- なぜ「半導体製造装置の月次統計」が効くのか
- まず押さえるべき統計の種類:何を見ればいいか
- 初心者でもできる「先回り買い」の基本フレーム
- 実例で学ぶ:月次統計から“勝ち筋”を作る手順
- 「先回り買い」で一番危ない罠:統計の読み違いと織り込み
- 初心者向け:具体的な売買ルール(再現性重視)
- 勝率を上げる「統計×需給」の合わせ技
- “仕込みどき”の見つけ方:ニュースより静かな数字を信じる
- まとめ:月次統計は「地図」、エントリーは「足元の道」
- データの取り方:初心者が迷わないための具体手順
- 「どの銘柄を買うか」を決めるためのチェックリスト
- 簡易バックテスト:紙と鉛筆で検証する方法
- 上級者がやっている“もう一段の先回り”:サブセグメントの見立て
なぜ「半導体製造装置の月次統計」が効くのか
半導体関連株はニュース(新工場、国家補助、AI需要など)で大きく動きますが、初心者が一番つまずくのは「結局、今は景気が良いのか悪いのか」が曖昧なまま飛び乗ってしまう点です。そこで使えるのが、半導体製造装置の月次統計です。装置は半導体サイクルの“上流”に位置し、受注が増えればやがて装置メーカーの売上に反映され、さらに数か月〜数四半期遅れて半導体メーカー(ロジック・メモリ)の設備投資・稼働率・部材消費へ波及します。この「上流データ→実体→株価」の時系列を理解すると、直近の株価に引っ張られず、先回りの売買判断ができます。
ポイントは、月次統計が“速報性”と“連続性”を両立していることです。決算は四半期でしか更新されませんが、月次統計は毎月更新されます。しかも単なるアンケートではなく、実際の受注・販売・出荷などの数値が積み上がるため、空気感よりも強い根拠になります。
まず押さえるべき統計の種類:何を見ればいいか
半導体製造装置の統計は複数あります。初心者が最初に見るべきは、次の3つです。
1)日本の装置統計(受注・販売・B/Bレシオ)
日本の装置メーカーの受注や販売(売上)を集計した統計があります。ここで重要なのは「受注」と「販売」を分けて見ることです。受注は未来の売上のタネで、販売は現在の売上です。株価は基本的に未来を見ますから、短期では受注の変化が材料になりやすい一方、決算期が近い局面では販売(売上)の強弱が効きます。
またB/Bレシオ(Book-to-Bill)は「受注÷販売」で、1.0を上回れば受注が販売を上回り受注残が積み上がる状態、1.0を下回れば受注残が減る状態です。初心者はここを“景気指標”として見がちですが、実務では「転換点の検出」に使います。具体的には、B/Bが1.0を跨ぐ瞬間よりも、3か月移動平均が底打ちして上向くタイミングの方が、株価のトレンド転換と噛み合いやすいです。
2)世界装置市場の販売統計
世界の半導体製造装置の販売額(地域別など)を示す統計があります。日本統計は日本メーカー中心ですが、世界統計は需給の“大局”を把握するのに向きます。例えば、米国のロジック投資が強いのか、中国の投資が再加速しているのか、といった地政学・輸出規制の影響も数字に出やすいです。
3)半導体本体の指標(出荷・在庫・販売)
装置統計だけだと「装置が強い=すべて強い」と短絡しがちです。実際は、メモリ主導のサイクルとロジック主導のサイクルで波形が違います。装置の強さがメモリ投資の復活なのか、先端ロジック(AI向け)の投資なのかで、勝ちやすい銘柄群が変わります。そこで、半導体本体の販売・在庫・出荷の統計も補助的に見て、“今回の波の主役”を特定します。
初心者でもできる「先回り買い」の基本フレーム
ここからは、月次統計を売買に落とし込むための型を示します。難しい計量モデルは不要です。初心者がやるべきは、(1)転換点の検出、(2)銘柄群の分解、(3)エントリーの設計の3ステップです。
ステップ1:転換点は「前年比」ではなく「前月比の加速度」で見る
月次統計は前年比(前年同月比)で語られることが多いですが、前年比は遅いです。景気が底打ちしても、前年が強かった場合はしばらく前年比マイナスが続きます。先回りしたいなら、前月比(MoM)を重視し、さらにその“加速度”を見ます。
具体例を出します。仮に装置受注が、1月:+2%、2月:+4%、3月:+7%(いずれも前月比)と伸びたとします。このとき重要なのは、単にプラスであることではなく、伸び率が加速している点です。加速度が出る局面は、顧客側の投資判断が「様子見→GO」に切り替わるタイミングで、関連株が材料視されやすいです。逆に、1月:+8%、2月:+3%、3月:+1%のように鈍化するなら、トレンドは天井圏に近づいている可能性が高いです。
実務では、前月比をそのまま使うよりも、3か月移動平均の傾き(上向き/下向き)で判定するとノイズが減ります。初心者は「単月のブレ」で振り回されがちなので、まずは移動平均で方向性だけを取るのが安全です。
ステップ2:関連銘柄を「装置本体・周辺・素材・インフラ」に分解する
半導体と言っても、値動きのクセが違います。月次統計を材料に先回りするなら、銘柄群を次の4つに分けて見ます。
(A)装置本体:露骨に統計と連動しやすい主役。受注が上向くと先に買われやすいが、天井も早い。
(B)周辺・部材:真空部品、精密部品、搬送、洗浄、計測、消耗品。装置本体より“遅れて”効いて、波が長いことがある。
(C)素材:シリコンウエハ、フォトレジスト、特殊ガス。投資が本格化すると供給制約で強くなるが、転換は遅い。
(D)インフラ:工場建設、電力・空調、物流、クリーンルーム。大型プロジェクトでテーマ化しやすいが、統計との連動は間接的。
初心者が勝ちやすいのは(B)周辺・部材です。装置本体は注目度が高く、期待が先に乗りすぎて「統計が良いのに株が下がる」という“織り込み”に遭いやすい。一方、周辺・部材は注目度が相対的に低く、受注の持続が確認されてから買われることが多いので、統計→株価の時差を取りやすいです。
ステップ3:エントリーは「統計の発表日」ではなく「チャートの落ち着き」を待つ
統計は発表日に注目が集まり、寄り付きでギャップが出やすいです。初心者が発表直後に飛びつくと、寄り天・高値掴みになりがちです。おすすめは、統計が良かったとしても、その日の高値を追わないこと。翌日以降に、5分足〜日足で「押し目」と「出来高の継続」を確認してから入ります。
実戦的には、次の2つのエントリーパターンが堅いです。
パターン1:日足の25日線上での押し目買い
統計が改善→関連株が上昇→数日〜2週間で利確売りが出て25日線付近まで押す。この押し目で、下げが鈍化し、出来高が極端に細らず、陽線で切り返すところを拾います。材料に対して過熱していない価格帯で入れるので、損切りラインが置きやすいです。
パターン2:5分足VWAP回復+出来高再加速
デイトレ〜数日狙いなら、統計良好で上昇した銘柄が一度売られ、VWAPを下回った後に、再びVWAPを回復し、その回復局面で出来高が増える形を狙います。これは「機関の買い直し」が入りやすい形で、短期の追随が効きます。
実例で学ぶ:月次統計から“勝ち筋”を作る手順
ここでは、架空のケースでプロセスを具体化します。数字は例ですが、考え方はそのまま使えます。
ケース:受注が底打ち→3か月連続で改善、B/Bが1.0回復へ
前提として、半導体市況は悪く、装置受注は前年割れが続いていました。しかし直近3か月で、受注(3か月移動平均)が上向き、B/Bレシオも0.95→0.98→1.02と回復し始めたとします。この時点でやることは次の通りです。
(1)主役の仮説を立てる:今回の回復は、メモリ投資の復活なのか、先端ロジック(AI向け)の増強なのか。関連ニュース(AIサーバー、HBM、先端パッケージ、EUV関連)と照合し、ロジック主導の可能性が高い、と仮説を置きます。
(2)銘柄を4分類で並べる:(A)装置本体、(B)周辺・部材、(C)素材、(D)インフラに分け、時価総額、出来高、決算期、ボラティリティを一覧化します。初心者は最初から10銘柄も触らない。まず3〜5銘柄に絞ります。
(3)“市場の期待”を測る:統計が改善したのに、装置本体がすでに高値圏なら、期待が先行している可能性があります。その場合は(B)周辺・部材に寄せます。逆に、周辺がまだ底値圏なら、時差取りの余地があります。
(4)チャートで「押し目」を待つ:統計発表日に飛び乗らず、日足で25日線や直近高値のブレイク後のリテストを待ちます。損切りは「直近安値割れ」または「25日線明確割れ」に置き、ポジションサイズは損切り幅から逆算します(資金の1回あたりの許容損失を先に決める)。
「先回り買い」で一番危ない罠:統計の読み違いと織り込み
月次統計は強力ですが、万能ではありません。特に初心者が踏みやすい罠を、先に潰します。
罠1:統計が改善しても株が下がる(=織り込み)
装置関連は注目度が高いので、統計が改善する前から「底打ち期待」で買われていることがあります。この場合、統計が良いのは“想定通り”で、材料出尽くしになり、株が下がります。これを避けるコツは、統計ではなく株価側の位置を見ることです。
具体的には、統計改善の局面で、装置本体がすでに年初来高値近辺なら、リスクが高い。一方、周辺・部材がまだ長期の下降トレンドから抜けきっていないなら、そちらに妙味が出ます。「どの数字が良いか」より「どの銘柄がまだ信じられていないか」を探すのが、先回り買いの本質です。
罠2:季節性を無視して単月の伸びに飛びつく
装置は四半期末に出荷が偏る、年度末に検収が増えるなど、季節性が強いことがあります。単月の急増は、季節要因や検収のズレで起きることもある。だからこそ、3か月移動平均、できれば前年同月比と併用して、“一過性か、トレンドか”を判別します。初心者は、単月の急増を見たら「翌月に反動減が来ても壊れない銘柄か?」という観点で、値動きの耐性を確認してください。
罠3:為替と金利で評価がひっくり返る
半導体関連はグロース色が強く、金利上昇局面ではPERが圧縮されやすい。また、輸出比率の高い企業は為替の影響を強く受けます。月次統計が良くても、米金利急騰や急激な円高が来ると、短期では負けます。対策はシンプルで、指数・金利・為替が荒れている日はサイズを落とすこと。勝ち筋があっても、環境が悪い日は“見送る技術”が必要です。
初心者向け:具体的な売買ルール(再現性重視)
ここでは、紙に書いて守れるレベルのルールに落とします。ルールは多いほど守れません。最小限にします。
ルールA:統計トリガー(買いの前提条件)
次の3条件が揃った月だけ、半導体装置テーマの買いを検討します。
1)装置受注(3か月移動平均)が2か月連続で上向き
2)B/Bレシオが1.0に近づく(または1.0回復)
3)関連株セクター指数(または主力銘柄)が25日線を回復し、下げ止まりの形になっている
ポイントは、統計だけで買わず、相場側(チャート)も条件に入れることです。
ルールB:エントリー(いつ買うか)
統計の発表日当日は買わない。翌日以降に、次のどちらかで買います。
・日足:25日線付近で下げ止まり→陽線で切り返し→高値更新を試す初動
・短期:5分足でVWAP回復+出来高増→高値を更新した瞬間に小さく入る
ルールC:損切り(負け方を決める)
損切りは「直近安値割れ」または「25日線を終値で明確に割れ」。迷うなら、終値基準で統一してください。損切り幅が大きい銘柄は、ポジションサイズを小さくする。損切りを動かしてはいけません。
ルールD:利確(勝ちを伸ばす)
初心者は利確が下手です。そこで、利確を“2段階”にします。
・第一利確:エントリーから+5〜8%で半分を利確(相場が弱いなら早め)
・第二利確:残りは10日移動平均割れ、または出来高急減で手仕舞い
こうすると、勝ちのときに取り逃しにくく、負けのときの精神的ダメージも減ります。
勝率を上げる「統計×需給」の合わせ技
統計はファンダ寄りの材料ですが、日本株の短期は需給で動きます。統計シグナルの精度を上げるために、初心者でも扱える需給指標を2つだけ紹介します。
1)信用残:買い残が重すぎる銘柄は避ける
統計改善でテーマ買いが入っても、信用買い残がパンパンだと上値が重くなります。理由はシンプルで、上がったら“売りたい人”が多いからです。目安として、直近の上昇で信用買い残が急増している銘柄は、押し目の反発が弱いことが多い。初心者は、同じテーマなら、信用買い残の増え方が穏やかな銘柄を選ぶ方が楽です。
2)指数との相関:指数が崩れている日は「個別の正しさ」が通りにくい
半導体装置は指数の影響を強く受けます。指数先物主導で現物が売られる日は、統計が良くても下げます。そこで、日経平均やTOPIXが25日線を割っている局面では、同じルールでも“勝率が落ちる”と割り切り、サイズを半分にします。これだけで大きな事故は減ります。
“仕込みどき”の見つけ方:ニュースより静かな数字を信じる
多くの初心者は、ニュースが騒がしくなってから半導体を買います。しかし、ニュースが最大化したときは、すでに上がっていることが多い。月次統計を使う最大のメリットは、ニュースが静かなときに、数字の底打ちを捉えられる点です。
実務的なコツは、統計が悪い時期でも毎月チェックを続け、「悪化の鈍化」→「横ばい」→「改善」の3段階を追うことです。相場は“改善そのもの”より“改善し始めた瞬間”に一番反応します。だから、前年比マイナスが続いていても、前月比の加速度と移動平均の傾きが変わったら、監視を強める。それが先回り買いです。
まとめ:月次統計は「地図」、エントリーは「足元の道」
半導体製造装置の月次統計は、半導体サイクルの地図です。地図が上向きでも、足元の道(チャート)が崩れていれば転びます。逆に、道が良く見えても、地図が下向きなら長くは続きません。統計で方向を決め、チャートで入る。初心者はこの二段構えで十分戦えます。
最後に、実行の順番をもう一度だけ整理します。
1)受注・販売・B/Bの3か月移動平均を毎月更新する
2)今回の波の主役(ロジックかメモリか)を仮説で置く
3)銘柄を4分類し、注目度が低い周辺・部材を中心に候補を絞る
4)統計発表日に追わず、25日線の押し目やVWAP回復で入る
5)損切りは終値基準で固定し、利確は2段階で機械的に行う
この運用を3〜6か月続けるだけで、「半導体は難しい」という感覚はかなり薄れます。数字と価格の時系列が見えるようになるからです。最初は小さく、ルールを守れるサイズで始めてください。
データの取り方:初心者が迷わないための具体手順
「統計があるのは分かった。で、どこで見ればいいのか?」ここで止まる人が多いので、手順を固定します。やることは3つだけです。
手順1:発表元のページをブックマークする
装置統計は、発表元(業界団体など)が毎月更新します。検索して見つけたら、そのページを必ずブックマークし、毎月同じ場所から取りに行きます。途中でニュースサイト経由にすると、見出しの煽りや解釈に引っ張られます。一次情報の数字だけを見る癖をつけてください。
手順2:表をコピペして「自分の表」を作る
毎月、受注・販売・B/Bの3項目だけを表計算に貼り付けます。列は「月」「受注」「販売」「B/B」「受注3MMA」「販売3MMA」「B/B3MMA」の7列で十分です。計算式は移動平均だけ。難しい回帰は不要です。
手順3:グラフは1枚にまとめる
同じシートに、受注3MMAと販売3MMAを折れ線、B/B3MMAを別軸の折れ線で重ねます。視覚化すると、底打ち・天井が一瞬で分かります。ここまでできれば、統計を“読む”のではなく“見て判断する”状態に入れます。
「どの銘柄を買うか」を決めるためのチェックリスト
統計が良い月でも、買う銘柄選びで失敗すると勝てません。初心者が再現性を出すためのチェックリストを用意します。5つのうち3つ以上満たす銘柄だけを候補にします。
1)日足が25日線の上、または25日線を回復した直後
2)直近20日平均の出来高が増加傾向(出来高が枯れていない)
3)決算発表まで2週間以上ある(決算ギャンブルを避ける)
4)信用買い残が急増していない(需給が重くない)
5)同業他社より値動きが素直(上げたら押し、押したら反発する)
特に3)は効きます。半導体は決算での一撃が大きいので、初心者が「統計で良い→決算で崩壊」を食らうと心が折れます。決算が近い銘柄は避け、テーマの流れを取る練習に集中した方が早く上達します。
簡易バックテスト:紙と鉛筆で検証する方法
本格的な検証はプログラムが必要ですが、初心者はそこまで不要です。まずは“自分が守れるルールか”を確認するための簡易バックテストをやります。
やり方はこうです。過去12〜24か月の月次統計を見て、受注3MMAが上向きに転じた月を3回ほど拾います。その月の翌営業日から2週間を、候補銘柄の日足で追い、ルールB(25日線押し目 or VWAP回復)で入れたらどうなったかを確認します。ここで見るのは勝敗ではなく、損切りが機能したか、利確2段階で利益が残ったかの2点です。
この作業をすると、「統計が当たるか」より「自分のルールが事故を防ぐか」が分かります。勝てる人は、当てる能力より、事故らない設計が強いです。
上級者がやっている“もう一段の先回り”:サブセグメントの見立て
余力が出たら、装置統計の改善がどのサブセグメント主導かを見立てます。例として、先端ロジック主導なら、露光・成膜・エッチング周辺のテーマが強くなりやすい。メモリ主導なら、量産向けの工程で波が出やすい。統計が同じ「装置」でも、勝ちやすい周辺銘柄が変わります。
ただし初心者は、ここに深入りすると情報過多になります。最初の3〜6か月は、受注3MMAの傾きと、25日線の押し目だけで十分です。成績が安定してから、サブセグメントの精緻化に進めば良いです。


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