- 逆イールド「解消」は買いサインではない
- まず押さえるべき用語:どのスプレッドを見るか
- 逆イールドが解消する「3つの型」
- 「解消=景気後退が近い」と言われる理由を分解する
- 実務で使える“判断の三点セット”:金利だけで決めない
- 資産配分の考え方:勝つより“生き残る”設計に切り替える
- 具体的な“切り替えルール”:解消局面で何をどう動かすか
- 初心者でも回せる買い増しルール:下落時の手順を先に決める
- 日本の個人投資家向け:円建て資産と為替の扱い
- ケーススタディ:型A(利下げ解消)での資産配分変更の例
- ケーススタディ:型B(長期金利上昇で解消)での入れ替え例
- 初心者がやりがちな失敗と回避策
- チェックリスト:毎週5分で更新する監視項目
- まとめ:逆イールド解消は“資産配分を切り替える合図”として使う
逆イールド「解消」は買いサインではない
逆イールド(短期金利>長期金利)が起きると、多くの人は「不況の前触れ」と理解します。しかし、投資の実務で本当に危ないのは、逆イールドが解消する瞬間です。なぜなら、解消は「景気が良くなって長期金利が上がる」ケースもありますが、実際によく起きるのは、FRBが利下げに転じて短期金利が急低下し、カーブが急に立つ(スティープ化)するパターンだからです。
このとき市場は一時的に「金融緩和=株にプラス」と反応しがちですが、利下げが必要になる背景は、雇用・企業利益・信用サイクルの劣化です。つまり、逆イールド解消は「危機が終わった」ではなく、「危機が表面化しやすい局面」に変わった可能性が高い、と捉えるのが現実的です。
まず押さえるべき用語:どのスプレッドを見るか
逆イールドの代表的な見方は2つあります。初心者が迷うポイントなので、用途で使い分けます。
(1)2年-10年(2s10s)
マーケットが日常的に話題にする定番です。景気の体感よりも「金融政策の織り込み」を反映しやすく、ニュースや相場の反応もこのスプレッド中心に動きます。短期(2年)は政策金利の見通し、長期(10年)は成長・インフレ・需給の合成です。
(2)3か月-10年(3m10y)
学術研究や当局が重視することが多いスプレッドです。3か月はほぼ政策金利そのものなので、「金融政策が実体経済に与える圧力」をより直球で表します。投資の実践では、2s10sで市場のムードを見て、3m10yで景気の地力を確認するとブレが減ります。
逆イールドが解消する「3つの型」
解消は一つではありません。型を見分けると、資産配分の答えが変わります。ここがこの記事の核心です。
型A:ブル・スティープニング(短期金利が下がって解消)
典型例は「利下げ開始」です。2年や3か月が急低下し、10年はそれほど上がらず、結果としてカーブが立ちます。これは景気後退寄りの解消です。利下げが必要なほど景気が悪化しているため、株は“緩和相場”で一時反発しても、企業利益が追いつかず再び崩れやすい局面になります。
型B:ベア・スティープニング(長期金利が上がって解消)
景気が強く、インフレ再燃や国債需給悪化で10年が上昇し、カーブが立つパターンです。これは景気が底堅い解消になり得ます。ただし、長期金利上昇は株のバリュエーションを圧迫しやすく、グロース株や高PER銘柄には逆風です。株全体が勝てるというより、セクターとスタイルの入れ替えが起きやすい型です。
型C:フラット化→正常化(じわじわ解消)
急激な動きではなく、数か月かけてゆっくり解消するケースです。景気の失速が浅く、信用不安が広がらない場合に起きやすいです。相場のボラティリティは落ち着きやすい一方、上昇トレンドは粘り強くなります。
「解消=景気後退が近い」と言われる理由を分解する
逆イールドは、金融引き締めが効いてくる過程で発生します。企業や家計は借り換えコストが上がり、投資・雇用を絞ります。しかし、その痛みが統計に出るまでタイムラグがあります。そこで、景気が本当に悪くなってくると、中央銀行は利下げに傾き、短期金利が落ち、逆イールドが解消しやすくなります。
つまり逆イールドの発生は「将来の悪化の種」、逆イールドの解消は「悪化が現実になった可能性」を示しやすい、という関係です。ここを理解すると、解消局面でやるべきことは「強気に戻る」ではなく、「負けにくい形に変える」だと腹落ちします。
実務で使える“判断の三点セット”:金利だけで決めない
金利カーブは強力ですが、単独で使うと誤判定が起きます。初心者でも実装しやすいように、私は以下の三点セットを推奨します。
(1)金利カーブ:解消の型(A/B/C)
まず、解消がどの型かを分類します。利下げ期待で2年が先に崩れているなら型A寄りです。10年が主導で上がるなら型B寄りです。
(2)クレジット:ハイイールド・スプレッド
景気後退が本格化すると、企業の資金繰りが厳しくなり、ハイイールド債のスプレッドが拡大しやすくなります。型A(利下げ解消)でもスプレッドが広がらないなら、景気後退の深さは限定的かもしれません。逆に、解消と同時にスプレッドが拡大するなら、「金融緩和なのに信用が壊れている」という危険な組み合わせです。
(3)雇用:失業保険申請・失業率の“方向”
雇用指標は遅行しがちですが、「方向」は強いです。週次の失業保険申請が上向きで定着しているときは、企業が守りに入っています。型Aの解消と重なると、株の下落局面が長引きやすいです。
資産配分の考え方:勝つより“生き残る”設計に切り替える
景気後退局面の資産配分は、平時と評価軸が違います。平時は「期待リターン最大化」ですが、後退局面は「最大ドローダウンの抑制」が最優先です。なぜなら、大きく負けると回復に時間がかかり、次の上昇局面で複利が働かないからです。
コア資産の役割を分ける
初心者は、株・債券・現金・金(または金連動商品)の役割を言語化すると判断が安定します。
株:長期成長のエンジン。ただし後退局面では損失源にもなる。
債券(特に高格付け長期):景気悪化で金利が下がると価格が上がりやすく、株の下落を相殺しやすい。
現金:ボラティリティをゼロにする資産。次の安値局面で買う弾薬。
金:実質金利低下や不安心理で買われやすい保険。ただし局面で振れが大きい。
具体的な“切り替えルール”:解消局面で何をどう動かすか
ここからは、実際に配分を変える手順です。裁量で悩まないよう、できるだけルール化します。なお、比率は一例なので、自分のリスク許容度に合わせて調整してください。
ステップ1:自分の「最大損失許容」を数値化する
まず、1年で耐えられる含み損を決めます。例えば「-15%までなら耐えられる」「-25%は無理」などです。これが曖昧だと、相場が荒れたときに高確率で誤動作します。初心者は保守的に「-10%~-15%」を起点にして構いません。
ステップ2:解消の型で“目標株式比率”を決める
次に、解消の型(A/B/C)で株式比率の上限を変えます。
型A(利下げ主導の解消):株比率を普段の60%→30~40%へ一段落とす。残りは高格付け債券と現金へ。
型B(長期金利上昇で解消):株比率は維持しつつ、グロース偏重を減らし、バリュー・高配当・キャッシュフロー安定へ寄せる。債券は長期より中期中心。
型C(ゆっくり解消):急な変更はせず、段階的にリバランス。現金比率を少し厚くして“押し目対応力”を上げる。
ステップ3:クレジットが悪化しているなら“もう一段守る”
ハイイールド・スプレッドが明確に拡大し、株のボラが上がっているなら、株比率をさらに-10%程度落とす判断が合理的です。ここで重要なのは「当てにいく」のではなく「壊れにくくする」ことです。
ステップ4:現金は“買うために持つ”と決める
現金比率を上げると、上昇局面で取り残される不安が出ます。そこで、現金は「暴落時の買い増し資金」と定義します。定義があると、現金を持つこと自体が“能動的な戦略”になります。
初心者でも回せる買い増しルール:下落時の手順を先に決める
後退局面で利益を出す人は、安値で買える人です。しかし、恐怖が強いと人は買えません。だから、買い増しルールは平時に作り、機械的に執行します。
ルール例:3段階の分割投入
例として、インデックス中心の投資家を想定します。
(1)株指数が直近高値から-10%:現金の1/3で買い増し
(2)-20%:さらに1/3
(3)-30%:残り1/3
このルールの利点は、底値を当てなくてよい点です。欠点は、-10%で反転してしまうと現金が余ることですが、その場合は「余るのが正解」です。守れたということだからです。
クレジットと雇用で“買い増しの強度”を変える
同じ-20%でも、ハイイールド・スプレッドが落ち着き、失業保険申請が頭打ちなら、買い増しを強めても合理的です。逆に、信用が壊れているのに株だけ下がっているなら、買い増しを遅らせる方が生存確率が上がります。
日本の個人投資家向け:円建て資産と為替の扱い
逆イールドは米国の話が中心ですが、日本の投資家は円建てで損益を見ます。ここで実務上のポイントが2つあります。
(1)米景気後退局面は「ドル高→ドル安」になりやすいが、直線ではない
リスクオフ初期はドル高になりやすい一方、利下げが進むとドルが弱くなることがあります。したがって、米株を買うにしても「為替ノーヘッジ一択」ではなく、一部をヘッジするという発想が有効です。特に型Aの解消局面では、金利差縮小が為替に効きやすいので、ヘッジ比率を上げる余地があります。
(2)日本国債ではなく、米国債・ヘッジ付き債券の位置づけを整理する
日本の低金利環境では、国内債券のクッション効果が弱いことがあります。景気後退局面の防御として債券を使うなら、米国債(もしくはそれに近いデュレーションを持つ高格付け債)が役に立ちます。ただし為替リスクが乗るため、目的に応じてヘッジを検討します。「株の保険として債券を持つ」のに、為替で損をすると本末転倒なので、債券側はヘッジ、株側は一部ノーヘッジのように役割分担すると設計が綺麗になります。
ケーススタディ:型A(利下げ解消)での資産配分変更の例
ここでは具体例を作ります。前提は「平時:株60%、債券25%、現金10%、金5%」の投資家です。
観測:2s10sがマイナスからゼロ付近へ急回復、同時に利下げ織り込みが進む
この時点で型Aの可能性が高いです。さらにハイイールド・スプレッドが拡大、失業保険申請が上向きなら“後退本番”のシグナルが揃い始めます。
実行:株を60%→35%へ段階的に落とす
一気に売ると後悔が残るので、2~4週間で分割して調整します。売る対象はまず「高ボラ・高PER・赤字成長」からです。インデックス中心なら、追加投資を止めるだけでも実質的に株比率は下がります。
債券を25%→40%へ
ここは“株の保険”として機能させたいので、高格付け中心、デュレーションはやや長めに寄せます。金利低下の恩恵を取りにいく設計です。
現金を10%→20%へ
現金は買い増しの弾薬です。先ほどの-10/-20/-30ルールをセットで用意します。
金を5%→5~10%へ
実質金利が低下しやすい局面では金が効くことがあります。ただし金は短期でぶれるので、増やしても10%程度までに留め、過信しないのが安全です。
ケーススタディ:型B(長期金利上昇で解消)での入れ替え例
型Bでは「株を減らす」より「株の中身を変える」が効きやすいです。
具体的には、キャッシュフローが強く、価格決定力があり、負債が軽い企業群へ寄せます。インデックス投資家なら、セクターETFや因子(バリュー、高配当、クオリティ)を少量併用し、成長株への一点張りを避けます。
債券は長期金利上昇で価格が下がるリスクがあるため、デュレーションを短めにします。現金は厚めにして、金利上昇局面の株の調整に備えます。
初心者がやりがちな失敗と回避策
失敗1:逆イールド解消を見て、株を全力買いする
解消の型を見ずに「正常化=安心」と判断すると、型Aの局面で大きく巻き込まれます。必ず「短期金利が下がって解消しているのか」を確認してください。
失敗2:ニュースに反応して売買回数が増える
後退局面は情報が多く、売買が増えるほどミスが増えます。だから、配分はルールで決め、実行は分割で淡々と行います。
失敗3:債券を“利回り”だけで選ぶ
景気後退局面の債券は、利回りより「株の下落を相殺できるか」が重要です。高利回り=高リスクの債券(低格付け)は、株と一緒に下がることがあるので、保険になりません。
チェックリスト:毎週5分で更新する監視項目
最後に、初心者でも継続できる監視項目をまとめます。ポイントは「見る項目を固定」することです。
① 2s10s と 3m10y:逆イールドか、解消か、解消の型はどれか。
② ハイイールド・スプレッド:信用が壊れていないか。
③ 失業保険申請(週次):上向きが続いていないか。
④ 株式のボラ(VIXなど):恐怖が拡大していないか。
⑤ 自分の配分:株比率が想定より増えていないか(上昇相場で自然増する)。
まとめ:逆イールド解消は“資産配分を切り替える合図”として使う
逆イールドの議論は「いつ不況が来るか」になりがちですが、投資家に必要なのは予言ではなく、状況に応じた資産配分の切り替えです。解消の型を見分け、クレジットと雇用で裏を取り、株・債券・現金・金の役割を分けて運用すれば、景気後退局面でも致命傷を避けつつ、次の上昇で取り返せる位置に居続けられます。
「当てる」より「壊さない」。この設計思想が、逆イールド解消局面で最も効きます。


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