ボラティリティ・アービトラージ:IVの歪みから収益機会を抽出する実践フレーム

デリバティブ

乱数で選ばれたテーマは「ボラティリティ・アービトラージ:オプション価格の歪み」(No.63)です。本記事では、オプション市場に現れる価格の歪みを、インプライドボラティリティ(IV)という共通言語で整理し、個人投資家が実装可能な「勝ち筋の作り方」を具体例で解説します。なお、ボラティリティ・アービトラージは「無リスクで儲かる」話ではありません。損益の源泉を分解し、リスクを定義し、管理できる形に落とし込むことで、初めて戦略になります。

スポンサーリンク
【DMM FX】入金
  1. ボラティリティ・アービトラージとは何か:値動きではなく「価格付け」を取る
  2. 最重要の前提:オプション価格は「IV」に変換して見ないと勝負にならない
    1. IVの3大構造:スキュー、タームストラクチャー、イベントプレミアム
  3. 損益分解で理解する:デルタ、ガンマ、セータ、ベガが「収益源泉」
    1. デルタ:方向リスク(株・為替の上げ下げ)
    2. ガンマ:値動きへの感度(ヘッジで稼ぐ/削られる)
    3. セータ:時間経過(持っているだけで減る/増える)
    4. ベガ:IV変化(IVが上がると得/損)
  4. 個人投資家向け:現実的に狙える「歪み」のカタログ
    1. 1)決算前の短期IV膨張と、決算後のIVクラッシュ
    2. 2)スキューの歪み:プットだけ異常に高い、コールだけ高い
    3. 3)タームの段差:短期だけ高い/低い
  5. 具体例で理解する:3つの定番戦略(損失限定設計)
    1. 戦略A:決算後IVクラッシュ狙いの「損失限定コンドル」
    2. 戦略B:スキュー歪みの「リスクリバーサル(保守版)」
    3. 戦略C:IVが安い時期の「カレンダースプレッド」
  6. 期待値の作り方:IVが割高/割安を定量で判断する
    1. 1)IVのパーセンタイル(過去分布)
    2. 2)IV−RVスプレッド(ボラプレミアム)
    3. 3)イベントの期待レンジと、過去の実績レンジ
  7. 運用設計:個人が事故らないためのリスク管理テンプレ
    1. 最大損失を「ポジション投入前」に確定する
    2. ギャップ耐性:決算・指標・地政学を跨がない設計にする
    3. 損切りルール:価格ではなく「ギリシャ」か「残存価値」で切る
    4. ポジションサイズ:1回で勝負しない
  8. 初心者がつまずくポイントと回避策
    1. 「動く=儲かる」ではない(IVクラッシュを理解する)
    2. バックテストが難しい問題:だから観察→小さく実戦→改善
    3. 取引コストの罠:スプレッドと約定の癖を知る
  9. チェックリスト:エントリー前に必ず確認する10項目
  10. まとめ:ボラアービは「仕組み」を取りに行くゲーム

ボラティリティ・アービトラージとは何か:値動きではなく「価格付け」を取る

株やFXの多くの手法は「上がるか下がるか」に賭けます。一方、ボラティリティ・アービトラージは、オプションが織り込む将来変動(IV)と、実際に実現する変動(実現ボラティリティ:RV)のズレ、またはオプション同士の相対的な歪みを狙います。

実務的には次の2系統に分かれます。

  • IV vs RV:IVが過大(割高)なら売り、過小(割安)なら買い。最終的にRVとの差で期待値を取りに行く。
  • 相対価値(Relative Value):同じ銘柄・指数の中で、満期・行使価格・コール/プット間の歪み(スキュー、ターム、ウィング)をスプレッドで取る。

個人投資家が現実的に取り組みやすいのは、相対価値型を中心に「リスクを限定」しつつ、イベント(決算、FOMC、雇用統計など)で発生する歪みを狙う設計です。

最重要の前提:オプション価格は「IV」に変換して見ないと勝負にならない

オプションはプレミアム(価格)で表示されますが、そのまま比較すると混乱します。満期が違えば時間価値が違い、行使価格が違えばデルタが違い、同じプレミアムでも意味が違うからです。そこで、オプション価格をブラック・ショールズ等のモデルを逆算してIV(含みのボラ)に変換し、共通尺度で比較します。

IVの3大構造:スキュー、タームストラクチャー、イベントプレミアム

IVを見るときは、次の3つをセットで見ます。

  • スキュー(Skew):同一満期で、行使価格(デルタ)によってIVがどう曲がるか。株式指数はプットが高い(下方ヘッジ需要)傾向。
  • ターム(Term Structure):満期ごとのIVの段差。短期だけ高い、長期が高い、など市場心理の地図。
  • イベントプレミアム:決算など特定日にボラが集中する場合、周辺満期のIVが不自然に盛り上がる。

ボラアービの「アイデア」は、これらのどこに歪みがあるかを言語化することから始まります。言語化できない取引は、再現できず、改善もできません。

損益分解で理解する:デルタ、ガンマ、セータ、ベガが「収益源泉」

ボラアービの失敗パターンは、「IVが高いから売った」「低いから買った」だけで終わることです。IVは入口であり、損益はギリシャ文字(Greeks)の合成で出ます。最低限、次を押さえてください。

デルタ:方向リスク(株・為替の上げ下げ)

ボラアービで最も避けたいのが「結局、方向でやられる」状態です。デルタを意図的に中立(デルタニュートラル)に近づけることで、方向ではなくボラや歪みで勝負できます。

ガンマ:値動きへの感度(ヘッジで稼ぐ/削られる)

ガンマが大きいポジションは、値動きがあるほどデルタが変化します。デルタヘッジを繰り返すと、高く売って安く買うことになりやすく、これが「ガンマ・スキャルピング」と呼ばれる収益源泉になります。逆に、ガンマショート(オプション売り)は、急変動で一気に損失が拡大します。

セータ:時間経過(持っているだけで減る/増える)

オプション買いはセータ負けしやすく、売りはセータ取りになりやすい。ただし「セータ取り」は事故ると一撃で持っていかれるので、損失限定設計が必須です。

ベガ:IV変化(IVが上がると得/損)

IVが上がるとオプションの理論価格が上がる(ベガロングが有利)。IVが下がると逆。イベント前にIVが盛り上がり、イベント通過でIVが潰れる(IVクラッシュ)と、方向が当たっても負けることがあります。ここが初心者が一番つまずく点です。

個人投資家向け:現実的に狙える「歪み」のカタログ

機関投資家の本格ボラアービは、巨大なヘッジ頻度、低コスト、複数市場の裁定などが前提です。個人は土俵をずらします。狙い目は「市場の構造的な需給」で生まれる歪みです。

1)決算前の短期IV膨張と、決算後のIVクラッシュ

決算は、最も分かりやすいイベントプレミアムです。典型的には、決算直前の満期だけIVが跳ね上がり、通過後に急低下します。

初心者がやりがちな失敗は「決算で動くと思ってストラドル買い→確かに動いたのに負け」。これは、決算前にIVが盛られすぎていて、決算後にIVが潰れ、ベガ損がセータ/スプレッドと合算されて負けるためです。

実践フレームは次の通りです。

  • 決算前:IVの水準が過去レンジの上側(例:過去1年の80パーセンタイル以上)かを確認。
  • 決算後:過去の「実現変動(RV)」と、決算前に織り込んだ「期待変動(IV換算の予想レンジ)」を比較し、過剰なら次回以降は「売り側」検討。
  • ただし個人は裸売りを避け、クレジットスプレッドアイアンコンドル等で最大損失を固定する。

2)スキューの歪み:プットだけ異常に高い、コールだけ高い

指数では通常、プット側のIVが高い(下落ヘッジ需要)ため、スキューは「左肩上がり」になりやすいです。ところが、急騰局面ではコール需要が増えてコール側が盛り上がるなど、スキュー形状が崩れます。こういう局面は「相対価値」が出やすい。

たとえば、同一満期で25デルタ・リスクリバーサル(25ΔコールIV − 25ΔプットIV)を見ると、市場の偏りが数値化できます。極端に振れた状態は、その後の正規化(平均回帰)が起きやすい一方で、イベントでさらに極端化する場合もあるため、損失限定設計が必須です。

3)タームの段差:短期だけ高い/低い

短期が異様に高いのは「直近イベント」や「需給の偏り」のサインです。短期が高く長期が低いとき、短期の売りは魅力的に見えますが、急変動(ガンマショート事故)を食らいやすい。逆に短期が不自然に低いときは、イベントを市場が過小評価している可能性があります。

具体例で理解する:3つの定番戦略(損失限定設計)

戦略A:決算後IVクラッシュ狙いの「損失限定コンドル」

狙いは「決算後、IVが潰れてオプションが安くなる」ことと、「株価が一定レンジ内に収まる確率」に賭けることです。裸売りではなく、アイアンコンドルで最大損失を固定します。

手順(例)

  1. 決算直前〜当日に、決算跨ぎの満期でIVが高いことを確認。
  2. 「市場が織り込む予想レンジ」をATMストラドル価格などから概算(概算で十分)。
  3. そのレンジの外側に、コール・プットのクレジットスプレッドを組み、ネットクレジットを得る。
  4. 最大損失=スプレッド幅−受取クレジット。許容損失に合わせて枚数を調整。

勝ち筋は、決算で動いても「市場が織り込んだ範囲内」に収まり、かつIVクラッシュでプレミアムが急減することです。逆に、想定を超えるギャップや、レンジ逸脱が起きると負けます。だからこそ、スプレッド幅で損失を固定します。

戦略B:スキュー歪みの「リスクリバーサル(保守版)」

スキューが極端なとき、プットが異常に高い(恐怖が盛られすぎ)なら、プットを売ってコールを買うリスクリバーサルが教科書です。ただし裸プットは危険なので、個人は次の保守版にします。

  • プットは「売り」ではなく、プットクレジットスプレッドにして最大損失を固定。
  • コールは小さく買い、上方向のテールを取りにいく(テーマ相場で跳ねたときの保険)。

この形にすると、下落テールでの破滅を避けつつ、「スキューの正規化」と「上振れ」を同時に狙えます。収益の柱は、プット側の過剰プレミアム(高IV)をクレジットとして受け取ることです。

戦略C:IVが安い時期の「カレンダースプレッド」

IVが低いときは、オプション買いのコストが下がります。ただし短期オプションはセータ負けがきつい。そこで、カレンダースプレッド(短期を売り、長期を買う)を使います。

イメージは「近い満期の時間価値を回収しつつ、遠い満期のボラ上昇に備える」です。たとえば、イベントが来月にあるなら、イベントを含む満期を買い、手前の満期を売る。イベントでIVが上がれば、長期側のベガが効きます。

注意点は、相場が急騰・急落して短期側がITMに深く入り、調整が必要になること。とはいえ、裸売りよりは設計しやすく、個人が「ボラを買う」手段として現実的です。

期待値の作り方:IVが割高/割安を定量で判断する

「割高か割安か」は主観で言い出すと破綻します。最低限、次の定量を持つと判断が安定します。

1)IVのパーセンタイル(過去分布)

対象銘柄(または指数)のIVが、過去1年のどの位置にあるかを見ます。80〜90パーセンタイルなら「高い」、10〜20なら「低い」。これだけでも、決算前の過熱や、平常時の割安を見逃しにくくなります。

2)IV−RVスプレッド(ボラプレミアム)

過去20営業日などの実現ボラ(RV)を計算し、IVとの差(IV−RV)を見る。IVが恒常的にRVより高い市場は、構造的に「保険料」が乗っています。ただし、その保険料を取りにいくのは「事故リスク」込みです。だから損失限定設計が必要になります。

3)イベントの期待レンジと、過去の実績レンジ

決算などイベントで、ATMストラドル価格から「織り込みレンジ」を概算できます。そして、過去の決算で実際にどの程度ギャップしたか(実績)と比較します。織り込みが過去実績より大きすぎるなら「割高」、小さすぎるなら「割安」の可能性が上がります。

運用設計:個人が事故らないためのリスク管理テンプレ

ボラアービは、手法よりも運用が9割です。特にオプション売り系は、連勝しているときほど破滅の種が育ちます。以下をテンプレとして固定してください。

最大損失を「ポジション投入前」に確定する

スプレッド、コンドル、バタフライ等、最大損失が数式で確定する形にします。裸売りは避ける。例外は、十分な現金管理とヘッジオペレーションを持つ場合のみです(多くの個人には不要)。

ギャップ耐性:決算・指標・地政学を跨がない設計にする

イベントを狙うなら「跨ぐ」設計にする一方で、狙わないなら跨がない。中途半端が一番危険です。たとえば、短期のクレジットスプレッドは、イベントを跨ぐと急激に損益が悪化します。カレンダーやディアゴナルで「イベントを含む満期を買う」など、構造で耐性を持たせるべきです。

損切りルール:価格ではなく「ギリシャ」か「残存価値」で切る

オプションは価格だけで切ると、セータで減っているだけなのか、ベガで逆行しているのか、方向でやられているのかが見えません。例えば、クレジットスプレッドなら「受取クレジットの2倍で買い戻し」など、事前に機械的な撤退条件を決めます。

ポジションサイズ:1回で勝負しない

IVはレジーム(局面)で変わります。たまたま当たる時期と、全く噛み合わない時期が必ずあります。1回の最大損失が口座の数%に収まるように設計し、反復で期待値を積み上げます。

初心者がつまずくポイントと回避策

「動く=儲かる」ではない(IVクラッシュを理解する)

イベント前にIVが盛られ、イベント後に潰れる構造を知らないと、方向が当たっても負けます。まずは「IVは需要で決まる」ことを腹落ちさせてください。

バックテストが難しい問題:だから観察→小さく実戦→改善

ボラアービは、現物の単純な売買より、バックテストのハードルが上がります(オプション板データ、IV曲面、取引コスト、スリッページなど)。その代わり、観察指標(IVパーセンタイル、IV−RV、スキュー、ターム)を固定し、小さく実戦し、記録して改善する運用が向きます。

取引コストの罠:スプレッドと約定の癖を知る

オプションはスプレッドが広い銘柄があります。流動性が低いと、期待値がコストで消えます。指数や主要銘柄など、板が厚いところから始めるのが現実解です。

チェックリスト:エントリー前に必ず確認する10項目

  1. 対象の流動性(出来高、板の厚み、スプレッド)
  2. IVの位置(過去パーセンタイル)
  3. IV−RV(ボラプレミアムの方向)
  4. スキューの形(左右のどちらが盛られているか)
  5. タームの段差(短期だけ不自然に高い/低いか)
  6. 直近イベント(決算、指標、要人発言、政策)
  7. 最大損失(数値で確定しているか)
  8. 撤退条件(買い戻し条件、時間条件)
  9. ポジションサイズ(口座に対して過大でないか)
  10. 想定外シナリオ(ギャップ、ボラ急騰、流動性蒸発)

まとめ:ボラアービは「仕組み」を取りに行くゲーム

ボラティリティ・アービトラージは、値動きの当て物ではなく、オプションがどう値付けされるか、そしてその値付けがどんな需給で歪むかを取る戦略です。個人投資家が勝ち筋を作るには、(1) IVで見る、(2) 損益分解で理解する、(3) 最大損失を固定する、(4) 観察→小さく実戦→改善、の順で積み上げるのが最短です。

まずは、決算や重要指標など「イベントが見える場面」で、IVの膨張と収縮を観察してください。そこから、損失限定のスプレッド戦略で、小さく期待値を積み上げる——これが、個人にとっての現実的なボラアービです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました