ベトナムの製造業PMI(Purchasing Managers’ Index)は、東南アジアの「景気の曲がり角」を早い段階で示しやすい指標です。理由はシンプルで、ベトナムが世界のサプライチェーンに深く組み込まれており、受注・輸出・在庫・雇用といった“現場の温度”が、統計の確報(GDPなど)より先に数字へ反映されるからです。
ただしPMIは「50を超えたら買い、割れたら売り」みたいな単純ルールでは勝てません。初心者ほど引っかかる罠が多く、読み方には型が必要です。本稿では、ベトナムPMIを使って東南アジアの循環を先読みし、日本株・ETF・FX(主に周辺通貨やリスク資産)へ落とし込むための、実戦向けの手順を具体例込みで解説します。
- 1. まずPMIとは何か:「水温計」ではなく「変化率の検知器」
- 2. ベトナムPMIが“東南アジアの先行指標”になりやすい理由
- 3. 実戦で使うための「PMIの読み方の型」
- 4. 具体例:PMIのパターン別「次の1〜3か月」シナリオ
- 5. 日本株・ETFに落とし込む:ベトナムPMI起点の“サプライチェーン地図”
- 6. FXでの実戦:VNDが難しいなら“代理変数”で戦う
- 7. 指標の罠:ベトナムPMIで初心者が負ける典型パターン
- 8. 私が使う“オリジナル指標”:PMIを「投資スコア」に変換する
- 9. リスク管理:新興国関連は“正しく当たっても負ける”ことがある
- 10. まとめ:ベトナムPMIは「毎月の小さな優位性」を積み上げる道具
1. まずPMIとは何か:「水温計」ではなく「変化率の検知器」
PMIは購買担当者へのアンケートを指数化したものです。代表的には「新規受注」「生産」「雇用」「仕入れ価格」「納期」「在庫」などの設問があり、拡大(改善)回答が多いほど指数が上がる“拡散指数”です。ポイントは、PMIは水準よりも変化の方向(加速・減速)に強いことです。
例えばGDPは後追いですし、輸出統計も確報まで時間がかかります。一方PMIは月次で早く出るため、相場が一番欲しい「いま現場で何が起きているか」を拾いやすい。特にベトナムは輸出製造の比重が大きく、海外需要(米国・欧州・中国)の揺れがPMIに出やすいのが特徴です。
PMIを誤解しないための3つの前提
前提1:50は“分岐点”ではあるが、売買のトリガーには弱い。 50は拡大・縮小の境界として語られますが、相場はその前後でノイズが多いです。むしろ「50を跨いだこと」より「その月から加速したか(前年差ではなく前月差)」が大事です。
前提2:PMIは“気分”ではなく“オペレーション”の記録。 購買は在庫調整・納期遅延・価格交渉などの現実に引っ張られます。つまりPMIは経営者の願望ではなく、現場の制約の影響を受ける指標です。
前提3:相場はPMI単体ではなく、内訳の組み合わせで動く。 「総合PMIが上がった」だけでは弱い。新規受注が牽引したのか、在庫積み上がりで上がったのかで、次の1〜3か月の意味が変わります。
2. ベトナムPMIが“東南アジアの先行指標”になりやすい理由
ベトナムは、アパレル、家具、電子機器(組み立て)、部品加工など、世界需要に直結する製造業が厚い国です。これはPMIの感度を高めます。さらに、ベトナムはASEAN域内の物流・投資フロー(中国+1、サプライチェーン分散)とも連動しているため、ベトナムが先に温度変化を示し、周辺国の景況感が後追いするパターンが起きやすいのです。
もう一つ重要なのは、ベトナムは「外需ショック」と「為替・金利の引き締め」の両方がPMIに反映されやすい点です。米国景気が鈍れば受注が減る。原材料高やドル高が続けば仕入れ価格や納期に歪みが出る。結果としてPMIが“複合ショックのセンサー”になります。
3. 実戦で使うための「PMIの読み方の型」
ここからが本題です。私はPMIを以下の4ステップで読みます。これをルーティン化すると、毎月の指標を売買判断へ落とし込みやすくなります。
ステップA:総合PMIではなく「3点セット」を見る
最低限見るべきは次の3つです。
①新規受注(New Orders):需要の一次情報。ここが弱い上昇は信用しにくい。
②生産(Output/Production):企業が実際に回している量。受注の後追いとして整合性を確認。
③在庫(Finished Goods / Purchases / Stocks):景気後退局面では在庫の増加が“悪い上昇要因”になり得ます。
総合PMIが上がっていても、新規受注が伸びず在庫が積み上がっているなら、それは「売れないのに作っている」危険な状態です。逆に、総合PMIがまだ50未満でも、新規受注が底打ちして上向くなら、相場は先にリスクオンへ傾くことがあります。
ステップB:「前年差」ではなく「前月差」と“勢い”を測る
初心者がやりがちなミスは、PMIの水準だけで強弱を判断することです。実務(という言い方は避けますが、実際の運用)では、私は次の2つの数字を作って勢いを見ます。
・ΔPMI(前月差)= 今月PMI − 先月PMI
・Zスコア風の乖離= 今月PMI − 過去12か月平均PMI
ΔPMIがプラスで、かつ12か月平均を上回り始めたタイミングは、景気の転換点になりやすい。反対に、PMIが高水準でもΔPMIがマイナスに転じ、平均を割り込み始めると、相場の“天井圏のサイン”になります。
ステップC:価格・納期のシグナルを「インフレ」と「供給制約」に分解
PMI内訳のうち、仕入れ価格(Input Prices)と納期(Suppliers’ Delivery Times)は非常に誤読されやすい項目です。納期遅延は景気が強くて詰まっている場合もあれば、物流が止まって詰まっている場合もあります。そこで私は、価格と納期を次のように分解します。
・価格上昇+受注増=需要主導の強さ(利益率は企業次第)
・価格上昇+受注減=コストプッシュ(利益圧迫)
・納期遅延+受注増=供給制約(強気相場でもボラが上がる)
・納期遅延+受注減=混乱(リスクオフ警戒)
特に「価格上昇+受注減」の組み合わせは、利益率悪化→設備投資抑制→雇用悪化という連鎖になりやすく、相場に遅れて悪材料が出てきます。
ステップD:PMIを“単体”で終わらせず、連動する市場を固定する
指標は「見て終わり」にすると意味がありません。私はベトナムPMIに対して、必ず次のどれか(できれば複数)をセットで確認します。
・米国の製造業指標(ISMなど):外需の源泉。
・中国の景況感:域内需要・部品供給の影響。
・半導体・電子部品のサイクル:ベトナムの電子組立と連動しやすい。
・海運・運賃系の指標:輸出物量の温度。
この「連動セット」を固定しておくと、PMIが動いたときに“何が原因か”を推定でき、売買の自信が上がります。
4. 具体例:PMIのパターン別「次の1〜3か月」シナリオ
パターン1:50未満でも新規受注が底打ち(リスクオンの芽)
総合PMIが49台でも、新規受注が2か月連続で改善し、生産が遅れて追随する局面があります。これは在庫調整の最終局面で起きやすい。相場は「最悪が終わる」ことに反応するため、株・クレジットが先に上がり始めます。
実戦の動き方:日本株なら、ベトナムに生産移管している電子部品、FA、産業機械、物流など“回復局面でレバレッジが効く”銘柄群を監視対象にします。ETFならベトナム株ETFやASEAN関連を“分割で”入れて、指標の二番底を待ちながら平均取得単価を整える。FXではベトナムドンは取引しにくいので、リスクオン代理として高金利通貨(例:メキシコペソ等)に飛びつくのではなく、まずはドル指数や米金利が落ち着いているかを条件に置き、ポジションサイズを小さくします。
パターン2:総合PMI上昇だが在庫も増える(“悪い上昇”)
PMIが上がったのに在庫も増えている場合、売れ行きが追い付かず積み上がっている可能性があります。これは企業が「過去の受注を消化しているだけ」で、先行きが弱いことがあります。月次で見ると好材料に見えますが、数か月後に値下げ・利益率悪化として表面化しやすい。
実戦の動き方:この局面では、景気敏感を追いかけるより、ディフェンシブや高キャッシュフロー銘柄に軸足を残す。新興国ETFなら“上昇を追わず、押し目まで待つ”。PMIニュースで急騰した銘柄ほど、短期で過熱しやすいので、逆指値(損切り)を先に決め、追随買いは避けます。
パターン3:受注は強いが納期遅延と価格上昇が同時(供給制約相場)
受注が強いのに納期が遅れ、仕入れ価格も上がる局面は、企業の売上は伸びても利益率が読みにくい。指数は強いのに株価が伸び悩むことがあるのはこのためです。市場は「売上」より「マージン」を気にします。
実戦の動き方:この局面は、部材供給や物流に強い企業(ボトルネックを握る側)に相対的優位が出ます。具体的には、物流・倉庫・港湾、電力インフラ、部材の上流(価格転嫁力がある企業)などです。個別株が難しければ、セクターETFや指数連動で分散し、個別リスクを抑えます。
5. 日本株・ETFに落とし込む:ベトナムPMI起点の“サプライチェーン地図”
ベトナムPMIを投資へ使うとき、最も効くのは「どの企業がベトナムの景気に感応するか」を事前に地図化することです。ここがオリジナリティの出しどころで、毎月のPMIに対して即座にアクションできます。
地図化の方法(初心者向けの具体手順)
手順1:保有銘柄や監視銘柄の有価証券報告書・決算説明資料で「ベトナム」「ASEAN」「東南アジア」の記載を検索し、売上比率または生産拠点の有無をメモします。
手順2:「販売(需要側)」なのか「生産(供給側)」なのかに分けます。販売比率が高い企業は現地消費の影響を受けやすい。生産拠点企業は輸出受注の影響を受けやすい。
手順3:さらに「価格転嫁力があるか(営業利益率の安定性)」を確認します。PMIが強くてもコスト上昇局面では利益が削られます。利益率が安定している企業は、供給制約局面で強いことが多い。
手順4:最後に“相場の反応速度”で分類します。大型で機関が多い銘柄は反応が早い。中小型やニッチは遅れて効いてくる。自分の投資期間(数日〜数か月)に合わせて優先度を決めます。
投資対象の例(考え方の型)
個別銘柄名を固定してしまうと汎用性が落ちるので、ここでは「選び方」を示します。
・電子・半導体周辺:ベトナムの電子組立が強い局面で、部品・製造装置・検査装置が連動しやすい。ただし、世界の半導体サイクル(在庫調整)とセットで見る。
・産業機械・FA:受注回復局面で遅れて効く。PMIが底打ち→数か月後に設備投資が戻るときに強い。
・物流・倉庫・港湾:輸出物量や納期の歪みが出る局面で強い。供給制約相場の“勝ち筋”。
・電力・インフラ:製造業の稼働が上がるとエネルギー需要が増える。現地投資が増える局面で長期テーマになりやすい。
6. FXでの実戦:VNDが難しいなら“代理変数”で戦う
個人投資家がベトナムドン(VND)を直接トレードできる環境は限られます。そこで発想を変えます。PMIから読み取ったリスクオン・オフを、取引しやすい通貨ペアや関連資産へ翻訳します。
代理変数の候補
・米ドル(DXY)と米金利:新興国全般の地合いを左右します。ベトナムPMIが良くてもドル高・米金利上昇なら新興国資産は伸びにくい。
・オフショア人民元(CNH)やアジア通貨バスケット:サプライチェーンの地合いを反映しやすい。
・リスク資産(S&P500、ナスダック):ベトナムの電子系は米ハイテク需要に結びつくため、株式指数も代理変数になる。
・コモディティ(銅など):製造業サイクルと相関が出やすい。ただし短期は金利に負けることもあります。
PMIをFX判断に落とす「条件付きルール」
おすすめは“条件付き”です。例えば次のように組みます。
条件1:ベトナムPMIのΔPMIが2か月連続プラス、かつ新規受注が改善。
条件2:同月に米金利の急騰がない(またはドル高が加速していない)。
条件3:リスク資産が安値更新を止めている(指数が下げ止まり)。
この3条件が揃ったら、短期ならリスクオン寄り、揃わなければ見送り。重要なのは「PMIが良いから買う」ではなく、PMIを“補助エンジン”として使うことです。
7. 指標の罠:ベトナムPMIで初心者が負ける典型パターン
罠1:単月の急改善に飛びつく
PMIはアンケートなので、単月の変化が大きいことがあります。相場は“継続性”を評価します。最低でも2か月、できれば3か月のトレンドで判断するのが安全です。
罠2:祝日・季節性・統計の歪みを無視する
ベトナムにはテト(旧正月)など季節要因があります。稼働日数の変動は受注・生産の回答に影響します。毎年同じ月に偏りやすいので、前年同月の動きと比較して「季節要因で説明できるか」を必ずチェックします。
罠3:PMIと資産価格の“タイムラグ”を無視する
PMIが底打ちしても、株価が先に動くことがあります。逆にPMIが改善してから株価が動くこともあります。これは市場の織り込み度(すでに期待が乗っているか)次第です。したがって、PMIだけでなく、価格の位置(移動平均、出来高、下落トレンドの崩れ)も見てください。
8. 私が使う“オリジナル指標”:PMIを「投資スコア」に変換する
ここで、読者が明日から使えるように、PMIを投資判断に変換する簡易スコアを紹介します。計算は電卓で十分です。
PMI投資スコア(0〜6点)
1点:総合PMIが前月比で改善(ΔPMI>0)
1点:新規受注が改善
1点:生産が改善
1点:在庫が減少または安定(増加が続くなら0点)
1点:仕入れ価格の上昇が鈍化(コスト圧力が緩む)
1点:雇用が改善(景気の自信が戻る)
合計4点以上なら「回復が本物である可能性が高い」、2点以下なら「ノイズまたは悪化の継続」と判断します。もちろん万能ではありませんが、毎月同じフォーマットで判断できるので、感情に流されにくくなります。
9. リスク管理:新興国関連は“正しく当たっても負ける”ことがある
ベトナムPMIが読めても、相場で負けるケースがあります。代表例は次の通りです。
・米金利ショック:新興国の良材料を上書きします。
・地政学や政策リスク:突然のリスクオフで流動性が消えます。
・為替ヘッジ問題:ETFでも為替要因でリターンがブレます。
対策は単純で、ポジションサイズを小さくし、分割で入って分割で出る。さらに、上昇局面でも一部利確を入れて“勝ちを現金化”する。初心者ほど「当てたらフルベット」しがちですが、ここが最も危険です。
10. まとめ:ベトナムPMIは「毎月の小さな優位性」を積み上げる道具
ベトナム製造業PMIは、東南アジアの景気転換を早期に察知し、相場の先回りを狙うための優秀な道具です。ただし、単体で売買トリガーにするのではなく、内訳(受注・生産・在庫・価格・納期)をセットで読み、勢い(前月差)と連動市場(米金利・ドル・中国・半導体・海運)で検証する。この“型”を持つことで、初心者でも再現性が出ます。
最後に実務的ならぬ、実際の手順としては、毎月PMI発表日に「3点セット+勢い+投資スコア」を記録し、相場の反応と照合してください。3〜6か月で自分の判断が改善していくはずです。相場は一発勝負ではなく、観測精度の積み上げです。PMIはそのための“月次のチェックリスト”として機能します。


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