柄なら日々公表や信用残の変化)
・材料が弱いのに強い(ニュース主導ではなく需給主導の可能性)
乗ってる最中
・上昇の途中で“押し”が浅いか(押したらすぐ戻す)
・出来高が減っていないか(出来高減の上昇は危険)
・板の飛び方が荒くなりすぎていないか(約定がスカスカなら撤退寄り)
降りる時
・大陽線の後に大陰線(値幅が反転し始めた)
・高値圏での出来高急増(配給=天井の典型)
・節目超えに失敗(上抜けたのに引けで戻る)
具体例で理解する:個人がやりがちな失敗と修正
失敗1:上がってから飛び乗り、逆指値を置かない
スクイーズ後半は、エントリーが遅いほど不利です。理由は「勝っている人が利確する側」になるから。修正は単純で、飛び乗るならロットを極小にし、逆指値を必ず置く。逆指値を置けないなら、参加しない方が期待値が上がります。
失敗2:含み益が出たのに利確しない
ガンマ・スクイーズは、利益確定が難しいイベントです。だからこそ分割利確が効きます。「全部当てる」ではなく、「平均して取る」。これが現実解です。
失敗3:天井を当てようとしてショートする
天井は当たりません。構造的に、踏み上げとヘッジ買いが同時に走る局面のショートは、個人の損益曲線が最悪になります。修正は、買いで取ったら撤退して終わり。ショートは別の得意パターンでやる、です。
リスク管理:この戦略で資金を守るためのルール
最後に、最重要の“守り”です。ガンマ・スクイーズは当たると派手に勝てますが、外すと一撃でやられます。だからルールが要ります。
ルール1:1回のトレードで口座の1%を超えて失わない
損切り幅×株数(またはロット)で計算し、先にサイズを決めます。勢いで増やさない。
ルール2:利確は必ず分割する
“正解”が見えないイベントでは、分割が最適化です。
ルール3:イベントを跨ぐなら持ち越し理由を明文化する
夜間ニュースやギャップで壊れやすい。持ち越すなら「なぜ持つか」「どこで切るか」を文章で書ける状態にします。
まとめ:ガンマ・スクイーズは「当てるゲーム」ではなく「条件が揃った時だけ参加するゲーム」
ガンマ・スクイーズは、オプション市場のヘッジが現物を買い上げる、需給起点の上昇です。個人がやるべきは、発火点を探し、乗ったら利益を分割で確定し、終わりのサインで即撤退すること。派手さより再現性。これが、長期で勝ち残るための唯一の設計です。


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