「満期前後だけ、なぜか値動きが歪む」。この違和感は偶然ではありません。オプションや先物が同時に満期を迎える日は、市場参加者のポジションが“強制的に”整理され、指数や主要銘柄に機械的な売買が発生します。結果として、普段より出来高が膨らむのに、値動きが妙に固定されたり、逆に一瞬だけ過激に振れたりします。
この記事は、トリプルウィッチング(同時満期)を「イベント」として眺めるのではなく、需給の設計図として読み解き、再現性のある行動計画に落とします。個別株でも指数でも応用できるよう、用語は噛み砕きつつ、具体的な手順を多めに書きます。
トリプルウィッチングとは何か:何が「同時」に起きるのか
トリプルウィッチングは一般に、株価指数先物・株価指数オプション・個別株先物(市場や国により対象は異なります)が同じ日に満期を迎えるタイミングを指します。重要なのは「満期」=「ポジションの終点」が重なることです。
満期では、保有者は次のいずれかを迫られます。
(1)決済:建玉を閉じて損益確定(買いは売り、売りは買い)
(2)ロール:次の限月へ乗り換え(旧限月を決済し、新限月を建てる)
(3)行使・割当(オプション):権利行使や割当で現物・先物へ転換(または現金決済)
この“乗り換え”と“強制清算”が同日に集中するため、板や出来高が普段と別物になります。ここが勝てる余地であり、同時に最も事故りやすい場所でもあります。
なぜ価格が「固定」されたり「急変」したりするのか:ガンマとディーラーのヘッジ
満期前後の値動きを理解する鍵は、オプションを提供している側(マーケットメイカー/ディーラー)が、リスクを抑えるために行うデルタヘッジです。ざっくり言うと、ディーラーはオプションを売った分、反対売買で先物や現物を機械的に売買して、価格変動リスクを中和します。
用語を最小限で整理
デルタ:価格が1動いたとき、オプション価格がどれだけ動くかの感応度。ディーラーはこのデルタ分を先物・現物で相殺します。
ガンマ:デルタが価格変動でどれだけ変わるか。満期が近いほどガンマが膨らみ、ヘッジ売買が激しくなります。
価格固定(ピン留め)が起きる典型
満期が近いと、特定の権利行使価格(ストライク)付近でガンマが大きくなります。すると、価格が上に離れればヘッジ売りが出やすく、下に離れればヘッジ買いが出やすい状態になります。結果として、価格がストライク近辺に吸い寄せられるように見えることがあります。これがいわゆる“ピン留め”です。
一瞬の急変が起きる典型
逆に、ある価格帯を抜けた瞬間にヘッジの向きが変わり、売りが売りを呼ぶ(または買いが買いを呼ぶ)局面もあります。特に「満期当日」「引け前後」「SQ(特別清算指数)算出周辺」は、流動性があるようで、実は板が薄くなる瞬間が混ざるため、滑りやすいです。
個人投資家が狙える“勝ち筋”は3つ:本質は「流れに乗る」か「歪みを拾う」
勝ち筋1:満期前の「ボラ縮小」局面を使う(レンジ想定)
ピン留めが効きやすい局面では、指数や大型株がレンジに収まりやすいことがあります。ここでの発想は、方向を当てるのではなく、動かない前提で負けにくい形を作ることです。
例えば現物・ETFを持っている人なら、短期の上値が重くなりそうな局面で「小さく利確」「買い増しを急がない」といった調整ができます。FXで言えば、イベント前にポジションサイズを落として“ノイズの損切り”を減らすのと似ています。
注意点は、ピン留めが外れた瞬間に逆回転が起きることです。「動かない」を前提にしつつ、外れたら撤退する線(撤退条件)を先に決めておく必要があります。
勝ち筋2:満期後の「需給解放」を拾う(ブレイク狙い)
満期前にヘッジで抑え込まれていた価格が、満期通過で急に自由になることがあります。満期後1〜2営業日で、今まで抑えられていた方向へ素直に動くことがあり、ここは個人でも取りやすい場面です。
狙い方はシンプルで、満期前は無理に当てに行かず、満期後に「高値/安値の更新」が出たら順張りする。いわゆる「イベント通過後のブレイク」です。重要なのは、材料ニュースではなく、価格と出来高の事実だけで判断することです。
勝ち筋3:出来高の偏りを見て「機械的な売買」を逆手に取る(逆張りだが条件付き)
満期絡みでは、特定の時間帯に一方向へ機械的な注文が出て、短時間で過熱することがあります。ここでの逆張りは、一般的な“ナンピン”ではなく、過熱の終点を条件で待つスタイルです。
具体的には、(a)急騰・急落で出来高が跳ねる、(b)その直後に上ヒゲ・下ヒゲを伴う足が出る、(c)直近の節目を割らない/超えない、という3点が揃ったときだけ、反対方向を小さく試す。条件が揃わない逆張りは、満期では特に危険です。
実践手順:満期イベントを「当日」ではなく「3段階」で処理する
満期は当日だけ見ても勝てません。最低でも「事前」「当日」「事後」の3段階で、やることを分けます。
ステップ1(事前:5〜10営業日前)ポジションの地雷を抜く
最初にやるべきは、勝つ準備ではなく、負け筋の排除です。満期前はスプレッドが広がりやすく、指値が刺さらず、損切りが滑ることがあります。まずはポジションを軽くします。
具体的なチェックは次です。
・レバレッジを上げていないか(建玉が増えていないか)
・損切りラインが「イベントノイズ」で簡単に刈られる位置にないか
・保有銘柄が指数ウェイト上位か(巻き込みが強い)
・短期の含み益を抱えていないか(“守り”の意思決定が遅れる)
ここでの目的は「生き残る」ことです。満期はチャンスですが、同時に事故率が高い日でもあります。
ステップ2(事前:3営業日前〜前日)観測ポイントを固定する
当日に焦って見ても遅いので、見る場所を固定します。初心者がやるべき観測は、難しいオプション指標ではなく、価格と出来高と節目です。
観測するのは次の3つだけで十分です。
(1)直近の高値・安値(過去10〜20本)
(2)出来高の平均と、跳ねた日(過去20日)
(3)寄り付き・引けの値動きの癖(ギャップが出やすいか)
この3つで、当日に「レンジ継続」「ブレイク」「過熱反転」のどれが起きても対応できます。
ステップ3(当日)時間帯で戦術を変える
満期当日は、同じ戦い方をすると高確率で負けます。時間帯で性格が変わるからです。ここでは一般的な型として、次のように切り分けます。
寄り直後:ギャップ(窓)が出やすい。飛びつくより、まず“戻り/押し”を待つ。初動で建てるならサイズを小さく。
前場〜後場前半:値動きが固定される日もある。動かないなら動かないと割り切り、無理に取らない。
引け前後:ロールと決済が集中しやすい。滑りやすいので、成行の多用は避ける。狙うなら、事前に決めた撤退条件が必須。
ステップ4(事後:翌営業日〜)“解放の方向”だけを取る
満期が終わった翌日は、ニュースよりもチャートの素直さを見ます。やることは単純で、満期当日のレンジ上限・下限を抜けた方向にだけ付いていく。ダマシが嫌なら、抜けた翌足で入るなど、遅らせても良いです。満期後は、速度よりも確度です。
具体例:指数連動の歪みを「価格帯」で捉える(数字の考え方)
ここでは具体例として、指数があるストライク(キリの良い価格)周辺で動きにくい状況を想定します。重要なのは、ストライクそのものを当てることではなく、「その近辺では逆回転しやすい」という性質を利用することです。
たとえば、指数が「○○,000」近辺で何度も跳ね返され、出来高だけ増えているなら、ピン留めが効いている可能性があります。この場合、当日の方針は次のように分けられます。
・価格がその水準の内側にいる間は、無理にブレイク狙いをしない(飛びつかない)
・外側に明確に抜けたら、逆に順張りへ切り替える(固定が外れたサイン)
・外側に抜けてもすぐ戻るなら、ダマシとして撤退(“外れた”と見せて戻す動き)
ここでの勝ち方は、「予言」ではなく「条件反射」です。条件が出たら同じ行動をする。この再現性が利益の源泉になります。
初心者がやりがちな失敗と、回避策
失敗1:出来高が多い=トレンド発生、と決めつける
満期は出来高が増えて当然です。増えた理由が「参加者の増加」ではなく「決済・ロール」なら、方向性は伴わないことがあります。回避策は、出来高ではなく高値/安値更新を条件に入れることです。出来高が増えても更新しないなら、レンジの可能性が高い。
失敗2:イベント当日に取り返そうとしてサイズを上げる
満期は滑りやすく、逆行が速いです。サイズを上げるほど、ミスが致命傷になります。回避策は、当日だけは普段の半分以下のリスク上限にすること。機会損失より、退場リスクを避ける方が期待値が高いです。
失敗3:損切りが“浅すぎて”ノイズで刈られる
満期はヒゲが出やすいので、浅い損切りは機能しません。回避策は2つです。ひとつは、損切りを広げる代わりにサイズを下げること。もうひとつは、そもそも当日はエントリー回数を減らすことです。
検証のやり方:自分の銘柄・指数で「癖」を見つける
満期の有無で勝率が変わるかは、市場・銘柄・時間足で違います。だからこそ、初心者でもできる形で“癖”を検証します。難しい統計は不要です。
やることは、過去の満期日(同時満期日)をカレンダーで拾い、前後3営業日のチャートを並べて、次を記録するだけです。
・満期当日にレンジだったか、ブレイクだったか
・引け前に急変があったか
・翌営業日にレンジを抜けたか
・その後2〜3日、方向が継続したか
10回分もやれば、あなたが触る市場の“傾向”が出ます。ここから戦術を1つに絞る。満期は何でも取ろうとすると負けます。
行動計画テンプレ:当日に迷わないためのチェックリスト
最後に、当日迷わないためのテンプレを置きます。箇条書きに見えますが、重要なのは“文章の意味”です。これを自分の言葉で書き換えて使ってください。
(1)今日は満期イベント。普段より滑る前提。最大損失は通常の○割に落とす。
(2)事前に決めた高値/安値(レンジ境界)を抜けるまでは、方向を当てに行かない。
(3)抜けたら順張り。ただし、抜けてすぐ戻ったら撤退(ダマシ判定)。
(4)逆張りは“過熱→ヒゲ→節目維持”の3条件が揃ったときだけ、小さく。
(5)満期通過後の翌日〜翌々日に、解放された方向だけを拾う。焦って当日に取ろうとしない。
まとめ:満期は「予想」ではなく「設計」で勝つ
トリプルウィッチングは、ニュースではなく需給で動く時間帯が増えます。だからこそ、予想が当たっても負け、予想が外れても勝てます。勝敗を分けるのは、事前に決めた条件で淡々と動けるかどうかです。
満期前は守りを優先し、満期後の解放で確度を取りに行く。この順番を守るだけで、無駄な損失が減り、結果として利益が残ります。


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