コンバージョン戦略(転換社債×現物)で「割安」を抜く:個人投資家でも理解できるCBアービトラージの核心

デリバティブ

コンバージョン戦略(一般にCBアービトラージと呼ばれます)は、転換社債(Convertible Bond:CB)と株式(現物または先物)を組み合わせて、方向性(上げ下げ)ではなく「価格の歪み」を収益源にする発想です。単純に言えば、CBを「債券(クレジット)+株式コールオプション」に分解し、どこが割安・割高かを見つけて、ヘッジで余計なリスクを削りながら回収していきます。

ただし、プロが運用するファンドの世界でも難易度が高い部類です。理由は簡単で、収益の源泉が「理論」と「実務(資金・借株・条項・流動性)」の両方に跨るからです。逆に言えば、ここを理解すると、CB発行銘柄の値動きがなぜ不自然に見えるのか、増資や自社株買いと違う“需給のクセ”がどこから来るのかまで、読めるようになります。

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  1. 1. まずCBを分解する:債券+株式オプション
  2. 2. コンバージョン戦略の最小モデル:CBロング+株ショート
  3. 3. 収益源泉を分解する:どこで儲かるのか
  4. 4. 具体例:簡易数値でイメージを作る
  5. 5. 個人投資家が陥りやすい誤解:CBは安全資産ではない
  6. 6. 実務の鬼門:借株(ショート)と調達コスト
    1. 6-1. 借株が取れないと始まらない
    2. 6-2. 調達コストは“見えない損益”
  7. 7. 個人投資家向けの現実解:3つのアプローチ
    1. アプローチ①:CB銘柄の「需給イベント」を読む(擬似コンバージョン)
    2. アプローチ②:上場CBファンド/ETFで“パッケージ化されたリスク”を買う
    3. アプローチ③:株オプションで“CBのオプション部分”に近い形を作る
  8. 8. CBの“割安”を見抜くチェックリスト
    1. 8-1. Bond Floor(下限価値)の確認
    2. 8-2. 転換プレミアムとパリティ
    3. 8-3. 内包ボラティリティ(Implied Vol)
    4. 8-4. 条項(ここが最大の落とし穴)
  9. 9. 典型的な失敗パターンと回避策
    1. 失敗①:借株コストを軽視して期待収益が消える
    2. 失敗②:信用悪化でBond Floorが崩れ、CBも崩落
    3. 失敗③:条項でゲームのルールが変わる
    4. 失敗④:流動性がなく、損切りできない
  10. 10. 実践の組み立て:初心者でも使える手順
    1. Step1:CB発行ニュースを見たら“株の需給”を疑う
    2. Step2:転換価格とプレミアムの水準をチェック
    3. Step3:想定シナリオを3つ作る
    4. Step4:小さく入って、データを取りながら学習する
  11. まとめ:CBアービトラージの理解は「相場の裏側」を読める武器になる

1. まずCBを分解する:債券+株式オプション

CBは「社債」なので、基本は利払い(クーポン)と満期償還があります。一方で、保有者は一定条件で株式へ転換できるため、株価が上がればオプション価値が増えます。したがってCBの価格は概念的に次の合計です。

  • 債券部分(Bond Floor):信用リスク(倒産しないか)と金利で決まる“下限の価値”
  • 転換オプション部分:株価、ボラティリティ、残存期間、配当、金利で決まる価値
  • 条項価値:コール(発行体の繰上償還)、プット(投資家の売却権)、リセット(転換価格修正)、強制転換など

このうち、初心者が最初につまずくのは「オプションの見積もり」です。ですが、必要なのは厳密なブラック・ショールズ計算よりも、まずはCBの“感応度”をつかむことです。

  • デルタ:株価が1動いたときCBがどれだけ動くか(株の代替度)
  • ガンマ:デルタがどれだけ変化するか(上がるほど株っぽくなる)
  • ベガ:ボラティリティが上がるとどれだけ得か(CBは基本ロングベガ)

CBは株価が低いときは“債券っぽい”、上がると“株っぽい”という性格を持ちます。これが後述のデルタヘッジ戦略の中核になります。

2. コンバージョン戦略の最小モデル:CBロング+株ショート

最も基本形は「CBを買い、株をショートする」です。狙いは2つあります。

  • (狙いA)CBの割安を拾う:オプション価値が過小評価されている、あるいは債券部分が過度に安い
  • (狙いB)方向性を消す:株の上げ下げをヘッジし、残差(歪み)を取りに行く

このときのキモは、株ショート量(ヘッジ比率)です。雑に言えば「CBのデルタ分だけ株を売る」のが出発点です。例えば、CBを100万円分買って、そのデルタが0.40相当なら、株を40万円相当ショートして、上げ下げを中和します。

ここで勘違いしやすい点をはっきり言います。コンバージョン戦略は“株が上がるか下がるか”を当てるものではありません。当てに行くのは、以下のような“相対価値”です。

  • CBに内包されるボラが市場の実現ボラより安い(=オプションが安い)
  • クレジットスプレッドが過度に広がっている(=債券部分が安い)
  • 条項(リセット等)が市場で過小評価されている

3. 収益源泉を分解する:どこで儲かるのか

CBアービトラージの損益は、実務上、次の「足し算」で説明できます。

  • クーポン収入:CBの利払い(ただし低クーポンが多い)
  • 株ショートのコスト/リベート:借株料、逆日歩、ショートリベート(市場による)
  • 資金調達コスト:CB購入の資金金利、担保、証拠金
  • ヘッジの売買損益:デルタが変わるたびにヘッジを調整する“ガンマ”の取り込み
  • ボラの取り込み:想定より実現ボラが大きい/小さいで差が出る
  • クレジットの変化:企業信用が改善すると債券部分が上がる(悪化すると逆)
  • イベント/条項の効果:コール、リセット、M&A、スピンオフ等の非線形要因

初心者向けに“儲けの絵”を一言でいうなら、次です。

「CBが内包するオプションを安く買って、株の方向性はショートで消し、日々のヘッジ調整でブレを回収する」

ただし、これは“理想形”です。現実は借株が取れない、コストが跳ねる、条項が発動する、流動性が枯れるなどで、想定より簡単ではありません。

4. 具体例:簡易数値でイメージを作る

ここでは理屈を、最小限の数値例で頭に入れます(厳密な理論価格ではなく、考え方の例です)。

ある企業の株価が1,000円。転換価格が1,250円、転換比率は「社債100万円で800株に転換できる」ような設計だとします。満期まで3年、クーポン0.5%(年5,000円)とします。

このCBを100万円で買い、株のデルタが0.35相当と見積もったなら、株を280株(=800×0.35)ショートします。株価が少し上がればCBは上がりますが、ショートが損をして相殺されます。株価が下がればCBは下がりますが、ショートが得をして相殺されます。

では、何が残るのか。典型的には次が残ります。

  • 株価が上下に振れるほど、デルタが変化し、ヘッジの“売って買って”が発生する
  • CBはロングガンマになりやすく、実現ボラが高いほどヘッジ売買で利益が出やすい
  • 一方で、借株料や資金金利が高いと、その分が食われる

つまり、「ボラが動く」こと自体が収益機会になる一方、「コストが動く」ことが最大の敵です。この“ボラ vs コスト”の綱引きが、CBアービトラージの現場です。

5. 個人投資家が陥りやすい誤解:CBは安全資産ではない

「債券だから下がらない」「満期で戻るから安心」と考えるのは危険です。CBの下限(Bond Floor)は、信用スプレッドが広がれば簡単に崩れます。特に以下の局面は要注意です。

  • 業績悪化・資金繰り懸念:債券部分が毀損し、CBが“株以上に”売られることがある
  • 株価急落:オプション部分が消え、ほぼ社債として評価される
  • 流動性枯渇:CBは出来高が薄く、逃げたい時に逃げられない

プロはここに「株ショート」「CDS」「金利ヘッジ」「流動性バッファ」などを組み合わせます。個人が同じことをするのは難しいので、まずはCBの性格を誤解しないことが重要です。

6. 実務の鬼門:借株(ショート)と調達コスト

コンバージョン戦略の成否を決めるのは、理論よりむしろ借株と資金です。ここは遠慮なく現実を書きます。

6-1. 借株が取れないと始まらない

株ショートは、銘柄によっては在庫が枯れます。さらにCBを発行する企業は、イベント(資金調達、希薄化)を抱えていることが多く、空売り需要が集中しやすい。結果として、

  • 借株料が急騰する
  • 逆日歩が発生し、想定外コストになる
  • そもそもショートできない(機会損失)

この時点で「理論上は儲かるのに実際は無理」というケースが普通に起きます。プロは複数の借株ルートやプライムブローカーを使いますが、個人は選択肢が限られます。

6-2. 調達コストは“見えない損益”

CBを買うための資金金利、証拠金、担保評価、ヘアカットなども効きます。金利が上がる局面では、ファイナンスコストが戦略の期待収益を上回り、同じポジションでも勝ち目が薄くなります。

結論として、個人がこの戦略を「現物で完全再現」するのはハードルが高いです。だからこそ、次章では“個人が現実的に近づける形”を提示します。

7. 個人投資家向けの現実解:3つのアプローチ

アプローチ①:CB銘柄の「需給イベント」を読む(擬似コンバージョン)

完全再現が難しいなら、CBが作る需給の歪みを株側の値動きで利用します。CB発行後は、以下の動きが起きやすいです。

  • 発行直後:ヘッジ目的の空売りが増え、株が重くなる
  • 時間経過:ヘッジ調整が続き、ボラが上がる(値が飛びやすい)
  • 条件変化:株価が転換価格付近に近づくと、需給が非線形に変わる

たとえば、「CB発行→株がだらだら下がる→信用不安ではなく需給主導」という局面では、需給が一巡したタイミングでの反発取りが成立しやすい。逆に、業績悪化が絡む場合は危険です。ここを見分けるのがポイントです。

アプローチ②:上場CBファンド/ETFで“パッケージ化されたリスク”を買う

市場によってはCBに投資するファンドやETFがあります。個別CBの借株問題を回避しやすい反面、商品設計によっては株リスクが残ります。個人が使うなら、

  • 株式比率(株に近いのか債券に近いのか)
  • 金利感応度
  • 信用の質(ハイイールド寄りか)

を確認し、「何を買っているか」を明確にした上で使うのが前提です。

アプローチ③:株オプションで“CBのオプション部分”に近い形を作る

株オプションが取引できる市場なら、CBのオプション価値に近いポジション(たとえば長期コール+資金運用)を、より透明なコストで構築できます。もちろん完全一致はしませんが、

  • ボラが安い局面でコールを仕込む
  • 株の下げリスクを別途制御する(プット、スプレッド等)

といった「分解して設計する」発想は、CBアービトラージの理解があるほど精度が上がります。

8. CBの“割安”を見抜くチェックリスト

ここからが実践です。以下は、個人でも入手可能な情報で、CBを相対的に評価するためのチェックリストです。

8-1. Bond Floor(下限価値)の確認

  • 発行体の格付(無いなら財務から推定)
  • 同社の普通社債(無ければ同業のスプレッド)
  • 現預金、負債、返済期限、営業CF

CBが「債券」として成立しているのか(返せるのか)をまず見る。ここが弱いと、戦略は“株の延長”になります。

8-2. 転換プレミアムとパリティ

CBの価格を株式転換価値(パリティ)で割って、どれだけプレミアムが乗っているかを見ます。プレミアムが高すぎるCBは、上値余地が限定されがちです。一方でプレミアムが低いCBは、オプションが安い可能性がありますが、信用不安が織り込まれている場合もあります。

8-3. 内包ボラティリティ(Implied Vol)

理論価格に頼りすぎる必要はありませんが、少なくとも「このCBは株のボラを何%で見ているのか」を把握すると、戦略の筋が通ります。市場の実現ボラや、同銘柄オプションのIV(存在する場合)と比較します。

8-4. 条項(ここが最大の落とし穴)

CBは条項で別物になります。特に危険なのは次です。

  • 発行体コール条項:株価上昇局面で繰上償還され、オプション価値の取り切りが難しくなる
  • リセット条項:株価下落時に転換価格が下がり、株主にとって希薄化が強まる(株の需給に影響)
  • 強制転換:一定条件で株にされ、思わぬ株エクスポージャーが残る

条項は「有利/不利」が一概に言えませんが、少なくとも“どういうときに発動するか”を理解しないで触るのは避けた方が良いです。

9. 典型的な失敗パターンと回避策

失敗①:借株コストを軽視して期待収益が消える

回避策は単純で、事前にショートコストのレンジを想定し、最悪ケースでも成り立つかを検討することです。コストが読みづらい場合は、戦略自体を諦める判断も重要です。

失敗②:信用悪化でBond Floorが崩れ、CBも崩落

回避策は、信用シナリオを3段階(改善/横ばい/悪化)で考え、「悪化したらどこまで落ちるか」を先に置くこと。CBは“株より安全”とは限りません。

失敗③:条項でゲームのルールが変わる

回避策は、目論見書・条件表を読み、発動条件を箇条書きで自分の言葉に翻訳することです。翻訳できないなら触らない、これが一番のリスク管理です。

失敗④:流動性がなく、損切りできない

回避策は、建玉サイズを小さくし、板の厚さ・出来高を見て「逃げられる量」に制限すること。CBは“売りたいときに売れない”が起こります。

10. 実践の組み立て:初心者でも使える手順

最後に、初心者が「理解→検証→小さく実践」するための順序を示します。ここが一番重要です。

Step1:CB発行ニュースを見たら“株の需給”を疑う

CB発行が出た直後の株価下落を、短絡的に「悪材料」と決めつけない。ヘッジ売りが主因かを考えます。出来高、信用残、空売り比率、貸借の状況など、取れる範囲で確認します。

Step2:転換価格とプレミアムの水準をチェック

株価と転換価格の距離、プレミアムの高さを見ます。転換価格が遠いのにCB価格が高い場合、何を織り込んでいるのか(条項、信用改善、ボラ上昇)を疑います。

Step3:想定シナリオを3つ作る

  • 株が横ばい(このときCBは債券としてどうか)
  • 株が急騰(コール条項で取り切れないか)
  • 株が急落(Bond Floorはどこか、リセットで需給悪化しないか)

Step4:小さく入って、データを取りながら学習する

CBそのものが難しい場合は、CB発行銘柄の株で「需給の癖」を観察するだけでも価値があります。トレードに落とすなら、損切り幅を先に決め、ロットを極小にします。CBは構造が複雑で、理解の浅さがそのまま損になります。

まとめ:CBアービトラージの理解は「相場の裏側」を読める武器になる

コンバージョン戦略は、個人がそのまま再現するには壁が高い一方、理解するだけで武器になります。CB発行銘柄の株価がなぜ重いのか、なぜボラが跳ねるのか、どこで需給が反転しやすいのか。これらは、CBの“分解”と“ヘッジの現実”を知ると説明がつきます。

方向性の当て物に疲れたときほど、相対価値の視点は効きます。まずは「CB=債券+オプション」という分解から始め、少額・短期・データ検証を前提に、着実に理解を深めてください。

※本稿は投資教育を目的とした一般的解説であり、特定の銘柄・取引の推奨ではありません。

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