グリーン水素の社会実装で起きる「インフラ相場」を読み解く:製造・輸送・需要家の勝ち筋

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はじめに:グリーン水素は「技術」ではなく「インフラ投資テーマ」

グリーン水素は、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解して得る水素です。報道では「次世代エネルギー」「脱炭素の切り札」といった言い回しが多い一方、投資家の収益機会はもっと生々しい場所にあります。ポイントは、グリーン水素が普及するほど“発電・送電”と同じく、設備(CAPEX)と運用(OPEX)の塊=インフラ産業になることです。

インフラ産業には独特の値動きの癖があります。①政策・補助金・規制が起点になり、②計画→実証→商用→増設という段階ごとに「受注→建設→保守」へ利益の源泉が移り、③需給(部材不足・建設能力不足)が株価を押し上げ、④最後は過剰投資と価格競争で調整が入る。このサイクルを理解できるかどうかで、同じテーマでもリターンが変わります。

まず押さえる基礎:水素は「貯められる電気」だが、コストは“工程の足し算”

水素の投資議論は、しばしば「燃料電池が来る」「水素ステーションが増える」といった“出口”の話に偏りがちです。しかし株価を動かすのは、工程全体のコスト構造と、どこで利益が取れるかです。水素は輸送・貯蔵が難しく、工程が増えるほどコストが乗ります。投資家は「何がボトルネックで、誰がそのボトルネックを解消して利益を取るか」を追うべきです。

工程は大きく、(1)電力調達(再エネ・原発・系統)、(2)電解装置(電解槽)での製造、(3)圧縮・液化・化学キャリア化(アンモニア等)、(4)輸送(パイプライン・船・トレーラー)、(5)受入基地・貯蔵、(6)需要家での利用(発電、製鉄、化学、モビリティ)に分かれます。ここで重要なのは、どこか1つでも詰まると、全体が進まないことです。つまり「水素の未来」を語るより、詰まりそうな工程の供給能力や規格化の進み具合を見たほうが、投資では当たりやすい。

投資家が見るべき“3つの市場”:設備投資、運用収益、証書・クレジット

グリーン水素の社会実装は、投資対象としては大きく3市場に分解できます。

(A)設備投資(CAPEX)市場:電解装置、再エネ発電、受入基地、配管、圧縮機、タンク、液化設備、港湾設備、計装・制御、耐圧弁・配管材など。ここは「受注ニュース」と「建設工程」が株価を動かしやすい典型的な資本財相場です。

(B)運用収益(OPEX)市場:保守契約、触媒交換、膜・電極交換、稼働監視、エネルギーマネジメント、ガス供給契約、物流の長期契約など。商用フェーズに入るほど、ストック型の収益モデルが評価されます。

(C)証書・クレジット市場:グリーン水素の「由来」を証明する仕組み(原産地証明、クレジット、LCA認証等)が整備されると、証書を巡る市場が生まれます。ここは制度次第で立ち上がりが早い一方、ルール変更リスクも高い。投資では“制度の確度”を最優先に置きます。

初心者がやりがちな失敗は、(A)だけを見て「受注が出た=ずっと伸びる」と信じ込むことです。(A)は景気循環と競争が激しく、利益率が上下します。中長期の複利は(B)に宿りやすい。どの企業が(A)から(B)へ移行できるか、あるいは最初から(B)を握れるかが重要です。

本命は「電解装置」だが、投資妙味は“周辺部材”に出やすい

電解装置(電解槽)は水素製造の心臓部です。方式としては、アルカリ、PEM(固体高分子)、SOEC(高温)、AEMなどが議論されます。方式の優劣は用途や稼働パターンで変わるため、投資家は「勝者総取り」を想定しないほうがよいです。むしろ現実は複数方式が併存し、規格・安全基準・保守網を握ったプレイヤーが強くなる可能性があります。

ここで“株価の歪み”が出やすいのは、電解槽そのものより、周辺部材です。理由は2つあります。第一に、周辺部材は既存産業(化学プラント、半導体、電力設備)と共通点が多く、既存の供給網・品質管理・認証の上に乗るため、商用化が早い。第二に、周辺部材は「置き換え需要(保守・更新)」が発生しやすく、運用フェーズでストックが積み上がる。

具体的には、耐圧配管・継手・バルブ、圧縮機、熱交換器、ガス検知器、防爆機器、計装、制御ソフト、電源設備(整流器)、膜・電極材料、触媒、純水装置、冷却設備などです。電解槽メーカーが乱立して利益率が下がっても、周辺の“安全と信頼性”を担う部材企業は、寡占化しやすい領域があります。

輸送と貯蔵:水素は「運べない」ところから価値が生まれる

水素は体積エネルギー密度が低く、常温常圧では運びにくい。だからこそ輸送・貯蔵に関わる設備と物流が利益機会になります。投資家としての視点は単純で、「水素を運ぶために何を増設する必要があるか」を列挙し、その増設が現実に起きる順番を追うことです。

たとえば、国内の需要地に対し海外から供給する場合、港湾での受入設備、貯蔵タンク、再ガス化・分解設備、陸上輸送(トレーラー・パイプライン)が必要です。ここで“分解設備”の位置づけが重要です。アンモニアや有機ハイドライドなど、化学キャリアで運ぶ場合、最後に水素として使うには分解が必要になり、ここがコストと技術の山場になります。山場が見えるところに、投資家の焦点が集まりやすい。

また国内供給でも、再エネの立地(風況の良い沿岸部など)と需要地(工業地帯・都市部)が離れていれば、輸送・貯蔵の設備投資が不可避です。つまり、水素の需要が伸びるほど「設備投資の連鎖」が発生します。これがインフラ相場の典型的な燃料になります。

需要家サイド:本当に伸びるのは“脱炭素が義務化される産業”

水素の用途は多岐にわたりますが、投資で優先すべきは「脱炭素が義務化され、逃げ道が少ない産業」です。なぜなら、技術的に可能でも、経済合理性が弱い用途は普及が遅いからです。家庭用燃料電池のように分かりやすい話題はあっても、市場を本気で動かすのは、巨大なCO2排出源を抱える産業です。

代表例は、製鉄(還元剤)、化学(原料・熱源)、大型輸送(船舶・トラックの一部)、そして調整電源(再エネ変動を吸収する発電)です。これらは、単に「環境に良い」から採用されるのではなく、規制・サプライチェーン要求(取引先からの排出削減要求)・カーボンプライシング等により、採用せざるを得なくなる局面が来ます。

投資家としての実務は、需要家の“義務化の圧力”を測ることです。具体的には、輸出比率が高い産業ほど国際的な規制の影響を受けやすい。大口顧客がグローバル企業であれば、サプライチェーン排出(Scope3)削減の要求が強まり、水素・アンモニアの導入が進みやすい。このように「顧客が誰か」を見れば、需要の確度が読めます。

株価が動く順番:実証→規格化→量産→長期契約→更新需要

ここからが投資家向けの本題です。テーマ株は“正しさ”ではなく“順番”で儲かります。グリーン水素の社会実装で株価が動きやすい順番は概ね次の通りです。

第一段階:実証・パイロット。国や自治体、エネルギー大手が実証案件を立ち上げる。ここでは設備規模が小さく、利益は出にくい。ただし「参画企業の顔ぶれ」が注目され、関連銘柄が物色されやすい。

第二段階:規格化・標準化。安全基準、計測方法、認証、由来証明などのルールが整う。投資家はこの局面で“勝ち筋”を絞り始める。規格対応の部材・計装企業が評価されやすい。

第三段階:量産投資。電解装置、圧縮機、タンク、バルブ等の供給能力が拡大し、建設案件が大型化する。ここで資本財サイクルが走り、受注残高(バックログ)や生産能力増強が材料になる。

第四段階:長期契約・オフテイク。需要家が長期購買契約を結び、プロジェクトファイナンスが成立しやすくなる。ここで「安定収益」の評価が乗り、運用・保守の銘柄が強くなる。

第五段階:更新需要。稼働実績が積み上がると、膜・電極・触媒交換、定期点検、ソフト更新などの更新需要が顕在化する。ここが最も複利が効きやすい局面です。

初心者は第一段階で飛びつきやすい一方、真のリターンは第三〜第五段階にあります。投資の意思決定では「今はどの段階か」を常に確認してください。

“本当に強い企業”の見極め:PLではなく「受注残×利益率×資金回収」

水素関連の企業分析では、短期の損益(PL)が当てにならない局面が多いです。研究開発費や立ち上げ費用で利益が押し下げられ、逆に補助金で一時的に膨らむこともあります。そこで投資家が見るべきは、受注残(バックログ)と利益率の持続性、そして資金回収の設計です。

受注残は「未来の売上の種」ですが、建設が長期化するとキャッシュフローが悪化します。したがって、(1)前受金やマイルストーン請求で資金回収できるか、(2)原材料高騰を価格転嫁できる契約になっているか、(3)遅延時のペナルティ(LD)リスクを管理できるか、が重要になります。インフラ相場で“儲かる企業”は、技術よりも契約とプロジェクト管理が上手いことが多い。

さらに、保守契約の比率が上がるほど、利益のブレが小さくなります。投資家は決算短信や説明資料で「ストック収益」「サービス売上」「保守契約」「稼働台数」などのKPIが増えているかを追うと良い。ここに変化が出始めた企業は、テーマの“次の段階”に入った可能性が高い。

需給で儲ける:指数・テーマ物色より「建設能力」と「ボトルネック」を追う

テーマ株の短期トレードは、需給の歪みを取るゲームです。グリーン水素で需給を読む際のコツは、「建設能力」と「ボトルネック」を追うことです。水素プロジェクトは巨大で、発注側が一気に増えると、施工会社・プラントエンジ・機器メーカーの処理能力が追いつきません。そこで受注が集中し、利益率が上がり、株価が評価されます。

逆に、供給能力が増えて競争が激しくなると、同じ受注増でも利益率が落ち、株価が伸びません。投資家は「受注が増えた」だけで判断せず、受注単価・採算性・工期・人員の確保など、供給制約を示す情報を拾うべきです。

またボトルネックは、しばしば“地味な部材”に潜みます。たとえば特定規格のバルブ、特殊鋼材、ガス検知器、防爆機器などは、代替が効きにくく、納期が長期化しやすい。ここに需給の歪みが出ると、関連企業の業績と株価が先に動くことがあります。

具体例:投資判断を「案件マップ」で整理する

ここでは、初心者でも実践できる整理法として「案件マップ」を提案します。これは難しい計算ではなく、ニュースを整理する枠組みです。

まず紙かメモアプリに、縦軸に工程(電力→電解→圧縮/液化→輸送→受入→利用)、横軸に案件フェーズ(計画→実証→商用→増設→更新)を書きます。そしてニュースを見たら、必ずどのマスに当てはまるかを置く。これだけで、情報の洪水が“投資可能なシグナル”に変わります。

たとえば「港湾での受入基地の整備」が出たら、工程は受入、フェーズは商用〜増設。「電解装置の量産工場建設」なら、工程は電解、フェーズは量産投資。「需要家が長期購買契約」なら、工程は利用、フェーズは長期契約。このマッピングができると、市場がどの段階に進んだかが見えます。市場が第三段階に移れば、資本財銘柄が本格的に動きやすい、といった具合です。

バリュエーションの癖:PERではなく「EV/EBITDA」「受注残倍率」「サービス比率」

水素関連は成長投資が先行するため、短期のPERが歪みます。そこで投資家は、より実態に合う物差しを使うべきです。代表的にはEV/EBITDA(企業価値/税引前利益に近い指標)、受注残倍率(受注残/年間売上)、サービス比率(保守・サービス売上/総売上)です。

受注残倍率は、将来の売上の見通しを示しますが、高ければ良いわけではありません。案件の採算が悪い“安値受注”を積み上げている可能性があるため、合わせて粗利率やプロジェクト損益の情報を確認します。サービス比率は、将来の利益の安定性に直結します。水素の商用化が進むほど、サービス比率が高い企業の評価が上がりやすい、と覚えておくと良い。

最大リスク:政策依存と「コスト低下が遅い」シナリオ

グリーン水素投資で最大の落とし穴は、政策依存です。補助金や制度がなければ採算が合わないプロジェクトが多い段階では、政治・財政・国際情勢で計画が止まります。投資家としては「政策が続くか」ではなく、「政策が揺れても残るビジネスか」を見ます。具体的には、保守・部材交換・安全関連など、規制と安全に紐づく需要は残りやすい。

もう一つは、コスト低下が想定より遅いシナリオです。再エネ電力の価格、電解装置の量産効果、輸送・貯蔵コストの低下が進まないと、水素は“高級燃料”のままです。その場合、需要は義務化領域に限定され、普及ペースが鈍る。テーマ相場としては、第二段階で停滞しやすい。投資では「普及が遅い=全部ダメ」ではなく、義務化領域に強い企業、保守で稼げる企業へ重心を移すのが合理的です。

個人投資家の実践:銘柄ではなく「3レイヤー」でポートフォリオを組む

個別銘柄の当て物にしないために、グリーン水素関連を3レイヤーに分けると運用が安定します。

レイヤー1(コア):既存事業が強く、水素は上乗せ要因にすぎない企業。水素が遅れても致命傷になりにくい。

レイヤー2(テーマ・ミドル):水素の設備投資増加の恩恵を受けやすいが、他テーマでも需要がある企業(プラント、計装、安全機器など)。

レイヤー3(オプション):水素の普及が進んだときに爆発力があるが、政策や採算に強く依存する企業。ここは数量を絞り、損切りルールを明確にします。

こうしておくと、テーマが一時的に冷えても、全体のダメージが限定されます。初心者が勝ちやすいのは、実はレイヤー2です。理由は、テーマの追い風を取りつつ、既存需要で下支えされやすいからです。

エントリーの考え方:ニュースで買うのではなく「需給の転換点」で入る

短期で勝率を上げたいなら、ニュースの瞬間に飛びつくより、需給の転換点を狙います。例えば、関連指数やテーマバスケットが一巡して出来高が減り、押し目で売りが枯れたタイミング。あるいは決算で“期待剥落”した後に、受注残やサービス比率が伸びていることが確認でき、再評価が始まるタイミングです。

水素テーマは材料が断続的に出るため、上がっているときに買うと高値掴みになりやすい。投資家は「材料の新規性」と「市場のポジション」を分けて考えるべきです。材料が新しくても、既に買われ尽くしていれば上値は重い。逆に材料が小さくても、売り尽くしの後なら上に跳ねます。

長期の勝ち筋:更新需要と“標準化の勝者”を取りに行く

最後に、長期で複利を狙う視点をまとめます。グリーン水素は、普及が遅くても「標準化」と「更新需要」が進めば、利益が積み上がります。標準化とは、規格・安全・認証・計測のルールが固まり、そのルールに適合した製品とサービスが採用され続ける状態です。更新需要とは、稼働実績が積み上がった結果、消耗品交換や保守が恒常化する状態です。

この2つは、一度回り始めると止まりにくい。投資家は派手な“夢の用途”より、地味だが継続性の高い需要を重視すべきです。水素はインフラになる。インフラの儲けは「建てる」「運ぶ」「守る」に分かれる。相場の局面ごとに、どこが主役かを入れ替えられる投資家が、最終的に勝ちやすいと私は考えます。

まとめ:グリーン水素を“相場”として扱うためのチェックリスト

最後に、実践用のチェックポイントを文章で整理します。まず、ニュースを見たら工程(製造・輸送・利用)とフェーズ(実証〜更新)に分類し、どの段階にいるかを確認する。次に、企業を見るときはPLの一喜一憂を避け、受注残・採算・資金回収・サービス比率を見る。さらに、政策依存が強い局面では、規制と安全に紐づく需要(検知、バルブ、防爆、保守)へ比重を置く。最後に、エントリーは材料ではなく需給の転換点で行い、テーマの熱狂と冷却の波を利用する。これが、グリーン水素の社会実装を“儲けにつながる投資テーマ”として扱うための現実的な型です。

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