FXは「通貨ペアが違えば分散できる」と思われがちですが、現実は逆です。ドル円(USD/JPY)とユーロ円(EUR/JPY)を同時に持つと、実質的には“円ショート(円を売る)”のレバレッジを増やしているだけ、という場面が頻繁にあります。分散どころか、同じ方向のリスクを重ねている。これを数値であぶり出すのが通貨ペアの相関係数です。
この記事では、投資初心者でも使えるように、相関係数の意味から、計算手順、見方、落とし穴、そして「どう儲けに近づけるか」までを、具体例で徹底的に解説します。結論から言うと、相関係数は“予測”ではありません。ですが損失を減らし、利益を残しやすくするための強力な道具です。FXで一番やってはいけないのは、気づかないうちに同じリスクを重ねて一撃で飛ばすこと。その事故を減らすのが目的です。
- 相関係数とは何か:FXでの意味を一言で言う
- なぜ“通貨ペア分散”は失敗しやすいのか:実質リスクが重複する構造
- 相関係数で“事故”を防ぐ:初心者が最初に得るべきメリット
- 相関の計算に必要な“3つの決め事”
- Excelでできる:相関係数の具体的な計算手順
- 相関の“読み方”を間違えると死ぬ:初心者が踏みがちな罠
- FXでよく使う“相関の型”:代表的な組み合わせ例
- 相関を“儲け”につなげる3つの実務パターン
- 相関とボラを同時に扱う:初心者向け“実効分散”の作り方
- ローリング相関で“今の相場”を掴む:相関は固定ではない
- 相関を使った“具体的な運用ルール”の例
- 相関を使って“逆張りの罠”を避ける:同時に負ける局面を知る
- 相関の限界:これだけで勝てるわけではない
- 初心者が今日からやるチェックリスト
相関係数とは何か:FXでの意味を一言で言う
相関係数(Correlation)は「2つの値がどれくらい同じ方向に動きやすいか」を-1~+1で表します。
- +1に近い:ほぼ同じ方向に動く(同時に上がり、同時に下がる)
- 0付近:関係が薄い(同じ方向に動くとは限らない)
- -1に近い:逆方向に動く(片方が上がると片方が下がりやすい)
ここで重要なのは、FXでは「価格」そのものより、一定期間の変化率(リターン)で相関を見るのが基本という点です。価格同士をそのまま相関計算すると、トレンドの影響で誤解しやすいからです。
なぜ“通貨ペア分散”は失敗しやすいのか:実質リスクが重複する構造
通貨ペアは見た目が違っても、リスク因子(ドライバー)が同じことが多いです。FXの短期~中期の値動きをざっくり分解すると、次の3つが支配的になります。
- 金利差(キャリー):高金利通貨買い・低金利通貨売りの魅力とコスト
- リスクオン/オフ:株が強いと高金利・新興国通貨が買われ、リスクオフで逃避通貨が買われやすい
- 基軸通貨要因:USDが全体を動かす局面(米金利、米景気、ドル需給)
たとえばUSD/JPYとEUR/JPYは、円側が共通です。しかもリスクオン局面では、EURも買われやすく、USDも買われやすい(あるいは円が売られやすい)。結果、両者は似た方向に動くことが多くなり、相関が高くなりやすい。
つまり、通貨ペアを増やすだけでは分散になりません。分散とは「値動きの源泉が違うものを組み合わせる」ことです。源泉が同じなら、銘柄数を増やしても事故の規模が増えるだけです。
相関係数で“事故”を防ぐ:初心者が最初に得るべきメリット
初心者にとって相関係数の最大メリットは、次の2つです。
(1)隠れレバレッジ(重複ポジション)を見抜ける
「複数ポジション=分散」と思っていたものが、実は同じ方向のベットだったと気づけます。
(2)損失の連鎖を減らせる
相関が高いペアを複数持つと、逆行した瞬間に全部が同時にやられます。逆に相関が低い(または負の)組み合わせを入れると、損失の波が平準化され、ロスカット事故が減ります。
相関の計算に必要な“3つの決め事”
相関は条件次第で値が変わります。計算前に以下を決めてください。
1. 期間(何日/何週で見るか)
デイトレ寄りなら「直近20営業日」、スイングなら「直近60~120営業日」、中期なら「半年~1年」といった具合です。期間が短いほど最新の状態を反映しますが、ブレやすい。長いほど安定しますが、相場環境の変化に鈍い。初心者はまず60営業日(約3か月)を基準にすると扱いやすいです。
2. 足(時間足)
日足で見るのが基本です。1時間足など短い足はノイズが増え、スプレッド・指標発表・ロンドンNYの時間帯要因が混ざります。まずは日足で「大枠の相関」を掴み、その後に時間足を短くして確認する順番が安全です。
3. データ(価格ではなくリターン)
一般に使うのは日次リターンです。初心者は次のどちらかでOKです。
- 単純リターン:今日の終値÷昨日の終値 – 1
- 対数リターン:ln(今日の終値/昨日の終値)
どちらでも大勢は変わりません。Excelなら単純リターンが簡単です。
Excelでできる:相関係数の具体的な計算手順
ここでは「USD/JPYとEUR/JPYの相関」を例にします。無料データでも構いません。流れは次の通りです。
手順A:終値データを用意する
日付、USD/JPY終値、EUR/JPY終値を並べます。日付は同じに揃え、欠損がある行は除外します(ここがズレると相関が壊れます)。
手順B:日次リターンを計算する
例:B列がUSD/JPY終値なら、B3に「=B3/B2-1」を入れて下へコピー。EUR/JPYも同様に。最初の行は計算できないので空欄でOKです。
手順C:CORREL関数で相関を出す
リターン列を指定して「=CORREL(USDJPYリターン範囲, EURJPYリターン範囲)」。これで相関が出ます。
次に、3か月(約60営業日)だけで相関を出したい場合、範囲を直近60本だけにします。さらに実務的には「ローリング相関(移動窓)」を作り、相関がどう変化しているかを可視化します。相関は固定値ではなく、相場環境で変わるからです。
相関の“読み方”を間違えると死ぬ:初心者が踏みがちな罠
相関係数を使ううえで、致命的な誤解がいくつかあります。ここは強めに言います。ここを外すと、相関のせいで逆に損します。
罠1:相関が高い=同じ値動き=ヘッジになる(誤り)
相関が高いものを同時に持つのは、基本的にリスクの増幅です。ヘッジは相関がマイナス寄りのものを組み合わせるか、ポジションの方向(ロング/ショート)を調整して作ります。
罠2:相関がマイナス=常に逆に動く(誤り)
相関-0.6でも、同じ方向に動く日も普通にあります。相関は「傾向」であって保証ではありません。特に危機時は相関が一気に+1に寄る(“相関の収束”)ことがある。リスクオフ時に全部同時に崩れるのはこれです。
罠3:価格で相関を取る(危険)
価格同士の相関はトレンドの共有で高く出やすく、誤認を生みます。必ずリターン(変化率)で見る癖を付けてください。
罠4:相関だけ見てボラ(値動きの大きさ)を無視する(危険)
相関が低くても、片方のボラが極端に高いとポートフォリオのリスクを支配します。相関は「方向の似ている度合い」、ボラは「揺れの大きさ」。両方が必要です。
FXでよく使う“相関の型”:代表的な組み合わせ例
ここでは初心者が使いやすい、相関の考え方の型を紹介します。相関の数値は時期で変わるので、ここでは「構造としてそうなりやすい」理由を重視します。
1)円クロス同士:相関が高くなりやすい
例:USD/JPY、EUR/JPY、GBP/JPY、AUD/JPY。円が共通です。円が売られる相場では円クロスが一斉に上がりやすく、相関が高くなりがちです。初心者が「通貨ペアを増やしたのに同時に損する」典型パターンです。
2)ドルストレート同士:USD要因で同方向になりやすい
例:EUR/USD、GBP/USD、AUD/USD。ドル高局面だとこれらは下がりやすく、似た動きになることが多いです。USDが強い日(米金利上昇・米指標強い)に同時に逆行しやすい。
3)資源国通貨:リスクオン・商品市況で束になる
AUD、NZD、CADはリスクオン/オフや商品市況、金利差でまとまりやすい。特にAUD/NZDは相関が強く出やすいペアの代表格です。
4)避難通貨:危機時に相関が“集約”しやすい
JPYとCHFはリスクオフで買われやすいとされますが、局面によって差が出ます。相関を盲信せず、ローリング相関で“いま効いているか”を確認する発想が必要です。
相関を“儲け”につなげる3つの実務パターン
相関は「当てる道具」ではなく「負けにくくする道具」だと言いました。ただ、負けにくくすると、結果として儲けに近づきます。実務的には次の3パターンが王道です。
パターン1:同方向エントリーの“重複”を削る(最も効果が出やすい)
たとえばあなたが「円安トレンド」に乗りたいとして、USD/JPYロング、EUR/JPYロング、GBP/JPYロングを同時に持っているとします。見た目は分散ですが、実質は「円を売る」ベットが重複しています。ここで相関を見て、相関が0.8以上の組み合わせなら、ポジションを絞るか、同時保有するならロットを落とす。
具体例:通常1ロットで取引する人が、3ペア持つなら各0.3ロットにする、といった調整です。すると同じテーマに乗りつつ、逆行時の損失の跳ね上がりが抑えられます。初心者ほどこの効果が大きい。理由はシンプルで、初心者の破綻原因は「読み違い」より「過剰レバレッジ」だからです。
パターン2:相関が低いペアを“意図的に混ぜる”(ポートフォリオのブレを減らす)
相関が低い、つまり別の要因で動きやすいペアを混ぜると、損益の波が平準化されます。これはメンタル面でも効きます。含み損が一気に膨らむと判断が壊れ、損切りできない・ナンピンする・ロットを上げて取り返そうとする、という事故が起きます。波が小さくなれば、ルールを守りやすい。
例として、円クロス中心の運用なら、円以外の要因が強いペア(たとえばEUR/USDなど)を少量混ぜる、あるいは短期のテーマ(指標トレード)と中期のテーマ(キャリー)を混ぜない、などです。相関係数は「混ぜる/混ぜない」の判断材料になります。
パターン3:簡易ヘッジとして“相関が崩れにくい逆相関”を探す(過信は禁物)
例えば、ある期間でUSD/JPYと金(XAU/USD)が逆相関になりやすい局面があります(必ずではありません)。また、AUD/JPYとVIXが逆方向に動きやすい局面もあります。こうした関係は相場のレジーム(環境)で変わりますが、ローリング相関で「いま逆相関が機能しているか」を確認し、ヘッジとして少量入れると、急変時の損失を抑えられることがあります。
ただし、初心者はヘッジを“利益目的”で使うと破綻します。ヘッジは保険であり、保険料を払う行為です。ヘッジで儲けようとすると、両建て地獄に入りやすい。ここは割り切りが必要です。
相関とボラを同時に扱う:初心者向け“実効分散”の作り方
相関だけでは不十分と言いました。ここから一歩だけ進めて、初心者でも扱える「実効分散」の考え方を紹介します。難しい数式は不要です。
考え方:相関が高いならロットを下げ、ボラが高いならロットを下げる
超シンプルに言うと、次の2つを同時にやります。
- 相関が0.7以上のペアは“同じグループ”として扱い、グループ合計ロットを制限する
- ATR(平均的な値動き)が大きいペアは、同じ損失許容額になるようロットを小さくする
例えば、あなたが「1回の損失上限を1万円」と決めたとします。USD/JPYの損切り幅が50pips、GBP/JPYが80pipsだとしたら、同じ1万円リスクにするにはGBP/JPYのロットを小さくします。さらにGBP/JPYとEUR/JPYの相関が高いなら、両方同時に持つ際は合計ロットを制限する。これで“見た目の分散”から“実効分散”に進化します。
ローリング相関で“今の相場”を掴む:相関は固定ではない
相関が固定だと思うと必ず痛い目を見ます。特に、危機時は相関が一気に同方向へ収束しやすい。よって、相関は「直近○日でどう変わっているか」を見ます。
Excelでもできますが、初心者はまず次をやってください。
- 60日相関(基準)
- 20日相関(直近の変化)
この2つを並べます。60日で相関0.2だったのに、直近20日で0.8になっているなら、「最近は動きが束になっている」と判断します。逆に、60日で0.8でも直近20日で0.1なら「相関が崩れている」=分散が効きやすい(あるいは、リスク因子が変わっている)と考えられます。
相関を使った“具体的な運用ルール”の例
ここからが実用です。初心者がそのまま使える形のルール例を提示します。あくまで型なので、あなたのスタイルに合わせて数字は調整してください。
ルール例1:相関フィルター(同時保有の制限)
新規エントリー前に、候補ペアと保有中ペアの20日相関を確認します。
- 相関が0.75以上:同方向の新規は原則禁止。入れるならロットを半分以下。
- 相関が0.40~0.75:ロットを2/3に落として許可。
- 相関が0.40未満:通常ロットで許可。
このルールだけで、初心者の“気づかない過剰レバ”事故が激減します。
ルール例2:グループ制(リスク因子ごとに枠を決める)
通貨ペアを「円クロス」「ドルストレート」「資源国通貨」などに分類し、各グループの合計リスク(損切り想定額)を制限します。例:
- 円クロス:最大2万円
- ドルストレート:最大2万円
- その他:最大1万円
こうすると、たとえ同じ方向に動いても、グループごとに損失上限が効き、口座が壊れにくい。
ルール例3:相関が急上昇したら“守りに入る”
相関が急に上がるのは、市場が単一テーマで動いているサイン(例:米金利ショック、リスクオフ)であることが多い。こういう局面はスプレッド拡大・急変・滑りが起きやすい。よって、次の行動をルール化します。
- 主要ペア間の20日相関が0.8超に増えたら、総リスクを30~50%削減
- 重要指標前は相関が崩れやすいので、新規を控える
相関を使って“逆張りの罠”を避ける:同時に負ける局面を知る
初心者がやりがちなのが「別ペアで逆張りして分散したつもり」パターンです。例えばUSD/JPYが上がっているからショート、同時にEUR/JPYが上がっているからショート、さらにGBP/JPYもショート。実は全部「円高を当てる」一点張りです。円安トレンドが続くと、全滅します。
相関を見ていれば、これが“同じ賭け”だとすぐ分かります。逆張りは当たると気持ちいいですが、トレンドが伸びる局面で口座を壊しやすい。相関は、その事故を減らします。
相関の限界:これだけで勝てるわけではない
相関係数は万能ではありません。限界を理解したうえで使うと、武器になります。
- 相関は原因を教えてくれない:なぜ相関が高いのか(米金利なのか、リスクオフなのか)を別途考える必要がある
- 相関は将来を保証しない:レジームが変わればすぐ変わる
- 危機時に相関が収束する:一番守りたいときに分散が効きにくいことがある
したがって、相関は「ポジションを組むときの安全装置」として使うのが正解です。勝ち筋(エントリー/損切り/利確)は別のロジックで作り、相関は“壊れないための制御”に回す。これが実務的に最も強い使い方です。
初心者が今日からやるチェックリスト
最後に、今日からそのまま実行できるチェックリストを置きます。
- 取引する候補ペアを5~8個に絞る(増やしすぎない)
- 日足終値から日次リターンを作る
- 20日相関と60日相関を出す
- 相関0.75以上の組み合わせは同時に大きく持たない
- ATRや損切り幅でロットを調整し、1回の損失上限を固定する
- 相関が急上昇した局面は“守り”に切り替える
この一連をやるだけで、「なんとなく複数持っていたら全部同時にやられた」という典型的な負け方が減ります。FXは予測よりも、まず生き残る設計が先です。相関係数は、そのための最短ルートです。


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