フィボナッチ・リトレースメント(以下、フィボ)は、相場が一方向に走ったあとに起きる「押し目(戻し)」の“意識価格帯”を可視化する道具です。ポイントは、フィボそのものに魔法はないという前提に立ち、市場参加者が見ている可能性が高い場所を、エントリー・損切り・利確の設計に落とし込むことです。
初心者がつまずくのは、ラインを引いただけで「当たる/外れる」を語ってしまうこと。実際に収益に繋がるのは、(1)どの波に対して引くか、(2)押し目が“終わった”と判断する条件、(3)損切りの置き場所、(4)利確の出し方、(5)その運用を検証して再現性を上げる、という運用設計の部分です。本記事では、株・FX・暗号資産に共通する形で、フィボをトレードの意思決定フローに組み込む方法を、具体例を交えて徹底的に解説します。
- フィボナッチ・リトレースメントの本質:比率ではなく「参加者の合流点」
- 最初に押さえるべき用語:押し目・戻り・トレンド・波
- フィボを引く「波」の選び方:3つの優先順位
- 実戦で使う比率の“役割分担”:38.2、50、61.8、78.6の意味合い
- 「押し目が終わった」判定:フィボに必ず足すべき3つのトリガー
- エントリー設計:初心者が再現しやすい2つの型
- 損切りの置き方:フィボは「どこまで許容するか」を決める道具
- 利確の考え方:フィボを「出口」にも使う
- 具体例(株):決算後の急騰→押し目で取りに行く
- 具体例(FX):米指標で一方向に走ったあとの押し目を狙う
- 具体例(暗号資産):ボラが高い市場では「61.8%で反発→一段下げ」も普通
- フィボの“効きやすい相場/効きにくい相場”を見分ける
- よくある失敗と処方箋:初心者が負ける“フィボの使い方”
- 検証のやり方:フィボは“当て物”ではなく期待値の積み上げ
- マルチタイムフレームの重ね方:1枚のフィボで迷子にならない手順
- リスク管理の具体式:フィボ戦略を“壊れない”運用にする
- エントリー前チェックリスト:一発で精度が上がる確認項目
- まとめ:フィボを「押し目の地図」として運用設計に落とす
フィボナッチ・リトレースメントの本質:比率ではなく「参加者の合流点」
フィボでよく使う比率は、23.6%、38.2%、50.0%、61.8%、78.6%です。ここで重要なのは、これらが“数学的に正しいから”機能するのではなく、多くのトレーダーが同じ場所を見ている(=注文が集まりやすい)ために、反発・停滞・ブレイクが起きやすい、という需給の話だという点です。
つまり、フィボは「確率を上げるための地図」です。地図には「ここに川がある」「ここに崖がある」という情報はありますが、実際にそこを渡れるかは、天候(ボラティリティ)や装備(資金管理)次第です。フィボだけで売買しない、これが最初の鉄則です。
最初に押さえるべき用語:押し目・戻り・トレンド・波
フィボは「波」に対して引きます。ここでいう波は、上昇トレンドなら「安値→高値」、下降トレンドなら「高値→安値」です。押し目買いは、上昇波のあとに起きる下落(戻し)が一段落し、再び上に向かう局面で仕掛ける発想です。戻り売りはその逆です。
ただし、相場には複数の時間軸の波が同時に存在します。日足の上昇波の押し目中でも、1時間足では下降トレンドに見えることが普通にあります。初心者が迷うのはここです。解決策は単純で、自分が取引する時間軸を先に決めること。スイングなら日足~4時間足、デイトレなら1時間足~5分足、スキャルなら1分足~ティック、という具合に軸を固定します。
フィボを引く「波」の選び方:3つの優先順位
フィボが機能しない最大の理由は、波の選び方が恣意的になることです。そこで、波の選定に優先順位を持たせます。
1. 直近の“明確な加速”が起きた波を優先
ローソク足が連続して伸び、出来高(株)や出来高相当の指標(暗号資産の出来高、FXならティックボリューム)が増えたような、参加者が増えた波は押し目が意識されやすいです。だらだら上げた波より、強い買いが入った波のほうが、押し目でも買い手が戻りやすいからです。
2. 高値・安値が“誰が見ても同じ”波を優先
高値・安値が判然としない波に引くと、別のトレーダーは別の波に引きます。これでは合流点が薄くなり、反発確率が落ちます。フィボは“集団心理の座標”なので、客観性が重要です。
3. 上位足の節目(前回高値、日足の水平線)と重なる波を優先
フィボ単体より、水平線・トレンドライン・移動平均と重なる場所のほうが反応しやすいです。理由は単純で、異なる手法の注文が同じ価格帯に集まり、板(気配)が厚くなるからです。
実戦で使う比率の“役割分担”:38.2、50、61.8、78.6の意味合い
比率ごとの“使い道”を決めておくと、引いたあとに迷いません。
38.2%:強いトレンドの浅い押し目
上昇が強いと、押し目は浅く終わりやすいです。38.2%付近で下げ止まり、すぐに高値更新へ向かうケースが増えます。浅い押し目は「乗り遅れた買い手の飛び乗り」が入りやすい一方、損切りを近く置けるのが利点です。ただし、浅い押し目はダマシも多いので、後述する“押し目終了のサイン”を必ずセットで使います。
50.0%:心理的な真ん中、分岐点
50%は厳密なフィボ比率ではありませんが、実務的には非常に意識されます。理由は、上げの半値戻し(または半値押し)が、裁量勢の思考に深く入っているためです。「半分戻したら一旦買い直す/売り直す」というルールは、裁量の世界で驚くほど多いです。
61.8%:押し目買いの“本命”になりやすい
61.8%はフィボの代表値で、見る人が多い分、反応も出やすいです。ここでの反発が強い場合、トレンド継続の期待値が高い局面が多いです。一方で、61.8%を明確に割ると「押し目ではなくトレンド転換」の疑いが増えるため、損切りの基準にもなります。
78.6%:最後の防衛線、ここを割ると“無理筋”になりやすい
78.6%は深い押し目です。ここまで戻すなら、そもそも波の勢いが弱い可能性が高い。反発しても伸びが鈍いことがあり、トレードとしては「リスクの割にリターンが小さい」状態になりがちです。狙うなら、上位足の強い水平線など、他要素の合流が必須です。
「押し目が終わった」判定:フィボに必ず足すべき3つのトリガー
フィボは価格帯を示すだけで、タイミングは教えてくれません。そこで、押し目終了の判定をルール化します。初心者ほど、ここを曖昧にすると負けやすいです。
トリガーA:ローソク足の反転サイン(包み足・ピンバー等)
例えば61.8%付近で下ヒゲが長い陽線が出る、前の陰線を包む陽線が出る、といった反転サインは「売りの勢いが弱まった」ことを示します。ただし、単発の形だけで決めるとダマシが多いので、直後の足が高値更新するかまでをセットで見るのが安全です。
トリガーB:安値切り上げの確定(小さな上昇トレンドの発生)
押し目中の下落が止まり、短い時間軸(たとえば5分足)で安値切り上げが出たら、押し目終了の可能性が上がります。ここでの考え方は「上位足の押し目の中で、下位足が上昇に転じたら入る」です。これをやると、フィボ帯での“ナイフキャッチ”を避けられます。
トリガーC:出来高・ティックボリュームの増加(反発に実需があるか)
反発が本物かどうかは、出来高が伴うかで精度が上がります。株なら出来高、暗号資産なら取引所出来高、FXならティックボリュームで代用します。出来高が伴わない反発は、戻り売りで潰されやすい傾向があります。
エントリー設計:初心者が再現しやすい2つの型
フィボを使うエントリーは無数にありますが、初心者が再現しやすいのは次の2型です。
型1:フィボ帯での「指値+時間軸フィルター」
例えば上昇波に対して61.8%付近へ指値を置く。ただし、約定したら即エントリー完了ではなく、下位足で反転トリガー(安値切り上げ)を待って建てる、という運用です。指値だけで飛び込むと、深掘りされて損切りになりやすい。待つことで勝率が上がります。
欠点は、反転が速いと取り逃すこと。しかし、取り逃しは損失ではありません。再現性の高い型に絞ったほうが、長期で残りやすいです。
型2:ブレイク確認後の「押し目再突入」
いったん押し目が終わり、短期の戻り高値を上抜けたのを見て入る型です。フィボ帯は「押し目の候補ゾーン」として使い、実際のタイミングはブレイクで取る。勝率重視の方法です。欠点は、エントリーが遅れ、損切り幅が広くなること。そこで、ポジションサイズを落としてリスクを一定に保ちます。
損切りの置き方:フィボは「どこまで許容するか」を決める道具
損切りは“感情のブレーキ”です。フィボを使うなら、損切りもフィボに紐づけて一貫性を持たせます。
基本:直近スイング安値の少し下
61.8%で入るなら、押し目中の最安値(下位足のスイング安値)を割ったら撤退、という置き方が合理的です。なぜなら、そこを割ると「押し目終了」の仮説が崩れるからです。
応用:78.6%や100%到達で仮説破綻
61.8%で入って、もし価格が78.6%まで到達したなら、押し目が深すぎて想定と違う可能性が高い。ルールとして撤退してしまう方が、資金を守れます。100%(起点まで戻る)に到達したら、その波の押し目という前提が崩れるので、原則として撤退です。
利確の考え方:フィボを「出口」にも使う
フィボは押し目だけでなく、利確にも使えます。特に初心者がやりがちなのは、利確が曖昧で、せっかくの含み益を吐き出すことです。
第一利確:直近高値(0%)付近で部分利確
押し目買いなら、まずは直近高値の手前で一部を利確します。ここはレジスタンスになりやすい。部分利確を入れると、心理的に楽になり、残りを伸ばせます。
第二利確:フィボ・エクステンションで伸び代を測る
より伸ばす場合は、リトレースメントではなくエクステンション(1.272、1.618など)で目標を置きます。たとえば「前の波幅の1.618倍」など。ここも、数学というより、目標を事前に決めてブレないための道具です。
具体例(株):決算後の急騰→押し目で取りに行く
株で典型的なのは、材料(決算・自社株買い・大型受注)で急騰し、翌日以降に利確売りが出て押し目を作る形です。たとえば決算でギャップアップした銘柄が、寄り天から数日かけて押したとします。
このとき、フィボの起点は「材料で動き出す直前の安値」、終点は「急騰の高値」に置くのが基本です。押し目候補は38.2%~61.8%に出やすいですが、重要なのは、そこが前回高値や25日移動平均などと合流しているかです。合流していれば、買いの根拠が複数になります。
エントリーは、61.8%付近に到達したあと、日足で下ヒゲ陽線が出て、翌日に高値更新したタイミング、または4時間足で安値切り上げが確認できたタイミング、というように“時間軸フィルター”を入れます。損切りは押し目の最安値の下。利確は直近高値手前で一部、残りはトレンドが続く限りホールド、という設計にします。
具体例(FX):米指標で一方向に走ったあとの押し目を狙う
FXはニュースで瞬間的に走ることが多い。例えば米CPIでドル高が進み、USD/JPYが急伸したとします。急伸後、短期勢の利確で戻す局面が押し目です。
FXで注意したいのは、指標後はスプレッドが広がりやすく、ヒゲが出やすい点です。フィボ帯で指値を置くなら、ヒゲで刈られない幅(=損切りが遠くなりがち)になります。そこで、型2(ブレイク確認後の押し目再突入)が実用的です。61.8%付近まで戻ったあと、5分足で戻り高値を上抜けてから入る。損切りは押し目最安値の下に置くが、リスクが膨らむならロットを落とす。これで「大きく負けない」設計にできます。
具体例(暗号資産):ボラが高い市場では「61.8%で反発→一段下げ」も普通
暗号資産は株や主要FXよりボラが高く、フィボ帯で一度反発しても、もう一段下げるケースが珍しくありません。たとえばBTCが急騰したあと、61.8%で反発して「これで終わりだ」と飛び乗ると、78.6%まで深掘りされて損切りになる、というパターンが多い。
対策は2つです。1つ目は、フィボ帯でのエントリーを「分割」にして、最初は小さく入り、反転が確定したら追加する。2つ目は、そもそも反転トリガー(安値切り上げ・出来高増)を強く要求すること。暗号資産はだましが多いので、確認してから入るほうが、結果的に生き残りやすいです。
フィボの“効きやすい相場/効きにくい相場”を見分ける
フィボは万能ではありません。効きやすいのは、トレンドが明確で、押し目が“途中”である相場です。効きにくいのは、レンジ相場、または大きな転換点で方向感がない相場です。
具体的には、上位足で移動平均が上向き、直近高値を更新し続けている局面は、押し目買いの期待値が高い。一方、上位足が横ばいで、上下に振れているだけなら、フィボ帯で反発しても伸びず、利確できないまま逆行しやすい。こういう局面は、フィボではなくレンジ戦略(上限下限)を優先したほうが合理的です。
よくある失敗と処方箋:初心者が負ける“フィボの使い方”
失敗1:波を後付けで選び、都合のいいラインを作る
過去チャートに合わせて波を変えると、再現性が死にます。処方箋は、波の選定ルールを固定し、事前に引くことです。エントリー後に引き直すのは禁止にすると、結果が改善しやすいです。
失敗2:フィボ帯に触れた瞬間に飛び乗る
触れた瞬間は、まだ下げの勢いが残っていることが多い。処方箋は、反転トリガーを必須にすること。最初は取り逃しても構いません。勝率を上げて資金を残すのが先です。
失敗3:損切りが広がり、気付くと「お祈りトレード」になる
フィボ帯で入ったのに、割れても切れずに耐えると資金が削られます。処方箋は、損切り位置を先に決め、許容リスクから逆算してロットを決めることです。ここをやらないと、どんな手法でも継続は難しいです。
検証のやり方:フィボは“当て物”ではなく期待値の積み上げ
フィボの成否を「当たった/外れた」で終えると上達しません。見るべきは期待値です。最低限、次の項目を記録してください。
(1)どの時間軸で、(2)どの波にフィボを引き、(3)どの比率で入って、(4)反転トリガーは何で、(5)損切り幅、(6)利確幅、(7)勝率、(8)損益比、(9)最大連敗、(10)連敗時のメンタル破綻が起きないロットか、です。
ここまでやると、例えば「自分は38.2%はダマシが多いが、61.8%+安値切り上げ+出来高増だと安定する」など、自分の市場・時間軸に合った型が見えてきます。フィボは“普遍の比率”ではなく、“自分の運用に合う条件”を抽出するためのフレームです。
マルチタイムフレームの重ね方:1枚のフィボで迷子にならない手順
「日足で引いたフィボ」と「1時間足で引いたフィボ」がズレるのは普通です。ここで迷子にならないために、手順を固定します。
まず上位足(例:日足)で“環境認識”をします。上位足が上昇トレンドなら押し目買いだけ、下降なら戻り売りだけ、横ばいならフィボは補助に回す、というフィルターです。次に、執行足(例:1時間足)でエントリー波を決めてフィボを引き、最後に下位足(例:5分足)で反転トリガーを確認します。
この3階建てにすると、「日足は上、1時間足は押し目、5分足は反転」という整理ができ、フィボが“方向感のない線”ではなく、意思決定の流れになります。特に初心者は、上位足が下向きなのに下位足の反発だけで買ってしまい、戻り売りに潰されがちです。上位足フィルターは、負けパターンを減らす即効薬です。
リスク管理の具体式:フィボ戦略を“壊れない”運用にする
フィボを使うと損切り位置が明確になりやすい反面、状況によって損切り幅が変動します。ここでロットを固定すると、ある日は小さく負け、別の日は大きく負ける、という不安定な成績になります。そこで、ロットを許容損失から逆算します。
考え方はシンプルで、1回のトレードで失ってよい金額を先に決めます(例:資金100万円なら0.5%=5,000円、あるいは1%=10,000円など)。次に、エントリー価格と損切り価格の差(値幅)を計算し、ロット=許容損失÷損切り値幅でサイズを決めます。
例えば株で、エントリー2,000円、損切り1,960円(値幅40円)、許容損失5,000円なら、単純計算で125株(5,000÷40)です。FXなら1pipsの価値、暗号資産なら建玉の単位に換算します。これを毎回やると、フィボ帯がどこであっても「負けの大きさ」は一定になり、トータルでブレにくくなります。勝てる手法より先に、退場しない設計を作るのが本筋です。
エントリー前チェックリスト:一発で精度が上がる確認項目
最後に、フィボ押し目を仕掛ける前に必ず確認するチェック項目を文章でまとめます。これを“声に出して”確認するだけで、衝動トレードが減りやすいです。
まず、上位足の方向は自分の仕掛け方向と一致しているか。次に、フィボを引いた波の起点と終点は客観的か(誰が見ても同じ高値・安値か)。そして、狙う比率(38.2/50/61.8/78.6)の“役割”を決めているか。さらに、その価格帯に水平線や移動平均などの合流があるか。最後に、反転トリガーが出るまで待てるか、損切り位置は事前に固定できているか、ロットは許容損失から逆算できているか、です。
このチェックを通過できないなら、そのトレードは“見送り”が合理的です。見送りは機会損失に見えますが、実際は「期待値の低い勝負をしない」というプラスの行為です。フィボは、狙う場所を増やす道具ではなく、狙わない場面を減らす道具として使うと、成績が安定しやすいです。
まとめ:フィボを「押し目の地図」として運用設計に落とす
フィボは、押し目の候補ゾーンを可視化し、迷いを減らす道具です。勝つための核心は、(1)波の選定を客観化し、(2)反転トリガーでタイミングを取り、(3)損切りを先に固定し、(4)利確を段階化し、(5)検証で自分の型を磨くことです。
この5つをセットで回すと、フィボは「線を引く遊び」から「収益の意思決定システム」に変わります。最初はシンプルに、61.8%+安値切り上げ+損切り固定、だけでも十分です。そこから検証で、38.2%や50%の扱い、利確の伸ばし方を追加していけば、無理なく精度が上がります。


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