0DTE(0 Days To Expiration)オプションとは、満期日が「当日」のオプションです。満期までの時間価値がほぼゼロに向かって崩壊するため、短時間で損益が大きく動きます。言い換えると、リターンの源泉は「方向の当てっこ」だけではなく、ボラティリティ(IV)とガンマ、そして時間(セータ)の扱い方にあります。
この記事は、0DTEを“ギャンブル”ではなく、統制されたリスクで期待値を積むための道具として扱うための設計図です。特定銘柄の推奨ではなく、個人投資家が再現できる「考え方・手順・チェックリスト」を中心に解説します。
- 0DTEの本質:何が速く、何が危ないのか
- 0DTEを触る前に押さえる最低限の用語(最短ルート)
- 0DTEで個人が取り得る現実的な3つの型
- 勝ち筋の作り方:0DTEは「いつやるか」で9割決まる
- 「売り」の致命傷を避ける設計:最大損失固定が絶対条件
- 「買い」の連敗を避ける設計:当てに行くな、構造で当たりを増やせ
- 個人が勝ちやすいのはどっち?売り/買いの現実的な比較
- リスク管理:口座を守る“数式じゃない”ルール
- 具体例:クレジットスプレッドの設計を数字で理解する
- 実戦のチェックリスト(これを満たさないなら取引しない)
- 初心者がやりがちな失敗と、潰し方
- まとめ:0DTEは“短期で儲かる”のではなく“短期で破綻する”ものでもある
- もう一段深い理解:0DTEの値動きを支配する「ガンマ」と「ディーラーのヘッジ」
- 満期日の実務:ピンリスク、権利行使、手仕舞いの落とし穴
- 検証のやり方:0DTEは「勝率」より「損益分布」を見る
- 最初の30日プラン:やることを減らして勝てる形に近づける
0DTEの本質:何が速く、何が危ないのか
0DTEが通常のオプションより危険なのは、満期が近いほど「ガンマ(Δの変化率)」が急増し、少しの価格変動でデルタが激変するからです。ガンマが大きいということは、当たれば急回復・急利益、外れれば急損失になりやすいということです。
一方で、0DTEには独特の“優位性の作りどころ”があります。典型は次の3つです。
- 時間価値(セータ)の減衰が極端:レンジ相場なら売り手が有利になりやすい。
- IVの歪み:イベント(CPIやFOMC、決算など)前後でIVが跳ね、過大・過小が出やすい。
- マーケットメーカーのヘッジフロー:ガンマが大きい局面では、現物の買い/売りが価格形成に影響しやすい。
ただし、これらは“条件付き”です。0DTEで負ける典型は、損失が膨らむ構造を理解せず、サイズを上げることです。0DTEは「小さく負けて、ほどほどに勝つ」設計がないと破綻します。
0DTEを触る前に押さえる最低限の用語(最短ルート)
難しい数式は不要です。0DTEで実務的に必要なのは以下だけです。
- プレミアム:オプション価格。買いはプレミアム支払い、売りは受け取り。
- デルタ(Δ):現物が1動いた時、オプションがどれだけ動くか。方向感。
- ガンマ(Γ):デルタの変化。0DTEはここが爆発的に大きい。
- セータ(Θ):時間経過でプレミアムが減る度合い。0DTEは減りが速い。
- ベガ(V):IV変化に対する感応度。イベント前後で効く。
- IV(インプライド・ボラティリティ):市場が織り込む将来変動。恐怖と期待の値段。
0DTEの設計は結局、「どのギリシャ文字を味方にするか」です。買いはガンマに賭ける(当たると速い)。売りはセータに賭ける(動かなければ速い)。その代償として、買いは“連敗”、売りは“致命傷”のリスクを持ちます。
0DTEで個人が取り得る現実的な3つの型
0DTEには無数の手法がありますが、個人が管理可能な型に絞るべきです。ここでは再現性を最優先して3型に整理します。
型A:イベント後の「IVクラッシュ」狙い(クレジットスプレッド)
CPIやFOMCなどの前はIVが上がりやすく、発表後にIVが落ちやすい(IVクラッシュ)傾向があります。ここで、裸売りではなくクレジットスプレッド(売りと買いを組み合わせて最大損失を固定)を使うと、IV低下と時間減衰を味方にできます。
例:S&P500系指数の0DTEで、発表直後に値動きが落ち着いてきたら、OTM(外)側で「売り」を建て、さらに遠いストライクを「買い」して損失を限定します。レンジに戻る、もしくは動かないほど有利です。
重要なのは、“発表前”ではなく“発表後”を主戦場にすることです。発表前は方向性の不確実性が最大で、スプレッドでも急変に巻き込まれやすいからです。
型B:オープニングの過熱→沈静化を取りに行く(時間分散で小さく売る)
寄り付き直後はスプレッド(売買の差)が広がり、短期勢の成行が飛び交い、IVもブレます。ここで「大きく賭ける」のではなく、小ロットを複数回に分けて、過熱が落ち着く局面を狙います。
やり方のコツは、“価格ではなく構造”を見ることです。例えば「前日終値を大きくギャップアップしたが、最初の5〜15分で上値が重くなり、出来高が減ってくる」局面は、短期の買いが一巡している可能性があります。そこでOTM側のクレジットスプレッドを薄く建て、利確は早め(プレミアムの30〜60%程度)に徹します。
型C:ブレイクアウト追随(デビットスプレッドで当たりを大きくする)
0DTEの買いは“当たれば速いが外れれば全損”になりやすい。そこで、裸買いではなくデビットスプレッド(買いと売りの組み合わせ)でコストを抑え、勝ったときの伸びを取りに行きます。
例:重要な価格帯(前日高値、VWAP、オプションの最大建玉付近など)を上抜けた直後に、ATM近辺を買い、少し上のストライクを売って建てます。最大利益は限定されますが、損失も限定され、勝率と損益のバランスが取りやすいのが利点です。
勝ち筋の作り方:0DTEは「いつやるか」で9割決まる
0DTEのエッジは、手法よりも“時間帯と相場レジーム選別”にあります。具体的には、次の3つのレジームを見分けます。
- レンジ(平均回帰):スプレッド売りが比較的機能しやすい。
- トレンド(順張り):デビットスプレッドが機能しやすい。
- イベント直後の荒波:最初は触らず、落ち着いた後にIV低下を取りに行く。
見分け方を“初心者でもやれる”レベルに落とすなら、以下で十分です。
- 直近30分の高値・安値を更新し続けている→トレンド寄り
- VWAP(出来高加重平均価格)の上下で往復→レンジ寄り
- 指標発表・要人発言の直後→荒波(待つ)
0DTEで一番もったいないのは、荒波の最中に入って損失を出し、その後の“落ち着く局面”でビビって何もしないことです。触るのは落ち着いてから、これが生存率を最も押し上げます。
「売り」の致命傷を避ける設計:最大損失固定が絶対条件
0DTEのプレミアム売りは、勝率が高く見えます。しかし、裸売りはたった一度の急変で口座が終わります。したがって、0DTEで売りを使うなら、原則は次の通りです。
- 裸売り禁止:必ずスプレッドにして最大損失を固定する。
- “片側だけ”を売りにする:ストラングル/ストラドルは上級者向け。
- 損切りは価格ではなく条件で決める:例えば「基準線(VWAP)を明確に抜けて定着」「短期高値更新が連続」など。
スプレッドの最大損失は「幅×枚数−受け取りプレミアム」です。ここで重要なのは、最大損失が許容範囲に収まる幅にすることです。欲張って幅を広げると、結局は裸売りと同じ破壊力になります。
「買い」の連敗を避ける設計:当てに行くな、構造で当たりを増やせ
0DTEの買いは、勝率が低くなりがちです。なぜなら、セータが速く減るので、少しでももたつくと価値が消えるからです。買いで生き残るには、次の工夫が効きます。
- 裸買いよりデビットスプレッド:損失を抑え、当たりの期待値を整える。
- エントリーを“価格帯突破”に限定:なんとなく逆張りで買わない。
- 時間を味方にしない:0DTEで“待つ”は負けやすい。条件が外れたら撤退。
具体例として、前日高値を上抜けた瞬間にコールを買うのではなく、「上抜け→押し戻しが浅い→再上昇」で入るなど、二段階確認を入れると無駄なエントリーが減ります。0DTEは回数を減らすだけで成績が改善しやすい領域です。
個人が勝ちやすいのはどっち?売り/買いの現実的な比較
結論から言うと、初心者が安定しやすいのはスプレッド(最大損失固定)前提の売りです。理由は、当てもの要素が相対的に小さく、時間が味方になりやすいからです。ただし、売りは「勝っているように見えて、最後に全部失う」構造を持ちます。だからこそ最大損失固定とロット管理が必須です。
一方、買いは派手に勝てますが、連敗が普通に起きます。買いをやるなら、1回の損失を小さく固定し、当たりのときだけ伸ばす(スプレッドで最大利益は制限されるが、それでも十分)発想に切り替えるべきです。
リスク管理:口座を守る“数式じゃない”ルール
0DTEで最重要なのは、手法よりもルールです。ここでは実務で効くルールを提示します。
1日損失上限(デイリーストップ)
0DTEは熱くなると破滅します。1日で失ってよい金額(または口座比率)を先に決め、到達したら強制終了します。これが守れない人は0DTEに向きません。
「同時ポジション数」を制限する
複数のスプレッドを同時に持つと、急変時に判断が遅れます。慣れるまでは同時に1〜2本に絞り、エントリーの質を上げます。
利確は“取り切らない”
0DTEの売りは、最後の数分で逆回転することがあります。だから利確は「プレミアムの30〜60%回収で撤退」など、機械的に早めが合理的です。
損切りは“最大損失の何割”で統一する
スプレッドなら最大損失が計算できます。損切りラインは「最大損失の30〜50%で撤退」など、あらかじめ固定します。感情で伸ばすと、結局最大損失まで引っ張ります。
具体例:クレジットスプレッドの設計を数字で理解する
例として、幅10(ストライク差10)のクレジットスプレッドを考えます。受け取りプレミアムが2だとすると、最大損失は「10−2=8」です。ここで“1本あたり8負ける可能性”を許容できる枚数にする必要があります。
もし口座が100だとして、1トレードの許容損失を1(1%)にしたいなら、8の損失は大きすぎます。つまり、幅10のスプレッドを1本持つだけで“設計が破綻”しています。ここで取るべき行動は、枚数を増やすことではなく、幅を縮める/受け取りを増やす/やらないのいずれかです。
0DTEは、こういう“設計の矛盾”が起きやすい。だから、最初にやるべきはシグナル探しではなく、最大損失が小さい構造を作ることです。
実戦のチェックリスト(これを満たさないなら取引しない)
- 今日はイベント日か?(CPI/FOMC/入札/要人発言など)
- スプレッドは広すぎないか?(板が薄いと不利)
- いまはレンジかトレンドか?(VWAPと直近レンジで判定)
- 最大損失は口座の許容範囲か?(事前に計算)
- 利確/損切り条件は書けるか?(“その場で考える”は負ける)
- 1日損失上限に対して、何回まで試行できるか?
初心者がやりがちな失敗と、潰し方
失敗1:プレミアムが安いからと裸買いを連打
→安いのは“当たりにくい”からです。デビットスプレッドでコストと勝率を整え、回数を減らします。
失敗2:勝っているのに利確しない(売り)
→0DTEは最後にひっくり返ります。目標回収率を決めて機械的に降ります。
失敗3:負けを取り返そうとしてサイズを上げる
→0DTEで最悪の行動です。デイリーストップで物理的に止める以外に解決策はありません。
まとめ:0DTEは“短期で儲かる”のではなく“短期で破綻する”ものでもある
0DTEは、時間価値の減衰とガンマの増大という構造上、リターンもリスクも極端です。個人がこの領域で生き残るには、派手な当たりを狙うより、最大損失固定(スプレッド)+時間帯とレジーム選別+機械的な撤退の3点セットが必須です。
あなたが最初に作るべきは、エントリーサインではありません。「最悪でも口座が死なない設計」です。0DTEで勝つ人は、相場を当てた人ではなく、リスクを制御した人です。
もう一段深い理解:0DTEの値動きを支配する「ガンマ」と「ディーラーのヘッジ」
0DTEで“理由なく急に動く”ように見えるのは、オプション市場のヘッジフローが現物に影響する場面があるからです。ディーラー(マーケットメーカー)は、顧客からオプションを買った/売った結果としてデルタが偏ります。そのデルタを現物(または先物)でヘッジするため、現物の売買が追加で発生します。
ここで重要なのが「ガンマの符号」です。市場全体でディーラーが“ロングガンマ”になりやすい局面では、価格が上がれば売り、下がれば買いのヘッジが働き、結果としてボラティリティが抑えられやすい(レンジ化)傾向があります。逆に“ショートガンマ”になりやすい局面では、上がれば買い、下がれば売りのヘッジが増え、値動きが増幅しやすい(トレンド化)傾向があります。
個人ができることは、完璧な推定ではなく、「レンジになりやすい日」「トレンドになりやすい日」を見分けるヒントを増やすことです。例えば次のような状況はトレンド化しやすいことがあります。
- 重要指標・会見・入札など、ニュースの連鎖が続く日
- 寄り付きから一方向に走り、押し目戻りが浅い
- 主要なオプション行使価格(ラウンドナンバー)を跨いだ瞬間に出来高が急増
こうした日は売り戦略より、デビットスプレッドで追随する方が“破滅確率”が下がります。逆に、午前中に動いたあと、午後にボラが落ちる日(典型:イベント後に材料出尽くし)は、売り側の条件が整いやすい。
満期日の実務:ピンリスク、権利行使、手仕舞いの落とし穴
0DTEの“満期”には独特の実務リスクがあります。代表例がピンリスクです。満期直前にATM付近に張り付くと、わずかな価格差で「行使される/されない」が変わり、想定外の株式ポジションが残ることがあります(現物オプションの場合)。指数オプションは現金決済のものもありますが、商品ごとに仕様が違います。
したがって、初心者のルールとしてはシンプルに、満期のかなり前(例えば残り30〜60分)に手仕舞いするのが安全です。最後まで持ち切るのは、経験を積んでからで十分です。
また、流動性が落ちる時間帯や、スプレッドが急拡大する局面では、成行が致命傷になります。0DTEでは、指値で入って、指値で出るを基本にし、約定しないなら“それは縁がなかった”と割り切る方が長期的にプラスです。
検証のやり方:0DTEは「勝率」より「損益分布」を見る
0DTEの成績管理で一番重要なのは、勝率ではなく損益分布です。なぜなら、売りは勝率が高く見えやすい一方で、たまの大損がすべてを消すからです。買いはその逆で、勝率が低く見えやすいが、当たりが大きければプラスになります。
最低限、次の4つをスプレッドシートで記録してください。
- エントリー時刻、手仕舞い時刻(時間帯の相性を見抜く)
- 建玉の型(クレジット/デビット、幅、ストライク距離)
- 最大含み損(MAE)と最大含み益(MFE)
- 撤退理由(ルール通りか、感情か)
これだけで、「勝っているのに取り切れていない」「負けが大きすぎる」「特定時間帯だけ悪い」などの改善点が見えます。0DTEは改善の反映が速いので、記録→修正のサイクルが回せる人ほど伸びます。
最初の30日プラン:やることを減らして勝てる形に近づける
最後に、初心者が遠回りしないための30日プランを提示します。
Week1:取引しない。板の見方、スプレッド幅、時間帯によるIVの変化を観察する。
Week2:デビットスプレッドを1日1回だけ、最大損失が小さいサイズで試す。利確・損切りを事前に紙に書く。
Week3:クレジットスプレッドを“イベント後のみ”で試す。利確は早めの固定ルール。
Week4:最も成績が良い時間帯・型だけ残し、他は捨てる。勝率ではなく損益分布で判断する。
0DTEは「引き算のゲーム」です。やることを増やすほど、判断が遅れ、損失が大きくなります。勝っている人ほど、型が少ない。これが現実です。


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