FOMC(米連邦公開市場委員会)は、個人投資家にとって「ニュースが出てから値が飛ぶだけのイベント」に見えがちです。しかし、FOMCで最も実務的に使える材料は、声明文や会見の“印象”ではなく、金利見通し(レートパス)の情報です。レートパスが変わると、債券の利回り、株のバリュエーション、ドル、ゴールドまで同時に連鎖します。
そこで本記事では、FOMC後に公表されるドットチャート(SEP:Summary of Economic Projections)の読み方を、初心者でも実際にトレードに落とし込める形で解体します。単に「タカ派/ハト派」と言うのではなく、どの数字がどの市場にどう波及し、どこで勝負するかまでを具体化します。
ドットチャートとは何か:ここだけ押さえれば読み違えない
ドットチャートは、FOMC参加者(メンバー)が「年末時点の政策金利がどこにあると思うか」を点(ドット)で示した分布です。市場が反応するのは、きれいな解説ではなく、次の3点です。
1) “中央値(median)”は見出し、でも本体は“分布”
ニュースでは「中央値が○回利下げ」などと書かれます。ただし、相場が本当に動くのは、中央値の変化だけではありません。分布の偏り(タカ派側に固まった/ハト派側に崩れた)、つまり“委員会の重心がどちらに寄ったか”が次の会合の確率を変えます。
2) “今年・来年・長期(longer run)”の3つを別物として扱う
同じ利下げでも「今年の利下げ回数が減った」反応と、「来年の見通しが上がった」反応は別です。さらに長期(中立金利のイメージ)が上がると、株式の評価水準を構造的に押し下げます。短期の上下と、長期の“地盤沈下”は分けて考えます。
3) ドット単体ではなくSEP全体(成長・失業・インフレ)で整合性を取る
ドットがタカ派なのに、インフレ見通しが低下しているなら「保険的に高めに置いているだけ」かもしれません。逆にインフレ見通しが上方修正されているのにドットが変わらないなら「委員会はまだ確信がない」サインです。ドットの“理由”をSEPで裏どりします。
市場が反応する“3つの金利”を整理する:名目金利・実質金利・期待インフレ
ドットで動くのは政策金利ですが、株・為替・ゴールドが直接見ているのは多くの場合、長期名目金利や実質金利です。初心者が混乱しやすいので、相関の骨格を先に固定します。
名目金利(Treasury利回り)
「政策金利が高止まりする」→短期金利が上がりやすい。さらに市場が“高金利が長く続く(higher for longer)”と解釈すると、10年金利など長期も引き上げられます。ここが株の逆風になります。
実質金利(名目金利 − 期待インフレ)
ハイテク株や成長株は、将来キャッシュフローの割引率に敏感です。実質金利が上がると、割引率が上がり、成長株の評価(PER)が縮む方向に働きます。ドットのタカ派化が「実質金利上昇」に直結した局面では、NASDAQが特に反応しやすいです。
期待インフレ
ドットがタカ派でも、インフレが沈静化する見通しなら期待インフレが下がり、実質金利が上がる(=株に逆風)ことがあります。逆に、ドットがハト派でもインフレ見通しが上がれば、期待インフレが上がって名目金利が上がり、株は重くなることがあります。“ハト派なのに株が上がらない”の典型パターンです。
FOMC当日の“時間帯”を分解する:どこで何が動くか
FOMCは同じ日に複数の材料が出るため、初心者は「何で動いたのか」が分からなくなります。トレード視点では、材料を時間帯で分離します。
① 声明文(Statement):最初のジャンプは“言い回しの差”
声明文は短いですが、金融条件に関する表現、バランスリスク(景気とインフレのどちらを重視するか)の文言で、金利先物が即座に反応します。ここはアルゴが速い領域なので、個人は“追う”より“予想レンジを作って待つ”方が合理的です。
② SEP(ドット+経済見通し):本命はここ
ドットでレートパスが変われば、Fed Funds先物(政策金利の織り込み)が動き、それが2年金利→10年金利→株→為替へと波及します。つまり、ドットは「金利の根っこ」を動かす材料です。
③ 記者会見(Press conference):方向の確定 or 反転が起きやすい
会見は、ドットがタカ派でも「これは確定路線ではない」「データ次第」と釘を刺せば織り込みが戻ることがあります。逆に、ドットが大きく動かなくても、議長が強い言い回しをすると市場が“次回の確率”を動かします。会見は、“ドットの解釈”を修正する場です。
ドットの変化を“トレードに変換”する:4つの典型シナリオ
ここからが実践です。ドットの読み方は知識ですが、儲けに繋がるのは「事前にシナリオを4つに畳む」ことです。FOMC後の相場は速いので、当日に考えるのは遅いです。以下の4パターンに分け、連動資産と狙う場所を決めておきます。
シナリオA:ドットがタカ派化(利下げ回数減・据え置き長期化)+インフレ見通しも上方
これは“真正面のタカ派”です。2年金利が跳ねやすく、10年も連れやすい。NASDAQが最も弱くなりやすく、ドル高(特に高金利通貨の米ドルが買われる)になりやすい。ドル円は上がりやすいが、同時に株が崩れるとリスクオフ円高が混ざるため、ドル円は「金利差で上、リスクオフで下」の綱引きになります。初心者はドル円より、米国金利とNASDAQを軸にした方が分かりやすい局面です。
シナリオB:ドットがタカ派化だが、インフレ見通しは据え置き/下方(“保険的タカ派”)
金利は上がるが、インフレが落ち着く絵なら、期待インフレが下がって実質金利が上がりやすい。結果、成長株は重い。ただし景気が強いと見なされると、S&Pは耐えることもあります。ここはNASDAQ/S&Pの相対(強弱)が出やすいので、「指数全体の方向」より「どっちが弱いか」を見ると実用的です。
シナリオC:ドットがハト派化(利下げ回数増・前倒し)+インフレ見通しは低下
これは“素直なハト派”で、2年金利が下がり、実質金利も下がりやすい。NASDAQが上に反応しやすい典型です。ドルは弱くなりやすく、ゴールドが上がりやすい。ドル円は下がりやすいが、日本側の要因(介入警戒や日銀イベント)があると振れやすいので、初心者はNASDAQと金利の組み合わせが扱いやすいです。
シナリオD:ドットはハト派化だが、インフレ見通しが上方(“悪いハト派”)
初心者が最もやられるのがこれです。「利下げ増=株高」と短絡しがちですが、インフレ見通しが上がると、期待インフレが上昇し、名目金利が下がらない/むしろ上がることがあります。結果、株が伸びず、ゴールドだけが上がる、あるいはドルが読みにくい、という歪な反応になります。ここは“利下げ=景気が悪い”というメッセージが混ざっている可能性もあり、相場が荒れやすいので、ポジションは小さくします。
初心者向け:FOMCドットで“負けにくくする”準備手順
勝つ前に、負け方を管理する必要があります。FOMCはギャップが出やすく、損切りが滑りやすいからです。以下は「当日に慌てないための準備」です。
手順1:事前に“市場の織り込み”を一文で書く
例:「今年は利下げ○回、来年は○回、長期は○%付近」。この一文がないと、ドットが出ても“何がサプライズか”が分かりません。自分の言葉で書くのが重要です。
手順2:織り込みとの差分を“数字”で取る
ドットが示す回数と、織り込み(先物が示唆する回数)の差分が大きいほど、値動きが出ます。差分が小さいときは、イベントで無理に取ろうとせず、会見後の落ち着いたところで入る方が期待値が上がります。
手順3:関連資産を3つに固定する(広げない)
初心者が陥りがちなのは、ドル円、ユーロドル、金、原油、米株、日経…と同時に見て混乱することです。おすすめは「2年金利(またはFF先物)+NASDAQ(またはS&P)+ドル指数(またはドル円)」の3つに固定し、他は“答え合わせ”に回します。
手順4:当日は“最初の5分”を捨てるルールを作る
最初の5分はアルゴの縄張りです。飛びつくと、スプレッド拡大とノイズで損をしやすい。個人は、最初のジャンプの後の押し/戻りを狙った方が再現性が上がります。
具体例:ドット“タカ派化”をNASDAQのショートに変換する設計
ここでは、よくあるパターンを具体化します。前提は「市場は利下げを期待している(ややハト派織り込み)」の状態で、ドットがそれを裏切るタカ派化だった場合です。
観測する順序:金利→株の順に因果を取る
最初に見るのは株ではなく金利です。2年金利(またはFF先物)が上に跳ね、会見でも戻らないなら、タカ派が“本物”です。ここでNASDAQは遅れて下に来やすい。株の下げを見てから売るのではなく、金利の上昇が確定したタイミングでNASDAQ側の戻り売りを考えます。
エントリー:会見中の戻りを待つ
会見中は、短期筋が一度利確して戻りが入ることが多い。そこで、NASDAQが戻しているが2年金利は高止まり、という状態は“戻り売り”の形になりやすい。逆に、金利が戻り始めたら撤退します。撤退の条件を金利に置くと迷いが減ります。
利確:ボラが高い日は“部分利確”で取り切る
FOMC日はボラティリティが大きく、1回で底を取るのは難しい。下落の途中で一部利確し、残りはトレーリング(逆行したら切る)で追う方が、結果が安定します。欲張って“完璧な底”を狙うと、戻りで吐き出しやすいです。
具体例:ドット“ハト派化”をドル円ショートに変換する設計
次は逆で、ドットがハト派化し、米金利が低下した場合です。ここでの注意点は、ドル円は「金利差」と「リスクオン/オフ」の二重ドライバーがあることです。
まず“金利差の力”が勝っているかを確認する
米2年金利が下がり、ドル指数も下がっているなら、ドル円は下がりやすい。しかし、同時に米株が強く上がるとリスクオンで円安(ドル円上昇)が混ざることがあります。ここは、ドル指数が下なのにドル円が上の状態が出たら、一旦距離を置きます。ドル円は複雑なので、初心者は「ドル指数(またはユーロドル)」側でドル安を取る方がシンプルです。
“発表直後の急落”は追わず、戻りを待つ
ドル円は発表直後に一気に動き、すぐ半値戻しが起きやすい。追うと滑って不利になります。戻りで売る。戻らないなら“取れない日”と割り切る。これが生存戦略です。
よくある失敗と、避けるための実務ルール
最後に、FOMCドットで負ける典型を潰します。勝ち方より、負け方を潰す方が収益は安定します。
失敗1:「タカ派/ハト派」だけで判断して資産の反応が合わない
“ハト派なのに株が上がらない”の原因は、実質金利が下がっていない、あるいは景気後退懸念が混ざっているなど複合要因です。対策は単純で、金利(2年・10年)を見てから株を触る。順番を守るだけでミスが減ります。
失敗2:会見で方向が反転して損切りが遅れる
会見は反転が起きやすい。だからこそ、損切り条件を「価格」ではなく「因果の根っこ(米金利)」に置きます。例えばNASDAQショートなら、2年金利が発表前の水準に戻ったら撤退、などです。
失敗3:ポジションサイズが大きすぎて耐えられない
FOMCは普段の数倍動く日があります。普段と同じロットで入ると、想定外の上下でメンタルが崩れます。イベント日は、最初からロットを半分以下に落とす。これは勝ちやすさではなく、生存率の話です。
失敗4:ニュースやSNSの解釈に引っ張られてルールが崩れる
見出しは速いが雑です。ドットの分布とSEPを見ずに「タカ派だ」「ハト派だ」と言われると、途中で手がぶれます。自分のシナリオ(A〜D)に当てはめ、どの市場が先に動いているかで判断します。
まとめ:ドットは“当て物”ではなく“相関スイッチ”
ドットチャートは、未来を当てるための占いではありません。相場で重要なのは、市場が織り込むレートパスがどちらへズレたかであり、それが債券・株・為替の相関(連動)を切り替えます。
やることはシンプルです。
① 事前に織り込みを言語化する。② ドットの差分をシナリオA〜Dに畳む。③ 金利→株→為替の順で因果を取る。④ 会見反転に備えて撤退条件を金利に置く。⑤ イベント日はロットを落として生存率を上げる。
この手順を固定すると、FOMCは“怖いイベント”から“構造が読めるイベント”に変わります。次回のFOMC前に、まずはあなたの言葉で「市場の織り込み」を一文にするところから始めてください。


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