モーゲージ債の繰上返還率で読む金利局面:住宅ローン市場の“見えないレバレッジ”を味方にする

市場解説

モーゲージ債(MBS)は、米国の住宅ローンを束ねた証券です。ニュースでは「米国債10年が上がった/下がった」といった話が中心ですが、実際に市場が困るのは“金利が動いた後”に起きる二次反応です。その代表が、住宅ローンの繰上返済(リファイナンスを含む)が増減することによって、MBSのキャッシュフローが前倒しされたり遅れたりする現象です。

この“返ってくる早さ”を定量化したものが繰上返還率(代表指標はCPR:Conditional Prepayment Rate)で、金利局面の変化をかなり早い段階で映すことがあります。株・FX・暗号資産しか触っていない投資家でも、CPRの見方を身につけると「金利低下が追い風になる銘柄群」と「実は追い風が弱い銘柄群」を切り分けられます。この記事は、初心者が“今日から使える”ところまで落とし込みます。

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繰上返還率(CPR)とは何か:MBSが抱える“期限前返済リスク”

普通の債券は満期まで利息が払い続けられ、最後に元本が返ってきます。しかし住宅ローンは、借り手が繰上返済できます。金利が下がると借り換えが増え、元本が想定より早く返ってきます。逆に金利が上がると借り換えが減り、元本が想定より遅く返ってきます。MBSはこの“返ってくるタイミングが読みにくい”点が特徴で、これが投資家から見たリスクであり、同時にチャンスにもなります。

CPRは年間換算の繰上返済率です。たとえばCPRが10%なら「(ざっくり)このペースが続くと1年で残高の約10%が繰上で返っていく」イメージです。もう一つ、より直感的な指標としてSMM(Single Monthly Mortality:月次繰上率)がありますが、投資判断ではCPRの方が会話に出やすいです。

重要なのは、CPRが上がる=良い/悪いではないことです。MBSの投資家の立場だと、金利低下でCPRが急上昇すると「高い利回りで持っていた資産が早期に償還され、低い利回りで再投資せざるを得ない」ことが起きます(再投資リスク)。逆に金利上昇でCPRが急低下すると「元本が返ってこないため、価格下落局面で長く抱え続ける」ことが起きます(延長リスク)。

なぜCPRが“金利局面の先読み”になるのか:住宅ローンは生活者の意思決定だから

市場の金利は日々動きますが、住宅ローン借り手の行動は遅行します。金利が下がったからといって、全員が翌日に借り換えをするわけではありません。審査、書類、手続き、費用対効果の計算などが必要で、時間差が生じます。

このタイムラグがポイントです。債券市場が“金利低下を織り込んだ”後に、現実の借り換えが増え始める。するとMBSのキャッシュフローが前倒しされ、MBSを保有する機関投資家(銀行、保険、MBSファンド等)がデュレーション調整を迫られます。調整の過程で、国債金利や金利スワップ市場にも波及します。

つまりCPRは、単なる住宅市場の数字ではなく、巨大な債券ポジションのリスク管理行動を誘発する“引き金”になり得ます。株式投資家の視点では、金利敏感株(不動産、公益、成長株など)の追い風が持続するのか、途中で失速するのかを推測する材料になります。

初心者がハマる誤解:『金利が下がればMBSは上がる』は半分しか正しくない

国債のイメージで考えると、金利が下がれば債券価格は上がります。ところがMBSでは金利低下が“借り換え増”を誘発し、投資家が欲しかった高クーポンのキャッシュフローが早期に消えてしまうため、価格上昇が抑えられやすいです。

この現象を理解するために、オプションで例えると分かりやすいです。住宅ローンの借り手は『金利が下がったら借り換えできる権利』を持っています。投資家から見ると、MBSを買うことは『借り手にその権利を売っている』のに近い。金利が下がって権利が“行使されやすくなる”と、投資家側は不利になります。

だから、金利低下局面で国債が素直に上がる一方、MBSは上がりにくい(スプレッドが開く)局面があります。この差が『MBSは難しい』と言われる原因ですが、逆に言うと差が出る局面を見抜けば、株・債券のポジション調整に使えるということです。

実務的な読み方:CPRを見る前に“住宅ローン金利と既存ローン金利の差”を把握する

CPRを眺めるだけだと意味を取り違えます。鍵は『借り換えインセンティブ』です。具体的には、今の市場住宅ローン金利(たとえば米国の30年固定)と、既存ローンの平均金利の差がどれくらいあるか。差が大きいほど、借り換えによる毎月返済額の削減メリットが出やすく、CPRが上がりやすくなります。

例えば、既存ローン平均が4.5%で市場金利が6.5%なら、借り換えは損です。CPRは低下しやすく、MBSの『返ってこない』性質が強まります。逆に市場金利が3.5%まで下がると、借り換えが一気に現実味を帯び、CPRが上がりやすくなります。

この差は株式投資にも直結します。金利低下が進んでも、既存ローンがすでに低金利で固定されていると借り換え余地が小さく、消費者のキャッシュフロー改善が限定的です。『金利低下=消費が即回復』と短絡すると外します。CPRを通じて“家計に効いているか”を確認します。

CPRが市場に与えるインパクト:デュレーションの暴走(ネガティブ・コンベクシティ)

MBSの特徴として有名なのがネガティブ・コンベクシティです。難しい言葉ですが、要点は『金利が下がると返済が早まり、債券としての期間(デュレーション)が短くなる』『金利が上がると返済が遅れて期間が長くなる』という、普通の債券と逆向きの反応が混じることです。

この性質が強いと、金利変動に対して保有者がヘッジ(例:金利スワップや国債先物)を入れ直す必要が出ます。金利低下局面ではMBSの期間が短くなり、保有者は『期間を伸ばすために買う』行動を取ることがあり、これが金利低下を加速することがあります。逆に金利上昇局面では期間が長くなり、保有者は『期間を短くするために売る』行動を取ることがあり、金利上昇を加速することがあります。

ここが株・FXトレーダーにとっての“旨味”です。金利が動くきっかけは経済指標でも、動いた後の加速装置はこうしたポジション調整です。CPRが急変しそうな局面を押さえると、債券が荒れやすい日、株の金利敏感セクターが振れやすい日を事前に想定できます。

具体例:『利下げ観測が強いのに長期金利が意外と下がらない』の正体

よくある相場として、FRBの利下げ観測が強まって短期金利は下がり始めたのに、長期金利が思ったほど下がらない局面があります。インフレ懸念や財政要因もありますが、もう一つの要因としてMBSの需給があります。

金利低下が進むと借り換えが増えてCPRが上がり、投資家は高クーポンMBSを長く持てなくなるリスクを意識します。するとMBSに要求するスプレッドが広がり、MBS価格が伸びにくい。MBS市場が弱いと、住宅ローン金利が国債ほど下がらず、借り換えインセンティブが思ったほど強くならない。結果としてCPRの上昇が鈍り、金利低下の波及が途中で止まる。

この連鎖を見抜くと、たとえば『利下げ局面で住宅関連株が強いはず』という期待が外れる理由を説明できます。住宅ローン金利が下がり切らなければ、住宅需要は回復しにくいからです。CPRはこの“詰まり”を数週間〜数か月のスパンで可視化します。

データの取り方:個人投資家が現実的に追える指標セット

プロはローンプールの属性(クーポン、借り手のFICO、LTV、地域、ビンテージ等)まで細かく見ますが、個人投資家がそこまでやる必要はありません。代わりに、次の3点だけを定点観測すると十分に戦えます。

(1)米国30年固定住宅ローン金利の推移:週次で動きます。金利の方向とスピードを把握します。

(2)代表的なMBSスプレッドやMBS関連ETFの値動き:国債に対してMBSが強いのか弱いのかを確認します。

(3)繰上返還率(CPR)に関する統計やMBS市場のコメント:直接のCPRが難しければ、『リファイナンス指数』『住宅ローン申請指数(借り換え)』などの代理指標でも良いです。

この3点をセットで追うと、『金利低下が“住宅ローンに伝わっているか”』『MBS需給が利下げの波及を邪魔していないか』が読みやすくなります。

投資への落とし込み①:米国株セクターの“利下げの勝者”を分解する

利下げ局面で買われやすいのは、一般に高PERの成長株や不動産(REIT)です。しかし、利下げが住宅ローン市場に効いていない場合、住宅関連の回復は鈍くなります。そこで、CPR(または借り換え関連指標)が上がっているかどうかで、同じ利下げ相場でも買うべきセクターを分解します。

たとえば、①短期金利低下+長期金利低下+住宅ローン金利も低下+借り換えが増加(CPR上昇)なら、『住宅建設、住宅関連小売、リフォーム、住宅ローンサービス、地銀』に追い風が届きやすい。

一方で、②短期金利低下でも住宅ローン金利が下がりにくい(MBSが弱い、スプレッド拡大)なら、『住宅需要の回復』は遅れやすく、利下げの恩恵は『金利感応度の高いグロース』に偏りやすい。住宅関連を広く買うとパフォーマンスが散ります。

つまりCPRは、利下げ相場の“勝ち筋”を住宅側と株式側で切り分けるフィルターになります。

投資への落とし込み②:債券・現金の配分を“金利低下の質”で変える

初心者にありがちな悩みは『債券を増やすべきか、株を増やすべきか』です。ここで使えるのが『金利低下の質』という考え方です。

金利低下が景気後退の入口で起きているなら、株はボラティリティが上がります。その場合でも、住宅ローン金利が下がって借り換えが進む(CPR上昇)なら、家計の金利負担が軽くなり、景気の落ち込みが浅くなる可能性が出ます。株の下落が“オーバーシュート”になりやすく、逆張りの余地が生まれる。

逆に、金利低下しているのに借り換えが進まない(CPR低迷)なら、家計に効いていない=金融環境の改善が鈍い可能性があり、株の戻りも鈍くなりがちです。そういう局面では、現金比率を落としすぎない、ディフェンシブ寄りにする、といった判断が合理的になります。

要するに『利下げ=リスクオン』と決め打ちせず、CPRで“家計に効いているか”を確認してからアクセルを踏みます。

投資への落とし込み③:日本の投資家が気を付けるべき為替との絡み

日本の個人投資家は、円建てで資産を管理しつつ米国資産を買うことが多いので、金利と為替の絡みが避けられません。米金利低下は通常ドル安要因ですが、局面によっては『リスクオフでドル高』が同時に起きます。

ここでCPRが役立つのは、金利低下が“金融緩和の波及”なのか“恐怖の金利低下”なのかを見分ける材料になるからです。借り換えが増え、住宅ローン金利が素直に下がっているなら波及が進んでいる可能性が高く、リスクオンに寄りやすい。するとドル安圧力が働きやすく、為替ヘッジの考え方が変わります。

反対に、金利が下がっているのにMBSが弱く、住宅ローン金利が下がらない/借り換えが増えないなら、金融環境の改善が詰まっている可能性があり、リスクオフが長引きやすい。ドル高(安全資産需要)に備える発想が必要になります。

初心者は『米金利が下がる=ドル円が下がる』と短絡しがちですが、実際は“金利低下の中身”次第です。CPRはその中身のヒントになります。

チェックリスト:CPRを“相場の警報”として使う5つの観点

最後に、実際に運用へ組み込むための観点を整理します。次の5つを、週1回でいいので確認してください。

① 住宅ローン金利は方向感が出ているか(下がっているのか、横ばいか)。

② MBSが国債に対して強いか弱いか(スプレッドが縮んでいるか、開いているか)。

③ 借り換え関連指標が増えているか(増えていないなら、金利低下が家計に届いていない)。

④ 住宅関連の実体指標(住宅着工、住宅販売など)が反応しているか(反応が鈍いなら、株のテーマ買いは危険)。

⑤ 金利低下局面で市場ボラが上がっていないか(“恐怖の金利低下”なら、為替・株の反応が逆になることがある)。

このチェックリストは、完璧な予測のためではなく、資産配分のミスを減らすためのものです。初心者ほど、ミスを減らす仕組みを作った方が資産が残ります。

初心者向けの実践プラン:3か月で“金利局面×住宅”を読めるようにする

第1週:米国30年固定住宅ローン金利と米10年金利のチャートを並べ、乖離が広がる局面を探します。『国債は下がったのにローン金利が下がらない』週があれば、その週のMBS関連ニュースをメモします。

第2〜4週:借り換え関連指標(住宅ローン申請の借り換え指数など)を見て、ローン金利の変化から何週遅れて動くか体感します。タイムラグが分かるだけで、短期の値動きに振り回されにくくなります。

2か月目:住宅関連株(住宅建設、ホームセンター、素材、地銀など)をいくつかウォッチリストに入れ、ローン金利・借り換えの改善が出た後に株価が反応する順番を観察します。

3か月目:自分の資産配分ルールに組み込みます。たとえば『ローン金利低下+借り換え増が確認できたら、住宅関連を段階的に増やす』『ローン金利低下でも借り換え増が見えないなら、住宅関連の比率は上げない』のように、行動ルールに落とし込みます。

ルールは単純で構いません。大事なのは、判断の根拠を“データの組み合わせ”にすることです。

まとめ:CPRは“金利の伝播”を測る温度計

繰上返還率(CPR)は、MBSという一見マニアックな市場の指標ですが、本質は『金利変動が家計に伝わっているか』を測る温度計です。利下げや金利低下がニュースになっても、住宅ローン金利が下がらず借り換えが起きなければ、景気や企業業績への波及は遅れます。

初心者ほど、表面的な金利ニュースに反応してポジションを振り回しがちです。CPR(または借り換え代理指標)を定点観測し、金利の“中身”を分解してから資産配分を動かす。これだけで、無駄な損失をかなり減らせます。

よくある失敗パターン:CPRを見ても負ける人の共通点

CPRを知っても、使い方を間違えると逆に混乱します。典型的な失敗は3つあります。1つ目は『CPRが上がった=景気が良い』と決めつけることです。CPR上昇の主因は金利低下であり、金利低下は景気悪化の結果として起きることも多い。つまりCPRは“環境の変化”であって“景気の良し悪し”そのものではありません。

2つ目は『住宅関連を一括で買う』ことです。借り換えが増える局面で強いのは、住宅需要そのものよりも“金融面の回復”に直結する領域(住宅ローンサービス、モーゲージREIT、地銀など)だったりします。一方、住宅建設は在庫や土地価格、労務費の制約で遅れて動くことがある。CPRが上がっているからといって、全部が同じスピードで利益が増えるわけではありません。

3つ目は『1つの週次データで結論を出す』ことです。住宅ローンは季節性も強く、手続き遅延もあります。最低でも3〜4週の平均で見て、方向性が変わったかどうかを判断します。短期トレードなら別ですが、資産配分の判断に日足のノイズを持ち込むと、売買が増えて成績が悪化します。

商品選択の具体論:MBSそのものを買わない投資家ほど、CPRが効く

個人投資家が直接MBSを買う機会は多くありません。それでもCPRが効くのは、MBSの影響が『住宅ローン金利』と『金融機関の損益』に波及し、最終的に株・REIT・為替へ伝播するからです。商品選択で考えるなら、次のように整理すると分かりやすいです。

(A)米国債ETF:金利低下の“素直な受益者”。CPRの影響は間接的です。

(B)投資適格社債ETF:金利低下+信用環境改善なら強いが、景気後退の金利低下ではスプレッドが拡大しやすい。CPRが上がり、家計の金融環境が改善しているなら“後者のリスク”が和らぎやすい。

(C)REIT:金利低下は追い風だが、物件需給や景気で差が出ます。住宅ローン市場の改善が進むなら住宅系・消費系に追い風が届きやすい一方、改善が詰まるなら『金利は下がったのに稼働率が伸びない』という罠に入りやすい。

(D)銀行株:金利低下は利ざや縮小の懸念がありますが、信用コストや融資需要との綱引きです。CPR上昇=借り換え増は“住宅ローンの実需”が動いているサインになり得るため、単純な利ざや論よりも、貸出ボリュームや手数料収益の観点で評価しやすくなります。

リスク管理:『当たる前提』を捨てて、損失を小さくするルールを作る

CPRは万能ではありません。予測が外れる前提で、損失を限定する設計が必要です。初心者向けに最も実装しやすいのは“段階投入”です。たとえば、住宅ローン金利低下を確認した時点で予定投入額の3割、借り換え指標の改善を確認したらさらに3割、住宅実体指標の改善が確認できたら残りを投入する。こうすると、最初のサインがダマシでも、最大損失が縮みます。

もう1つは“逆回転”のシグナルを決めておくことです。具体的には『住宅ローン金利が反転上昇し、借り換え指標が2週連続で悪化したら、住宅関連のリスク資産比率を半分にする』のように、機械的に縮める条件を作ります。ルールがないと、相場が逆に行った時に“解釈”で粘ってしまい、損失が膨らみます。

最後に、為替の影響を無視しないことです。円建ての成績は、ドル建ての価格変化と為替変化の合成です。金利局面が変わると為替の変動も大きくなりやすい。ヘッジあり/なしを固定せず、相場環境(リスクオンか、恐怖の金利低下か)に合わせて比率を調整する方が安定します。

p-nuts

お金稼ぎの現場で役立つ「投資の地図」を描くブログを運営しているサラリーマン兼業個人投資家の”p-nuts”と申します。株式・FX・暗号資産からデリバティブやオルタナティブ投資まで、複雑な理論をわかりやすく噛み砕き、再現性のある戦略と“なぜそうなるか”を丁寧に解説します。読んだらすぐ実践できること、そして迷った投資家が次の一歩を踏み出せることを大切にしています。

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