カレンダースプレッド完全ガイド:少額で“時間”と“ボラティリティ”を味方にするオプション戦略

オプション取引

結論:カレンダースプレッド(以下「カレンダー」)は、「時間の経過(タイムディケイ)と限月間のボラティリティ構造」を収益源にするデビット型のオプション戦略です。少額のプレミアムで建てられ、値動きが「想定レンジ」に収まるほど有利に働きます。初心者でも学習コストに対してリスクが限定的で、勝ち筋が視覚化しやすいのが長所です。

本稿は、完全初心者でも今から使えるように、仕組み→勝ち筋→建て方→管理→出口の順で徹底解説します。株式・ETF・仮想通貨(例:BTC オプション)でも考え方は同じです。テクニカルの型・イベント戦略・具体例・数式の近似・チェックリストまで1本でカバーします。

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1. カレンダースプレッドとは

同じ権利種別・同じ権利行使価格(ストライク)で、期近のオプションを売り(ショート)期先のオプションを買う(ロング)組み合わせです。代表例は「ATMのコール・カレンダー(期近ショート・期先ロング)」です。ポジションはネットでデビット(支払い)になるのが通常で、最大損失は支払ったプレミアムがほぼ上限です。

直感的には、「近い期限の時間価値が早く減り、遠い期限の時間価値はゆっくり減る」という性質(θの差)を使って、時間の経過=味方にする戦略です。さらに、限月間のIV(インプライド・ボラティリティ)の差(タームストラクチャ)からも利益機会が生まれます。

2. 勝ち筋の輪郭:いつ・なぜ機能するのか

カレンダーが最も機能するのは、原資産がストライク付近で小さく推移し、かつ期近IVが低下 or 期先IVが相対的に維持される局面です。理由は以下の3点です。

  1. 時間価値の差(θの差):期近の時間価値は早く減り、期先はゆっくり減るため、「売っている期近の減りが早い=利益」になりやすい。
  2. IVの再均衡:イベント通過や需給の正常化で、期近IVが下がる一方、期先IVは相対的に維持されれば、ネットのベガ・エクスポージャーがプラスでもスプレッドの価値は上昇しやすい。
  3. 価格の中心化:ストライク付近に収束すると、期近ショートの時間価値が最も減り、ポジションの理論価値がピークに近づきやすい。

この3要素が同時に起こる「決算・マクロイベント前後の平常化フェーズ」や「トレンドが一服してレンジ化しやすい局面」で威力を発揮します。

3. ギリシャの性質(長期ロング・短期ショートのカレンダー)

  • デルタ:ATM付近では概ね小さめ(≈0)。強いトレンドになるとデルタが増え、想定外方向では不利。
  • ガンマ:概ねマイナス。急騰・急落の加速には弱い。レンジ相場で有利。
  • セータ(θ)プラスに働きやすい。時間価値の差が収益源。
  • ベガ:ネットでプラスになりやすい(期先ロングが効く)。IV上昇や期近IV低下・期先IV維持が追い風。

要するに、「大きく走らない見立て」「イベント後のIV低下/平常化」が重なるほど勝率が高まる設計です。

4. どんな相場で使う?(実務の当てはめ)

  1. 材料出尽くし後の落ち着き:イベントで期近IVが高止まり→通過後に低下見込み。
  2. レンジ移行の初期:トレンドが一服。ボラがやや縮む見込み。
  3. テクニカルで“滞留価格”に接近:出来高の厚い価格帯(POC/VWAP/過去高出来高ゾーン)。

逆に、強トレンドの初動ボラティリティ拡大の連鎖(窓・急騰急落が続く)局面は不向きです。

5. 具体例(数値で理解する)

原資産価格S=100、ATMコールのIVと価格が以下だとします(概算)。

  • 期近(残存30日)ATMコール:IV=28%、理論価格=3.20
  • 期先(残存60日)ATMコール:IV=26%、理論価格=5.60

期近を売り、期先を買いで、ネットのデビットは 5.60−3.20= 2.40。これがほぼ最大損失です。

30日後(期近満期日)にSがちょうど100(ATM)なら、期近ショートはほぼ時間価値ゼロで満期消滅。一方、期先は残存30日となり、同じIV=26%なら理論価格はおよそ3.10〜3.40の範囲(仮)。よってスプレッド価値≈3.25前後。建玉時のデビット2.40との差≈+0.85が概算利益です。

逆にSが大きく動いて90や110へ外すと、ATM性が薄れ時間価値が落ちるため、スプレッド価値は低下し、利益は縮む・損失に転じます。これが「レンジで勝ち、走ると負ける」構造です。

6. IVイベントの応用(期近IVと期先IVの関係)

鍵は「どちらの限月にイベントが乗っているか」です。

  1. イベントが期近に集中:期近IV↑・期先IV→。高い期近IVを売って相対的に低い期先IVを買う=王道のロング・カレンダー。イベント通過で期近IV↓が期待でき、時間経過と合わせて優位。
  2. イベントが期先に集中:期先IV↑・期近IV→。この場合は純粋なカレンダーだと期先IV低下のリスクを抱える。選択肢は(a)対角(ディアゴナル)でデルタを取りに行く、(b)イベント分を跨がない限月を選び直す、(c)スプレッド幅を狭くしてデビットを抑える。

初心者はまず「期近にイベント、期先は平常」の型から練習するのが安全です。

7. 建て方(手順を最短化)

  1. 原資産を選ぶ:出来高の多い銘柄やETF・主要仮想通貨(BTCなど)。
  2. ストライクを決める:基本はATM(現在値付近)。「やや上」ならコール、「やや下」ならプット。
  3. 限月を決める:期近30±10日/期先60±20日が目安。最初は1:1でOK。
  4. 約定の順番:同時(スプレッド注文)を推奨。板が薄い銘柄は特に。
  5. 約定価格の管理デビット総額を記録(最大損失の把握)。

ブローカーのスプレッド発注画面で「カレンダー」を選び、ストライクと2つの限月を指定すれば一括で注文できます。

8. 損益の感覚を“数で”掴む(簡易シミュレーション)

以下は期近満期日における概算イメージです(前掲の設定を踏襲)。

  • S=97〜103:プラス域が広い中心帯。最大利益はS=100付近。
  • S=95や105:利益は縮小、ややプラス〜小幅マイナス。
  • S=90や110:損失寄り。おおむねデビットに近づく。

なお、IV変化が寄与します。期近IVが通過で強く低下し、期先IVが維持されると、同じSでもスプレッド価値は増えやすい=利益が押し上がります。

9. 代表的なアレンジ:ディアゴナル(対角)

ディアゴナルは、ストライクをずらすカレンダーです(例:期近ショートをややOTM、期先ロングをATM)。軽い方向性(デルタ)を取りに行けます。緩やかなトレンド+ボラ低下を見込む局面で使い分けると、カレンダーより収益上限が広くなる一方、管理は少し難易度が上がります。

10. リスク管理(ここを外すと負ける)

  1. 想定外の走りに弱い(ガンマ−):大陽線・大陰線が続くと厳しい。ニュースフロートレンド指標(移動平均・ADXなど)で回避。
  2. イベントの位置どの限月にイベントが乗るかを必ず確認。期先に大型イベントが載る場合はサイズを落とすか、ディアゴナルでデルタを調整。
  3. 損切りラインデビットの30〜50%で機械的に撤退を推奨(初心者)。
  4. サイズ規律:1回の建玉で口座の1〜2%のリスクに抑える。
  5. 時間の置き方:期近満期の3〜5営業日前までに概ね方向性が見える。期限いっぱいまで粘らない。

11. 出口・ロール戦略

  • 利益確定の目安デビットの30〜60%の含み益で分割利確。中心付近でのIV低下が効いたら速やかに。
  • 期近が溶けたらロール:期近が十分減価し価値が薄いなら、次の期近を新規ショートして“擬似ロール”。
  • 想定外の走り:早め撤退。対角化してデルタを取る選択肢もあるが、初心者は無理に追わない。

12. 典型的な失敗と回避策

  1. イベント配置の見落とし:限月ごとのカレンダーに必ずイベントを書き込む。どちらに決算・FOMC等が載るか。
  2. 薄い板で約定コストが嵩む:主要ETF・大型銘柄・主要暗号資産で練習する。
  3. 満期直前まで粘る:ガンマ・ギャップの餌食。3〜5営業日前に判断するルール化。
  4. サイズ過多:連敗で口座が萎む。1〜2%ルールデビット50%撤退を徹底。

13. 数式の直観(ざっくりでOK)

スプレッド価値 ≈ 期先オプション価値 − 期近オプション価値。期近満期日においては、スプレッド価値 ≈ 残存Tの期先オプション価値に近づきます。よって、ATM性(原資産がストライク近辺に留まる)とIVの平常化が価値を押し上げます。

ギリシャの近似では、θ差>0、net vega>0、gamma<0の組み合わせ。これが「時間は味方・急変は敵」という実務感覚にそのまま一致します。

14. テクニカル×カレンダー:入口の型

  1. VWAP・出来高帯:当日/週/月VWAPや高出来高ゾーンに近づく→止まりやすい価格にATMストライクを合わせる。
  2. 移動平均の密集:20/50/100が密集=モメンタム鈍化のサイン。
  3. レンジ上限・下限のブレーク後の失速フェイクブレークで中心に戻る読み。

15. 初回の練習メニュー(具体)

  1. 出来高の多いETFを選ぶ(例:指数ETF)。
  2. 30D/60Dの限月でATMのコール・カレンダーを1枚だけ建てる。
  3. デビット(最大損失)を記録し、30〜60%利確/50%損切りのOCO目安をメモ。
  4. イベント表(決算・政策など)を限月別にメモ。
  5. 期近満期の5営業日前に撤退判断。延長するならロールの是非を検討。

16. ミニQ&A

Q1:最大利益は? A:理論上、期近満期日にSがストライクぴったり・期先IVが維持/上昇ならピーク。実務は欲張らず分割利確が堅実。

Q2:どちらの権利種別が良い? A:コール/プットは同等。方向の仮説(やや上/やや下)に合わせて選ぶ。

Q3:複数ストライクは? A:慣れたら二山構成(ダブル・カレンダー)で中心帯を広げる手もあるが、初心者は単一ストライク推奨。

17. チェックリスト(発注前の最終確認)

  • イベントがどの限月に載るか可視化したか?
  • 板の厚さ・スプレッドを確認したか?
  • デビット総額=最大損失を理解したか?
  • 利確/損切りの数値ルールを書いたか?(30〜60%利確、50%損切)
  • 期近満期の5営業日前に撤退判断するか?

18. まとめ

カレンダーは、時間ボラティリティという市場の“構造的な力”を収益化します。デビット限定の損失設計で学びやすく、「走らない相場でコツコツ取る」に極めて向いています。入門のコア戦略として、一度小サイズで反復練習して、自分のルールに落とし込むことを強くおすすめします。

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