結論から言います。「市場があと何回利上げ(または利下げ)すると考えているか」を最短で知りたいなら、ニュースよりも、CPIの見出しよりも、金利スワップを見た方が速いです。
理由は単純で、金利スワップは政策金利(短期金利)そのものの将来パスを価格に埋め込む市場だからです。株式やFXは物語(ナラティブ)で揺れますが、スワップは「金利が何%で何カ月続くか」を数字で叩き込んできます。
この記事では、初心者でも理解できるように、まず概念を噛み砕き、そのうえで実際の見方・照合方法・トレード判断への落とし込みを、具体例で一段ずつ積み上げます。テーマは「金利スワップの動き=市場が予想する利上げ回数」です。
- 1. 金利スワップとは何か:最小限でいいので正しく理解する
- 2. 「利上げ回数」はどうやって価格に埋め込まれるのか
- 3. 初心者が見るべきは3点だけ:レベル・傾き・変化率
- 3-1. レベル(短期OISの水準):政策金利パスの「平均値」
- 3-2. 傾き(スワップカーブの形):利上げの“終点”と景気観
- 3-3. 変化率(前日比・週次の動き):市場の再評価が起きているか
- 4. 「利上げ回数」を数字にする簡易法:25bp刻みで逆算する
- 5. 先物とスワップはどっちを見るべきか:初心者は「照合」で勝てる
- 6. トレードに落とす:FX(ドル円)の判断ロジックを具体化する
- 6-1. ドル円で効くのは“絶対金利差”より“金利差の変化”
- 6-2. 具体例:指標で荒れた後の「反転」だけ取る
- 7. 株式に落とす:セクターで勝ちやすいのは「金利の方向に素直な群」
- 7-1. 金利上昇に比較的強い:銀行・保険(ただし条件あり)
- 7-2. 金利上昇に弱い:高PERグロース(特に長期金利に敏感)
- 8. 債券に落とす:初心者は「2年金利」を見れば半分勝ち
- 9. 実戦フレーム:3つの時間軸で「織り込み」を分解する
- 10. よくある失敗パターンと回避策
- 10-1. “見たい数字だけ”を見る:スワップを単独で信じる
- 10-2. カーブのどこが動いたかを見ない:短期と中期を混同する
- 10-3. 「イベント当て」に寄る:会合結果を当てにいく
- 11. 使えるチェックリスト:毎朝3分で十分
- 12. まとめ:スワップは“市場の本音”を数字で見せる
1. 金利スワップとは何か:最小限でいいので正しく理解する
金利スワップは「固定金利を払って変動金利を受け取る(またはその逆)」という交換契約です。ざっくり言うと、固定金利=市場が考える将来の平均短期金利に近い数字になります。
ここで初心者が最初につまずくのが「変動金利って何?」です。変動側は国や通貨により違いますが、代表例は次の通りです。
・OIS(Overnight Index Swap):翌日物金利(米国ならSOFR、英国ならSONIA、日本ならTONAなど)を基準にしたスワップ。
・IRS(Interest Rate Swap):3カ月物などの短期金利(例:USDの3M SOFRなど)を基準にしたスワップ。
初心者が「利上げ回数」を読む用途では、まずOISが主戦場です。OISは政策金利(に近い超短期金利)に直結し、中央銀行の次の一手が最も反映されやすいからです。
2. 「利上げ回数」はどうやって価格に埋め込まれるのか
市場は「次回会合で+0.25%」「その次も+0.25%」のような階段状の金利パスを想像し、それを平均したものが短期ゾーンのスワップに現れます。
イメージを作ります。仮に、現在の短期金利が年率5.00%で、マーケットが次のように考えているとします。
・3カ月後に+0.25%(5.25%)
・さらに3カ月後に+0.25%(5.50%)
・その後は据え置き
この場合、今から6カ月の「平均短期金利」は、ざっくり5.25%前後になります。だから6M OISの固定金利が5.25%近辺に寄りやすい、という構図です。
逆に、利下げが近いと市場が見れば、短期のOISは先に下がります。ニュースで「ハト派」と言われる前に、スワップが先に動くことは珍しくありません。
3. 初心者が見るべきは3点だけ:レベル・傾き・変化率
スワップ分析は奥が深いですが、初心者が実務(=実際の売買判断)に使うなら、最初は3つに絞る方が勝ち筋です。
3-1. レベル(短期OISの水準):政策金利パスの「平均値」
まず見るのは、1M/3M/6MのOIS(またはそれに近い短期金利先物)です。ここが「市場が直近数回の会合で何を織り込むか」をほぼ表します。
たとえば「3M OISが急上昇」しているなら、次回会合だけでなく、その次まで含めてタカ派方向に織り込みが進んでいる可能性が高い。FXなら高金利通貨高(ドル高など)、株ならグロース逆風が基本形になります。
3-2. 傾き(スワップカーブの形):利上げの“終点”と景気観
次に見るのはカーブの傾きです。短期(1Y未満)と中期(2Y〜5Y)で分けて考えます。
・短期が上がり、中期も一緒に上がる:利上げが続く+インフレ粘着のシナリオ寄り。
・短期は上がるが中期が上がらない:利上げはするが景気減速でその後は止まるの織り込み。
・短期が下がり、中期は下がらない:近い将来の利下げ期待が強いが、長い目では不確実、という形。
重要なのは、カーブ形状は「利上げ回数」だけでなく、利上げの後に景気がどうなると思われているかまで含むことです。ここがFX/株の判断に直結します。
3-3. 変化率(前日比・週次の動き):市場の再評価が起きているか
最後は変化率。水準そのものより、短期OISが1日でどれくらい動いたかが重要です。理由は、相場は「絶対水準」より「織り込みの変化」で動くからです。
実務的には、短期OISが1日で大きく上がった(例えば10bp以上)なら、「利上げ回数の織り込みが増えた」可能性が高い。逆に急落は「利下げ織り込み」の急増です。
4. 「利上げ回数」を数字にする簡易法:25bp刻みで逆算する
初心者がいきなりフォワードレートを厳密に計算する必要はありません。まずは25bp(0.25%)刻みの世界観で、ざっくり回数を当てに行きます。
ここでは米国を例にします(他国でもロジックは同じ)。仮に現在の政策金利レンジの中心が5.25%だとします。
ステップ1:「次回会合までの期間」を意識して、1M OISを見る。次回で+0.25%が濃いほど1Mが上に張り付きます。
ステップ2:「次々回も含めた織り込み」を見るため、3M OISを見る。ここが上がるほど“回数”の期待が増えます。
ステップ3:「3M OIS − 現在金利」の差をbpで見て、25bpで割る。
例)3M OISが5.63%で、現在の金利中心が5.25%なら差は0.38%=38bp。
38bp ÷ 25bp ≈ 1.5回。
この「1.5回」というのは、次回1回はほぼ確実で、さらにその次も半分くらい織り込む、というニュアンスです。
もちろん会合日程や日数加重などで厳密値は変わりますが、トレード判断に必要なのは“方向と勢い”です。最初はこの近似で十分役に立ちます。
5. 先物とスワップはどっちを見るべきか:初心者は「照合」で勝てる
短期金利の織り込みを見る代表的な商品は、OISだけではありません。米国ならフェデラルファンド先物やSOFR先物など、各国に短期金利先物が存在します。
初心者が最初に身につけたいのは「どれが正しいか」ではなく、ズレを見つけて相場のテーマを掴むことです。
・先物が先に動いてスワップが追随:短期イベント(指標・要人発言)の反応が先物に出た可能性。
・スワップが先に動いて先物が追随:現物フロー(ヘッジ需要)でスワップが動いた可能性。
・両者が逆方向:市場が割れている。この局面はボラが出やすく、短期の逆張りが機能することもありますが、初心者は無理に突っ込まない方が良い。
6. トレードに落とす:FX(ドル円)の判断ロジックを具体化する
金利スワップを「利上げ回数」として読めるようになると、FXの見方が変わります。特にドル円は「日米金利差」の物語が強いので、短期OISの変化が刺さります。
6-1. ドル円で効くのは“絶対金利差”より“金利差の変化”
たとえば米国短期OISが急上昇し、日本側(TONA OISなど)が動かないなら、金利差拡大の再評価が起きています。ドル円は瞬間的に上方向へ走りやすい。
ここでありがちな負けパターンは「ニュースを見てから買う」ことです。ニュースが出た時点で、スワップが10bp動いていれば、すでに“織り込み”が進んでいます。そこで飛び乗ると、次の瞬間に「材料出尽くし」で逆回転しやすい。
実務では、次のように考えます。
・先にスワップが上昇(利上げ織り込み増)→ドル円がまだ鈍い:遅行しているFXが追随する余地。
・スワップ上昇+ドル円も急騰:追随は終盤。押し目待ち(VWAPや直近高値の抜き返しなど)に切り替える。
・スワップが反落し始めたのにドル円が高止まり:高値の“置いていかれ組”が買っている可能性。利確優先、または小さく戻り売りを検討。
6-2. 具体例:指標で荒れた後の「反転」だけ取る
初心者に現実的なのは、指標で乱高下した直後に「スワップ市場がどちらを支持したか」を確認して、二段目だけ取る戦略です。
例)米雇用統計でドル円が上下に振れた。直後に短期OISが急上昇して高止まりしたなら、「市場はタカ派方向を採用した」可能性が高い。
この場合、ドル円の1分足〜5分足で、急落からの戻りがVWAPを回復し、押し目が浅くなる形になりやすい。初心者は“最初の大陽線”を取りに行かず、二回目の押しで入る方が安定します。
7. 株式に落とす:セクターで勝ちやすいのは「金利の方向に素直な群」
金利スワップが示す利上げ回数の変化は、株式全体にも効きます。ただし初心者が指数そのものを当てに行くのは難しい。そこでおすすめは、金利に反応しやすいセクターを狙うことです。
7-1. 金利上昇に比較的強い:銀行・保険(ただし条件あり)
一般に金利上昇局面では銀行株が買われやすい、と言われます。理由は利ざや改善期待です。ただし、ここには条件があります。
・短期だけ上がる(長期が上がらない)=カーブがフラット化する局面では、利ざや期待が弱くなりやすい。
・長期も上がる(カーブがスティープ化)=銀行に追い風になりやすい。
だから、単に「利上げ回数が増えた」だけで銀行を買うのではなく、スワップカーブ(短期〜中期)の形を確認し、“どの金利が上がったか”まで見るのがポイントです。
7-2. 金利上昇に弱い:高PERグロース(特に長期金利に敏感)
グロース株は将来利益の割引率(ディスカウントレート)の影響を強く受けます。短期の利上げ織り込みが増え、さらに中期のスワップも上がるなら、割引率が上がる方向で評価が下がりやすい。
初心者がやりがちなのは「良い決算だから買う」です。金利が再評価される局面では、良い決算でも株価が伸びないことがあります。これは決算が悪いのではなく、金利要因でバリュエーションが圧縮されるからです。
だから、決算の前後でも短期OISが大きく動いていないかをチェックするだけで、無駄な逆張りを減らせます。
8. 債券に落とす:初心者は「2年金利」を見れば半分勝ち
債券市場は難しく見えますが、短期政策金利に最も敏感なのは概ね2年ゾーンです。利上げ回数の織り込みが増えるほど、2年利回りは上がりやすい(価格は下がりやすい)。
スワップを見て「利上げ回数が増えた」と判断したなら、2年金利(または2年スワップレート)も同方向に動きやすい。逆に2年が動かないなら、市場は短期イベントとして処理している可能性があります。
つまり、短期OIS → 2年 → 5年の順で“伝播”を見ると、織り込みの強さが分かります。初心者におすすめの観察順です。
9. 実戦フレーム:3つの時間軸で「織り込み」を分解する
利上げ回数を当てに行くより重要なのは、織り込みが「どの時間軸で変わったか」を把握することです。相場は時間軸のズレでチャンスが生まれます。
①超短期(当日〜数日):要人発言、指標、地政学。短期OISの急変を追う。
②短期(数週間〜数カ月):次回〜数回の会合での“回数”。1M/3M/6Mを見る。
③中期(半年〜数年):利上げの終点、景気減速、利下げ開始。2Y〜5Yのカーブ形状を見る。
初心者はこの3階建てを意識するだけで、「同じニュースでも市場がどう解釈したか」を整理しやすくなります。
10. よくある失敗パターンと回避策
10-1. “見たい数字だけ”を見る:スワップを単独で信じる
スワップだけ見て「利上げ回数が増えたから買い」——これは危険です。相場は複数市場の綱引きです。最低限、為替(ドル円など)と2年金利の反応を照合してください。照合で矛盾が出るときは、相場がまだ結論を出していないことが多い。
10-2. カーブのどこが動いたかを見ない:短期と中期を混同する
短期OISが上がったのに中期が動かない場合、利上げは織り込むが、その先で景気が冷える見方が強い可能性があります。このとき、株は一様に売られるとは限らず、ディフェンシブや高配当が相対的に強いなど、“指数より相対強弱”が効きます。
10-3. 「イベント当て」に寄る:会合結果を当てにいく
初心者ほど「次の会合で何bp」を当てたくなりますが、再現性が低い。代わりに、会合前後で織り込みがどう変化したかを取りに行ってください。相場は“予想”より“予想の変化”が儲かる局面が多い。
11. 使えるチェックリスト:毎朝3分で十分
ここまで読んだ内容を、毎朝のルーチンに落とします。以下を上から順に見るだけで、金利テーマの有無が掴めます。
①短期OIS(1M/3M)が前日比で大きく動いたか(動いたなら理由を探す)
②2年金利(または2年スワップ)が同方向に動いたか(伝播しているか)
③ドル円がスワップの方向に追随しているか(遅行ならチャンス、先行なら注意)
④株はセクターで反応しているか(銀行強い/グロース弱い等)
⑤大きく動いた後、短期OISが反転していないか(材料出尽くしの兆候)
この5点を回すだけで、「今日は金利が主役の日か、別テーマの日か」が判断できます。これは初心者にとって非常に大きい優位性です。余計なエントリーが減り、トレード回数が減っても成績は上がりやすい。
12. まとめ:スワップは“市場の本音”を数字で見せる
金利スワップは、中央銀行の言葉より先に「市場の本音」を映します。初心者がいきなり難しい計算をする必要はありません。
・短期OISの水準と変化で、利上げ(利下げ)の織り込みを掴む
・カーブの形で、利上げの終点と景気観まで読む
・FX(ドル円)・2年金利・株セクターと照合して、織り込みの強さを判定する
この流れが身につけば、ニュースに振り回される回数が減ります。相場の最前線は「言葉」ではなく「価格」です。金利スワップを習慣化すると、あなたの意思決定は一段速くなります。


コメント