本記事では、投資初心者の方でも今日から実務に使える「配当利回り × PER × PBR × ROE」のクロススクリーニング手法を、基礎から実装、検証、運用まで一気通貫で解説します。単一指標に頼らず、互いの弱点を補完する4指標を重ねて使うことで、過度な割高・割安の見誤りを減らし、期待値の高い銘柄群を抽出しやすくなります。
この4指標を束ねる理由
各指標は単独ではノイズが多く、景気局面や業種特性により解釈がぶれます。そこで相互補完の関係にある4指標を同時に使います。
- 配当利回り:キャッシュ還元の実度合い。過剰に高い利回りは減配リスクのサインである可能性。
- PER(株価収益率):利益に対する株価の倍率。低いほど割安だが、構造的に低収益の罠もある。
- PBR(株価純資産倍率):純資産に対する株価。1倍割れは再評価余地か、資本効率の低さか。
- ROE(自己資本利益率):資本効率の核心。高ROEが長期で持続する企業は極めて少ない。
配当利回りとPBRが「安さ」の検出、PERが「利益水準に対する安さ」の追加検証、ROEが「安さの理由が効率性の低さか否か」をふるい分けます。4枚のフィルターで「見かけの割安」を落とし、持続的な資本効率を軸に残す設計です。
指標の定義と読み解きの落とし穴
配当利回り
配当利回り = 1株当たり配当 ÷ 株価
です。利回りが高いほど魅力的に見えますが、以下に注意します。
① 一過性利益や特別配当で見かけの利回りが跳ねるケース、② フリーキャッシュフローが枯渇し配当の持続性が低いケース、③ 株価急落で名目利回りだけが高いケース。フリーキャッシュフロー/配当総額でカバー率を見て、70%以上を目安に安全圏、30%未満は警戒といった実務基準を設けます。
PER
PER = 時価総額 ÷ 当期純利益
(一般に株価/1株利益)。低PERは魅力に見えますが、構造的低成長・景気敏感・会計上の一過性損益などで「安い理由」が妥当かを確認します。逆に高PERでも、営業CF成長と高い再投資収益が裏付けば正当化されます。
PBR
PBR = 時価総額 ÷ 純資産
。1倍割れは市場から「資本効率が低い」と評価されているサインです。逆に資本政策(自己株買い、不要資産売却)や事業再編でROEテコ入れの余地があれば、再評価トリガーとなり得ます。
ROE
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本
。持続性が重要で、単年の高ROEはレバレッジや一過性要因の可能性があります。3~5年平均での一貫性、もしくは「ROE改善トレンド(連続上昇)」を評価軸に組み込みます。
初心者向けの実務フレーム
以下は初学者でも再現できる段階的フレームです。
- 投資可能ユニバースの定義:国内であれば東証プライム/スタンダード、米国ならS&P1500など。最低時価総額・流動性(出来高)を閾値に。
- 一次フィルター:
- 配当利回り:市場中央値±0.5~1.0%帯に収まるか(極端高利回りは除外)。
- PER:業種内の下位30~50%に入るか。
- PBR:1.5倍以下(資本効率の改善余地を残す)。
- ROE:過去5年平均で8%以上、かつ直近で改善傾向。
- 二次フィルター(質の検証):
- フリーCF/配当総額 ≥ 70%
- 有利子負債/EBITDA ≤ 3倍
- 売上・営業CFの3年CAGRがプラス
- 自己株買い・配当方針の継続性(定性的)
- 商談的な目利き(初心者でもできる定性チェック):
- 価格決定力:値上げが通る製品/サービスか。
- 固定費構造:稼働率低下で赤字転落しやすいか。
- 競争優位:スイッチングコスト、ネットワーク効果、規模の経済。
- 売買ルール化:入口・出口・リスク管理を数値化し、裁量を減らします。
売買ルールの雛形(初心者向け)
以下は教育目的のサンプルです。実資金投入前に必ず紙上・過去検証を行ってください。
エントリー:二次フィルターを通過し、直近20日移動平均線の上に株価があり、出来高が20日平均以上。
ポジションサイズ:1銘柄あたりポートフォリオの5%上限。
損切り:買値から-10%または直近スイング安値割れ。
利益確定:買値から+20%で半分利確、残りは20日移動平均割れで全利確。
保有上限:1銘柄180日(見直しで継続可)。
ケーススタディ(数値イメージ)
仮想銘柄A(製造業):株価1,000円、1株配当40円、EPS100円、BPS800円、自己資本1,000億円、純利益120億円。
- 配当利回り = 40/1000 = 4.0%
- PER = 1000/100 = 10倍
- PBR = 1000/800 = 1.25倍
- ROE = 120/1000 = 12%
配当カバー率(フリーCF/配当総額)が80%、有利子負債/EBITDAが2.0倍、売上CAGRが+5%であれば、一次・二次フィルターを通過します。さらに直近の自己株買い発表や、価格転嫁の進展があれば評価は上振れします。
落とし穴と回避策
高利回りの罠
利回り7~10%台は赤信号です。減配・業績悪化の先行サインの可能性が高く、まずはキャッシュ創出力と配当方針を確認します。
低PERの罠
構造不況業種は低PERが常態です。業種内比較で「低すぎない低さ」を狙います(例:業種中央値の70~90%程度)。
PBR1倍割れの罠
資産の収益化能力が低い場合、バリュー・トラップになります。資産売却や再編の兆しがあるか、経営の資本配分スタンスを確認します。
一過性ROEの罠
レバレッジや為替差益で一時的にROEが跳ねることがあります。5年平均とトレンドで確認します。
実装:無料データでのExcelスクリーニング手順
- 無料の株価・業績データをCSVで取得します(証券会社のスクリーナーや公開データを活用)。
- Excelに取り込み、列に
配当利回り, PER, PBR, ROE, フリーCF, 配当総額, 有利子負債, EBITDA, 売上
等を配置します。 - 計算列で
配当カバー率 = フリーCF ÷ 配当総額
、NetDebt/EBITDA
を算出します。 - ①一次フィルター、②二次フィルターの基準でフィルタリングします。
- 条件通過銘柄のチャートで20日移動平均と出来高を確認します。
バックテスト(教育目的)
初心者はまずリストの追跡から始めましょう。毎月末にフィルターを走らせ、通過銘柄を均等加重で仮想保有し、翌月末にリバランスします。12か月追跡で、単純市場平均との乖離を観察します。勝率よりも最大ドローダウンを重視し、DDが大きすぎる基準は見直します。
ポートフォリオ構築とリスク管理
初心者は銘柄分散(10~20銘柄)とセクター分散(同一セクターは30%以内)を徹底します。キャッシュ比率を常に10~30%持つことで、急落時の追加投資余力を確保します。損切りは上記ルールに従い、トレーリングストップで利益を伸ばします。
いつリバランスするか
基本は月次。決算発表で指標が悪化(ROE低下、配当カバー率低下、NetDebt/EBITDA上昇)した場合は臨時で除外します。
チェックリスト(印刷用)
□ 配当カバー率 ≥ 70%/□ ROE(5年平均)≥ 8%+改善傾向/□ PERは業種内下位30~50%/□ PBR ≤ 1.5倍/□ NetDebt/EBITDA ≤ 3倍/□ 売上・営業CF 3年CAGRプラス/□ 20日線上/□ 出来高20日平均以上/□ 損切り・利確ルール設定済み
Q&A
Q:高配当だけで十分では?
A:十分ではありません。財務が劣化していれば減配で破綻します。配当カバー率とROEの持続性を併せて確認します。
Q:ROEが低くても成長中なら買い?
A:創業投資期はROEが一時的に低いことがあります。売上・営業CFのCAGRと、ROEの改善トレンドを見ます。
Q:PBRが高い成長株は除外?
A:除外しません。PBRは資産の厚みが小さい成長企業では高くなりやすいので、ROEの持続と再投資収益の裏付けで判断します。
まとめ
配当利回り・PER・PBR・ROEの4指標を組み合わせ、安さの理由と効率の持続を同時に検証することで、初心者でも再現可能なスクリーニングが構築できます。月次で淡々と回し、裁量の介入を最小化するほど、結果は安定しやすくなります。
注意:本稿は教育目的の一般情報です。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で実施してください。
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