コンバージョン戦略:転換社債×現物株で“下方耐性+上方オプション”を設計する

投資戦略

「株は上がれば嬉しいが、下がると痛い」。この非対称を、金融商品として“構造”で解決しにいくのが転換社債(CB:Convertible Bond)を使ったコンバージョン戦略です。CBはざっくり言うと「社債(元本回収の期待)」に「株へ転換できる権利(上昇の取り分)」が合体したハイブリッド商品です。ここに現物株(または株価連動のヘッジ)を組み合わせることで、下方リスクを抑えながら上方を取りにいく、あるいは株価の方向性ではなく“値動きの性質”(ボラティリティや需給イベント)から収益機会を狙う設計が可能になります。

ただし、CBは「難しそう」で敬遠されがちです。実際、契約条項(コール、プット、転換価格修正、繰上償還など)と、ヘッジの実務(空売り、借株コスト、配当、流動性)が絡むため、表面的に理解しただけで手を出すと痛い目を見ます。この記事では、初心者でも理解できるように、CBの価値の分解→価格が動く理由→コンバージョンの狙い所→落とし穴→個人が現実的に取れる代替策まで、具体例を交えて徹底的に整理します。

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  1. 1. 転換社債(CB)とは何か:価値を「社債+株オプション」に分解する
    1. 1-1. 社債部分(Bond Floor:下値の土台)
    2. 1-2. 転換権部分(株のコールオプション:上昇の取り分)
  2. 2. CBの基本用語:ここだけ押さえれば読み解ける
    1. 2-1. 転換価格・転換比率・パリティ
    2. 2-2. 転換プレミアム(上乗せの理由)
    3. 2-3. デルタ(株への感応度)
  3. 3. 「コンバージョン戦略」とは:狙いは2つしかない
    1. 3-1. 下方耐性を残した“レバなし株ポジ”を作る(ロングCB)
    2. 3-2. 株の方向性を消し、ボラと歪みを収益化する(ロングCB+ショート株)
  4. 4. 価格が動く“トリガー”を知る:CBは4つの因子で動く
    1. 4-1. 株価(転換価値=パリティ)
    2. 4-2. ボラティリティ(オプション価値)
    3. 4-3. 金利(割引率)
    4. 4-4. 信用(発行体の財務・格付け・スプレッド)
  5. 5. コンバージョン戦略の基本形:設計図を文章で理解する
    1. 5-1. 典型:ロングCB+ショート株(デルタヘッジ)
    2. 5-2. 具体例:数字で“何をしているか”を可視化する
    3. 5-3. 収益源は“理屈の上では”3つ
  6. 6. 個人がまず理解すべき「落とし穴」:ここが怖い
    1. 6-1. 借株コストとハード・トゥ・ボロウ(HTB)
    2. 6-2. 配当・権利落ち・貸株料の複合パンチ
    3. 6-3. 条項(コール、プット、転換価格修正)を読み落とす
    4. 6-4. 信用ショック:CBは「安全資産」ではない
  7. 7. “勝ち筋”を作る観点:どんなCBに優位性が出やすいか
    1. 7-1. ボンドフロアがしっかりしている(信用が相対的に強い)
    2. 7-2. 株のボラが高いのに、CBのプレミアムが低い
    3. 7-3. 需給イベントが見えている(発行・買戻し・指数要因など)
  8. 8. 個人が現実的に取れる“コンバージョン発想”の代替手段
    1. 8-1. 「ロングCB単体」で“負け方を設計”する
    2. 8-2. 「株+プット」よりも、CBで同等の非対称を安く作れることがある
    3. 8-3. 「CBアービトラージファンド/ヘッジファンドの動き」を需給として読む
    4. 8-4. 個人がショートできないなら「小さく方向性を残して、ヘッジは損切りで代替」
  9. 9. 実践フレームワーク:CBを見るときのチェックリストを文章化
    1. 9-1. まずは「このCBの下値の土台は何か」を言語化する
    2. 9-2. 次に「上方の取り分はどれくらい残っているか」を見る
    3. 9-3. 最後に「実務上の摩擦(コスト)で期待値が消えていないか」を確認する
  10. 10. よくある誤解:コンバージョン戦略は「必勝」ではない
    1. 10-1. 「株が下がっても債券だから大丈夫」ではない
    2. 10-2. 「ボラが高いほど儲かる」わけではない
    3. 10-3. 「ヘッジすれば安全」ではない
  11. 11. まとめ:コンバージョンは「非対称を買う技術」

1. 転換社債(CB)とは何か:価値を「社債+株オプション」に分解する

CBは「一定条件で発行会社の株式に転換できる社債」です。投資家目線では、CBの価値は大きく次の2つに分解できます。

1-1. 社債部分(Bond Floor:下値の土台)

CBは社債なので、満期まで保有して償還されれば元本が戻る期待があります(もちろん信用リスクはあります)。この「社債としての理論価値」をしばしばボンドフロア(Bond Floor)と呼びます。割引率(市場金利)と信用スプレッドが広がるとボンドフロアは下がり、狭まると上がります。つまりCBは、株だけでなく金利・信用の影響を強く受けます。

1-2. 転換権部分(株のコールオプション:上昇の取り分)

転換権は「株を一定価格で買える権利」に近いので、実質的にコールオプションです。株価が上がるほど価値が増え、下がると価値が減ります。また、株価が横ばいでも、値動き(ボラ)が大きいほどオプション価値は増えます。ここが、コンバージョン戦略で“方向性以外”を狙える核心です。

2. CBの基本用語:ここだけ押さえれば読み解ける

2-1. 転換価格・転換比率・パリティ

転換価格は「この価格で株に交換できる」という基準価格。転換比率は「CBの額面(例:100万円)を転換価格で割って、何株に転換できるか」。そしてパリティは「今すぐ転換したら何円相当か」という株価連動の価値です。

例:額面100万円、転換価格2,000円なら転換比率は500株。株価が2,400円ならパリティは500×2,400=120万円。CB価格が115万円なら、株価に対して“転換価値より安い”状態で、転換が意識されやすくなります。

2-2. 転換プレミアム(上乗せの理由)

CB価格がパリティより高いことが多いのは、CBが「社債+オプション」だからです。株に転換しなくても満期償還の期待がある(=下方耐性)し、株が大きく上がれば転換で上方が取れる(=上方オプション)。この“保険”と“夢”の分を、パリティに上乗せしたものが転換プレミアムです。

2-3. デルタ(株への感応度)

CBは株のように見えて、株と同じではありません。株価が1%動いたときにCBがどれくらい動くかの感応度を、オプションと同じくデルタで考えます。デルタが0.5なら、株価が1円動くとCBは概ね0.5円分動くイメージです(実際は金利や信用なども絡む)。コンバージョン戦略では、このデルタを使ってヘッジ比率を決めます。

3. 「コンバージョン戦略」とは:狙いは2つしかない

言葉は難しいですが、狙いは大きく2つに集約できます。

3-1. 下方耐性を残した“レバなし株ポジ”を作る(ロングCB)

CBを買うだけで、株の上昇に参加しつつ、下落時は社債部分がクッションになるという設計になります。特に、株のボラが高く、将来の成長期待はあるが、株をストレートに持つのは怖い銘柄に対して「負け方を設計」できます。個人が現実的に取りやすいのはこのタイプです。

3-2. 株の方向性を消し、ボラと歪みを収益化する(ロングCB+ショート株)

機関投資家のCBアービトラージは、概ねCBを買って株を空売りし、株の方向性(デルタ)を中和して、オプション価値(ボラ)や需給の歪み、クレジット改善などを狙います。いわゆるコンバージョン(Conversion)/リバーサル(Reversal)の文脈です。

ただし個人は、借株の入手難・コスト・制度・サイズの問題で、機関と同じ運用は難しいことが多いです。だからこそ「同じ発想を、現実的な手段に翻訳する」ことが重要になります。

4. 価格が動く“トリガー”を知る:CBは4つの因子で動く

4-1. 株価(転換価値=パリティ)

当たり前ですが、株価が上がるとCBも上がりやすい。特に株価が転換価格を超えて、パリティがCB価格に近づく局面では、CBが“株に見える”ため連動が強くなります。

4-2. ボラティリティ(オプション価値)

株が横ばいでも、急騰急落が増えるとオプション価値が上がり、CBが上がることがあります。逆に、相場が落ち着いてボラが低下すると、株価が上がっていなくてもCBが冴えないことがあります。これが「株は強いのにCBが弱い」現象の典型です。

4-3. 金利(割引率)

金利上昇は社債価値を押し下げやすいので、CBの下支えが弱くなります。グロース株が金利に弱い局面では、CBは“株と債券の両方から殴られる”ことがあり得ます。

4-4. 信用(発行体の財務・格付け・スプレッド)

会社の信用不安が高まるとボンドフロアが崩れます。CBは「倒産しない前提」で下方耐性が効くので、信用が崩れると一気に性格が変わり、株よりも厄介な下落をします。CBを“安全寄り”と誤解するのは危険です。

5. コンバージョン戦略の基本形:設計図を文章で理解する

5-1. 典型:ロングCB+ショート株(デルタヘッジ)

考え方はこうです。

①CBを買う(社債+コールを買う)→ ②株をデルタ分だけ空売りする(株の方向性を消す)→ ③株が上下に振れるほど、ヘッジの売買(リバランス)が利益になりやすい(ガンマを持つ)→ ④最終的に、オプション価値の割安さや需給歪みが解消すると収益が出る。

ここで重要なのは「株が上がる/下がる」ではなく、値動きがあること、そしてCBがその値動きに対して安く値付けされていることです。

5-2. 具体例:数字で“何をしているか”を可視化する

仮に、ある企業のCBを100万円で買ったとします。転換比率が500株、株価は2,000円、CBデルタは0.4とします。

デルタ0.4の意味は「株を500株×0.4=200株ぶん持っているのと近い感応度」。だから、方向性を消すなら株を200株空売りします(厳密には価格・レシオ調整が入りますが、初心者はこのイメージで十分です)。

その後、株価が上がってデルタが0.6に上がったら、ヘッジ株を増やす(空売りを追加)必要があります。逆に株価が下がってデルタが0.2に下がったら、ヘッジ株を減らす(買い戻す)。これを繰り返すと、上で売って下で買い戻す形になりやすく、値動きが大きいほど取引機会が増えます。これが「ガンマを持つ」ことの直感です。

5-3. 収益源は“理屈の上では”3つ

(1) ボラが高くなる/織り込みが上がる:CBのオプション価値が評価される。
(2) 転換プレミアムの是正:需給で割安になっていたCBが適正化する。
(3) クレジット改善:会社の信用が回復してボンドフロアが上がる。

一方で、借株コスト配当支払いヘッジの滑りが“確定のマイナス”として乗ってくるので、ここを軽視すると戦略は簡単に負けます。

6. 個人がまず理解すべき「落とし穴」:ここが怖い

6-1. 借株コストとハード・トゥ・ボロウ(HTB)

空売りはタダではありません。借株料が高い銘柄、そもそも借りられない銘柄(需給がタイトな人気株)は、デルタヘッジが成立しません。CBが割安に見えても、空売りコストで期待値が消えるケースが頻発します。機関投資家がやっているのは、借株の調達力込みのビジネスです。

6-2. 配当・権利落ち・貸株料の複合パンチ

株を空売りしていると配当相当額を支払います。さらに権利落ち局面では株価のギャップが出てヘッジ調整が難しくなることがあります。配当が大きい銘柄ほど、ヘッジ側のキャリーが重くなり、戦略の収益源(ボラ収益)を食い潰します。

6-3. 条項(コール、プット、転換価格修正)を読み落とす

CBには「一定条件で会社が繰上償還できる(コール)」や「投資家が繰上償還を請求できる(プット)」などの条項があります。さらに、日本のCBでは転換価格が株価下落に合わせて修正される条項(いわゆるリセット)が付くこともあります。これは株の希薄化懸念を生む一方、CB側のオプション価値には影響します。条項の理解なしに“価格だけ”で判断すると、意図しない損失が出ます。

6-4. 信用ショック:CBは「安全資産」ではない

最悪のシナリオは、株価下落と同時に信用不安が出て、ボンドフロア自体が落ちることです。CBは「株が下がっても債券が支える」という期待が崩れると、株以上に荒れます。特に資金繰りが弱い企業のCBは、株式より先に“信用イベント”で売られることがあります。

7. “勝ち筋”を作る観点:どんなCBに優位性が出やすいか

ここからが実践的な話です。個人がCBを触る場合も、CBっぽい動きをする商品を扱う場合も、優位性が出やすい条件があります。

7-1. ボンドフロアがしっかりしている(信用が相対的に強い)

コンバージョンの「下方耐性」はボンドフロアが要です。財務が健全で、資金繰りに余裕があり、満期まで生き残る確度が高いほど、CBの“守り”が効きやすい。逆に、信用が弱いCBは、見た目の利回りや割安感で釣られやすい罠です。

7-2. 株のボラが高いのに、CBのプレミアムが低い

株がよく動くのにCBが冴えない局面は、オプション価値が過小評価されている可能性があります。ただし、理由がある(条項不利、流動性枯渇、信用懸念、借株困難)ことも多いので、“なぜ安いか”を説明できないなら触らない方がいい。

7-3. 需給イベントが見えている(発行・買戻し・指数要因など)

CBは流動性が薄いことが多く、需給で価格が歪みやすい。例えば「発行直後はヘッジファンドが一斉に空売りし、株が一時的に重くなる」「CBの買戻し・繰上償還が発表され、ショートが買い戻される」など、イベントが見える局面は優位性が出やすいです。

8. 個人が現実的に取れる“コンバージョン発想”の代替手段

個人が機関と同じデルタヘッジを無理に再現しようとすると、借株・コスト・サイズで詰みやすいです。そこで、発想を残しつつ手段を変えます。

8-1. 「ロングCB単体」で“負け方を設計”する

最も現実的で、しかも本質を外していません。株の成長期待はあるが下落が怖い銘柄に対し、株の代わりにCBを選ぶ。ここでのチェックポイントは、ボンドフロアの強さ条項の不利流動性です。CBが買える環境があるなら、これだけでも「株一択」より戦略の幅が広がります。

8-2. 「株+プット」よりも、CBで同等の非対称を安く作れることがある

株を持ってプットで保険を買うと、保険料(プレミアム)が重い局面があります。CBはその保険がパッケージ化されているため、市場環境によっては“同じ非対称”をより効率的に作れることがあります。逆に、ボラが高騰している局面ではCBも高くなりやすいので、その時は株+プットが有利な場合もある。つまり、非対称をどこで買うかの比較が重要です。

8-3. 「CBアービトラージファンド/ヘッジファンドの動き」を需給として読む

個人が直接アービトラージをやらなくても、CB発行時の典型パターンを知っておくと、株の短期需給を読む武器になります。発行直後はヘッジの空売りで株が重くなりやすい一方、一定期間後にヘッジが落ち着くと反発しやすい、などです。これは「発行ニュースを見た瞬間に売買する」ような短絡ではなく、需給の時間軸として活用します。

8-4. 個人がショートできないなら「小さく方向性を残して、ヘッジは損切りで代替」

どうしても方向性を消せないなら、無理に中立を目指すのではなく、CBをコアに置いて方向性を小さく取り、ヘッジは損切り・分割・時間分散で代替します。重要なのは「最悪ケースの形」を事前に想定し、一撃死しない建て方にすることです。

9. 実践フレームワーク:CBを見るときのチェックリストを文章化

9-1. まずは「このCBの下値の土台は何か」を言語化する

・会社の手元資金と返済能力は十分か。
・満期までの資金繰りの山はあるか。
・担保・優先順位はどうなっているか(劣後性の強い設計は要注意)。

ここが曖昧なら、CBの“守り”は幻想です。

9-2. 次に「上方の取り分はどれくらい残っているか」を見る

・転換価格に対して株価はどの位置か(転換が現実的か)。
・転換プレミアムは高すぎないか。
・株のボラに対して、CBの価格が割高/割安に見える理由を説明できるか。

9-3. 最後に「実務上の摩擦(コスト)で期待値が消えていないか」を確認する

・流動性:板が薄いCBは、理論上の優位性があっても執行で死にます。
・手数料・スプレッド:売買回数が多い戦略ほど効きます。
・空売り関連:借株料、配当、規制、品貸し。

10. よくある誤解:コンバージョン戦略は「必勝」ではない

コンバージョン戦略は、構造で非対称を作れる一方で、想定していないリスクが顔を出します。典型的な誤解を潰します。

10-1. 「株が下がっても債券だから大丈夫」ではない

信用が悪化すればボンドフロアは崩れます。CBは“社債の皮をかぶった株”になる瞬間があります。

10-2. 「ボラが高いほど儲かる」わけではない

ボラが高い=オプション価値が上がる、は事実ですが、そのボラが既に高値で織り込まれていたら割安ではありません。大事なのは織り込みと現実のズレです。

10-3. 「ヘッジすれば安全」ではない

ヘッジはコストがかかり、しかもストレス時に機能しないことがあります(借株が返される、流動性が消える、ギャップが出る)。ヘッジは万能ではなく、設計の一部です。

11. まとめ:コンバージョンは「非対称を買う技術」

コンバージョン戦略の本質は、転換社債を「社債+株オプション」として分解し、下方耐性(ボンドフロア)と上方の取り分(転換権)を、コスト込みで最適化することです。機関投資家はデルタヘッジで方向性を消し、ボラや歪みを収益化します。一方、個人は同じ手段をそのまま真似るより、CB単体で負け方を設計する/需給イベントとして読む/非対称を別手段と比較する方が、現実的で再現性が高いです。

最後に、CBは条項と実務コストがすべてです。価格だけを見て判断せず、「なぜその価格なのか」を説明できる状態にしてから触ってください。それがコンバージョン戦略で最も大事なリスク管理です。

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