相場が急落すると、ニュースやチャート以前に「信用取引の強制売り(追証・ロスカット)」が需給を壊します。日本株では信用買いが厚い銘柄ほど、価格下落→評価損拡大→追証発生→投げ売り→さらに下落、という連鎖が起きやすい。ここで重要になるのが信用評価損益率です。特に-20%前後は、個人の信用買いが耐えにくくなり、追証売りが増えやすい水準として実務上よく意識されます。
ただし「-20%なら底」と決め打ちすると危険です。評価損益率は“燃料(しがらみ)”の多寡を示す指標で、底の必要条件にはなり得ても十分条件ではありません。本記事では、信用評価損益率-20%というサインを、板・出来高・値動き(ローソク)・指数環境と組み合わせて、大底の確度を上げる手順として落とし込みます。初心者でも使えるよう、数字の意味から、具体的なシナリオ、ありがちな失敗まで、順に解説します。
- 信用評価損益率とは何か:まず“何を測っているか”を理解する
- なぜ-20%が意識されるのか:追証が増えやすい心理・制度の境界
- 大底判定の基本フレーム:評価損益率×需給×値動きの三点セット
- 実践シナリオ1:指数全体で-20%付近、パニックが“1日で出尽くす”ケース
- 実践シナリオ2:-20%でも底が来ない“ズルズル相場”の見分け方
- 個別銘柄での使い方:信用の“濃い銘柄”ほど効くが、罠もある
- “追証売りが出た”を可視化する:出来高・歩み値・板の読み方
- エントリーを“型”にする:底狙いの手順をテンプレ化する
- 具体例でイメージする:よくある3パターンの“底の形”
- 指数と個別のズレをどう扱うか:評価損益率は“地合いの背景”
- 初心者がやりがちな失敗:-20%を“魔法の数字”にしない
- 運用設計:底狙いを“スキャル・デイトレ・スイング”に落とす
- まとめ:-20%は「底の合図」ではなく「底が起き得る条件」
- 精度を上げる補助指標:同じ“底”でも勝ちやすい地合いを選別する
- 数字で具体化する:追証ラインを“自分の口座”で再現してみる
- データの見方:評価損益率は“変化の速度”が重要
- 最後に:狙うのは“底”ではなく“底の後の上昇局面”
信用評価損益率とは何か:まず“何を測っているか”を理解する
信用評価損益率は、信用買い建玉(信用買い残)の含み損益を、ある基準で集計して比率化したものです。一般に「信用買いをしている人たちが平均してどれくらい損しているか(あるいは得しているか)」の温度計として使われます。
値がプラスなら、信用買い勢は含み益が多く、下げても“投げにくい”環境になりやすい一方、値がマイナスに深く沈むほど、信用買い勢は苦しくなり、追証や恐怖で“投げやすい”状態になります。つまりこの指標は、テクニカルというより需給ストレス指数です。
ただし注意点があります。評価損益率は推計値で、算出方法や対象銘柄の範囲が提供元により違うことがあります。また、銘柄ごとに信用の比率・回転・投資家層が違うため、指数全体の評価損益率と、個別銘柄の動きはズレます。したがって本記事は、個別銘柄の売買シグナルを単独で作るというより、相場局面(底入れ可能性)を判断する“背景情報”として使う前提で進めます。
なぜ-20%が意識されるのか:追証が増えやすい心理・制度の境界
-20%がよく語られるのは、信用取引の維持率(証拠金維持率)と人間の心理の両方に関係します。信用取引は、株価が下がるほど評価損が増え、必要証拠金が不足すると追証が発生し、期限内に入金できないと強制決済(投げ売り)になります。
初心者が想像しにくいのは、追証は“時間差”で出る点です。株価が急落した日の引け後〜翌朝に追証が通知され、翌営業日の寄り付き〜前場に投げが集中しやすい。つまり、信用評価損益率が-20%付近まで悪化した局面は、すでに苦しい人が多いだけでなく、次の投げが出やすい地雷原でもあります。
では、なぜそれでも-20%が「底の候補」になるのか。理由は単純で、ここまで損が膨らむと、持っていたい気持ちより、資金繰り・恐怖・ルール遵守が勝ち、投げる人が増えるからです。投げが出ると、短期的には価格をさらに下げますが、同時に「売りたい人」が減っていきます。これが“底の材料”になります。
要するに、-20%は「投げが出やすい水準」であり、「投げが出尽くせば底に近い」水準でもあります。重要なのは投げが出尽くしたかを、別の観測で確かめることです。
大底判定の基本フレーム:評価損益率×需給×値動きの三点セット
大底の確度を上げるには、最低限次の三つを同時に見ます。
1) 信用評価損益率:しがらみの大きさ(投げが起きる土台)を把握する。-20%付近は“投げが出るゾーン”として扱う。
2) 需給(出来高・歩み値・板):投げが実際に出たか、誰が拾ったかを確認する。出来高急増、歩み値の大口、板の吸収が鍵。
3) 値動き(ローソク足):下げ止まりと反転の構造を確認する。大陰線の後の下ヒゲ、ギャップダウンからの寄り底、ブレイク失敗など。
この三つが揃うと、底の“理由”が説明できます。逆に、評価損益率だけで底を当てにいくと、相場がさらに悪化したときに損切りが遅れます。
実践シナリオ1:指数全体で-20%付近、パニックが“1日で出尽くす”ケース
典型例は、外部ショックやイベントで指数が急落し、翌日にリバウンドするパターンです。流れを時系列で追います。
Day0(急落日):先物主導でギャップダウン、寄りから売りが加速。大型株も同時安になり、指数が一気に下がる。ニュースは悲観一色。ここで信用評価損益率は急速に悪化し、-20%に近づく、あるいは割り込む。
観測ポイント:後場にかけて、指数は安値更新が鈍り、出来高が高水準のまま横ばいになる。これは投げが出る一方で、拾いも入っているサインです。板を見られるなら、売り板が厚く出ても約定で削られ、戻りで買い板が厚くなるような“吸収”が出るかを見る。
Day1(追証の投げが出る日):寄り付き直後に、前日引け値を下回る水準で売りが集中しやすい。ここで重要なのは、寄り付きからの数分〜30分で、下げが続くのか、下ヒゲを作って戻るのかです。寄り付きの投げが出て、そこを大口が吸収し、指数が切り返すと、追証売りの一部が“その場で掃除された”可能性が高まります。
エントリーの考え方(初心者向け):最も安全なのは、寄り付き直後に飛び込むのではなく、安値を付けた後に一度戻り、押し目で再び下げないことを確認してから入ることです。例えば、5分足で底打ち後に高値を更新し、押し目でVWAPを割らずに反発する、といった“戻りの強さ”を条件にします。
損切り:底の判定は確率なので、失敗はあります。損切りは、底を付けたと見た安値を明確に割ったら撤退、のように機械的に置くのが現実的です。
実践シナリオ2:-20%でも底が来ない“ズルズル相場”の見分け方
最も痛いのは、-20%を見て「底だ」と思って買ったのに、相場が何週間も下がり続けるケースです。こうなる典型要因は、①金融環境の悪化が継続、②企業業績の下方修正が連鎖、③信用買いが多い銘柄が時間をかけて処分される、のいずれかです。
この局面では、評価損益率は-20%近辺で“張り付く”ことがあります。つまり、投げが出てはいるが、新規の信用買いも入り、下落が終わらない。これを避けるには、次の観測が有効です。
(A)戻りの弱さ:大陰線の翌日に戻しても、出来高が細り、上値で売りがすぐ出る。VWAPを超えられない。戻り高値を更新できない。これは“拾い手”が弱いサインです。
(B)安値更新のたびに出来高が増えない:本当の投げは出来高を伴います。安値更新が続くのに出来高が増えない場合、売りがじわじわ続いている(需給の掃除が終わっていない)可能性があります。
(C)先物主導の下げが止まらない:指数先物が弱いと、個別で底を拾っても、結局また売られます。指数が25日線・75日線を明確に下回り続けるなど、上位足のトレンドが悪いときは、底当てより“待つ”方が期待値が高いです。
初心者が取るべき対応はシンプルです。-20%は「そろそろ投げが出るかも」という警戒であり、底の確定は“値動きで確認”です。確認が取れないなら、買いは小さく、あるいは見送る。勝てない局面で戦わないのが最重要です。
個別銘柄での使い方:信用の“濃い銘柄”ほど効くが、罠もある
信用評価損益率は指数の指標ですが、個別でも「信用買い残が多い銘柄」は投げの影響を受けやすい。特に、人気テーマ株、個人が好む中小型、上昇トレンドが崩れたばかりの銘柄は、信用のしがらみが残りやすい。
ここでの実践は、まず“信用が濃いか”を確認することです。信用買い残の増減、信用倍率、出来高に対する信用残の大きさを見ます。信用が薄い銘柄にこのロジックを当てても、投げが起きにくく、底のサインとして弱くなります。
一方で罠もあります。信用が濃い銘柄は、投げが出ると戻りも速いことがありますが、同じ銘柄で二番底・三番底が出やすい。なぜなら、最初の投げで下げ止まっても、上で捕まった信用がまだ残り、戻り局面で“やれやれ売り”が出るからです。初心者が狙うなら、初動の反発を追うよりも、反発後の押し目で、売り圧力が明確に減った局面を選ぶ方が安全です。
“追証売りが出た”を可視化する:出来高・歩み値・板の読み方
追証売りは、裁量の「売りたいから売る」と違い、強制力があるため、執行が雑になりやすい。これが市場には次の形で表れます。
出来高の急増:普段の数倍の出来高が一気に出る。特に寄り付きや前場の早い時間帯に集中しやすい。
ローソク足の特徴:ギャップダウンからの寄り底、長い下ヒゲ、大陰線のあとに下げ渋り、など“売りが尽きた”形が出やすい。
板の吸収:売り板が厚く見えても、約定で削られ続ける。買い板が何度も復活する。これは拾いが入っている可能性を示します。
初心者が板読みをいきなり完璧にやる必要はありません。最低限は「出来高がいつもと違う」「下げたのに戻している」の二点を押さえれば十分です。慣れてきたら、歩み値で“まとまった約定(大きな塊)”が安値圏で出ているかを確認すると、拾いの存在をより確かめやすくなります。
エントリーを“型”にする:底狙いの手順をテンプレ化する
底狙いは感情に流されやすいので、手順を決めておくと再現性が上がります。以下は初心者向けのテンプレです。
Step1:環境認識(指数):信用評価損益率が-20%近辺か、急激に悪化しているかを見る。同時に、指数(例:日経平均先物やTOPIX)が直近のサポートをどれだけ割ったか確認する。大きく割っているなら、反発しても戻り売りが強い可能性を意識する。
Step2:投げの確認(出来高):急落日の出来高が突出しているか。翌日の寄り付きでさらに出来高が出ているか。出来高が出ないままの下げは、需給が掃除されていない可能性がある。
Step3:反転の確認(値動き):5分足で安値を付けた後、高値更新→押し目→再上昇、の順序を待つ。押し目で安値を割らないことが条件。ここで慌てて買わない。
Step4:サイズを絞る:底は外れる前提で、最初のロットは小さく。追加は、戻り高値を超えた後や、支持線が機能した後に行う。最初から全力で入ると、当たっても外れてもメンタルが壊れやすい。
Step5:撤退ルール:安値割れ、VWAP割れ、戻り高値更新失敗など、事前に決めた条件で撤退する。底狙いは“勝つため”より“負けを小さくする”設計が先です。
具体例でイメージする:よくある3パターンの“底の形”
チャートの形を言葉で固定化すると、判断がブレにくくなります。代表的な3パターンを紹介します。
パターン1:寄り底V字:ギャップダウンで始まり、寄り付き直後の投げを吸収してV字回復。出来高は寄りで最大。追証が一気に出た可能性が高いが、再下落(翌日以降の二番底)も起きやすいので、追いかけ買いは避け、押し目で確認する。
パターン2:下ヒゲ陽線(セリングクライマックス型):場中に安値更新して恐怖が最大化したところで、下ヒゲを付けて引けにかけて戻す。出来高が突出し、安値圏で大口約定が目立つ。翌日に高値を更新できれば底の確度が上がる。
パターン3:ダブルボトム(時間をかける底):急落後に反発するが、戻りは弱く、再び安値を試す。二回目の下げで出来高が減り、安値を割れずに反発する。このとき評価損益率は悪いままだが、売りの勢いが落ちている。初心者にとって最も入りやすいのは、この二番底の“反発確認後”です。
指数と個別のズレをどう扱うか:評価損益率は“地合いの背景”
信用評価損益率は市場全体の痛みを示しますが、個別はそれ以上に業績・材料・需給で動きます。例えば、指数は-20%でも、決算が良い銘柄は下げが浅い一方、悪材料の銘柄は底なしに見える下げ方をします。
ここでの実務的な考え方は「評価損益率が悪い=リバウンドの土台がある」なので、買い候補は、下げたが壊れていない銘柄に絞ります。具体的には、①出来高を伴って売られた後に戻りがある、②直近高値からの下げ率が大きいが、長期移動平均(200日など)で反発している、③ニュースが致命的ではない、などです。底で何でも買うのではなく、候補を厳選します。
初心者がやりがちな失敗:-20%を“魔法の数字”にしない
失敗パターンはほぼ決まっています。
失敗1:-20%到達と同時に買ってしまう。投げが出る前に拾うと、追証の売りに巻き込まれて簡単に踏まれます。まず“投げが出た形”を待つ。
失敗2:下げている理由を無視する。金融環境や業績悪化が継続する局面では、評価損益率が悪くても下げ止まらない。指数の上位足が崩れているときは、短期反発を取るなら素早く、スイングは慎重に。
失敗3:損切りできない。底狙いは外れる。外れたときに撤退できないと、戻りを祈るだけのポジションになります。撤退条件は必須です。
失敗4:ロットが大きすぎる。底狙いは難易度が高いのに、ロットを上げる人が多い。最初は“練習”として小さくやるのが現実的です。
運用設計:底狙いを“スキャル・デイトレ・スイング”に落とす
同じ底狙いでも、時間軸でやることが変わります。
スキャルピング:寄り付きの投げを狙う。ただし難易度が高い。初心者は「安値→反発→押し目」の確認を入れ、数ティック〜数十ティックの値幅を狙う。VWAPと直近高安を基準に、損切りは速く。
デイトレ:前場の投げと吸収を見て、後場の戻りを狙う。指数が切り返していることが条件。個別は、出来高が突出している銘柄を優先し、後場の押し目を狙う。
スイング:二番底や高値更新後の押し目で入る。底の初動を取り逃しても構わない。重要なのは“上昇トレンドに戻った後の勝ちやすい局面”を取ること。底値圏での含み損に耐えるより、トレンドに乗る設計の方が長期的に安定します。
まとめ:-20%は「底の合図」ではなく「底が起き得る条件」
信用評価損益率-20%は、追証売りが増えやすい環境を示し、相場が底に近づく材料になります。しかし、数字だけで底を断定すると、ズルズル相場で損切りが遅れます。
実践で必要なのは、投げが出たか(出来高・板・歩み値)、反転の形が出たか(ローソク足・VWAP・高値更新)を確認し、小さく入って、条件が崩れたら機械的に撤退する運用です。この手順をテンプレ化すると、底狙いが“運任せ”から“確率の仕事”になります。
精度を上げる補助指標:同じ“底”でも勝ちやすい地合いを選別する
評価損益率が悪い局面は、底に近い可能性がある一方で、相場全体が“弱いトレンド”に入っていることも多い。そこで、底狙いをする日だけは、次の補助指標で「反発が続きやすい地合いか」を点検すると、無駄なエントリーが減ります。
(1)騰落レシオ:短期で極端に低下した後に反転しているかを見る。下がりっぱなしだと、反発しても一日で終わりやすい。反転して上向きに変わったタイミングは、買い戻しが入りやすい。
(2)VIXや米国株先物の落ち着き:日本株の投げが出ても、夜間の米国株がさらに荒れると翌日にまた売られやすい。日本時間の昼に底っぽくても、夜の外部環境で台無しになることがあるため、持ち越しをするなら外部環境の“沈静化”を必ず確認する。
(3)先物のベーシスと裁定:先物が現物に対して不自然に弱い(または強い)ときは、機械的なフローが動いている可能性がある。初心者は難しく感じるが、要するに「指数先物が弱いままなら個別も上がりにくい」と覚えておけば十分です。
数字で具体化する:追証ラインを“自分の口座”で再現してみる
追証売りを他人事にしないために、簡単な例で資金繰りの感覚を掴みます。仮に、100万円の資金で信用買いを使い、300万円分の株を保有したとします(建玉が資金の3倍)。このとき株価が10%下がると、評価損は約30万円です。資金100万円に対して-30%の打撃になります。さらに15%下がれば評価損は約45万円で、資金の半分近くが溶けます。
ここで重要なのは、下落率が同じでも、レバレッジが高いほど損益の振れが大きく、追証に達するまでの距離が短いという事実です。市場全体の信用評価損益率が-20%に近いということは、平均的な信用買い勢がそれだけ苦しいという意味であり、レバレッジが高い層はすでに“耐えられない”人が出ていても不思議ではありません。
だから底狙いで大切なのは、当てにいくことより、自分が追証側に回らない運用です。具体的には、①信用を使うなら建玉を小さくして耐久力を上げる、②持ち越しはレバレッジを落とす、③急落日は現金比率を上げる、の三つです。底を当てても、資金が尽きれば次に戦えません。
データの見方:評価損益率は“変化の速度”が重要
初心者が見落としがちなのが、評価損益率の水準だけでなく、悪化の速度です。-20%にゆっくり近づく局面は、じわじわ売りが続いていることが多く、底が固まるまで時間がかかりやすい。逆に、短期間で-20%近辺まで急落する局面は、投げが一気に出て“掃除が早い”ことがあります。
したがって、チェックするのは「-20%かどうか」だけではなく、直近数日でどれだけ悪化したか、悪化が止まったか、反転し始めたかです。悪化が止まり、横ばいから上向きに変わるときは、追証のピークアウトが近い可能性が高まります。これは、底狙いの“待つ根拠”になります。
最後に:狙うのは“底”ではなく“底の後の上昇局面”
プロでも底を一点で当てるのは難しいです。初心者が再現性を上げる近道は、底そのものではなく、底を付けた後に出る「上げやすい局面」を取ることです。評価損益率-20%は、その局面が来る前兆として非常に使いやすい。数字で相場の痛みを把握し、値動きで確定を取りに行く。この二段構えが、長く勝ち残るための現実的なアプローチです。


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