半導体は「景気敏感の王様」です。にもかかわらず、半導体株は“景気が良くなってから買う”と遅いことが多い。理由はシンプルで、半導体の需給は在庫と設備投資(CAPEX)とリードタイムで増幅され、株価はその「次のサイクル」を先に織り込みにいくからです。
本記事は、半導体サイクルの「大底」を、ニュースや雰囲気ではなく観測できるデータの組み合わせで先読みするための実践的なフレームワークを提示します。個別銘柄の推奨ではなく、どの銘柄・どの指数にも応用できる見立ての作り方に絞ります。
- 半導体サイクルとは何か:なぜ“底”が読みにくいのか
- “大底”の定義を先に決める:価格の底・業績の底・需給の底
- 半導体の“在庫循環”を読む:最重要は「日数」と「どこに積み上がったか」
- 受注の質を見分ける:本物の回復か、在庫埋め戻しか
- 設備投資(CAPEX)と“供給の止まり方”:大底の前に起きる「減速宣言」
- メモリとロジック(ファウンドリ)を分けて考える
- 指数と個別銘柄の“織り込み順”を知る:先に動くのはどこか
- “大底”の典型的な値動き:下げ止まり→二番底→上放れ
- データで見るチェックリスト:最低限これだけは押さえる
- 具体例:スマホ不況とデータセンター好況が混在する局面の読み方
- “先回り”の落とし穴:強気転換が早すぎると何が起きるか
- 初心者向けの実務フロー:1時間で作る“サイクル判定シート”
- まとめ:半導体サイクルの大底は“複数シグナルの合成”で読む
半導体サイクルとは何か:なぜ“底”が読みにくいのか
半導体のサイクルは、ざっくり言えば「需要 → 供給増強 → 供給過剰 → 在庫調整 → 需要回復」の循環です。ただし、実際にはここに二つの時間差が入ります。
一つ目は、工場(ファブ)を建て、装置を入れ、歩留まりを上げるまでにかかる時間。二つ目は、完成した製品がサプライチェーンを通って最終需要に届き、統計や決算に反映されるまでの時間です。つまり、企業の発言やマクロ統計が「底っぽい」と見える頃には、株価は既に反転の初動を終えていることがあります。
“大底”の定義を先に決める:価格の底・業績の底・需給の底
底を当てようとして失敗する典型は、底の定義が混ざっているケースです。半導体では最低でも次の3種類を分けて扱います。
価格の底:株価が底打ちする瞬間。最も早い。
需給の底:在庫がピークアウトし、受注が戻り始める瞬間。中間。
業績の底:売上・利益が実際に底を打つ瞬間。最も遅い。
投資として狙いたいのは通常「価格の底」〜「需給の底」の間です。業績の底を確認してから買うと、すでに“バリュエーション修復”の大半が終わっていることが多い。逆に価格の底だけ狙うと外す確率も上がる。そこで本記事は、価格と需給の間に橋をかける“チェックリスト”を作ります。
半導体の“在庫循環”を読む:最重要は「日数」と「どこに積み上がったか」
サイクル大底の核心は在庫です。在庫が積み上がっているうちは、需要が少し戻っても出荷は伸びません。逆に在庫が減り始めると、需要が横ばいでも生産・出荷が回復します。
見るべきは「在庫金額」より在庫日数です。売上が急減すると在庫金額が横ばいでも日数は膨らみます。日数は需給の詰まりを直接示します。
さらに重要なのが在庫の場所です。半導体の在庫は大きく「メーカー(ファブレス/IDM/メモリ)」「流通(ディストリ)」「顧客(セットメーカー)」に分かれます。底が近いのは、在庫が“川下”から先に減り、遅れて“川上”が減り始める局面です。
実務上は、ディストリビューターの決算コメント(在庫健全性、消化ペース)や、セットメーカー側の部品在庫日数の改善が先行シグナルになりやすい。逆にメーカー在庫だけを見て「まだ多い」と判断すると、反転の初動を逃しがちです。
受注の質を見分ける:本物の回復か、在庫埋め戻しか
在庫が落ちてくると受注が増えます。ただし、ここで罠がある。受注が増えても、それが最終需要の回復なのか、単なる在庫の埋め戻しなのかで、その後の伸びが変わります。
見分けの実用的な方法は3つです。
① リードタイムの変化:リードタイムが底で短縮し、その後に“じわっと延びる”なら需給が締まり始めたサイン。ただし、特定ノード/特定製品だけの延びは局所要因のこともあります。
② ASP(平均販売単価)の動き:底の局面では値下げが止まり、ディスカウントが縮小します。メモリは特にASPが需給を映しやすい。
③ キャンセル/プッシュアウトの減少:注文の後ろ倒しが減ってきたか。企業は明言しないことがあるので、言い回し(“改善”“安定化”“正常化”)の頻度にも注意します。
設備投資(CAPEX)と“供給の止まり方”:大底の前に起きる「減速宣言」
半導体サイクルで最も強い底シグナルの一つは、供給側が増産を諦める瞬間です。装置発注の先送り、ファブ建設の延期、稼働率の調整などが連鎖します。
ポイントは、CAPEXが減るのは「業績が悪いから」ではなく、需要に対して供給が多すぎると判断したからという点です。つまりCAPEXの減速は、“次の供給過剰が起きにくくなる”方向の情報で、底打ちの条件を整えます。
装置メーカー(露光・成膜・エッチング等)の受注が崩れ、ガイダンスが保守的になるのは痛いニュースに見えますが、サイクル観点では「供給の蛇口が締まる」合図でもあります。ここを悲観一色で見てしまうと、底の近さを見誤ります。
メモリとロジック(ファウンドリ)を分けて考える
“半導体”を一枚岩で捉えると判断が雑になります。特にメモリとロジック(ファウンドリ)はサイクルの出方が違う。
メモリはコモディティ性が強く、価格(DRAM/NANDのスポット・コントラクト)が需給を直接反映しやすい。そのため、価格下落の鈍化→横ばい→反発が比較的見やすい。一方で、価格の反発が一度起きると投機的に加熱しやすく、反落も速い。
ロジックは、先端ノードの供給制約、顧客(大手プラットフォーム)の製品サイクル、プロセス移行など構造要因が絡みます。ここでは“在庫”より“顧客の製品ロードマップと投資計画”が支配的になる局面があります。AIサーバー向けのように需要が強い分野があると、全体不況でも局所的に逼迫し得ます。
指数と個別銘柄の“織り込み順”を知る:先に動くのはどこか
初心者がやりがちなのが、ニュースで「半導体不況」と出たからSOX指数を見て、次に個別銘柄を探す、という順番です。実際は逆で、資金はまず指数(SOXなど)→大型→中小の順に戻りやすい。リスクオン局面では流動性が高いところから買われるためです。
したがって、サイクル大底の初動を捉えたいなら、まずは指数の“反転サイン”を見て、次にサプライチェーン上のどの段階が最も回復のレバレッジを受けるかを当てにいきます。一般に、在庫調整の終盤では「川上(材料・装置)」より「川中(製造)」「川下(設計・IP・周辺部材)」が先に改善することが多い。ここは製品分野により例外もあるので、決算説明の中身で裏取りします。
“大底”の典型的な値動き:下げ止まり→二番底→上放れ
半導体株の大底は、教科書的には次の三幕になりやすい。
第1幕:下げ止まり。悪材料が出ても下がらなくなる。出来高が細り、ボラティリティが低下する。
第2幕:二番底(またはヨコヨコ)。マクロ指標の悪化や決算の弱さで再度売られるが、前回安値を明確に割れない(割れてもすぐ戻す)。
第3幕:上放れ。ガイダンスの“最悪期脱却”の一言、あるいは在庫改善の確認で、出来高を伴い上に抜ける。
ここで実務的に効くのが「割れたら撤退、割れなければ継続」というルール化です。底当ては難しいが、損失限定の設計はできます。大底狙いは“当てるゲーム”ではなく“外しても致命傷にならない形にするゲーム”です。
データで見るチェックリスト:最低限これだけは押さえる
初心者でも実行できる“観測項目”に落とし込みます。全部を完璧に追う必要はありません。重要なのは、同じ方向を向いたシグナルが複数同時に出ることです。
(A)在庫・出荷関連
・主要企業の在庫日数がピークアウトしているか(前年差が縮小しているか)
・ディストリ在庫が「正常化」に近づいたという記述が増えたか
・キャンセル/プッシュアウトの言及が減ったか
(B)価格・リードタイム
・メモリ価格の下落ペースが鈍化→横ばいに入ったか
・リードタイムが短縮一辺倒から“底打ち”したか
・値引きや販促の強度が弱まったか
(C)供給調整
・CAPEXの下方修正/延期が相次いだか(供給の蛇口が締まったか)
・稼働率の調整が表に出たか(減産が進んだか)
(D)株価の反応
・悪材料で下がらない日が増えたか
・指数が先に反転し、個別が追随する流れが出たか
具体例:スマホ不況とデータセンター好況が混在する局面の読み方
半導体は“用途別”に景気が違います。スマホが弱い一方で、データセンターが強い、といった混在は珍しくありません。このときの読み方は「全体サイクル」と「構造需要」の二段構えです。
全体サイクルとしては、スマホ/PCの在庫調整が終わるかが底の条件になります。一方で構造需要(AI・車載など)が強い場合、先端ロジックや特定のHBM/先端パッケージ周りはサイクル不況でも需給が締まりやすい。すると指数は回復しやすいが、川上装置は“分野差”が出て一律に戻らないことがあります。
実戦では、決算の質疑応答で「どの用途が伸び、どの用途が弱いか」をメモし、サプライチェーンを用途別に分解して考えると、ニュースの大きい見出しに振り回されにくくなります。
“先回り”の落とし穴:強気転換が早すぎると何が起きるか
大底を先回りするときの最大の敵は、価格ではなく時間です。底が近いと見て買っても、サイクルが“長引いた”場合、資金効率が落ち、精神的にも消耗します。よくある落とし穴は次の通りです。
① 在庫が“高止まり”する:需要が戻りきらず、在庫日数がじわじわ高いまま。
② 供給調整が遅れる:CAPEXが想定ほど落ちず、供給過剰が長引く。
③ マクロの二次ショック:金利や為替、地政学など外生要因でリスクオフが再燃する。
対策は「分割」と「撤退ルール」です。大底狙いは一括勝負に向きません。時間に勝つには、建玉の設計で負けにくくするしかない。
初心者向けの実務フロー:1時間で作る“サイクル判定シート”
難しい統計モデルは不要です。次の手順で十分に“戦える見立て”になります。
Step1:指数チャートで環境認識
SOXなど主要指数が「安値更新が止まったか」「悪材料で下げない日が増えたか」を確認します。ここでまだ下落トレンドが強いなら、無理に先回りしない。
Step2:主要プレイヤーのコメントを抽出
ファウンドリ、メモリ、装置、ディストリの代表的企業を数社だけ選び、決算資料・説明会で「在庫」「リードタイム」「キャンセル」「CAPEX」の発言を拾います。文言が“改善/安定化”へ変わる兆しが重要です。
Step3:シグナルを点数化
本記事のチェックリスト(A〜D)を“○/△/×”で埋めます。○が2〜3個同時に増え始めたら、底が近い可能性が上がります。
Step4:建玉は分割、出口を先に決める
エントリーの条件と、撤退条件(直近安値割れ、指数が崩れる等)を事前に決めます。これで「外しても致命傷にならない」形になります。
まとめ:半導体サイクルの大底は“複数シグナルの合成”で読む
半導体サイクルの大底は、誰かの一言や単一の指標で断定できません。しかし、在庫日数のピークアウト、キャンセル減少、価格下落の鈍化、CAPEX減速、そして株価の反応といった複数のシグナルが同じ方向へ揃う瞬間は確かに存在します。
結論はこうです。底当てに固執せず、観測→仮説→小さく試す→違えば撤退という運用に落とし込めば、半導体の“怖さ”は管理可能なリスクへ変わります。半導体はボラティリティが大きい分、サイクルの読みが当たったときのリターンも大きい。だからこそ、ルールとデータで淡々と扱うのが最短です。


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