- 逆日歩とは何か:ニュースより早く需給の歪みが見える指標
- まず押さえる構造:制度信用・一般信用・株式貸借の関係
- 逆日歩が出る典型パターン:短期資金が“売り”に偏る瞬間
- 踏み上げが起きるメカニズム:売り方が“コスト”と“損失”の二重苦になる
- 実務で使う判断軸①:逆日歩の「金額」より「変化」と「継続」を見る
- 実務で使う判断軸②:売り禁・注意喚起・増担保は“燃料”と“ブレーキ”の両面
- 実務で使う判断軸③:板と歩み値で「買い戻しの質」を見分ける
- チェックリスト:逆日歩×踏み上げ初動を判定する10項目
- エントリー設計:踏み上げ狙いは“初動だけ”を取りに行く
- 損切り設計:逆日歩トレードは“撤退ライン”を先に決める
- 利確設計:踏み上げは“出口の方が難しい”
- 具体例シナリオ①:急騰テーマ株で逆日歩が初発生した翌日のデイトレ
- 具体例シナリオ②:高値圏で売り禁が出た銘柄の“寄り天回避”
- 初心者がやりがちな失敗と対策
- スクリーニング手順:毎日15分で“踏み上げ候補”を抽出する
- まとめ:逆日歩は“売り方のストレス”を数値化したレアな需給指標
逆日歩とは何か:ニュースより早く需給の歪みが見える指標
逆日歩(ぎゃくひぶ)は、信用取引の「貸株(株を借りて売る)」に関するコストで、正式には品貸料(しながしりょう)と呼ばれます。空売りが増え過ぎて株の調達が難しくなると、株を借りる側(売り方)が追加で支払う必要が生じます。ここがポイントで、逆日歩は“価格”ではなく“株の入手難易度”を数値化したものです。チャートに出ない需給逼迫が、日々の逆日歩として可視化されます。
初心者が勘違いしやすい点は「逆日歩が出た=必ず踏み上げる」ではないことです。逆日歩はあくまで需給の圧力差を示す信号であり、相場参加者のポジション構造と、翌日の板・出来高・ニュースフローが噛み合ったときに“連鎖的な買い戻し(踏み上げ)”へ発展します。本記事は、逆日歩を単体で追うのではなく、踏み上げの初動を機械的に判定するための「観測項目」と「実行手順」に落とし込みます。
まず押さえる構造:制度信用・一般信用・株式貸借の関係
逆日歩の話は、制度信用と株式貸借(品貸し)の仕組みを理解すると一気にクリアになります。制度信用の空売りは、取引所(実務上は日証金などを介した枠組み)を通じて株を調達します。空売り需要が供給(貸し株)を上回ると、調達コストが上がり、結果として逆日歩が発生します。
一方、一般信用は証券会社内で株を手当てするケースが多く、在庫があれば低コストで空売りできますが、在庫が枯れると「売り禁」「新規売り停止」「一般信用の在庫ゼロ」などの形で制約が出ます。制度信用に空売りが集中し、しかも株の調達が詰まり始めた局面で、逆日歩が“表に出る”わけです。
ここで重要なのは、踏み上げは「株が足りない」だけで起きるのではなく、「株が足りない上に、売り方が同じタイミングで買い戻さざるを得ない」状況で起きることです。逆日歩は前者(足りない)を示し、後者(買い戻さざるを得ない)は、価格の動き・板の薄さ・出来高の増え方・信用残の偏りなどから推定します。
逆日歩が出る典型パターン:短期資金が“売り”に偏る瞬間
逆日歩が発生しやすいのは、次のような局面です。
(1)急騰後の高値圏で、短期勢が「そろそろ崩れる」と見て空売りを積み上げる。
(2)材料出尽くし・決算跨ぎ・公募増資などの思惑で、下方向のヘッジや裁定が増える。
(3)値動きが荒い低位株・テーマ株で、板が薄いのに空売りが集中する。
(4)貸借銘柄で、株主の長期保有比率が高く、市場に出回る株(フリーフロート)が少ない。
逆日歩は「売り方の人気」を示すことが多い一方で、上記(4)のように供給が硬い銘柄では、少しの需給変化で急に逆日歩が跳ねます。ここが踏み上げ狙いに向く銘柄の特徴です。チャートだけ見ていると“ただの急騰銘柄”ですが、裏側では「売りは増えるのに株が借りられない」という状態になっていることがあります。
踏み上げが起きるメカニズム:売り方が“コスト”と“損失”の二重苦になる
踏み上げ(ショートスクイーズ)は、空売りの買い戻しが買いを呼び、価格が連鎖的に上がる現象です。逆日歩が絡むと、この連鎖が加速しやすくなります。理由はシンプルで、売り方は含み損が膨らむだけでなく、保有日数に応じてコスト(逆日歩)まで積み上がるからです。
さらに、逆日歩が大きいと「持ち続けるのが不利」になり、売り方が一斉に撤退しやすい。撤退=買い戻しです。買い戻しが板の薄いところにぶつかると、成行が上を舐めるように約定し、短時間で株価が跳びます。その跳びがニュースになって買いが入り、売り方がさらに詰む。これが“踏み上げの連鎖”です。
実務で使う判断軸①:逆日歩の「金額」より「変化」と「継続」を見る
逆日歩で初心者が最初に見るのは「いくら付いたか」ですが、実戦では「昨日までゼロだったのに付いた」「数日続いている」「急に跳ねた」という“変化”が重要です。なぜなら、コストが高い状態が継続するほど、売り方の保有限界が近づくからです。
具体的な見方は次の通りです。
・初回発生(ゼロ→発生):需給が“均衡から逼迫へ”移ったサイン。翌日から板が軽くなりやすい。
・増額(小→大):株の調達難が悪化。売り方が手当てできず、買い戻しが早まる。
・連続発生:売り方の持久力を削る状態。上昇トレンドが続くなら踏み上げに発展しやすい。
・急減(大→小/ゼロ):需給の緩和。踏み上げフェーズが一巡した可能性がある。
この「変化」と「継続」を、価格・出来高・信用残とセットで観察することで、単なる“珍しい現象”ではなく、売り方の行動変化(買い戻しの強制)として扱えるようになります。
実務で使う判断軸②:売り禁・注意喚起・増担保は“燃料”と“ブレーキ”の両面
踏み上げ局面では、取引規制が同時に出ることがあります。代表例が「売り禁(新規売り停止)」「注意喚起」「増担保(委託保証金率の引き上げ)」です。これらは一見すると“買いには有利”に思えますが、実際は相場を加熱させる燃料にも、冷やすブレーキにもなり得ます。
売り禁が出れば、新規の空売りが止まるので、買い戻し圧力が優位になります。一方で増担保が出ると、買い方にも追加資金が必要になり、追随買いが鈍ります。したがって、逆日歩+売り禁は強気材料になりやすい一方、逆日歩+増担保は“上に飛ぶが、その後失速しやすい”形になりやすい。ここを知らないと、天井で飛び乗って被弾します。
実務で使う判断軸③:板と歩み値で「買い戻しの質」を見分ける
踏み上げの初動は、チャートより板と歩み値に先に出ます。観察するのは「上の板が薄いのに、成行買いが連続している」「同価格帯での約定スピードが急に上がる」「小さな買いが連続し、売り板が削られる」などです。
踏み上げの買い戻しは、基本的に“急いでいる”ため、指値で丁寧に集めるより成行比率が上がります。歩み値の連続性が増し、上に抜けた瞬間に約定が加速する。これが見えたら、逆日歩の発生と組み合わせて「売り方が耐えられず逃げ始めた」可能性が高いと判断できます。
ただし、板は見せ板や誘導も混ざります。そこで、板の厚みそのものより「厚い板が一瞬で消える」「置き直しが多い」「約定を伴わず消える」といった“板の挙動”に注目します。歩み値と同時に見れば、実需の買い(約定)か、演出(見せ)かの判別精度が上がります。
チェックリスト:逆日歩×踏み上げ初動を判定する10項目
以下は、私が踏み上げ候補を機械的に絞るためのチェック項目です。すべて揃う必要はありませんが、数が多いほど“連鎖”になりやすいと考えます。
1)貸借銘柄である(制度信用の空売りが効く)。
2)一般信用の在庫が枯れやすい(証券会社で売り停止が出やすい)。
3)逆日歩がゼロ→発生、または増額している。
4)株価が高値圏、または高値更新中(売り方の含み損が増えやすい)。
5)出来高が減らず、上昇日に出来高が増える(買いの勢いが継続)。
6)上の板が薄い(上方向の価格抵抗が弱い)。
7)歩み値のスピードが速く、成行買いの連続がある。
8)信用売り残が増えやすいテーマ(短期勢が売りで入る理由がある)。
9)株主構成的に供給が硬い(フリーフロートが少ない、長期保有比率が高い等)。
10)規制(売り禁/注意喚起/増担保)が需給を歪める方向に働いている。
このチェックリストを、毎日引け後にスクリーニングしておくと、「翌日の寄り付きでどれを見るべきか」が明確になります。逆日歩は引け後に確認できるので、翌日の戦略を事前に組み立てられる点が実用的です。
エントリー設計:踏み上げ狙いは“初動だけ”を取りに行く
踏み上げは魅力的ですが、上がり切った後の崩れも速い。したがって、狙うのは“初動の伸び”であり、天井当てゲームにしないのが鉄則です。私が推奨するのは、次の2段階エントリーです。
(A)監視エントリー(小さく入る):逆日歩発生+前日高値付近で引け、など初動条件が揃ったら小ロットで入る。狙いは「寄りのギャップ上昇」ではなく、「寄ってからの買い戻し連鎖」。
(B)本エントリー(増やす):寄り後に上の板が削られ、歩み値の加速が確認できたら、増し玉する。
このやり方の利点は、踏み上げにならなかった場合のダメージを抑えつつ、踏み上げになった場合だけリスクを取れることです。逆に、寄り付きで一撃フルサイズを入れると、寄り天で踏まれて即死しやすい。踏み上げ狙いは「確認してから増やす」方が統計的に生き残ります。
損切り設計:逆日歩トレードは“撤退ライン”を先に決める
踏み上げ狙いで一番多い失敗は、「逆日歩があるから上がるはず」と思い込み、下がっても耐えることです。逆日歩は需給の信号であって、価格を保証しません。撤退ラインは必須です。
具体的には、次のように機械化します。
・当日足で前日安値を割ったら撤退(初動失敗)。
・寄り後に出来高が伸びず、板が厚くなったら撤退(踏み上げ不成立)。
・逆日歩が急減し、需給が緩んだサインが出たら利確優先に切り替える。
・増担保や急な規制強化が出たら、追随買いが止まる前提でポジションを軽くする。
また、踏み上げが起きる銘柄は値動きが荒いので、損切り幅をタイトにし過ぎるとノイズで刈られます。そこで「価格」だけでなく「板と歩み値の変化」を撤退条件に組み込むのが実戦的です。例えば、上方向の約定スピードが落ち、買いが続かない状態になったら、価格がまだ上に見えても利確・縮小する、といった判断です。
利確設計:踏み上げは“出口の方が難しい”
踏み上げは上がる時の勢いが強い一方、崩れる時も同じくらい速い。利確は「少しずつ外す」設計にします。おすすめは3分割です。
(1)最初の急騰で1/3利確:踏み上げの初動を取れたことを確定させる。
(2)高値更新が止まったら1/3利確:板が厚くなり、上値が重くなった兆候で外す。
(3)移動平均やVWAP割れ、あるいは大陰線で残りを撤退:トレンドの終わりを確認して降りる。
“天井で全部売る”は運が絡みます。踏み上げは過熱後に急落するので、分割で確実に利益を残し、最後はトレーリング的に伸ばす方が再現性が上がります。
具体例シナリオ①:急騰テーマ株で逆日歩が初発生した翌日のデイトレ
あるテーマ株が材料で2日連続上昇し、引け後に逆日歩が初めて付いたとします。翌日、寄り付きは小高く始まったが、寄り直後は売りも出て横ばい。ここで焦って買うのではなく、板と歩み値を観察します。
10分ほどして、上の売り板が薄い価格帯で成行買いが連続し、歩み値の速度が急に上がった。これは買い戻し(踏み上げ)が入り始めたサインです。このタイミングで本エントリー。損切りは「直近の押し安値割れ」、利確は「急騰の一波で1/3」。その後、上値追いが止まり、売り板が急に厚くなったら2/3目を利確。最後はVWAPを割ったところで撤退。こういう“時間順の手順”にしておくと、当日の感情で判断がブレにくくなります。
具体例シナリオ②:高値圏で売り禁が出た銘柄の“寄り天回避”
逆日歩が連続し、ついに売り禁が出た銘柄は、一見すると「買い放題」に見えます。しかし実際は、売り禁ニュースで寄り付きが過熱し、寄り天になることが多い。ここでのポイントは「寄り付きで買わない」ことです。
寄り付き直後は利確売りが出やすく、上値で掴むと即座に含み損になります。そこで、寄り後の押し目で、再び歩み値が加速する瞬間を待ちます。板が薄いところを成行で抜け、出来高も伴っているなら買い戻し連鎖が続いている可能性が高い。逆に、押し目で出来高が減り、板が厚くなるなら、踏み上げは一巡していると判断して見送る。売り禁は“燃料”にも“罠”にもなるので、寄り天回避の手順を持つことが収益に直結します。
初心者がやりがちな失敗と対策
失敗1:逆日歩が付いた瞬間に飛びつく
対策:逆日歩は前日までの需給を示す。翌日の板・歩み値で買い戻しの実在を確認してから増やす。
失敗2:踏み上げが終わった後も“次も上がる”と思い込む
対策:逆日歩の減少、出来高の鈍化、上値の板厚化は終了サイン。段階利確で利益を残す。
失敗3:規制を都合良く解釈する
対策:売り禁は上に飛びやすいが、増担保は買い方の資金制約になる。規制は“上昇継続”ではなく“需給の歪み”として扱う。
失敗4:ロットを最初から大きくし過ぎる
対策:踏み上げは外れた時の下落が速い。小さく試し、確認してから増やす。
スクリーニング手順:毎日15分で“踏み上げ候補”を抽出する
継続的に結果を出すには、日々のルーチン化が効きます。以下の順で作業すると迷いが減ります。
(1)貸借銘柄リストから、当日大きく動いた銘柄を抽出する。
(2)逆日歩が「新規発生」「増額」「連続発生」の銘柄に絞る。
(3)出来高が伴っているか、上昇日優位かを確認する。
(4)翌日の重要価格(前日高値、前日安値、VWAP近辺、直近高値)をメモする。
(5)寄り付きのシナリオを2つ用意する(強い場合/弱い場合)。
これを繰り返すと、逆日歩が“ニュースネタ”ではなく、翌日の行動計画に直結するデータになります。踏み上げ狙いは「当たる銘柄を探す」より、「当たった時だけ大きく、外れたら小さく」を徹底するゲームです。逆日歩は、その期待値を上げるための“フィルター”として非常に優秀です。
まとめ:逆日歩は“売り方のストレス”を数値化したレアな需給指標
逆日歩は、株価よりも先に需給逼迫を教えてくれる指標です。ただし、逆日歩単体では勝てません。重要なのは、逆日歩の「変化」と「継続」を軸に、板・歩み値・出来高・規制の情報を統合して、買い戻し連鎖(踏み上げ)の実在を確認することです。
踏み上げは派手ですが、狙うのは初動。確認してから増やし、撤退ラインを先に決め、分割で利確する。この運用を守れれば、逆日歩は“上級者向けの話”ではなく、初心者でも再現可能な需給トレードの武器になります。


コメント