IPO銘柄は「成長ストーリー」だけで動いているように見えますが、短中期の株価はそれ以上に需給で歪みます。その代表格がロックアップ解除です。ロックアップは上場直後に既存株主(創業者、VC、事業会社など)が一定期間売れないようにする契約で、解除日が近づくと「売りが降ってくる」ことが意識され、解除後は実際の売りで価格形成が変わります。
このテーマは初心者でも再現性を持って学べます。なぜなら、ロックアップは日付・条件・対象株数が事前に公開されることが多く、感情論ではなく「供給量」を数字で扱えるからです。一方で、解除イベントは単純な「売り=下落」では終わりません。解除前の思惑売り→解除当日の不発→踏み上げのような逆回転も頻発します。この記事では、ロックアップ解除をイベントドリブンの需給トレードとして捉え、チェック項目、シナリオ分岐、具体的なエントリー/エグジット設計まで体系化します。
- ロックアップ解除とは何か:株価に効くのは「売れるようになる株数」
- まずここを見る:解除条件は2種類ある(期間型・価格型)
- 解除イベントを「需給」で定量化する:供給量を3段階で見積もる
- ステップ1:解除対象の株数(最大供給)を把握する
- ステップ2:本当に売りやすい主体か(売り手の動機)を分類する
- ステップ3:売りの「出口」が用意されているか(ブロックトレード/売出しの可能性)
- 典型的な値動きパターン:解除は「前・当日・後」で顔が変わる
- パターンA:解除前にダラ下げ→解除後も売り継続(王道の需給悪化)
- パターンB:解除前の思惑売りが行き過ぎ→解除当日の売りが少なく反発(出尽くし)
- パターンC:価格条件で前倒し解除→急騰中に天井形成(熱狂の終点)
- トレード設計:初心者でも再現しやすい「3つの作戦」
- 作戦1:解除前の戻り売り(ヘッジ型)
- 作戦2:解除当日〜数日後の「出尽くし」狙い(逆張りだが根拠は需給)
- 作戦3:解除後の“売り終わり”を待って順張り(中級者向けだが一番安全)
- 具体例で理解する:数字で見る「供給ショック」の大きさ
- 情報の取り方:初心者が迷わないチェックリスト
- チェック1:解除日(または解除条件)
- チェック2:解除対象株数と株主構成
- チェック3:流通株式と出来高(吸収力)
- チェック4:空売りの積み上がり(踏み上げリスク)
- チェック5:借株コストと制度(実務上の制約)
- よくある失敗:ロックアップ解除で負ける人の共通点
- 実戦の「型」:ロックアップ解除を扱うためのシナリオ分岐
- シナリオ1:供給大 × 出来高薄 × VC比率高
- シナリオ2:供給中 × 出来高厚 × 戦略株主中心
- シナリオ3:価格型解除の条件が近い(急騰局面)
- リスク管理:このイベントは「想定外」が起きるからこそ守る
- まとめ:ロックアップ解除は「数字で読める需給イベント」
ロックアップ解除とは何か:株価に効くのは「売れるようになる株数」
ロックアップ解除の本質は、「これまで市場に出てこなかった株式が、売却可能になることで供給が増える」点です。IPO直後の流通株式は少なく、出来高も限定されやすいので、追加供給は株価に直接効きます。
重要なのは、ロックアップ解除=即売りではなく、売れる自由が発生するという事実です。売り手(創業者・VCなど)は、資金需要・ファンドの償還・リバランス・税金支払い等の事情で売却したい動機を持つことが多い一方で、価格が悪ければ売らない、あるいは分割で売ることもあります。つまり、解除は「供給ショックの可能性」を高めるイベントであり、トレードではその確率と規模を見積もる作業が核心になります。
まずここを見る:解除条件は2種類ある(期間型・価格型)
ロックアップは大きく以下に分かれます。
1)期間型(例:上場日から90日、180日)
解除日がカレンダーで確定します。市場はこのタイプを最も織り込みやすく、解除日の数週間前から「上値が重い」状態になりがちです。
2)価格型(例:公開価格の1.5倍を○日間上回ったら解除)
株価が一定条件を満たすと前倒し解除されます。上場直後に急騰しやすい銘柄ほど、この条件が付くことがあり、急騰の途中で解除リスクが点火します。初心者が一番やられやすいのがこのタイプです。「強いから買ったのに、強すぎて解除が早まり、売りで崩れる」という逆説が起きます。
解除イベントを「需給」で定量化する:供給量を3段階で見積もる
ロックアップ解除の分析は、次の3段階で進めるとブレません。
ステップ1:解除対象の株数(最大供給)を把握する
まず「解除によって売れるようになる株数」を確認します。目安として、解除対象株数 ÷ 直近の平均出来高を計算すると、供給インパクトが見えます。
例えば、解除対象が1,000万株、平均出来高が50万株/日なら、単純計算で20営業日分の供給です。もちろん全てが一気に出るわけではありませんが、市場参加者はこの「潜在的な上値キャップ」を意識します。ここが大きいほど、解除前は買い方が慎重になり、解除後は売りが出た瞬間に崩れやすくなります。
ステップ2:本当に売りやすい主体か(売り手の動機)を分類する
解除対象株主の性質で、売り圧力の確率が変わります。
・VC(ベンチャーキャピタル):ファンドの期限やIRRの都合で売却動機が強いことが多い。解除直後から段階的に売るケースが目立ちます。
・創業者・役員:一括で売るとネガティブに見られるため、売るとしても計画的・分割になりやすい。ただし、個人資産の集中リスクを減らす目的で売ることもあります。
・事業会社(戦略株主):基本は中長期の提携目的なので、解除=即売りになりにくい。
・従業員持株:規模は小さいが「生活イベント」や税金で売りが出ることがある。
ステップ3:売りの「出口」が用意されているか(ブロックトレード/売出しの可能性)
本格的な売却は、市場でチマチマ売るより、売出し(Secondary)やブロックトレードで行われることがあります。解除直後に大株主が売出しを仕掛けると、需給は一気に悪化します。逆に、売出しが出れば「悪材料出尽くし」として一旦底打ちすることもあるため、イベントを二段階(解除→売出し)で考えると読みが当たりやすくなります。
典型的な値動きパターン:解除は「前・当日・後」で顔が変わる
ロックアップ解除は、日付が分かるぶん、相場が先回りします。ありがちな3パターンを押さえてください。
パターンA:解除前にダラ下げ→解除後も売り継続(王道の需給悪化)
解除対象が大きい、VC比率が高い、出来高が薄い、株価が公開価格近辺または上回る水準にある、などの条件がそろうと起きやすい形です。解除前の戻りは売られ、解除後は実弾の売りで戻り売りが強化されます。初心者は「下がったから割安」と飛びつきやすいですが、需給悪化はバリュエーションでは止まりません。
パターンB:解除前の思惑売りが行き過ぎ→解除当日の売りが少なく反発(出尽くし)
市場が過剰に警戒して先に売りすぎると、解除当日に「思ったほど売りが出ない」だけで買い戻しが走ります。空売りが積み上がっていれば、踏み上げで急反発することもあります。解除イベントで勝ちやすいのは、実はこの「警戒過剰」局面です。ただし、見極めには条件があります(後述)。
パターンC:価格条件で前倒し解除→急騰中に天井形成(熱狂の終点)
一番危険な形です。材料で急騰し、公開価格の1.5倍などの条件を満たすと解除が早まり、そこから「利益確定+解除売り」が同時発生してピークアウトします。急騰銘柄のセカンダリーで「押し目買い」だけをやると、この罠に刺さります。上昇トレンドでも解除条件を踏むと、需給構造が変わってしまう点を理解してください。
トレード設計:初心者でも再現しやすい「3つの作戦」
作戦1:解除前の戻り売り(ヘッジ型)
解除日が近づくと、ロング勢は一度ポジションを軽くしがちです。そこで、テクニカル的な戻り(移動平均線への戻し、節目価格、直近高値の手前)を、需給の根拠で売り場にできます。
ポイントは「解除日までに下がるはず」と決め打ちしないことです。相場は先に下げきって反発することもあります。なので、戻り局面で小さく入って、逆行したらすぐ切る設計が必要です。需給イベントは“方向”より“リスク・リワード”で取ります。
作戦2:解除当日〜数日後の「出尽くし」狙い(逆張りだが根拠は需給)
解除当日に狙うのは、売りが大量に出てパニックになったところ…ではありません。初心者が入ると、そこからさらに売りが続くケースが多いからです。狙い目は次の条件がそろう場面です。
・解除前に十分下げている(警戒が価格に織り込まれている)
・解除当日の出来高が急増したのに、終値が大きく崩れていない(吸収されている)
・空売りが積み上がっている(買い戻し燃料がある)
・売り手がVC中心ではない、またはVCでも保有比率が想定より小さい
このときは、解除当日の引け、または翌日の押し目で、短期のリバウンドを取りにいく戦略が成立します。損切りは「解除当日の安値割れ」など、客観的なラインに置けます。
作戦3:解除後の“売り終わり”を待って順張り(中級者向けだが一番安全)
成長企業を中期で持ちたいなら、解除で崩れた直後に買うより、売りが止まったサインを待つ方が安全です。具体的には、下落トレンドの中で「下げの出来高が減り、反発の出来高が増える」「安値更新しなくなる」「決算や材料で上抜ける」といった局面です。
ロックアップ解除は「悪材料」ではなく「需給調整」です。調整が終われば、ファンダメンタルが強い銘柄は再評価されます。焦って落ちナイフを掴まないことが、長期の成績を守ります。
具体例で理解する:数字で見る「供給ショック」の大きさ
仮に次のようなIPO銘柄を想定します(架空の例です)。
・上場後株価:1,800円(公開価格1,500円)
・上場後の平均出来高:30万株/日
・90日ロックアップ解除:対象株数900万株
・対象株主:VCが600万株、創業者が300万株
最大供給900万株は平均出来高の30日分です。ここでVCが「解除後に半分売却したい」と考えるだけで、追加供給は300万株=10日分。市場は解除前から「上値が重くなる」と見ます。
一方、解除前に株価が1,800円→1,450円まで下がり、解除当日に出来高が150万株(通常の5倍)出たのに終値が1,460円で引けたとします。この場合、売り圧力は強いのに価格が崩れていない=買い手が吸収している可能性が高く、短期リバウンドの土俵に乗ります。逆に、出来高が増えないのにジリ下げが続くなら、裏で「分割売り」が続いているだけで、反発しにくい形です。
情報の取り方:初心者が迷わないチェックリスト
解除イベントの分析に必要な情報は、次の順番で集めると早いです。
チェック1:解除日(または解除条件)
上場時の目論見書、上場関連資料、会社のIR資料に記載されることが多いです。価格型条件がある場合は「公開価格×倍率」「連続日数」まで確認し、株価が条件を満たしていないかを常に監視します。
チェック2:解除対象株数と株主構成
大株主の保有比率、ベンチャーキャピタルの有無、株数を確認します。特に「○位株主がVCで、ファンド名が明確」なら売却確率は上がります。
チェック3:流通株式と出来高(吸収力)
供給ショックは「株数」単体ではなく、市場の吸収力との相対で効きます。平均出来高だけでなく、急落日にどれだけ出来高が出るかも見ます。需給が薄い銘柄は、少ない売りでも大きく動きます。
チェック4:空売りの積み上がり(踏み上げリスク)
解除イベントは「みんなが売りたい」局面になりやすく、空売りが混み合うと、解除当日に売りが出ないだけで急反発します。空売りは万能ではありません。逆回転の燃料になり得ます。
チェック5:借株コストと制度(実務上の制約)
短期で売りを狙う場合、借株コストが跳ねたり、そもそも売り建てしにくいケースがあります。取引の仕組み上、理屈が合っていても実行できないことがあるので、事前に条件を確認します。
よくある失敗:ロックアップ解除で負ける人の共通点
・解除日だけ見て、対象株数と出来高を見ない
解除対象が小さければ、イベントは材料になりません。逆に巨大なら、解除前から上がりにくい。
・「解除=必ず暴落」と決めつける
警戒が先に進み、解除当日は出尽くしになることがある。思惑が先行するイベントほど逆が起きます。
・下がった理由を需給ではなく“割安”で説明してしまう
需給要因は、ファンダメンタルに関係なく価格を押し下げます。割安という言葉で安心すると損切りが遅れます。
・熱狂相場で価格型解除を踏んでいるのに追いかけ買いする
上昇トレンドの途中で需給構造が変わったら、別のゲームになります。
実戦の「型」:ロックアップ解除を扱うためのシナリオ分岐
最後に、考え方をテンプレ化します。毎回この順で判断すれば、感情が入っても軸がぶれません。
シナリオ1:供給大 × 出来高薄 × VC比率高
基本は弱い。解除前の戻りは売られやすく、解除後も売りが続く可能性が高い。短期で逆張りするなら「売りが吸収された証拠」が出てから。
シナリオ2:供給中 × 出来高厚 × 戦略株主中心
解除は意識されるが、崩れにくい。解除を過度に恐れた下落があれば出尽くしリバウンドが狙える。中期投資は解除後の需給安定を待てば取りやすい。
シナリオ3:価格型解除の条件が近い(急騰局面)
上昇トレンドの“折れ”に注意。条件達成が近づくほど、買い手のリスクが増える。追いかけより、利益確定・ヘッジ優先。
リスク管理:このイベントは「想定外」が起きるからこそ守る
ロックアップ解除は、ニュースがなくても動きます。だからこそ、損切りラインを先に置く、ポジションを分割する、イベント当日はサイズを落とすなど、守りが勝率を引き上げます。特にIPOは値幅が大きく、同じ金額でも損益変動が大きい。初心者ほど、まずは小さく試し、検証して型にしてください。
まとめ:ロックアップ解除は「数字で読める需給イベント」
ロックアップ解除は、成長ストーリーとは別軸で株価を動かす、典型的な需給イベントです。解除対象株数、株主の性質、出来高(吸収力)、価格型条件の有無、空売りの混雑度。これらを順番に確認し、解除前・当日・解除後でシナリオを分ければ、初心者でも“理由のある売買”ができます。
結局のところ、IPOの短中期は「買いたい人の数」より「売れる株の数」で決まる場面が多い。ロックアップ解除を理解するだけで、セカンダリーの事故率は大きく下がり、逆にイベントを利益機会に変えることもできます。焦らず、数字で、型で攻めてください。


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