棚卸資産急増を読む:在庫の積み上がりが示す景気減速と株価の先回り

企業分析

企業の決算を見るとき、売上や利益より先に「棚卸資産(在庫)」を確認すると、相場の変化を一歩早く察知できます。棚卸資産の急増は、企業が先読みして積み上げた供給が需要に追いつかなくなったサインになりやすく、景気減速・値下げ・キャッシュ枯渇の連鎖を引き起こします。

一方で、棚卸資産の増加は必ずしも悪ではありません。新製品立ち上げ、供給制約への備え、物流のリードタイム長期化など、合理的な理由もあります。重要なのは「増えた在庫が、どのくらいの期間で現金に戻るか」「在庫が利益を食い始めているか」を見分けることです。

この記事では、投資初心者でも使えるように、会計の基本から始めて、在庫の危険度を数値化する方法、業種別の見方、そして株価が動く典型パターンまで、具体例を交えて徹底的に解説します。

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  1. 棚卸資産とは何か:初心者が最初に押さえるポイント
  2. なぜ「棚卸資産の急増」が景気減速の警告になるのか
  3. まずはここだけ:在庫の危険度を判断する5つの指標
  4. 1. 売上高成長率と棚卸資産成長率の比較
  5. 2. 在庫回転率(棚卸資産回転率)
  6. 3. 在庫日数(Days Inventory Outstanding:DIO)
  7. 4. 粗利率(売上総利益率)の低下
  8. 5. 営業キャッシュフロー(CFO)と運転資本の増減
  9. 在庫の「質」を見抜く:同じ増加でも危険度が違う
  10. (A)積み上がっているのは原材料か、製品か
  11. (B)期末に在庫を積み上げていないか(期末偏重)
  12. (C)評価損・廃棄損が出ているか
  13. 業種別:棚卸資産の急増が特に危険なケース
  14. 小売(アパレル・家電):値引きで粗利が崩れやすい
  15. 自動車・耐久財:チャネル在庫が膨らむと生産調整が遅れる
  16. 半導体・電子部品:需要のピークアウトから在庫調整は長引く
  17. 投資判断に落とす:在庫急増局面での典型的な株価パターン
  18. 底打ちを見極める3つのチェック:在庫がピークアウトしたサイン
  19. 1. 在庫成長率が鈍化し、売上成長率との差が縮む
  20. 2. 粗利率が下げ止まり、販促費の増加が止まる
  21. 3. 営業CFが改善し、在庫増減がプラス(減少)に転じる
  22. 実践:初心者でもできる「在庫警戒スクリーニング」手順
  23. 手順1:直近3四半期の棚卸資産の前年比をメモする
  24. 手順2:同じ期間の売上高前年比を並べる
  25. 手順3:粗利率の推移を見る(前年同期比)
  26. 手順4:営業CFの悪化要因を確認する
  27. 手順5:同業比較で「一社だけ悪い」のか「業界全体」なのかを判定する
  28. ケーススタディ:同じ「在庫増」でも意味が違う2社の例(イメージ)
  29. 投資家向けの「一段深い」論点:在庫は景気指標にもなる
  30. 在庫局面での資産配分アイデア:初心者が無理なく守る方法
  31. 最後に:棚卸資産は“将来の利益”を映す鏡

棚卸資産とは何か:初心者が最初に押さえるポイント

棚卸資産は、企業が販売目的で保有している資産です。製造業なら原材料・仕掛品・製品、流通業なら商品、建設業なら未成工事支出金に近い性格のものが含まれます。ポイントは、棚卸資産は「将来売れて現金になる予定のもの」だということです。

つまり、棚卸資産が増えるとは、現金が在庫に形を変えて倉庫に眠っている状態になりやすいということです。これ自体が悪いわけではありませんが、需要が鈍ると在庫は現金に戻らず、値下げ・廃棄・評価損で利益が壊れます。

決算書では、棚卸資産は貸借対照表(BS)に出ます。増減の背景は、損益計算書(PL)だけでは読み切れないため、キャッシュフロー計算書(CF)までセットで確認するのが基本です。

なぜ「棚卸資産の急増」が景気減速の警告になるのか

企業は通常、売れ行き(受注や来店、出荷)を見ながら生産や仕入れを調整します。ところが景気の転換点では、次のようなズレが生まれます。

(1)需要が急に鈍る:消費者が支出を抑える、企業が投資を延期する、在庫を減らす(デスティッキング)など。

(2)供給はすぐには止められない:工場稼働、部材調達、物流契約などは一気に減らせない。結果、作った分・仕入れた分が在庫に積み上がります。

(3)在庫処分が始まる:値引き販売、販促費増加、返品増、製品ミックス悪化が起き、粗利率が下がります。

(4)現金が減る:在庫増は運転資金の吸収です。CFが悪化し、借入コストも上がると、増資やリストラに追い込まれることもあります。

この連鎖が典型的に起きるのが、景気後退の入口や、業界サイクルの天井です。株価は「利益が落ちる前」に、在庫を見て先回りで反応しがちです。

まずはここだけ:在庫の危険度を判断する5つの指標

1. 売上高成長率と棚卸資産成長率の比較

最初に見るのは単純です。棚卸資産の伸びが売上の伸びを継続的に上回っていないかを確認します。

例:売上が前年同期比+3%なのに、棚卸資産が+25%なら要注意です。需要が伸びていないのに在庫だけ積み上がっている可能性が高いからです。

ここで重要なのは「1四半期だけ」で結論を出さないことです。季節要因で在庫が増える業種もあります。最低でも2〜3四半期の推移で、売上と在庫のズレが拡大しているかを見ます。

2. 在庫回転率(棚卸資産回転率)

在庫回転率は、一定期間に在庫が何回入れ替わったかを示します。一般的な近似として、

在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均棚卸資産

平均棚卸資産は、期首と期末の平均を使うのが基本です。回転率が下がるほど、在庫が滞留していることを意味します。

初心者が陥りやすいミスは、売上で割ってしまうことです。在庫は売上原価(COGS)とつながっているので、売上原価で見る方が筋が通ります。企業が開示している場合は、IR資料の「在庫回転日数」でも構いません。

3. 在庫日数(Days Inventory Outstanding:DIO)

より直感的なのが在庫日数です。

在庫日数 = 365 ÷ 在庫回転率

在庫日数が例えば45日から70日に伸びているなら、「売れるまでの滞留期間が伸びた」ことになります。需要鈍化が進むとこの指標が先に悪化しやすいです。

業種によって正常値は違います。スーパーやドラッグストアは短い一方、重工や建機は長くなります。だからこそ、同業他社比較が効きます。

4. 粗利率(売上総利益率)の低下

在庫が積み上がると、処分のために値引きをします。すると粗利率が下がります。粗利率の低下は、在庫問題が「PLに波及し始めた」サインです。

ここで見るべきは、単なる円安・原材料高ではなく、値引きによるミックス悪化が起きていないかです。例えば、売上は横ばいなのに粗利率だけがガクッと落ちるとき、販売促進や値引きで在庫を吐き出している可能性があります。

5. 営業キャッシュフロー(CFO)と運転資本の増減

棚卸資産の増加は、キャッシュフローでは「運転資本の増加」として現れ、営業CFを押し下げます。利益が出ているのに現金が増えない会社は、在庫が原因のことが多いです。

具体的には、CF計算書の注記で「棚卸資産の増減額」を確認し、営業CFが在庫増でどれだけ削られているかを見ます。たとえ営業利益が増えていても、在庫増で営業CFがマイナスなら、資金繰りリスクは上がります。

在庫の「質」を見抜く:同じ増加でも危険度が違う

棚卸資産が増えたとき、投資家が本当に知りたいのは「それが売れる在庫か、腐る在庫か」です。ここは数字だけでは限界があるので、注記やIR資料で補強します。

(A)積み上がっているのは原材料か、製品か

製造業では、原材料の増加は「先に買っておいた」だけの場合があります。価格上昇を見込んで在庫を厚くすることもあります。一方、製品在庫の急増は「売れ残り」の確率が高く、値引き・評価損につながりやすいです。

決算短信や有価証券報告書で内訳が開示される場合は、どこが膨らんだかを確認します。もし内訳がなくても、説明文で「需要減」「在庫調整」「販売の遅れ」といったワードが出ていないかを探します。

(B)期末に在庫を積み上げていないか(期末偏重)

四半期決算の特徴として、期末に在庫が急増する会社があります。これは生産計画の問題だけでなく、出荷の遅れ(検収待ち)や、販社への押し込み(チャネル在庫)も疑うべきです。

ここで重要なのが「売掛金」とのセット確認です。売掛金も同時に増えているなら、チャネルに押し込んだ結果、回収が遅れている可能性があります。在庫+売掛金が同時に増えるのは、景気減速局面では危険な形です。

(C)評価損・廃棄損が出ているか

棚卸資産が売れなくなると、会計上は「棚卸資産評価損」などで費用計上されます。ただし評価損は、企業が「いつ認識するか」でタイミングが変わります。表面上はまだ出ていなくても、在庫日数が伸びて粗利率が落ちているなら、後追いで評価損が出るリスクがあります。

初心者が実務で使いやすい観点は、粗利率の低下→評価損の順番を意識することです。粗利率が先に崩れているなら、在庫問題はすでに始まっています。

業種別:棚卸資産の急増が特に危険なケース

小売(アパレル・家電):値引きで粗利が崩れやすい

小売は商品の陳腐化が早いので、在庫が積み上がると値引きで一気に粗利が崩れます。特にアパレルは季節要因が強く、売り逃すと翌期には価値が下がります。

具体例として、暖冬で冬物が売れない、夏が短くて季節商材が余る、などが起きます。このとき、在庫は「現金化できる額」で見る必要があります。期末在庫が増えても、値引きで売れば粗利が消え、キャッシュは戻っても利益は残りません。

自動車・耐久財:チャネル在庫が膨らむと生産調整が遅れる

耐久財は販売店やディーラーというチャネルを挟みます。メーカーの在庫だけでなく、チャネル在庫が増えると、最終需要が鈍っているのに出荷だけが続く状態になります。

ここで重要なのが、メーカーが「生産調整」を始めるタイミングです。生産調整が遅れると、部品メーカーも巻き込んで在庫が連鎖的に積み上がり、サプライチェーン全体で利益が崩れます。株価は、この連鎖を嫌って、最初の在庫増で下落しやすいです。

半導体・電子部品:需要のピークアウトから在庫調整は長引く

景気循環の中でも、半導体・電子部品は在庫調整が長引きやすい典型です。顧客側(完成品メーカー)が在庫を減らすと、部材発注が止まり、サプライヤーの在庫が積み上がります。

初心者向けに言うと、これは「注文が減った分だけ売上が減る」のではなく、注文がゼロに近づく期間が発生することがある、という点が怖いところです。最終需要が少し減っただけでも、サプライチェーンのどこかで在庫を吐き出すまで発注が止まり、業績が急降下します。

投資判断に落とす:在庫急増局面での典型的な株価パターン

在庫は、業績より先に悪化し、株価は業績より先に動きます。よくある流れは次の3段階です。

第1段階:在庫増が発見される(決算でBSが悪い、CFOが悪い)→株価がまず下がる。

第2段階:粗利率・利益が悪化する(値引き、販促費増、稼働率低下)→下方修正が出やすく、もう一段下がる。

第3段階:在庫調整が進み「底」が見える(在庫日数がピークアウト、受注が戻る)→業績が底でも株価が先に戻る。

投資家としてのポイントは、第1〜2段階で「安いから」と飛びつかないことです。在庫問題は時間がかかります。逆に、第3段階を見極められると、景気循環銘柄で優位性が出ます。

底打ちを見極める3つのチェック:在庫がピークアウトしたサイン

1. 在庫成長率が鈍化し、売上成長率との差が縮む

在庫がまだ増えていても、増え方が鈍化し、売上との差が縮み始めたら「最悪期が近い」可能性が出ます。重要なのは、在庫の絶対額より、増減の方向性です。

2. 粗利率が下げ止まり、販促費の増加が止まる

値引きで粗利を犠牲にし続けると、どこかで限界が来ます。粗利率が下げ止まるのは、在庫処分が一巡した可能性があるサインです。販促費が急増していた企業なら、その伸びが止まるかも合わせて見ます。

3. 営業CFが改善し、在庫増減がプラス(減少)に転じる

キャッシュフローで在庫が減少に転じるのは強いシグナルです。在庫が減れば現金が戻り、資金繰りが改善します。景気循環銘柄では、CFの改善が株価の底打ちと重なりやすいです。

実践:初心者でもできる「在庫警戒スクリーニング」手順

ここからは、実際に銘柄を探す・避けるための手順を示します。難しい数式は不要です。

手順1:直近3四半期の棚卸資産の前年比をメモする

決算短信のBSで棚卸資産を拾い、前年同期と比べます。四半期ごとに+何%かを書き出します。

手順2:同じ期間の売上高前年比を並べる

売上の伸びと在庫の伸びを並べ、ズレが拡大しているか見ます。ズレが広がるほど危険です。

手順3:粗利率の推移を見る(前年同期比)

粗利率が落ち始めたら「在庫がPLを壊し始めた」可能性があります。逆に粗利率が維持されているなら、在庫増の理由が合理的なこともあります。

手順4:営業CFの悪化要因を確認する

CFの注記で棚卸資産の増減が営業CFをどれだけ押し下げているか確認します。利益は黒字でも営業CFが悪い会社は、短期的に評価が下がりやすいです。

手順5:同業比較で「一社だけ悪い」のか「業界全体」なのかを判定する

個別要因なら、その会社の製品力・チャネル政策・需給読みのミスが疑われます。業界全体なら、サイクルの問題であり、底打ちのタイミングを狙う発想も出てきます。

ケーススタディ:同じ「在庫増」でも意味が違う2社の例(イメージ)

具体例として、家電系のA社とB社を想像してみます。

A社:売上+2%、棚卸資産+30%、粗利率が前年差−3pt、営業CFが在庫増で大幅悪化。これは典型的な「売れ残り→値引き→利益悪化」の入り口です。株価は下方修正前に下げやすいです。

B社:売上+15%、棚卸資産+18%、粗利率は横ばい、営業CFも黒字維持。新製品立ち上げで需要が伸びており、在庫も販売計画と整合的です。増加率だけで判断すると誤判定します。

この差は、売上との整合性・粗利率・CFの3点セットでほぼ見抜けます。

投資家向けの「一段深い」論点:在庫は景気指標にもなる

棚卸資産の積み上がりは、個別銘柄だけでなく、景気全体の転換点を示唆することがあります。企業が在庫を積み増す局面は、需要が強い(または強いと信じている)局面です。逆に在庫を削る局面は、需要が弱い(または慎重)局面です。

もし複数業種で同時に在庫日数が悪化しているなら、景気の減速が広がっている可能性があります。一方、特定業種だけなら、業界サイクルの天井かもしれません。株式市場では、後者の方が「セクター入れ替え」でチャンスが生まれます。

在庫局面での資産配分アイデア:初心者が無理なく守る方法

在庫調整局面は、利益の見通しが崩れやすく、株価のボラティリティが上がります。初心者が取り得る現実的な行動は、次のようなものです。

(1)景気敏感の比率を下げる:在庫が膨らみやすい業種(耐久財、素材、半導体など)の比率を抑え、ディフェンシブを厚めにする。

(2)同業内で「在庫が健全な企業」に寄せる:同じ業界でも在庫管理が上手い企業は傷が浅く、回復も早いことがあります。

(3)底打ちシグナルが出るまで待つ:在庫日数のピークアウト、粗利率の下げ止まり、営業CFの改善が見えたら段階的に戻す。

「当てにいく」より「致命傷を避ける」ことが、初心者の成績を底上げします。

最後に:棚卸資産は“将来の利益”を映す鏡

棚卸資産は、過去の売上ではなく、将来の売上と利益に直結します。在庫が積み上がっている企業は、「売れる前提」で意思決定をしている状態です。その前提が崩れた瞬間、値引き・評価損・稼働率低下が一気に出ます。

投資家にできることは、在庫を単なる数字として眺めるのではなく、売上・粗利・CFとつなげて「現金に戻る道筋」を評価することです。これができると、景気の天井・底をより現実的に捉えられ、相場での負けを減らせます。

次の決算から、ぜひ「棚卸資産→在庫日数→粗利率→営業CF」の順でチェックしてみてください。見える景色が変わります。

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