日銀の政策金利引き上げで銀行株はどう動く?利ざや・収益構造・銘柄選別を徹底解説

日本株

「日銀が政策金利を引き上げる」と聞くと、真っ先に連想されるのが銀行株です。理屈としてはシンプルで、金利が上がれば銀行の利ざや(預金などで集めた資金の調達コストと、貸出・運用で得る利回りの差)が拡大しやすく、収益改善が期待される——という話です。

ただし現実の株価は、「金利が上がる=銀行株が上がる」ほど単純ではありません。政策金利の上げ方、長期金利の動き、預金金利の引き上げ競争、国債評価損、与信費用(信用コスト)、中小企業の資金繰り、住宅ローンの需要、さらには規制や株主還元方針まで、複数の変数が同時に動きます。

この記事では、政策金利引き上げ局面で「銀行のどの収益がどう変化し、株価はどこを見て動くのか」を、できるだけ具体的に分解します。最後に、銘柄選別のためのチェックリストと、個人投資家が陥りやすい罠も整理します。

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  1. まず結論:銀行株は“金利”ではなく「転嫁力×リスク耐性」で差がつく
  2. 政策金利とは何か:銀行株を動かす“入り口”
  3. イールドカーブの見方:銀行株の“地図”を読む
  4. 銀行の利益の“どこ”が増えるのか:利ざやの中身を分解する
    1. 1) 代表指標はNIM(Net Interest Margin)だが、見方を誤ると危険
    2. 2) 預金は“安定調達”だが、金利競争が始まると前提が崩れる
    3. 3) 貸出は“既存残高”が効く:新規よりも既存の金利改定が本丸
  5. 金利上昇が銀行に“マイナス”になるルート:評価損と信用コスト
    1. 1) 国債・債券の評価損:金利が上がると債券価格は下がる
    2. 2) ALM(資産負債管理)がうまい銀行ほど耐性がある
    3. 3) 信用コスト:景気悪化とセットになると話が変わる
  6. 株価が反応する“タイミング”の話:ニュースではなく期待の変化
  7. “銀行株の勝ち筋”を作るための銘柄選別:見るべき10項目
    1. 1) 預金の質:普通預金比率と決済性預金の厚み
    2. 2) 貸出の質:変動金利比率と企業向け比率
    3. 3) 有価証券の金利リスク:デュレーションとヘッジ状況
    4. 4) 海外運用比率:為替と海外金利の二重リスク
    5. 5) 資本の余力:自己資本比率・CET1と株主還元の余地
    6. 6) 収益の分散:手数料ビジネスの比率
    7. 7) 不良債権の耐性:与信ポートフォリオと引当方針
    8. 8) 規制・政策の影響:地域金融再編や手数料規制
    9. 9) 競争環境:地域内シェアとネット競争の圧力
    10. 10) バリュエーション:PBRだけでなく「利益の質」とセットで見る
  8. メガバンクと地銀で“効き方”が違う:同じテーマでも別物として扱う
  9. 具体例で理解する:金利が0.25%上がったら何が起きる?
  10. “観測すべきイベント”を持つ:銀行株はカレンダー型で管理するとブレにくい
  11. 個人投資家がやりがちな失敗パターン
    1. 失敗1:政策金利のニュースだけ追って、長期金利とイールドカーブを見ない
    2. 失敗2:国債評価損のインパクトを軽視する(または過大視する)
    3. 失敗3:地銀を一括りにする
    4. 失敗4:株主還元の“方針”と“実績”を混同する
  12. 金利上昇局面での運用設計:エントリーとリスク管理の考え方
  13. まとめ:政策金利引き上げは銀行株の追い風だが、勝負所は“転嫁”と“リスク管理”

まず結論:銀行株は“金利”ではなく「転嫁力×リスク耐性」で差がつく

政策金利引き上げ局面での勝ち筋は、ざっくり言うと次の掛け算です。

(貸出金利の上げやすさ)−(預金金利の上がりやすさ)=利ざやの伸び
利ざやの伸び(債券評価損+信用コスト+ヘッジコスト)=最終的な収益改善

つまり、同じ金利上昇でも、預金が粘着的で貸出の変動比率が高く、かつ債券の金利リスクを抑えている銀行は強い。一方、預金金利競争に巻き込まれ、国債の含み損が膨らみ、景気悪化で信用コストが増える銀行は、テーマの追い風を受けられません。

政策金利とは何か:銀行株を動かす“入り口”

政策金利は、短期金融市場の基準となる金利です。日銀が誘導する短期金利が変わると、銀行間取引、短期資金の調達、変動金利の一部などを通じて、金融システム全体の金利水準に波及します。

銀行の利益に直結するのは、政策金利そのものというより、短期金利と長期金利の組み合わせです。銀行は短期(預金など)で資金を集め、より長い期間(貸出や債券投資)で運用することが多く、「金利の期間構造(イールドカーブ)」が損益を左右します。

イールドカーブの見方:銀行株の“地図”を読む

イールドカーブは「短期から長期までの金利の並び」です。銀行株で重要なのは、単一の金利水準よりも、傾き(スティープニング/フラットニング)です。

スティープニング(長期金利が相対的に上がる):貸出・運用の利回りが上がりやすく、利ざやに追い風。
フラットニング(短期が上がるのに長期が上がらない):調達コストが上がるのに運用利回りが上がらず、利ざやが伸びにくい。

個人投資家が実務的にチェックするなら、最低限「短期(例:2年)と長期(例:10年)の差」「長期金利の変化」「市場が織り込む追加利上げ回数」を定点観測すると、銀行株の“追い風/逆風”が見えます。

銀行の利益の“どこ”が増えるのか:利ざやの中身を分解する

1) 代表指標はNIM(Net Interest Margin)だが、見方を誤ると危険

銀行の利ざやを語るときによく使われるのがNIM(純金利マージン)です。ざっくり言えば「利息収入−利息支払」を資産規模で割ったものです。ただ、NIMは“結果”であり、原因は複数あります。

例えば、貸出金利が上がっても、同時に預金金利が上がればNIMは伸びません。逆に、貸出金利が小幅でも、預金金利がほぼ上がらなければNIMは改善します。つまり、政策金利引き上げ局面では、銀行がどれだけ調達コストの上昇を抑えられるかが重要です。

2) 預金は“安定調達”だが、金利競争が始まると前提が崩れる

日本の銀行にとって預金は伝統的に安定した調達源です。普通預金は金利が極めて低く、企業の決済口座や個人の生活口座は簡単には動きません。この「粘着性(スティッキネス)」が強いほど、金利上昇局面で銀行は有利になります。

しかし、金利がある程度上がり、かつ家計や企業が金利差を意識し始めると、預金獲得競争が起きます。特にネット銀行や一部の地銀が高金利定期を打ち出すと、地域を越えた資金移動が生じます。ここが“利ざや拡大の天井”になりやすいポイントです。

3) 貸出は“既存残高”が効く:新規よりも既存の金利改定が本丸

貸出金利は、新規実行分よりも既存残高の改定が利益に効きます。企業向けの短期・変動金利は比較的早く改定されますが、固定金利や長期ローンは時間がかかります。住宅ローンは競争が激しく、金利の転嫁が進みにくい局面もあります。

ここで見るべきは、各行の貸出ポートフォリオの内訳です。具体的には、(a)変動金利比率、(b)企業向け比率、(c)住宅ローン比率、(d)中小企業比率、(e)貸出の平均残存期間。これらが違うと、同じ金利上昇でも収益の反応速度が変わります。

金利上昇が銀行に“マイナス”になるルート:評価損と信用コスト

1) 国債・債券の評価損:金利が上がると債券価格は下がる

銀行は国債や社債などの有価証券を保有しています。金利が上がると、一般に債券価格は下落します。ここで問題になるのが評価損です。

ただし評価損がすぐに損益計算書(P/L)に直撃するかは、保有区分(売買目的・その他有価証券・満期保有など)やヘッジの有無で変わります。また、評価損は“会計上の損失”であって、満期まで保有できるならキャッシュフロー上の損失ではありません。しかし、株価はしばしば自己資本や規制資本への影響を織り込みます。

2) ALM(資産負債管理)がうまい銀行ほど耐性がある

金利リスクをどう管理しているかは、決算資料のALM開示や、金利感応度(ある一定の金利変動で損益・自己資本がどれだけ動くか)から読み解けます。単純化すると、

短期で調達し長期で運用:利ざやは取りやすいが、金利急上昇で評価損リスクが増える
デュレーションを短くする:評価損は抑えやすいが、利ざやの伸びが限定的になりやすい

どちらが良いかは局面次第です。政策金利が小刻みに上がる“緩やかな正常化”なら前者が有利になりがちですが、急上昇や長期金利の跳ね上がりがあるなら後者の耐性が評価されます。

3) 信用コスト:景気悪化とセットになると話が変わる

金利引き上げは、過熱を冷やすために行われます。つまり、引き上げが続きすぎると景気が減速し、企業倒産や個人の返済負担増が起き、信用コストが増える可能性があります。銀行にとっては、利ざやが増えても貸倒引当や不良債権処理で相殺されるリスクがあります。

個人投資家が見落としがちなのは、「金利上昇=銀行の利益増」ではなく「金利上昇のスピードと景気の耐久力との相対」だという点です。緩やかで景気が強い局面は追い風、景気が弱い局面では逆風になり得ます。

株価が反応する“タイミング”の話:ニュースではなく期待の変化

銀行株は、実際の利ざや拡大が決算に出る前に動くことが多いです。理由は簡単で、株価は将来の利益を先回りして織り込むからです。したがって、重要なのは「政策金利が何bp上がったか」よりも、

・今後どこまで上がりそうか(ターミナルレートの見通し)
・ペースは速いか遅いか(引き上げの経路)
・長期金利は連動して動くか(イールドカーブの形)
・預金金利は競争で上がるのか(調達コストの上昇)
・景気は持つのか(信用コストの増減)

といった期待の変化です。ここを外すと、ニュースを追っているのに負ける、という状態になりやすい。

“銀行株の勝ち筋”を作るための銘柄選別:見るべき10項目

ここからは、単なるマクロ解説ではなく、実際に銘柄を絞るための視点を提示します。具体的な数字は各行の有価証券報告書、決算説明資料、統合報告書などで確認できます。

1) 預金の質:普通預金比率と決済性預金の厚み

普通預金・当座預金が厚いほど、金利上昇局面で調達コストの上昇が遅れやすい傾向があります。地域に根差した法人取引が強い銀行は、決済性預金が厚くなりやすい。

2) 貸出の質:変動金利比率と企業向け比率

変動比率が高いほど、貸出金利の改定が早く、収益の反応が速い。逆に住宅ローン偏重だと競争が厳しく、転嫁しづらいことがあります。

3) 有価証券の金利リスク:デュレーションとヘッジ状況

国債保有が多くデュレーションが長い場合、金利上昇で含み損が膨らみやすい。ヘッジをしていれば一部相殺されますが、ヘッジコストが利益を圧迫することもあります。

4) 海外運用比率:為替と海外金利の二重リスク

外貨建て資産が多い銀行は、海外金利と為替の影響を受けます。国内金利が上がっても、海外の金利環境や為替ヘッジコスト次第で、トータルの収益は変わります。

5) 資本の余力:自己資本比率・CET1と株主還元の余地

金利上昇局面では、利益増だけでなく「増えた利益をどう配分するか」が株価に効きます。配当性向の方針、自己株買いの実績、株主還元のコミットメントを確認します。

6) 収益の分散:手数料ビジネスの比率

銀行は利息だけではありません。投信販売、保険、M&Aアドバイザリー、決済、リース、カードなどの手数料収益が厚いと、金利局面がぶれても収益が安定しやすい。

7) 不良債権の耐性:与信ポートフォリオと引当方針

地銀は地域経済に依存します。地域産業の偏り(不動産、観光、製造など)や、与信管理の保守性が信用コストの出方を左右します。

8) 規制・政策の影響:地域金融再編や手数料規制

銀行は規制業種です。再編促進策、フィンテック競争、手数料体系の見直しなど、政策の風向きで評価が変わることがあります。

9) 競争環境:地域内シェアとネット競争の圧力

同じ地銀でも、地域内の競争が緩いところは預金金利を上げる必要が薄く、利ざやを確保しやすい。一方で人口減少が急な地域は貸出需要が伸びず、別の成長ドライバーが要ります。

10) バリュエーション:PBRだけでなく「利益の質」とセットで見る

銀行株はPBRが低いことが多く、「割安」に見えます。しかし、利益が構造的に弱い銀行は、低PBRが常態化します。重要なのは、金利上昇で利益が“持続的に”増える構造があるかどうかです。

メガバンクと地銀で“効き方”が違う:同じテーマでも別物として扱う

金利上昇の恩恵は、メガバンクと地銀で出方が異なります。

メガバンク:海外運用比率が高く、国内金利だけで決まりません。為替ヘッジコスト、海外金利、投資銀行・手数料の影響が大きい。資本余力が厚く株主還元が強い一方、有価証券運用の規模が大きく、金利・クレジットの変動が損益に出やすい。

地銀:国内預金・国内貸出の比率が高く、国内金利の影響が出やすい。地域内シェアと預金の粘着性が強みになる一方、人口動態と地域産業の影響を強く受け、信用コストの差が拡大しやすい。再編期待が株価に織り込まれる局面もある。

この違いを無視して「銀行株」で一括りにすると、金利が当たっても銘柄が外れて負ける、が起きます。

具体例で理解する:金利が0.25%上がったら何が起きる?

ここではイメージを掴むために、架空の「A地方銀行」を例にします。

・預金:5兆円(うち普通預金70%、定期30%)
・貸出:4兆円(企業向け70%、住宅ローン30%、変動金利比率60%)
・有価証券:1.5兆円(国債中心、平均デュレーション4年)

政策金利が0.25%上がると、まず短期市場金利が上がり、企業向けの短期・変動貸出の金利改定が進みます。仮に変動貸出の半分に0.20%転嫁できると、利息収入は

4兆円 × 70% × 60% × 50% × 0.20% ≒ 年16.8億円 増加

一方、預金金利はすぐには上げないと仮定すると、利息支払は限定的。すると短期的にはNIM改善が見えやすく、株価は先回りで反応しやすい。

しかし、競争が起きて定期預金の金利を0.15%引き上げる必要が出ると、利息支払は

5兆円 × 30% × 0.15% ≒ 年22.5億円 増加

となり、先ほどの利息収入増を上回ります。これが「金利上昇=儲かる」の単純モデルが崩れる瞬間です。つまり、預金金利の上がり方が勝敗を決める局面がある、ということです。

“観測すべきイベント”を持つ:銀行株はカレンダー型で管理するとブレにくい

銀行株は、突発ニュースよりも、定期イベントで織り込みが進みます。個人投資家は次の順序で見ていくと、判断の軸が作りやすい。

(1)日銀会合:政策金利の変更、見通し、コミュニケーションの変化。
(2)国債市場:長期金利の変化、入札動向、金利スワップ。
(3)決算(四半期):NIM、貸出利回り、預金コスト、与信費用、有価証券損益、還元方針。
(4)景気指標:企業倒産、設備投資、雇用、賃金、住宅関連。信用コストの芽を探す。

このカレンダーで「期待→実績→期待の修正」が回り、株価が動きます。逆に言うと、イベント後の決算で仮説が外れたのに持ち続けると損失が膨らみやすい。

個人投資家がやりがちな失敗パターン

失敗1:政策金利のニュースだけ追って、長期金利とイールドカーブを見ない

短期金利が上がっても長期金利が上がらない(または下がる)と、利ざやが広がりません。むしろイールドカーブがフラット化すると、銀行の収益は伸びにくい。

失敗2:国債評価損のインパクトを軽視する(または過大視する)

評価損は確かにリスクですが、保有区分やヘッジ、満期までの保有方針で実害が変わります。数字を読まずに「評価損=終わり」と決めつけるのも、「どうせ含み損だから関係ない」と無視するのも危険です。

失敗3:地銀を一括りにする

地銀は地域経済、預金の質、貸出の内訳、再編余地が全く違います。金利上昇局面では差が拡大しやすい。スクリーニングを雑にすると、当たり外れが大きくなります。

失敗4:株主還元の“方針”と“実績”を混同する

配当方針が立派でも、実績が伴わないケースがあります。過去の還元実績、業績変動時の対応(減配したか、維持したか)、自己株買いのタイミングなど、行動ベースで判断します。

金利上昇局面での運用設計:エントリーとリスク管理の考え方

銀行株は「金利テーマ」として注目されやすく、相場の局面でボラティリティが上がります。個人投資家が扱いやすくするには、以下の設計が有効です。

(1)シナリオ分解:緩やかな利上げ/急な利上げ/利上げ停止/景気悪化の4象限で、利益と株価の反応を想定する。
(2)分散:メガバンク、地銀、ネット銀行(あるいは金融セクターETF)など、金利感応度の異なるものを組み合わせる。
(3)指標の監視:短期金利だけでなく、長期金利、為替ヘッジコスト、信用スプレッドを定点観測する。
(4)決算で検証:NIM、貸出利回り、預金コスト、与信費用、有価証券評価損、還元方針の変化を確認し、仮説を更新する。

運用のポイントは、ニュースで反射的に売買するのではなく、決算で「本当に利ざやが改善しているか」「預金金利が想定以上に上がっていないか」「信用コストが悪化していないか」を検証し、シナリオを更新し続けることです。

まとめ:政策金利引き上げは銀行株の追い風だが、勝負所は“転嫁”と“リスク管理”

日銀の政策金利引き上げは、銀行にとって利ざや拡大の追い風になり得ます。しかし、株価を決めるのは「利息収入が増えるか」だけではありません。

・預金金利の引き上げ競争が起きるか(調達コスト)
・長期金利がどう動くか(イールドカーブ)
・有価証券の金利リスクとヘッジ(評価損・資本)
・景気減速が信用コストを押し上げないか(与信)
・増えた利益が株主還元に回るか(配当・自社株買い)

この5点をセットで見たうえで、「自分が想定する金利シナリオに最も整合する銀行」を選べると、テーマ投資が単なる思惑ではなく、検証可能な判断に近づきます。

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