海運株は「景気敏感」の代表格ですが、値動きの核は景気そのものより運賃市況(フレート)にあります。運賃が上がると船会社の収益期待が一気に膨らみ、株価は業績の発表を待たずに先回りで動きます。逆に運賃が崩れる局面では、決算がまだ良く見えていても株価は先に下げます。
この「先回り」を読み解くために、個人投資家が現実的に使える代表指標がバルチック指数(Baltic Dry Index:BDI)です。BDIは乾貨物(鉄鉱石・石炭・穀物など)を運ぶ船の運賃を集計した指数で、物流の逼迫・緩和が相場として可視化されます。
この記事では、BDIと海運株の関係を「ただ眺める」ではなく、スイングトレードとして再現性ある手順に落とし込みます。初歩から丁寧に説明しつつ、実際にエントリー・利確・損切りを組み立てられるレベルまで具体化します。
- 海運株は何で儲かるのか:運賃・船腹・燃料・為替の4要素
- BDIの基礎:何を測り、何を測らないか
- 連動が起きる仕組み:指数→期待→株価の順番
- スイングで使うデータセット:BDIだけで完結させない
- 「エントリーの型」:BDI反転を株価のブレイクで確定させる
- ステップ1:BDIの底打ち条件を定義する
- ステップ2:対象銘柄を「強い順」に絞り込む
- ステップ3:株価のブレイクで入る(初動の取り方)
- 損切りの置き方:海運株はボラが高いので“値幅”で考える
- 利確の設計:BDIが“鈍化”したら分割で降りる
- 具体例で理解する:想定シナリオで売買を組み立てる
- 落とし穴1:BDIが上がっているのに株が上がらない
- 落とし穴2:高値圏でBDIが急落する“事実売り”
- 落とし穴3:ニュースの種類を取り違える(コンテナ運賃と混同する)
- 初心者がやるべき日次ルーチン:5分で回す監視手順
- リスク管理:海運株の“急変動”に耐えるポジション設計
- 応用:BDIとテクニカルを組み合わせて“勝ちパターン”を増やす
- まとめ:BDIは“入り口”、勝ち筋はルール化にある
- チェックリスト:エントリー前に必ず確認する10項目
海運株は何で儲かるのか:運賃・船腹・燃料・為替の4要素
海運会社の利益は、ざっくり言うと「運賃×輸送量−コスト」で決まります。ただし株価は、過去の利益よりもこれからの運賃と船腹(供給量)の見通しに反応します。最低限、次の4要素を押さえると、ニュースの意味が読めるようになります。
①運賃(フレート):需要(貨物量)と供給(船腹量)の綱引きです。需要は資源の輸入・穀物の季節・景気で動き、供給は新造船の竣工や解撤(スクラップ)で遅れて動きます。運賃は一度傾くとトレンド化しやすいのが特徴です。
②船腹(供給):船は作ってから就航まで時間がかかります。運賃が高いと新造船の発注が増え、数年後に供給が増えて運賃が下がる——この循環が「運賃サイクル」です。株価はこのサイクルを先に織り込みます。
③燃料(バンカー):燃料コストは利益を直撃します。運賃が上がっても燃料が急騰すると利益が伸びにくいことがあります。ただし市場は燃料より運賃のインパクトを大きく見がちなので、燃料急騰局面は「期待先行で買われた後の失速要因」になりやすいです。
④為替:運賃はドル建てが多く、円建て決算の会社は為替影響を受けます。円安は追い風、円高は逆風になりやすい一方、短期では指数(BDI)主導のモメンタムが勝つことも多いです。つまり「為替で説明しすぎない」ことが大切です。
BDIの基礎:何を測り、何を測らないか
BDIは「乾貨物のスポット運賃」を中心にした指数です。ここで重要なのは、BDIはコンテナ運賃やタンカー運賃そのものではないという点です。コンテナ(消費財)と乾貨物(資源)では需給構造が違います。したがって、BDIで狙いやすいのは、乾貨物に関連する運賃の流れが株価に波及しやすい局面です。
一方でBDIは「実需に近い」指標として評価されます。株式市場のセンチメントより、物流の逼迫・緩和を反映しやすいからです。もちろん投機や季節性も入りますが、少なくとも「買われているから上がる」類の指標ではありません。
連動が起きる仕組み:指数→期待→株価の順番
BDIの上昇が海運株に効くのは、単純に「運賃が上がれば利益が増える」という期待が生まれるからです。ただし、株価は利益の増加を確認してから動くのではなく、増えるだろうと見えた瞬間に動くのがポイントです。
具体的には次の順番になりやすいです。
(1)BDIが底打ちして反転し始める → (2)運賃市況のニュースが増える/業界関係者のコメントが出る → (3)海運株が出来高を伴って上昇し始める → (4)決算で上方修正や強気見通しが出る → (5)ピークアウトの兆候(BDI鈍化、発注増、在庫調整など)で株が先に崩れる
この流れを使うと、「決算を見てから買う」より早い段階で参加できます。初心者が陥りがちなのは、(4)のニュースで飛びつき、(5)の下落を食らうパターンです。勝ちやすいのは(1)〜(3)を丁寧に拾うことです。
スイングで使うデータセット:BDIだけで完結させない
BDIは強力ですが、単体で売買ルールを作ると、ダマシに振り回されます。スイングの現場では、BDIを「起点」にしつつ、次の補助データで精度を上げます。
・BDIのトレンド(上昇・下降・横ばい):日々の上下ではなく、数週間〜数か月の傾きを見ます。移動平均を使っても良いです。
・関連指数の確認:乾貨物の中でも船型別指数(例:Capesize、Panamaxなど)に偏りが出ることがあります。偏りは「どの貨物が強いか」を示し、テーマの鮮度になります。
・海運株の出来高と値動き:指数が上がっているのに株が弱いなら、需給要因(公募、売出、指数リバランス、決算懸念など)があるかもしれません。最終的にお金が入っているかを見ます。
・マクロの地合い(景気・金利・リスクオフ):海運株はリスクオフで一斉に売られます。BDIが強くても株が崩れる局面はあります。その時は無理に逆らわない方が良いです。
「エントリーの型」:BDI反転を株価のブレイクで確定させる
スイングの基本は「材料の変化」と「価格の確定」を両方そろえることです。ここでは、BDIを材料、株価を価格として組み立てます。具体的には次の3段階です。
ステップ1:BDIの底打ち条件を定義する
「底打ち」を曖昧にすると、早すぎる買いで耐えることになります。初心者でも再現しやすい条件を例として示します。
例A:3週間の下落が止まり、直近5営業日で高値更新:BDIが下げ止まり、短期の上昇モメンタムが出た状態です。日々の数字に一喜一憂せず、短期高値更新を合図にします。
例B:BDIが20日移動平均を上抜き、かつ移動平均が横ばい→上向き:移動平均の向きは遅れますが、ダマシが減ります。スイングでは「遅くてもいいから外さない」設計が有利です。
この時点ではまだ買いません。次のステップで株価の反応を確認します。
ステップ2:対象銘柄を「強い順」に絞り込む
海運株はまとめて動くように見えますが、実際は強弱がはっきり出ます。スイングでは「相対的に強い銘柄」だけを選ぶのが鉄則です。
絞り込みの実例
・直近1か月の騰落率が同業内で上位
・下落局面で安値を割りにくい(押し目が浅い)
・出来高が増えている(資金が入っている)
・決算日が近すぎない(急変動を避けるなら)
ここは「海運セクターETF的に全部買う」より明確に有利になりやすいポイントです。運賃サイクルが上向いても、資金は常に“主役”に集中します。
ステップ3:株価のブレイクで入る(初動の取り方)
BDIが反転し、銘柄も絞れたら、最後は株価です。初心者におすすめなのは、次のような単純なブレイク条件です。
・日足で直近の戻り高値を終値で上抜く
「ヒゲで抜けた」はダマシになりやすいので、終値で確定させます。さらに安全にするなら「上抜いた翌日に押さずに寄り付き後も強い」ことを確認してから入っても良いです。スイングは1回の取り逃しより、ダマシの連発の方が致命傷になります。
損切りの置き方:海運株はボラが高いので“値幅”で考える
海運株は値動きが荒いので、テクニカルの「節目」に置かないと、ちょっとしたノイズで狩られます。初心者がやりがちな失敗は、数%の逆行で切ってしまい、その後に上昇することです。
考え方は2つあります。
①直近の押し安値割れで撤退:上昇トレンドが崩れたら出る、という素直なルールです。押し安値は日足で見ます。
②ATR(平均的な値動き幅)を使う:例えば「エントリー価格から2ATR下」を損切りにします。銘柄ごとのボラに合わせられるため、海運株のように荒い銘柄と相性が良いです。
どちらにしても「損切りは入る前に決める」が基本です。BDIが強いからといって、株価が崩れた局面で粘ると、サイクルの転換に巻き込まれます。
利確の設計:BDIが“鈍化”したら分割で降りる
海運株の上昇は、永遠には続きません。利確が下手だと、含み益が消えます。BDIを使うなら、利確にもBDIの変化を組み込みます。
おすすめは分割利確です。例えば次のようにします。
・1回目:株価がエントリーから+10〜15%(または2R)で1/3を利確
・2回目:株価が上昇トレンド内で大陽線が連続し、短期過熱が見えたら1/3を利確
・最後:BDIが高値更新できず、移動平均を割るなど“鈍化→崩れ”が出たら残りを撤退
分割にする理由は、天井を当てる必要がなくなるからです。海運株は急騰後に急落することがあり、「全部利確しないと勝ちではない」という発想は危険です。
具体例で理解する:想定シナリオで売買を組み立てる
ここでは架空の数値で、実際の考え方をシミュレーションします。
状況:BDIが数か月下落していたが、直近で5営業日高値を更新。20日移動平均も上抜き。関連する船型別指数も改善。海運株Aは直近1か月でセクター内トップの強さで、出来高も増加。
エントリー:株価が日足の戻り高値(例:1,000円)を終値で上抜いた翌日、寄り付き後も売りが吸収されて強いので、1,020円で買い。
損切り:直近押し安値(例:930円)割れで撤退。許容損失は90円。
利確:1,200円(+180円)で1/3利確。残りはトレンドに追随。BDIが高値更新できず横ばいが続いた後、株価が25日移動平均を割ったら残りも撤退。
この設計だと、最初の利確で「損切り幅90円」に対して「利益幅180円」を取りに行けます。残りは“伸びたらラッキー”ではなく、BDIの鈍化と価格の崩れを合図に淡々と降ります。
落とし穴1:BDIが上がっているのに株が上がらない
このケースは必ずあります。理由は主に3つです。
①その銘柄が乾貨物に直接効きにくい:事業ポートフォリオや契約形態で、スポット運賃の変動が利益に反映されにくい場合があります。指標の意味を銘柄に当てはめすぎないことです。
②株式市場がリスクオフ:地合いが悪いと、景気敏感株はまとめて売られます。BDIは実需寄りでも、株価は資金フローに支配されます。
③需給の特殊要因:大株主の売却、増資、指数リバランス、決算警戒などです。ここはチャートに出ます。だから「BDI+株価」の2段階確認が重要になります。
落とし穴2:高値圏でBDIが急落する“事実売り”
運賃市況はニュースの出方が極端で、過熱すると「最高水準」などの見出しが並びます。そのタイミングが天井になりやすいのは、参加者がすでに買い尽くしているからです。BDIも高値から急落しやすく、株も同時に崩れます。
回避策はシンプルで、上昇局面の途中で分割利確しておくこと、そしてBDIが鈍化したら“伸び代が小さい”と判断してポジションを軽くすることです。「まだ上がるかもしれない」で握り続けると、急落で取り返せません。
落とし穴3:ニュースの種類を取り違える(コンテナ運賃と混同する)
海運ニュースにはコンテナ運賃、タンカー、乾貨物が混ざります。BDIで乾貨物を見ているのに、コンテナの話題で売買判断をしてしまうと、整合しません。ニュースを読む時は「どの船種の話か」を必ず確認してください。
初心者がやるべき日次ルーチン:5分で回す監視手順
スイングは、毎日チャートに張り付く必要はありません。むしろ“見過ぎ”が失敗を増やします。おすすめのルーチンは次の通りです。
(1)BDIの方向を確認:上昇/下降/横ばい。短期高値更新の有無。
(2)監視銘柄の終値を確認:戻り高値ブレイクが近いか、押し安値を割っていないか。
(3)出来高の変化を確認:上昇日に増え、下落日に減るなら健全。逆なら警戒。
(4)翌週のイベントを確認:決算、重要指標、指数イベントが近ければポジションサイズを落とす。
これだけで十分です。大事なのは、BDIの数字を追いかけて「今日上がったから明日買う」ではなく、トレンドの転換と株価の確定を待つことです。
リスク管理:海運株の“急変動”に耐えるポジション設計
海運株はボラティリティが高く、急落・急騰が起きます。初心者は「ロットを小さくする」以外にも、次の設計で生存率が上がります。
・最大損失を先に固定:1回のトレードで資金の何%まで失って良いかを決め、その範囲内で株数を調整します。
・分散ではなく“分割”:銘柄を増やすより、同じ銘柄でも分割で入る方が管理しやすいです。BDIと株価の条件が揃った初動で半分、押し目で残り、などです。
・ギャップダウン対策:翌朝の窓開け下落は避けられません。決算前は持ち越さない、あるいはポジションを軽くするのが現実的です。
応用:BDIとテクニカルを組み合わせて“勝ちパターン”を増やす
BDIはファンダメンタル寄りの材料ですが、テクニカルと相性が良いです。理由は、材料が出てから価格が動くまでタイムラグがあり、その間にブレイクや押し目などの“形”が出るからです。
たとえば次の組み合わせが有効です。
・BDI反転+25日移動平均の上抜き:中期のトレンド転換を確認できます。
・BDI上昇継続+ボリンジャーバンド上限沿い:強いトレンドでは逆張りせず、順張りで追随します。
・BDI鈍化+RSIの高値切り下げ:過熱が冷めるサインとして使えます。
ただし指標を増やしすぎると判断が遅れます。最初は「BDIの方向+戻り高値ブレイク+押し安値損切り」だけで十分です。
まとめ:BDIは“入り口”、勝ち筋はルール化にある
BDIは海運株の材料として非常に使いやすい一方、数字に振り回されると負けます。ポイントは次の3つです。
・BDIの反転を「定義」する:感覚ではなく条件にする。
・株価のブレイクで「確定」させる:材料だけで買わない。
・利確は分割、撤退はルール:天井当てをやめる。
この3つを守るだけで、海運株の運賃サイクルを“読み物”から“収益機会”に変えられます。次にやることは、監視銘柄を2〜3つに絞り、BDIの反転条件とブレイク条件を紙に書いて、同じ手順で淡々と繰り返すことです。
チェックリスト:エントリー前に必ず確認する10項目
最後に、判断をブレさせないためのチェックリストを置きます。毎回この順番で確認すると、感情のトレードを減らせます。
1. BDIは直近で高値更新しているか:更新していないなら、上昇が弱い可能性があります。
2. BDIは移動平均の上にあるか:下にあるなら、まだ下降トレンドの範囲です。
3. 船型別指数に偏りがないか:特定船型だけ強いなら、テーマの幅が狭いと考えます。
4. 監視銘柄は同業内で相対的に強いか:弱い銘柄を無理に買う理由はありません。
5. 日足の戻り高値を終値で上抜いたか:ヒゲ抜けはカウントしません。
6. 上抜け当日に出来高が増えているか:増えていないなら、ブレイクの信頼度が下がります。
7. 決算まで何日あるか:近い場合はロットを落とすか見送ります。
8. 損切り位置はどこか:押し安値割れ、またはATR基準で数値化します。
9. 利確の分割ポイントはどこか:最初の利確だけでも事前に決めます。
10. 市場全体はリスクオフではないか:指数が崩れているなら、シグナルの優先順位を下げます。
この10項目が揃ったときだけエントリーする、と決めると、トレード回数は減りますが勝率と期待値が上がりやすくなります。


コメント