インバウンド(訪日需要)を材料にした相場は「盛り上がってから買う」と高値掴みになりがちです。そこで使えるのが、ホテルの稼働率(Occupancy)と客室単価(ADR:Average Daily Rate)です。ニュースの熱量ではなく、価格と数量の両方を見ます。
本記事では、初心者でも追える形で「稼働率×ADR」からRevPAR(客室売上の実力)を作り、さらに限界利益(増分利益)が伸びる局面を読み解いて、インバウンド関連(ホテル運営、旅行、鉄道、空港、百貨店、決済、ホテルREITなど)への投資判断に落とし込む方法を具体的に解説します。
結論:見るべきは「RevPARの伸び方」と「稼働率の位置」
ホテル指標は最終的にRevPAR(Revenue per Available Room:販売可能客室当たり売上)に集約できます。概念はシンプルで、RevPAR ≒ 稼働率 × ADRです。
ただし投資で効くのは「RevPARが高いか」よりも、RevPARの伸びがどのドライバーで起きているかです。稼働率で伸びているのか、ADRで伸びているのかで、企業の利益の出方が変わります。
限界利益が伸びやすい局面(ざっくり3段階)
① 回復初期(稼働率主導):稼働率が低いところから戻る。固定費(人件費、賃料、減価償却)が重いので、売上が増えると利益が出やすい。だがADRはまだ弱いことが多い。
② 逼迫局面(ADR主導):稼働率が高水準(例えば都市部の繁忙期)に近づくと、数量を増やせないので値上げ(ADR)が主役になる。ここが限界利益が一番伸びやすい。なぜなら、値上げ分はコストが同じでも売上に上乗せされ、利益率が跳ねるからです。
③ 飽和~反転(稼働率が天井、ADRも鈍化):値上げ余地が尽きる、供給(新規開業)が増える、需要が弱る、のどれかが来る。RevPARの伸びが鈍化し始め、株価は先回りでピークアウトしやすい。
指標の基礎:稼働率・ADR・RevPARを1分で理解する
稼働率は「売れた客室数 ÷ 販売可能客室数」です。数量(どれだけ売れたか)。
ADRは「客室売上 ÷ 売れた客室数」です。価格(いくらで売れたか)。
RevPARは「客室売上 ÷ 販売可能客室数」で、稼働率×ADRに分解できます。ホテルの“実力”が一発で見えるので投資家が好みます。
ポイントは、稼働率とADRは同時に動かないことがあることです。例えば、稼働率が上がると「安い部屋から埋まる」のでADRが下がることもあります。逆に、稼働率が高止まりすると、値上げのためにあえて一部在庫を絞り、稼働率が少し下がってもADRが大きく上がることがあります。
投資で刺さる視点:限界利益(増分利益)という考え方
インバウンド関連で“儲かる局面”を当てるには、会計上の利益よりも限界利益(売上が1増えたときにどれだけ利益が増えるか)を意識すると精度が上がります。
ホテル運営は固定費が重いモデルです。建物、賃料、基幹人員、システム、光熱のベースなどが先にかかります。だから、稼働率が低い時は赤字でも、稼働率が上がると一気に黒字化します。ここは分かりやすい。
さらに面白いのは稼働率が高い局面でのADR上昇です。値上げは、客室清掃やアメニティなどの変動費が多少増えても、増分の多くが利益に残ります。つまり、「ADRが上がり続けるか」が株価のドライバーになりやすい、ということです。
実務的な見方:稼働率の“水準”が変わると相場の解釈が変わる
同じ「前年比+10%」でも、稼働率が60%→66%なのか、85%→93%なのかで意味が違います。後者は“逼迫”に近く、ADRが上がりやすい。前者は回復局面で、ADRよりも稼働率が主役になりがちです。
目安としての「稼働率レンジ」
厳密な数値はエリアやグレードで違いますが、ざっくり以下を意識すると判断が速いです。
- ~65%:回復初期。稼働率の改善が利益を押し上げるが、価格決定力はまだ弱い。
- 65~80%:回復後半。需要の質が改善し、イベント・繁忙日のADRが強くなりやすい。
- 80%超:逼迫。ADR主導になりやすく、利益の伸びが最も大きくなりやすい。
投資で重要なのは「今どこにいるか」と「次にどちらへ動くか」です。稼働率が80%近辺で高止まりし、ADRがまだ伸びているなら、相場は“強い”状態にある可能性が高い。
具体例:同じRevPAR上昇でも“儲かり方”が違う
ここで、数字を置いて直感を作ります。販売可能客室が100室のホテルを想定します。
ケースA:稼働率主導(回復初期)
稼働率50%→70%、ADRが10,000円→9,000円に少し下がったとします。
RevPARは 0.50×10,000=5,000円 → 0.70×9,000=6,300円。+26%です。売上は増える。固定費の吸収が進み、赤字→黒字の転換が起きやすい局面です。
ただしADRが弱いので、「次の一手」がADRに移るかどうかで株価が変わります。ここでADRが上がり始めると相場は加速しやすい。
ケースB:ADR主導(逼迫局面)
稼働率85%→88%(ほぼ横ばい)、ADRが12,000円→16,000円に上がったとします。
RevPARは 0.85×12,000=10,200円 → 0.88×16,000=14,080円。+38%です。増加分の多くが“値上げ”由来なので、変動費が大きく変わらない限り利益の伸びが極めて大きい。ここが限界利益が最も伸びやすい局面です。
「インバウンドの限界利益」を読むチェックリスト
ホテル稼働率とADRだけでも戦えますが、投資判断の精度を上げるなら“限界利益”の伸びを左右する要因を足します。
1) 人件費と外注費:供給制約は追い風にも逆風にもなる
人手不足で清掃・フロントが回らないと、稼働率を上げたくても上げられません。一方で、供給制約が強いと客室が希少になり、ADRが上がりやすくなります。
投資としては「稼働率が伸びにくいのにADRが伸びている」なら強気材料になり得ます。ただし、外注費が跳ねて利益が食われるケースもあるので、決算で人件費率や外注費の増え方を確認します。
2) OTA手数料:値上げしても利益が残らない罠
予約経路がOTA(オンライン旅行代理店)偏重だと、売上が増えても手数料が増えます。ホテル側が直販比率を上げているか、会員施策でリピートを取れているかは、限界利益の伸びを左右します。
3) MICE・イベント:平日の単価を押し上げる“質の需要”
観光需要は週末偏重になりがちです。平日を埋めるのはMICE(国際会議、展示会、企業イベント)やスポーツ大会、音楽イベントなどです。これらは高単価になりやすく、ADRを押し上げます。
投資では「大型イベントが続く地域」「コンベンションセンターの稼働」「空港の国際線増便」などを、ADR上昇の背景として見ます。
4) 供給(新規開業・客室増):ピークアウトの一番分かりやすい原因
ホテルは“供給”が増えると値上げが止まります。稼働率が高いからといって安心できない最大の理由です。新規開業が集中するエリアでは、需要が強くてもADRが鈍化しやすい。
初心者がやりがちなのは、稼働率が高い=ずっと強い、と思い込むことです。相場では、供給増のニュースが出た時点で株価が先に反応します。
銘柄・セクターへの落とし込み:どこが一番レバレッジが効くか
同じインバウンドでも、稼働率×ADRの改善が「利益」に落ちる度合い(レバレッジ)が違います。
ホテル運営会社
直撃で効きます。特に都市部のハイグレード、ブランド力がある運営はADRが取りやすい。稼働率が高水準の局面では“値上げ力”が評価されやすい。
ホテルREIT(J-REITのホテル特化/比率高め)
賃料形態が重要です。固定賃料中心なら景気に強いがアップサイドは限定的。変動賃料(GOP連動など)比率が高いと、ADR上昇局面で分配金が伸びやすい一方、下振れも大きい。
ここは「インバウンド=ホテルREIT買い」と短絡しないこと。契約形態と稼働率・ADRの関係を必ず確認します。
旅行・予約プラットフォーム
需要増で取扱高が増えますが、手数料率や広告費で利益がブレます。ホテル指標が改善しても、価格が上がりすぎると旅行者が減り、取扱高が伸びにくいこともあります。
鉄道・空港・百貨店
ホテル指標は“需要の先行指標”として使えます。ホテルが逼迫しADRが上がる局面は、観光の密度が上がっているサインで、二次消費(交通・買物)が伸びやすい。
データの取り方:初心者でも回せる“月次の監視ルーティン”
やることは難しくありません。月1回、同じ手順で数字を更新します。
ステップ1:稼働率とADRを取る
宿泊統計や業界レポート、主要ホテルチェーンや不動産会社の開示など、出所は複数あります。ポイントは「同じ出所で継続」することです。数値の絶対値より、トレンドが重要だからです。
ステップ2:RevPARを作って、前年差・前月差を見る
RevPARは稼働率×ADRで作れます。次に、前年比(季節性の除去)と前月差(足元の勢い)を併用します。観光は季節性が強いので、前年比は必須です。
ステップ3:稼働率の水準で“局面ラベル”を貼る
前述のレンジ(~65%、65~80%、80%超)を目安に、今が稼働率主導なのか、ADR主導なのかを仮説化します。
ステップ4:決算で“利益の出方”を検証して仮説を修正
ホテル運営やホテルREITの決算では、売上の伸びに対して利益がどれだけ増えたかを見ます。ここで限界利益の感触が掴めます。例えば、売上+20%で営業利益+80%のような動きが出るなら、ADR主導で効いている可能性が高い。
よくある失敗と回避策
失敗1:稼働率だけ見て買う
稼働率はニュースになりやすいですが、稼働率が高いだけでは“値上げ余地”が残っていないこともあります。稼働率が高いなら、むしろADRが伸び続けているかを重視します。
失敗2:ADRの上昇を「インフレだから仕方ない」と軽視する
コスト増の値上げと、需給逼迫の値上げは別物です。前者は利益が増えない。後者は利益が増える。見分けるには、稼働率の水準と、RevPARの伸びのドライバー(稼働率/ADR)を見るのが一番早い。
失敗3:供給増を見落とす
新規開業が増えると、稼働率が高くてもADRが止まります。供給面のニュース(開業計画、再開発、規制緩和、民泊の動き)は、ホテル指標とセットで追います。
実戦テンプレ:インバウンド相場の「仕込み→伸ばし→降り」の判断
仕込み(まだ疑われている局面)
稼働率が低水準から回復し始め、前年比がプラスに転じる。ADRはまだ弱いが、RevPARが明確に改善する。株価は割安に放置されやすい。
伸ばし(強い局面)
稼働率が高水準に近づき、ADRが伸び始める。RevPARの伸びが加速し、決算でも限界利益が強く出る。相場の主役になりやすい。
降り(ピークアウトの兆し)
稼働率が天井っぽいのにADRの伸びが鈍化、または供給増で稼働率が落ち始める。RevPARの前年比が減速し、株価が先に調整することが多い。ここは“良い数字が出ているうちに売られる”典型なので、指標の減速を早めに拾う。
まとめ:ホテル指標は「ニュースの熱」ではなく「利益の源泉」を測る道具
インバウンド相場は感情が先行しやすい分、数字で冷静に見れば優位性を作れます。稼働率とADRを組み合わせてRevPARを作り、どのドライバーで伸びているかを見れば、限界利益が伸びる局面をかなりの精度で追えます。
月1回の更新でも十分に機能します。まずは、稼働率・ADR・RevPARの3点を同じ出所で継続して追い、決算で「利益の出方」を照合する。この習慣が、インバウンド相場の“乗り遅れ”と“高値掴み”を減らします。


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