ドル円を見ていると、一定の水準を超えた瞬間に「急に重くなる」「突然5〜10円規模で逆向きに叩き落とされる」といった動きに遭遇します。これがいわゆる“介入ライン”と呼ばれるものです。ただし、ここで誤解しがちなのは「〇〇円になったら必ず介入が入る」という単純な話ではない点です。実際の市場では、当局のスタンス、その時のボラティリティ、流動性(時間帯)、ポジションの偏り、さらにオプションの障壁などが重なって、同じ水準でも反応が変わります。
この記事では、初心者でも混乱しないように、介入を「当てる」のではなく、介入が起きても致命傷にならない売買の型を作ります。ポイントは3つです。
- 「介入ライン」を価格だけで決めない(時間帯・速度・前後の地合いを一緒に観測する)
- 介入が来る可能性が高い局面では、ポジションサイズと撤退条件を先に固定する
- “覆面介入”のように確証が持てない局面でも、値動きの形から危険度を定量化して対応する
以下は教育目的の解説で、特定の行動を推奨するものではありません。ご自身のルールと許容リスクの範囲で検討してください。
- そもそも「介入ライン」とは何か:価格の“節目”ではなく“危険領域”
- 覆面介入とは:確定情報が遅れる市場で“形”から推定する
- 介入リスクを測るための3点セット:価格・速度・時間帯
- 初心者向けの実践フレーム:介入を“当てに行かない”2つの戦術
- 介入が起きたときの“被害を限定する”設計:損切り・ロット・約定の3条件
- “介入っぽい動き”の後に起きる2段階:第一波と第二波を分ける
- オプションの壁を味方にする:初心者が使える“見えない注文”の考え方
- ニュースと指標の扱い:初心者は“予定されている爆弾”だけ避ければいい
- 初心者が作るべきチェックリスト:介入ライン近辺で“やらないこと”を決める
- まとめ:介入ラインは「当てる対象」ではなく「リスク管理を強制する装置」
そもそも「介入ライン」とは何か:価格の“節目”ではなく“危険領域”
介入ラインという言葉は便利ですが、実態は「この水準を超えると当局が動く」という一本線ではありません。より実用的には、当局が“円安のスピード”を問題視しやすくなる危険領域と捉える方が正確です。
危険領域は、次の材料で日々変化します。
- 直近の高値更新ペース:数日で急騰しているほど警戒されやすい
- 実効レート・ファンダメンタルズ:経常収支や金利差など、説明可能かどうか
- 市場の片寄り:円売りが“満員電車”になるほど巻き戻しが大きくなる
- 政府・日銀の発言頻度:口先介入が増えるほど、次が価格介入になりやすい
- 流動性:薄い時間帯ほど、少ない資金でも値が飛び、効果が出やすい
つまり「160円だから危ない」ではなく、「160円近辺で、上げ方が速く、薄い時間帯で、円売りが混み合っている」といった条件が揃うと危険度が上がります。
覆面介入とは:確定情報が遅れる市場で“形”から推定する
覆面介入は、要するに「その瞬間、介入だと断定できない」ケースを指します。市場参加者が困るのは、事後的に分かることが多い点です。たとえば、当局の資金の出入りは統計で追える場合がありますが、即時に公式発表されるとは限りません。
そこで、トレーダーとしては「介入の確証」を待つのではなく、介入っぽい値動き=危険シグナルとして扱うのが合理的です。代表的な“形”は次の通りです。
- ワンショットで数十〜数百pips逆行し、戻りが遅い(瞬間的な“崖”)
- 板が薄いところを貫通して滑りやすい(約定が飛ぶ)
- 数分〜数十分で戻り売りが連鎖し、下落が自己増殖する
- 同時にクロス円も崩れる(単独通貨ではなく円主導の動き)
ここで重要なのは、これらは「介入だけ」で起きるわけではないことです。指標・要人発言・リスクオフでも似た形になります。だからこそ、初心者はまず“介入と見分ける”より“危険局面を検知する”方に寄せた方が勝率が安定します。
介入リスクを測るための3点セット:価格・速度・時間帯
初心者が最短で再現できる観測方法として、私は「価格・速度・時間帯」の3点セットを推します。難しい指標は不要で、チャートと時計で十分です。
1) 価格:ラウンドナンバーと直近高値を“帯”で見る
ドル円は、150、155、160のようなラウンドナンバー(キリ番)が意識されやすい一方で、実際に反応するのは“点”ではなく“帯”です。たとえば160.00ちょうどではなく、159.70〜160.30のように幅を持って反応が出ます。これは、指値・逆指値・オプションのストライクが周辺に散らばるためです。
具体的には、次の2本を引きます。
- 直近1〜2か月の高値(市場が「ここを超えると景色が変わる」と意識する水準)
- キリ番(00/50)(注文が溜まりやすい)
そして、線ではなく±30pips程度のゾーンとして扱います。
2) 速度:上げの角度が“急”なら危険度が上がる
介入が意識されるのは、円安の「水準」よりも「速度」です。実務的には、次のように単純化できます。
- 15分足で陽線が連続し、押し目がほぼ無い
- 1時間足で移動平均からの乖離が拡大し続ける
- 上昇が「階段」ではなくエレベーターのように進む
速度の観測は、テクニカル指標よりも「押し目の浅さ」で判断するのが初心者向きです。押し目が浅い=買いが止まらない=ポジションが片寄りやすい=逆回転したときに大きい、という構造です。
3) 時間帯:東京・ロンドン・NYで“同じ水準でも危険度が違う”
同じ160円でも、いつ到達したかで危険度が変わります。理由は流動性と参加者が違うからです。
- 東京時間:国内勢の需給が出やすい。口先介入が出ることも。値動きは比較的マイルドだが、材料次第で急変もある。
- ロンドン時間:流動性が増え、トレンドが伸びやすい。オプション関連の防戦も起きやすい。
- NY時間:米金利・指標・株式と連動しやすい。トレンドが加速しやすい一方、巻き戻しも激しい。
初心者にとって最も危険なのは、「薄い時間帯に、速度が出た状態で、危険領域に突入する」ケースです。スプレッドが広がりやすく、逆指値が滑りやすいからです。
初心者向けの実践フレーム:介入を“当てに行かない”2つの戦術
ここからが本題です。介入局面で勝ちに行く方法はたくさんありますが、初心者がいきなりやると高確率で事故ります。そこで、再現性が高い2つに絞ります。
戦術A:危険領域での「追いかけ買い」を封印し、押し目だけを狙う
最も簡単で効果が大きいのは、危険領域(介入ライン近辺)では追いかけ買いをしないというルールです。理由は単純で、介入や急な巻き戻しが来たときに、買いの平均取得単価が高いほど損失が大きいからです。
押し目狙いの具体例を、架空のシナリオで示します。
- ドル円が159.20→159.90まで急騰し、160.00が見えている
- この時点で新規買いはしない
- 代わりに、159.60〜159.70の押し目(戻り)を待ち、そこからの再上昇だけを狙う
- 押し目が来なければ見送る(機会損失より事故回避を優先)
この戦術の“勝ち筋”は、勝つことではなく、負け方を小さくする点にあります。介入は頻度が低い一方、来たときの破壊力が大きい。だから、期待値の敵は「数回の小さな負け」ではなく「一発の致命傷」です。
戦術B:逆張りは“1回だけ”、撤退を固定して試す(当てに行かない)
介入ライン近辺で逆張りをしたくなる人は多いですが、初心者がやるなら回数制限が必須です。逆張りで一番危険なのは「まだ上がるのに、ナンピンしてしまう」ことです。これを防ぐために、次のルールを機械的にします。
- 逆張りは1回だけ(追加しない)
- 損切りは価格ではなく時間も使う(例:10分以内に想定通りに動かないなら撤退)
- 利確は深追いしない(介入級の急落は狙わず、戻りの一部だけを取る)
架空例:
- 160.00手前で上昇が鈍化し、1分足で上ヒゲが目立ち始める
- 159.95で小さく売る(ロットは通常の1/3など、明確に落とす)
- 損切り:160.20到達、または10分経っても159.85を割れない
- 利確:159.70〜159.80(“取れるところだけ”)
このやり方は「介入を当てる」逆張りではありません。上昇の勢いが弱まった瞬間の短期的な反動を取りに行くものです。介入が来ればラッキーですが、来ない前提で設計します。
介入が起きたときの“被害を限定する”設計:損切り・ロット・約定の3条件
介入局面の事故は、ほとんどが「想定以上に滑って損切りできない」か「ロットが大きすぎる」のどちらかです。逆に言えば、ここを設計すれば致命傷は避けられます。
1) 損切りは「根拠が崩れた地点」で切る(固定pipsにしない)
初心者は「20pipsで損切り」のように固定しがちですが、介入局面ではスプレッド拡大や瞬間的なヒゲで無駄に刈られます。おすすめは、根拠が崩れた地点で切ることです。
- 押し目買いなら:押し目ゾーンを明確に割ったら撤退
- 短期逆張りなら:上ヒゲ→反落が出ない=勢いが残っているので撤退
2) ロットは“勝負の根拠の強さ”ではなく“滑るリスク”で決める
介入は滑りやすいので、ロットは通常より下げるのが合理的です。根拠が強く見えても、約定が安定しなければ期待値が壊れます。初心者はまず、介入ライン近辺では通常の1/2〜1/3に落とすだけで、メンタルと成績がかなり安定します。
3) 指値より逆指値の置き方が重要:最悪を先に決める
介入局面では、利益の最大化よりも損失の上限管理が重要です。逆指値を置かないと、急変で判断が止まり、結果的に大損します。逆指値は「この価格に行ったら、自分の仮説が間違い」と言える場所に置きます。
“介入っぽい動き”の後に起きる2段階:第一波と第二波を分ける
介入や急反転の後、値動きはよく2段階になります。
- 第一波:瞬間的な急落(ニュース・フロー・当局資金・損切り連鎖)
- 第二波:戻り売り(トレンド勢が“逃げ場”を探す)
初心者がやりがちなのは、第一波の途中で「底だ」と買ってしまうことです。第一波はスプレッドも荒く、反発も鋭いので、感情的に飛びつきやすい。しかし、ここは難度が高いです。狙うなら第二波の方が再現性が高いです。
具体的には、急落後に
- 5分〜15分ほど落ち着く
- 戻りが半分程度(フィボで言う0.5近辺)で止まりやすい
- そこから再度売りが出る
という“形”を待ってから、短期の戻り売りを検討します。もちろん、トレンドが完全に変わる保証はありません。だからこそロットは小さく、撤退条件は固定します。
オプションの壁を味方にする:初心者が使える“見えない注文”の考え方
ドル円では、ストライク(権利行使価格)付近にオプションが溜まり、相場が吸い寄せられたり、逆に跳ね返されたりします。オプションの詳細情報を完璧に追わなくても、初心者が使える実用的な考え方があります。
- 00/50はオプションが集まりやすい=一時的に粘ることがある
- 期限(カットオフ)近辺は、価格がその水準に“貼り付く”ことがある
- 壁が割れると、溜まっていた注文が消えて加速することがある
実戦では、「キリ番に近いのに伸びない」→「急に抜けた」の変化が重要です。伸びない時に追わず、抜けたら押し目を待つ。これだけでも無駄な高値掴みが減ります。
ニュースと指標の扱い:初心者は“予定されている爆弾”だけ避ければいい
介入ラインにいる時に、米雇用統計やCPI、FOMCのようなイベントが重なると、値動きが“介入級”になります。初心者が全部を予想するのは不可能です。やるべきはシンプルで、予定されている爆弾の直前にポジションを軽くすることです。
具体的には、
- 重要指標の30分前〜直後は新規を控える
- 保有中ならロットを落とす、または逆指値を必ず入れる
- イベントで荒れた後に、形が整ってから入る(“遅れてもいい”)
この「入らない」という選択が、初心者の成績を最も改善します。
初心者が作るべきチェックリスト:介入ライン近辺で“やらないこと”を決める
ここまでを踏まえて、介入ライン近辺でのチェックリストを作ります。テクニックよりも、事故を避けるための禁止事項が効きます。
- 危険領域では成行で飛び乗らない
- 逆張りはナンピンしない(1回だけ)
- 薄い時間帯はロットを落とす
- 急騰中は“押し目待ち”。押し目が来なければ見送る
- 重要指標前はポジションを軽く、新規を控える
これだけで、介入局面の“致命傷”は大幅に減ります。勝ち方の工夫は、その後で十分です。
まとめ:介入ラインは「当てる対象」ではなく「リスク管理を強制する装置」
ドル円の介入ラインは、相場参加者の心理とポジションの片寄りを映す“危険領域”です。初心者がやるべきことは、ラインを当てることではありません。
- 価格を点ではなくゾーンで捉える
- 速度(押し目の浅さ)で危険度を上げ下げする
- 時間帯の流動性で“滑りやすさ”を織り込む
- 逆張りは回数制限、押し目買いは追わない
介入が来るかどうかはコントロールできません。しかし、介入が来たときに生き残る設計はできます。まずは「やらないこと」を固定し、次に小さなロットで検証しながら、自分の型にしていきましょう。


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