PER(株価収益率)を読む

株式投資

本稿では、株式投資の超基本指標であるPER(株価収益率)を、単なる「割安・割高の目安」ではなく、実際にエントリーや利益確定に使える道具として再設計します。初心者の方がすぐ実践できるよう、計算式の確認から、逆PER(=益回り)での金利比較、EPSの調整、ガイダンスの読み方、セクター別レンジ、ケーススタディ、スクリーニング手順、そして“使える”売買ルール例までを一気通貫で解説します。すべて平易な言葉で、です・ます調でお届けします。

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1. PERの基礎 ─ 定義・式・直感

PER(Price Earnings Ratio)は「株価がその会社の年間利益の何倍か」を表す指標です。式は以下のとおりです。

PER = 株価 ÷ 1株当たり利益(EPS)

たとえば株価が2,000円、EPSが100円ならPERは20倍です。直感的には「投資家が利益の20年分を先に支払っている」イメージです。PERは小さいほど一見“割安”に見えますが、企業の成長率、利益の安定性、資本効率、財務レバレッジ、金利水準、景気循環などで“適正水準”は大きく変わります。初心者の方は、まずPER単体ではなく、逆PER(益回り)という見方もセットで覚えると、判断が格段に速くなります。

2. 逆PER(益回り)の活用 ─ 金利との共通言語化

PERをひっくり返した指標が逆PER(Earnings Yield、益回り)です。

逆PER(益回り, %) = EPS ÷ 株価 × 100 = 100 ÷ PER

PER20倍なら逆PERは5%です。債券の利回りと同じ“%表記”になるので、金利や社債利回り、預金金利と比較しやすくなります。投資判断は、以下のような対話に置き換えられます。

  • この銘柄の逆PERは5%。同格の社債は4%。ただし株は利益が増えれば益回りがさらに上がる(≒将来のPERが下がる)可能性がある。
  • 逆に、利益が落ちれば益回りは下がる。配当利回りだけでなく、益回りと成長率のバランスで評価する。

初心者の方は「PER=倍数」「逆PER=利回り」という二軸で物事を見るだけで、ニュースや決算を数字で整理できるようになります。

3. トレーリングPERとフォワードPER ─ どちらを見るべきか

PERには大きく2種類あります。

  • トレーリングPER:直近12か月の実績EPSで計算。過去の実績に基づくためブレが少ない一方、景気転換点では遅れます。
  • フォワードPER:会社計画やアナリスト予想の来期EPSで計算。将来を織り込める一方、予想が外れるリスクがあります。

初心者の運用では、基本はトレーリングPER、トリガーはフォワードPERが実務的です。すなわち、実績での割高・割安レンジを把握しつつ、ガイダンスやコンセンサスの上方修正で「フォワードPERが一気に妥当化される瞬間」を捉えます。

4. PERは文脈が命 ─ セクター・成長率・金利・景気

PERには「単体の正解値」は存在しません。セクターによってレンジがまるで違うからです。安定配当型の公益・通信は低め、無形資産でスケールするソフトウェアは高め、といった具合です。さらに金利が上がる局面では将来利益の割引率が上がるため、高PER株ほど圧迫されやすい傾向があります。

タイプ 利益の性質 一般的なPERレンジ(参考) 注目点
公益・通信 安定・低成長 10–18倍 配当と規制の継続性
製造・景気敏感 循環・中成長 8–20倍 在庫循環と為替、受注
消費・小売 安定〜中成長 12–25倍 同店売上、粗利率の持続性
ソフトウェア 高成長・高粗利 25–60倍 解約率、LTV/CAC、SaaS指標

上記はあくまで目安です。重要なのは、その企業固有の“正常収益力”に対していま何倍かという視点です。

5. EPSの落とし穴 ─ 一過性・会計差・希薄化

PERの分母であるEPSは“きれい”とは限りません。実務上は以下を必ず点検します。

  1. 一過性の利益・損失の除外:固定資産売却益、減損、訴訟関連などは調整(Normalized EPS)。
  2. 希薄化効果:ストックオプション、新株予約権、転換社債は希薄化後EPS(Diluted EPS)で確認。
  3. 会計基準差:IFRSとJGAAP/USGAAPで売上計上や減価償却のタイミングが異なる場合があります。
  4. 連結範囲・持分法:持分法適用会社の利益は安定性を見極めます。

初心者の方は、まずは「調整後EPS」を自分なりに作る習慣をつけると、PERの精度が一気に上がります。

6. 価値の二面性 ─ PER×成長率(PEG)とROE

PERが高いのに正当化される典型は「高成長+高還元余地」です。ここで便利なのがPEG(PER ÷ 利益成長率)です。

PEG ≒ PER ÷ EPS成長率(%)

経験則ではPEGが1倍近辺なら許容、2倍超は警戒、という使い方をします(あくまで目安)。さらにROE(自己資本利益率)が高く、利益が現金化しやすい(CFの質が高い)企業は、PERが多少高くても許容されがちです。

7. ケーススタディ ─ 3つの銘柄タイプを数字で読む

7-1. 安定成熟株(配当重視)

仮にA社の株価が2,000円、EPSが160円、配当が1株60円(配当性向38%)とします。PERは12.5倍、逆PERは8.0%です。長期社債が4%の環境なら、益回り8%は魅力的に見えます。ポイントは利益の安定性と減配リスクです。減配しにくいキャッシュフロー構造なら、PERが15倍(株価2,400円)程度までのリレーティング余地を見込みやすくなります。

項目 数値 示唆
PER 12.5倍 セクター中央値よりやや割安
逆PER 8.0% 社債4%より相対優位
配当利回り 3.0% 増配余地あり
ROE 12% 資本効率は合格

売買の型:PER12倍以下で仕込み、配当維持の確認とともにPER15倍で一部利確、残りはトレーリングストップで追随します。

7-2. 高成長株(SaaS型)

B社は売上成長率30%、営業CF黒字化が進行中。来期EPSはまだ小さいためフォワードPERは60倍に見えます。ただしLTV/CACやNRR(解約率の逆、継続率)などのソフト指標が改善しているなら、2年後のEPS急拡大でPERが自然に低下する可能性があります。PEG視点で1.5倍程度なら継続保有を検討します。

売買の型:ガイダンス上方修正でフォワードPERが40倍台へ低下するイベントを“買いトリガー”に設定します。失速時は「売上成長率が20%を2四半期連続で割る」を撤退ラインにします。

7-3. 景気循環株(自動車・半導体等)

C社は在庫調整の最終局面で利益が落ち込み、トレーリングPERは一見30倍と割高に見えます。しかし来期は需給正常化でEPSが2倍になる見通しです。この場合、フォワードPERを主軸にします。フォワードPERが15倍なら、正常収益力のレンジ(10–18倍)に回帰するシナリオを描きます。

8. スクリーニング手順(無料ツール+Excel前提)

  1. 時価総額と流動性で最低基準を設定します(例:時価総額500億円以上、平均出来高基準)。
  2. トレーリングPERとフォワードPERを同時に取得し、逆PER(=100÷PER)も列追加します。
  3. セクター別中央値と比較できる列を作り、“企業の現在地”を相対値で把握します。
  4. EPSの一過性要因の有無、希薄化の有無をメモ列で管理します。
  5. 最終候補に対しては、売上成長率、粗利率、ROE、営業CFの4点を最低限チェックします。

Excelの例:=100/[@PER]で逆PERを計算し、=IF([@希薄化]="有","注意","OK")などの簡易フラグを活用します。

9. 失敗を避ける8つのチェックポイント

  • 赤字企業にPERを当てない:EPSがマイナスならPERは無意味です(代わりにPSRやEV/売上を使用)。
  • 一過性利益で割安錯覚:固定資産売却益でEPSが跳ねた翌期は注意します。
  • 超高PERの金利感応度:金利上昇局面ではディスカウントの影響を受けやすいです。
  • 為替と外需:輸出比率の高い企業は為替前提に敏感です。
  • 決算期ズレ:同業他社との比較で決算期がずれていると見誤ります。
  • 希薄化イベント:SO/CBの転換条件や発行余地を確認します。
  • 会計方針の変更:収益認識の変更は EPS と成長率の連続性に影響します。
  • PER“だけ”で買わない:最低限、成長・CF・ROE・バランスシートを併読します。

10. 初心者向け“即応”ルール(テンプレ)

完全自動ではありませんが、以下の3条件テンプレは再現性が高いです。

  1. 割安の入口:セクター中央値PERより15%以上低い、かつROE10%以上。
  2. 成長の確認:売上成長率が直近4四半期でプラス、営業CFもプラス。
  3. 需給の後押し:50日移動平均線が上向き、株価がその上にある。

出口:PERがセクター中央値+10%まで上昇で半分利確、残りは前日終値比-7%でトレーリングストップ。悪材料時は一括撤退。

11. 逆PERと配当利回りの二刀流

成熟株では、逆PER(益回り)と配当利回りの差が「内部留保からの将来還元余地」を示唆します。益回り8%、配当利回り3%なら、差の5%は再投資・自社株買い・将来増配の原資になりえます。ROEが高いほど、その再投資が複利で効いてきます。

12. マクロ環境の取り込み方

PERは割引率(主に長期金利)に強く影響されます。初心者でも、長期金利の方向性(上昇=逆風、低下=追い風)だけは把握しておきます。さらに、インフレが粘着的な局面では名目売上が伸びやすく、ある種の企業でEPSが予想以上に堅調になることがあります。ここでは価格転嫁力が鍵です。

13. 実践ワーク:仮想スクリーニング

次の3社(仮想)から、どれを優先するか考えます。

会社 PER 逆PER 売上成長 ROE 営業CF 備考
A(公益) 13倍 7.7% +2% 9% + 配当厚い
B(SaaS) 45倍 2.2% +30% 15% ±0 解約率改善
C(製造) 11倍 9.1% +8% 12% + 在庫正常化

答えは投資方針によります。収益の安定性と利回り重視ならA、堅実なリレーティングならC、高リターン狙いでボラ許容ならBです。重要なのは、自分のリスク許容度に合わせて選ぶことです。

14. よくある質問(FAQ)

Q1:PERの「適正値」は何倍ですか?
A:企業や業種、金利で異なります。必ずセクター相対と成長・ROEを併読してください。

Q2:赤字の成長株はどう見ますか?
A:PERは使えません。売上成長や粗利率、ユニットエコノミクス、キャッシュバーンの改善を見ます。

Q3:配当利回りとどちらが大事ですか?
A:両輪です。益回りが高くCFの質が良ければ、将来の増配や自社株買いの余地が広がります。

15. まとめ ─ “倍数”から“利回り”へ

PERは「割安・割高」のラベルではなく、益回りという共通言語で他の資産と比べるための窓です。逆PERで金利と比較し、EPSを正しく調整し、セクターの文脈でレンジを把握する。そこにシンプルなテクニカルを重ねれば、初心者の方でも十分に再現性のある運用を組み立てられます。今日から銘柄表のPER列を「100÷PER」という目で見直してみてください。


※本稿は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の推奨や将来の成果を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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