半導体製造装置の受注推移で読む“半年先”の景気と株価サイクル

株式投資

半導体株は「ニュースで動く」ように見えますが、実際は多くの局面で“設備投資サイクル”に支配されます。設備投資サイクルを最も早く映すのが、半導体製造装置(前工程・後工程・検査)の受注推移です。受注は、メーカーが「これから工場を建てる/ラインを増やす」と決めた瞬間に立ち上がるため、出来上がったチップの出荷や売上よりも早い段階で動きます。つまり、受注はデバイス需要の半年先(ことによってはそれ以上)を先読みする“温度計”になります。

この記事では、初心者でも迷わないように、受注データの集め方、読み方、誤読しやすい落とし穴、そして具体的にどんな手順でトレード/投資判断の材料へ落とすかを、実務的に解説します。一般論で終わらせず、実際に「この数値がこう動いたら、次に何を確認するか」というチェックリスト型の思考フローまで落とし込みます。

スポンサーリンク
【DMM FX】入金

なぜ「受注」が半年先を映すのか:装置→工場→チップ→製品の時間差

半導体は、需要が増えたからすぐ増産できる産業ではありません。工場(ファブ)を増やし、装置を入れ、プロセスを立ち上げ、歩留まりを上げて量産に到達するまで時間がかかります。したがって、需要が見え始めた段階で企業は「先回りで設備投資」をします。ここに時間差が生まれます。

ざっくりしたイメージは以下です。

需要の兆し(AIサーバー増勢、スマホ回復など)→ ファウンドリ/IDMの投資判断 → 装置メーカーに発注(受注増)→ 装置納入(売上計上)→ ウェハ投入増 → チップ出荷増 → 製品売上増

この流れのうち、株式市場は「一番早い変化」を取りに行きます。だからこそ、受注が動いた時点で装置株が先に上がり、次にデバイス、さらに下流の完成品メーカーへと波及しやすい構造になります。

受注データはどこで見られるか:三つの入手ルート

受注推移を見る方法は、難しそうで意外とシンプルです。情報源は大きく三つに整理できます。

1)業界団体データ
代表例として、半導体製造装置の販売(billings)や受注(bookings)を公表する団体があります。月次で推移を追えることが多く、景気循環の把握に向きます。ポイントは「季節性調整の有無」「3カ月移動平均」など、同じルールで継続的に追える形を選ぶことです。

2)装置メーカーの決算資料
決算説明資料には、受注高、受注残(バックログ)、出荷高、地域別・用途別の内訳が載ることがあります。ASML、Applied Materials、Lam Research、KLA、東京エレクトロン、アドバンテストなど、企業ごとに開示粒度が異なりますが、受注残の増減は強力な先行指標です。

3)ファウンドリ/メモリメーカーのCAPEXガイダンス
TSMCやSamsung、Intel、Micron、SK hynix等の設備投資計画(CAPEX)は、受注の「上流の意思決定」を示します。装置受注がまだ出ていない時点でも、CAPEXの上方修正は“次の受注増”の予告になることがあります。

初心者が最初にやるべきは、この三つを同時に追うのではなく、まず1つを定点観測することです。おすすめは「装置メーカーの受注残(バックログ)+売上のガイダンス」です。受注残が積み上がっているのに売上が伸びない場合、納期制約や部材不足が疑われ、株価の反応が変わるからです。

まず覚えるべき3指標:Bookings / Billings / Backlog

装置受注の話が難しく感じるのは、似た言葉が多いからです。最初は次の3つだけ押さえれば十分です。

Bookings(受注):新規に取った注文。先行性が高い。
Billings(売上・出荷):納入して売上計上された金額。受注より遅行。
Backlog(受注残):受注はあるが未納入の残高。需要の“積み上がり”を示す。

ここで実戦的に重要なのは、数字そのものより3つの整合性です。例えば、受注が減っているのに受注残が増えているなら、納入が遅れている(=供給制約)可能性があります。逆に受注が増えているのに受注残が減るなら、納入が一気に進み短期売上が強いものの、将来の積み上がりが薄い可能性が出ます。相場はこの“歪み”に敏感です。

読み方の核心:サイクルを「4象限」で分類する

受注推移を投資判断へ落とすとき、最も便利なのが「受注(Bookings)と出荷(Billings)」を組み合わせた4象限の考え方です。これを頭に入れるだけで、ニュースに振り回されにくくなります。

第1象限:受注↑ 出荷↑(拡張局面)
工場増設が進み、納入も増えている状態。装置株が強く、デバイス株にも追い風になりやすい。初心者が最も分かりやすく“順張り”しやすい局面です。

第2象限:受注↓ 出荷↑(ピークアウト)
過去に取った受注残を消化して売上は強いが、新規受注が鈍っている状態。決算は良いのに株価が伸びない、あるいは天井を付けやすい。ここで「好決算=買い」と短絡すると置いていかれます。

第3象限:受注↓ 出荷↓(調整局面)
在庫調整・投資凍結が進み、装置もデバイスも厳しい。ここは“我慢”の時間ですが、次の転換点を探す準備局面でもあります。株価は、統計の底より先に反転しやすい点が重要です。

第4象限:受注↑ 出荷↓(立ち上がり)
新規受注が戻り始めたが、納入・売上はまだ弱い状態。相場が一番儲かりやすいのは実はここです。なぜなら「業績がまだ悪い」ために、投資家のポジションが軽く、改善が見えた瞬間のリレーティングが起きやすいからです。

この4象限で自分の見ている銘柄群がどこにいるかを把握し、次に何が起きやすいかを“シナリオ化”します。これが受注データ活用の骨格です。

具体例:メモリとロジックで受注の意味が変わる

半導体と一口に言っても、受注の性格は「メモリ(DRAM/NAND)」と「ロジック(CPU/GPU/AI/車載SoC等)」で大きく異なります。ここを混同すると、受注増を見ても外します。

メモリ系の特徴
メモリはコモディティ色が強く、需給が価格に直結します。価格が上がり始めると投資が一気に走り、装置受注が急増し、その後の供給過剰で急減速する“振れ幅の大きいサイクル”になりがちです。したがって、メモリ向け比率が高い装置メーカー(例:成膜、エッチング、洗浄、検査などの一部)では、受注が増えたときに「どの用途が牽引しているか」を必ず確認します。メモリ主導ならピークアウトも早いからです。

ロジック/ファウンドリ系の特徴
ロジックはプロセスが複雑で、先端ノード(例:EUV関連)になるほど装置の独占性・寡占性が高まります。この領域では、受注が増えたときに「価格競争」より「供給制約(納期)」が株価を左右しやすく、受注残が積み上がることがポジティブに働く場合があります。

初心者が実践するなら、まずは「今の受注増はメモリなのか、ロジックなのか」を分解する習慣をつけるべきです。分解できない場合は、代替として主要顧客のCAPEX(TSMCが増やしているのか、メモリ勢が増やしているのか)を見ます。これだけで“サイクルの持続性”の見立てが変わります。

「半年先」を読むための実務フロー:5ステップ

ここからが実戦です。受注データを見たら、次の順で処理します。これをテンプレ化すると、相場のノイズが減ります。

ステップ1:受注の方向を確認(前年差/前期比)
月次なら前年比、四半期なら前年同期比・前四半期比の両方を見ます。前年比だけだとベース効果で誤解します。前四半期比が加速しているかが重要です。

ステップ2:受注の“質”を確認(用途・地域・顧客)
可能なら、AIサーバー、スマホ、車載、産業など用途別を確認します。地域別(米国/台湾/韓国/中国など)も重要です。中国向けは規制や在庫積み増しで歪みが出やすいからです。

ステップ3:受注残(バックログ)と納期を確認
受注が増えているのに受注残が減るなら「出荷が進み、短期業績は強いが先行きは薄い」可能性。受注が減っているのに受注残が増えるなら「供給制約で積み上がっている」可能性。納期の変化(短縮/長期化)もヒントになります。

ステップ4:下流の在庫指標で裏取り
装置受注だけで飛びつかず、半導体在庫日数、在庫回転、デバイスASP(平均販売価格)、メモリ価格指数などで裏取りします。受注が増えても在庫が増え続けているなら、投資が早すぎる(=過剰投資)可能性があるためです。

ステップ5:株価の位置を確認(先に織り込んでいないか)
受注が良くても、株価がすでに高値圏なら反応は鈍い。逆に業績が悪く株価が低い局面で受注が底打つと、リレーティングの余地が大きい。ここを無視すると、正しい分析でも利益になりません。

受注推移から「銘柄群ローテーション」を設計する

受注は単に装置株を選ぶためだけのデータではありません。受注サイクルを起点に、どの順番で資金が流れやすいか(ローテーション)を設計できます。初心者でも扱いやすい形に落とすと、以下のような順番になりがちです。

1)装置(特に先端装置)→ 2)検査・計測 → 3)半導体材料 → 4)デバイス(メモリ/ロジック)→ 5)下流の電子部品・完成品

理由はシンプルで、最も早く受注が立つのが装置、次に品質保証の検査・計測が増え、ラインが動き始めると材料が伸び、最後にデバイス売上として顕在化するからです。もちろん例外はありますが、この“順番”を意識すると、いま買うべきはどこかが整理されます。

例えば、受注が増え始めた初期(第4象限)では装置・検査が先行しやすく、デバイスはまだ業績が悪いことが多い。逆に拡張局面の後半(第2象限)では、装置の新規受注が鈍り、デバイスの利益率がピークに近づく一方で、株価は装置からデバイスへ移りやすい、という“入れ替え”が起こります。

落とし穴1:受注急増は「良いニュース」とは限らない

受注が急増したからといって、必ずしも強気でよいわけではありません。典型的な落とし穴を二つ挙げます。

(A)前倒し発注(パニック買い)
供給制約があると顧客が発注を前倒しします。この場合、受注は一時的に膨らみますが、実需が伴わないため後で反動が来ます。納期が極端に長期化している時期の受注急増は、この可能性を疑います。

(B)規制・地政学による駆け込み
輸出規制や認可制が強まる局面では、対象地域で“駆け込み発注”が起きます。データ上は受注が強く見えますが、持続性は別問題です。地域別比率が大きく変化しているときは、素直に景気回復と解釈しないことが大切です。

落とし穴2:装置メーカーの“会計の癖”を知らないとズレる

同じ「受注」と言っても、企業によって開示の定義が違う場合があります。例えば、受注を“確定注文”として厳密に扱う会社もあれば、キャンセル可能性のある予約的な契約を含める会社もあります。また、長納期装置は契約時点と売上計上の差が大きい。初心者はまず「同一企業内での推移」を重視し、企業間比較は慎重に行うのが安全です。

実務的には、受注→受注残→売上のつながりが企業の過去データで一貫しているかを見ます。つながりが弱い企業は、受注よりも売上ガイダンスや粗利の見通しを重視した方がよい場合があります。

“半年先”の精度を上げる補助指標:初心者でも追える3つ

受注データ単体は強力ですが、精度を上げるための補助指標を組み合わせると、誤判定が減ります。初心者でも追いやすい3つに絞ります。

1)半導体在庫日数(Days of Inventory)
在庫日数が増え続ける局面で受注が増えると、過剰投資の可能性がある。逆に在庫日数がピークアウトし始めたタイミングで受注が底打つと、転換点のシグナルになりやすい。

2)メモリ価格(スポット/契約)
メモリ主導のサイクルでは価格が先に動き、装置受注が追随します。価格が反転していないのに装置受注だけが強いときは“前倒し”を疑います。

3)主要顧客のCAPEXガイダンス
顧客がCAPEXを上げる→装置受注増の順が基本です。逆に顧客がCAPEXを下げたのに装置受注が強い場合、短期的な特殊要因の可能性があります。

投資アイデアの作り方:ニュースではなく「仮説」を立てる

受注推移を使う目的は、ニュースを追うことではなく、仮説を立て、検証し、ポジションを調整することです。初心者が実践しやすい仮説の型を提示します。

仮説A:受注が底打ち→装置株のリレーティングが先行する
条件:受注の前期比がプラスへ、在庫日数が横ばい~減少へ、株価は安値圏。
行動:装置・検査の相対強度(指数対比)を観察し、押し目で分散して入る。急騰で飛びつかない。

仮説B:受注ピークアウト→“好決算でも売られる”局面が来る
条件:出荷は強いが受注が鈍化、受注残が減少へ、株価は高値圏。
行動:装置株の比率を落とし、デバイスや下流へのローテーション、あるいはキャッシュ比率を上げる。材料が悪化するまで粘らない。

大事なのは、仮説を文章にしておき、毎月/毎四半期のデータで“当たり外れ”を検証することです。これができると、相場が荒れても判断がブレにくくなります。

初心者のためのチェックリスト:1枚で回せる「受注観測」テンプレ

最後に、実際に使える形にまとめます。以下を自分のメモに貼り付け、月1回の更新で十分です。

(1)受注(Bookings)は前年差・前期比で加速しているか?
加速していないなら、回復はまだ弱い可能性。

(2)受注の中身は何が牽引か?(メモリ/ロジック、AI/スマホ/車載)
メモリ主導ならサイクルは短くなりやすい。先端ロジック主導なら持続性が出やすい。

(3)受注残(Backlog)は増えているか、納期はどうか?
受注残増+納期長期化は供給制約の可能性。受注残減は将来の薄さ。

(4)在庫日数はピークアウトしたか?
在庫が減り始めたら回復局面の裏付け。

(5)株価はどこまで織り込んだか?
高値圏なら良いデータでも反応は限定的。安値圏なら小さな改善でも大きく動く。

この5項目で、半導体の“半年先”をかなりの精度で捉えられます。重要なのは、完璧な予測ではなく、判断の再現性です。受注推移は、毎回同じ手順で観測できるため、初心者でも武器になります。

まとめ:受注は「相場の先頭」を歩くデータ

半導体は変動が大きい分、先行指標を掴めれば優位性が出やすい市場です。受注推移は、その中でも特に早い段階で変化を示します。ポイントは、受注を単発のニュースとして扱うのではなく、Bookings・Billings・Backlogの整合性、用途分解、在庫指標の裏取り、株価の織り込み度という“型”で処理することです。

この型を身につければ、次に何を見ればよいかが明確になり、半導体相場の急変にも対応しやすくなります。まずは、自分が追う装置メーカーを1社決め、四半期ごとに受注・受注残・ガイダンスを記録するところから始めてください。それだけで、半年先を読む感覚が身につきます。

コメント

タイトルとURLをコピーしました