テーマ184「市場参加者が少ない日に出た急変動」を、初心者でも再現しやすい形に落とし込みます。薄商いの日は、普段なら効かない値動きが突然出ます。理由は単純で、板が薄く、少量の成行で価格が飛びやすいからです。逆に言えば、仕組みを理解して「狙う場面」と「触らない場面」を決めれば、短期トレードでは強い武器になります。
ここで扱うのは、長期投資の企業価値分析ではなく、需給とマイクロストラクチャ(板・出来高・約定の癖)を使った短期戦略です。具体的には「いつ薄商いと判断するか」「急変動の種類を分類して、どの型だけを取るか」「損失を限定しながら回数で勝つ設計」を、順番に説明します。
- 薄商いの日に起きる急変動の正体:なぜ“飛ぶ”のか
- まず“薄商い”を数値で定義する:感覚を捨てる
- 薄商いの急変動で勝つ基本設計:狙うのは“2回目”
- エントリー前に見るチェックリスト:板・歩み値・ティックの3点セット
- 具体例:薄商いの“上方向急変動”を取る型
- 具体例:薄商いの“下方向急変動”を取る型
- “触らない”が正解の急変動:初心者が損を出す典型
- ロット設計:薄商いでは“損切り幅”ではなく“滑る前提”で組む
- 時間帯別の“薄商い危険ゾーン”と“取りやすいゾーン”
- 検証のやり方:勝てるかではなく“事故が減るか”で評価する
- 初心者向けの最小ルールセット(これだけで運用できる)
- 監視銘柄の選び方:薄商いでも“まともに約定する銘柄”だけに絞る
- 注文方法のコツ:成行は“攻め”ではなく“事故の火種”になり得る
- 数値例で理解する:同じチャートでも薄商いだと期待値が変わる
- 典型的な失敗と修正:負け方をパターン化して潰す
- 応用:FX・暗号資産での“薄商い急変動”はどう違うか
- まとめ:薄商いの急変動は“予測”ではなく“設計”で勝つ
薄商いの日に起きる急変動の正体:なぜ“飛ぶ”のか
薄商いとは、出来高が少なく参加者が少ない状態です。出来高が少ないと、売り板・買い板の厚みが薄くなります。板が薄いと、例えば成行買いが数千株入っただけで、売り板を何ティックも食って上に飛びます。普段なら「同じ成行でも1ティック上がるだけ」なのに、薄商いでは「3〜10ティック」平気で飛びます。
この現象は、銘柄の良し悪しとは別に起きます。材料がなくても、指数が静かでも、板の密度が低いだけで価格は乱高下します。初心者がやりがちなのは、飛んだ瞬間に「強い」と誤認して高値掴みし、次の一撃の成行売りで同じ幅だけ落とされることです。
薄商いの急変動は、次の3パターンに分解できます。
(A)板薄+成行の一撃型:板が薄いところに成行が入り、数ティック〜数十ティック一気に飛ぶ。
(B)アルゴの探索型:小さな成行を連発して板を探り、反応が薄い方向へ一気に持ち上げる/叩く。
(C)ストップ誘発型:節目(前日高値、ラウンドナンバー、VWAPなど)を越えた瞬間に逆指値が連鎖し、短時間だけ加速する。
戦略を作る上で重要なのは、(A)(B)(C)を同じ“急騰”として扱わないことです。勝てるのはたいてい(C)で、(A)は取れる日もありますが、再現性が落ちます。(B)は難度が高く、初心者は最初から狙わない方が安全です。
まず“薄商い”を数値で定義する:感覚を捨てる
薄商いの判断を「なんとなく出来高が少ない」でやるとブレます。そこで、最低限のルールを決めます。おすすめは、銘柄ごとの平常時と比較する方法です。指数全体が薄い日もありますが、個別はバラつくためです。
初心者向けの定義例(どれか1つでOKではなく、複数で判定精度を上げます):
・9:00〜9:10の累計出来高が、過去20営業日の同時間帯平均の50%未満
・10:00時点の出来高が、過去20営業日の同時刻平均の60%未満
・板の上位(例:売り1〜売り10/買い1〜買い10)の合計株数が、普段より明らかに薄い(銘柄内比較で判断)
この「同時間帯平均」を作るのが面倒なら、もっと簡易でも構いません。例えば、監視銘柄に対して「寄り付き後30分の出来高が普段の半分以下なら薄商い」と決めるだけでも、急変動の質は変わります。
薄商いの急変動で勝つ基本設計:狙うのは“2回目”
薄商いの日の急変動は、1回目が罠になりやすいです。板が薄いので、最初の飛びは誰でも見えます。問題は、その後に同じ方向へ続くのか、それとも往復ビンタ(上げて下げて)になるのかです。
そこで基本方針はこうです。
最初の飛びは見送る → 反応を確認 → 2回目だけ取る
「2回目」とは、例えば次の形です。
・前日高値を一瞬抜けた(1回目)→ 押し戻されるが安値を切らない → 再度前日高値を抜ける(2回目)
・VWAPを上抜けた(1回目)→ いったんVWAP付近まで戻る → 出来高が伴って再度VWAPを回復(2回目)
この2回目は、ストップや追随注文が入りやすく、短時間だけ伸びる確率が上がる一方、損切り位置も明確になります。薄商いで重要なのは「当てる」より「外した時に小さくする」です。
エントリー前に見るチェックリスト:板・歩み値・ティックの3点セット
薄商いの急変動を触るなら、チャートだけでは不足です。最低でも次の3点セットを見ます。
1)板(気配)
急変動が起きる直前、板に“空白”があるかを見ます。空白とは、例えば売り板が飛び飛びで、数ティック上に大きな壁がない状態です。この時の成行買いは飛びやすいですが、同時に逆方向の成行で落ちやすいです。壁がない=安全ではないと理解してください。
2)歩み値(約定)
急騰の直前に、同サイズの成行が連続するか、断続的かを見ます。薄商いでは、数回の成行で“演出”されることがあります。連続性がなく、単発の大きな約定だけで飛んだ場合は、(A)一撃型の可能性が高く、追いかけるほど不利です。逆に、小さな成行が連続して板を削るなら、(C)ストップ誘発や本気の追随が入りやすいです。
3)ティックの値動き
1ティックずつ階段状に上がるのか、1回で数ティック飛ぶのか。階段なら参加者がいる可能性があり、飛ぶなら板薄の可能性が高い。飛びは利益も損失も大きくなるので、ロット管理とセットで考えます。
具体例:薄商いの“上方向急変動”を取る型
ここからは、実際に再現しやすい型を提示します。初心者はこの型だけに絞って練習すると上達が速いです。
型1:前日高値ブレイクの2回目を取る(ストップ誘発型)
前提:薄商い判定が出ている(出来高が平常の半分以下など)。
手順:
①前日高値付近まで上がるのを待つ(ここでは触らない)
②1回目のブレイクが出る(成行で抜ける)
③すぐ押し戻されても、押しの安値が「ブレイク前の水準」を割らないことを確認
④再度、前日高値を抜ける瞬間に成行(またはブレイク指値)でエントリー
⑤損切りは押し安値割れ(5分足確定を待たず、板と歩み値で早めに)
利確の考え方:薄商いでは伸びが短いことが多いので、欲張らずに「次の節目」までで切ります。例えば、ラウンドナンバー、直近の大きな売り板、当日高値更新幅のキリの良いところです。利確を引っ張ると、薄商い特有の急な戻しで利益が消えます。
型2:VWAP回復の2回目を取る(押し目型)
薄商いの日はVWAPが“磁石”になりやすい一方、板が薄くて上下に振られます。そこで、VWAPを一度抜いた後の「戻り→再回復」を取ります。
手順:
①価格がVWAPを上抜け(1回目)
②その後、VWAP付近まで押す(ここで焦って買わない)
③VWAP付近で出来高が極端に減り、売りが鈍る(歩み値の成行売りが止まる)
④再度VWAPを上回る瞬間にエントリー
⑤損切りはVWAPを明確に割れて定着した時(数ティック割れ+戻れない)
この型の強みは、損切り幅を小さくしやすいことです。薄商いで一番危険なのは、損切りが遅れて「飛び」で広がることなので、基準線(VWAP)を使うのは合理的です。
具体例:薄商いの“下方向急変動”を取る型
下方向も同じ発想です。ただし、下げはパニックが入りやすく、リバウンドも急なので、利確はさらに早めが安全です。
型3:前日安値割れ→戻れないの2回目をショート(戻り売り型)
手順:
①前日安値を割れる(1回目)
②すぐ戻しても、前日安値を回復できない(板の上が重い)
③再度、前日安値を割る瞬間にショート
④損切りは前日安値回復(ティックで戻ったら即)
薄商いでのショートは、逆指値の巻き込みで一瞬伸びます。ただし、その後はショートカバーも同じ速度で来るので、伸びたら分割利確が有効です。例えば半分利確→残りはトレール、という形で「勝ち逃げ」を優先します。
“触らない”が正解の急変動:初心者が損を出す典型
薄商いの急変動には、触るほど期待値が悪化するものがあります。具体的には次のケースです。
1)出来高が伴わない一撃型(A)
歩み値を見ると、単発の大きな成行で飛んだだけ。追随が続かないので、次の単発の逆方向成行で戻されやすい。初心者はここで“強い”と勘違いしますが、強いのは値幅であって需要ではないという理解が必要です。
2)板が薄すぎてスプレッドが広い
スプレッドが広い銘柄は、入った瞬間に不利です。薄商いの日はスプレッドが普段より広がることがあります。スプレッドが広いまま飛ぶ銘柄は、取れても再現性が低いので、監視対象から外して構いません。
3)指数が急変しているのに個別が薄い
指数主導の局面では、薄商いの個別は振られやすく、板が追いつきません。特に寄り付き直後や重要指標直後は、薄商い戦略よりも「指数連動・寄与度上位」に寄せた方が勝ちやすいです。
ロット設計:薄商いでは“損切り幅”ではなく“滑る前提”で組む
初心者が一番やられるのは、損切りを置いているのに滑って大きく負けることです。薄商いでは、逆指値も想定価格で約定しないことがあります。だからロット設計は、損切り幅だけでなく、スリッページ込みで考えます。
実践的な考え方:
・普段の損切り幅が2ティックなら、薄商いでは4〜6ティック滑る前提で計算する
・「1回のトレード損失上限(円)」を固定し、ロットを下げる
・連敗を想定して、1日の上限損失を決める(薄商いの日は相場が荒れやすい)
たとえば、1回の損失上限を5,000円にすると決めた場合、普段は2ティック(=200円/100株換算)で2,500株持てたとしても、薄商いでは6ティック(=600円/100株換算)を想定して800株程度に落とす、という具合です。こうすると、同じ負けでもダメージが小さく、検証を継続できます。
時間帯別の“薄商い危険ゾーン”と“取りやすいゾーン”
薄商いは一日中同じではありません。時間帯で性質が変わります。
危険ゾーン
・9:00〜9:10:寄りの需給が落ち着く前で、飛びも戻しも速い。初心者は最初から触らない方が良い。
・11:00〜11:30:前場引けに向けて薄くなり、引け成行で急に動く。
・14:50〜15:00:引けの需給で急に板が薄くなり、最後に飛ぶ。
取りやすいゾーン
・10:00〜10:30:寄りのノイズが少し落ち、型(前日高値2回目、VWAP再回復)が機能しやすい。
・13:10〜13:30:後場寄りの初動が一巡した後、薄商いの“2回目”が出やすい。
ここは絶対ではありませんが、初心者は「触る時間帯を固定」した方が、検証が進みます。薄商いは偶然の要素が増えるので、条件を減らして再現性を上げるのがコツです。
検証のやり方:勝てるかではなく“事故が減るか”で評価する
薄商い戦略の検証は、勝率や利益率だけを見るとブレます。重要なのは、事故(大負け)が減っているかです。評価軸を次の3つに絞ると、改善が速いです。
①エントリーが「2回目」だけになっているか(1回目で飛びついていないか)
②損切りが基準線(前日高値/安値、VWAP)で機械的にできているか
③滑った時でも、ロットが小さくて致命傷になっていないか
具体的には、トレード日誌に「薄商い判定」「急変動の分類(A/B/C)」「1回目or2回目」「滑りの有無」を必ず書きます。1週間で10回も記録すれば、自分がどこで負けているかが見えます。
初心者向けの最小ルールセット(これだけで運用できる)
最後に、ここまでの内容を“最小構成”に落とします。初心者は、最初から全部やろうとしないでください。これだけで十分戦えます。
ルール
・薄商い判定:寄り後30分の出来高が普段の半分以下なら、その日は薄商いモード
・狙う型:前日高値/安値の2回目ブレイク、またはVWAP再回復(2回目)だけ
・禁止:単発一撃で飛んだ後の追いかけ(A)
・損切り:押し安値割れ、またはVWAP再割れで即(迷ったら即)
・ロット:普段の半分以下(滑り前提)
・利確:節目までで速く、分割利確を基本
薄商いの日は“相場が簡単”なのではなく、“相場が雑”になります。雑な相場で勝つには、予測よりも設計が大事です。型を絞り、損失を限定し、同じ条件だけを繰り返す。これが、薄商いの急変動を味方にする一番の近道です。
監視銘柄の選び方:薄商いでも“まともに約定する銘柄”だけに絞る
薄商いの日に全銘柄を対象にすると、ノイズが増えて再現性が落ちます。監視対象は、普段から流動性が一定以上ある銘柄に限定します。初心者がいきなり超小型の低位株に行くと、板が薄すぎて「戦略」ではなく「運」になります。
目安としては、平常時の出来高が十分あり、1ティックの値幅が細かすぎない(=スプレッドが安定している)銘柄が適しています。具体的には次のように選別します。
・直近20営業日の平均出来高が一定以上(例:50万株以上など、あなたの資金量に合わせて)
・板の1〜5本目が毎回ほぼ空にならない(=常にある程度の厚みがある)
・寄り付き直後にスプレッドが異常に開かない
そして、薄商いの日に急変動が起きやすいのは、「普段はそこそこ動くが、その日に限って参加者が減っている銘柄」です。普段から極端に薄い銘柄は、急変動が“通常運転”なので優位性がありません。
注文方法のコツ:成行は“攻め”ではなく“事故の火種”になり得る
薄商い戦略はブレイク瞬間を取る場面が多いので、成行を使いたくなります。ただし、薄商いでは成行が滑りやすく、期待値を削ります。そこで、注文方法を状況で使い分けます。
ブレイク瞬間(2回目):基本は成行。ただし板が飛び飛びなら、成行は滑りやすいので、1ティック上に指値(ブレイク指値)で滑りを抑えます。
VWAP再回復:VWAPの上に置く指値が有効です。板が薄いなら、VWAPの少し上で約定させて、損切りをVWAP割れに統一できます。
利確:薄商いは急に反転しやすいので、利確は成行でも良い場面があります。ただし、利確の成行で自分が価格を動かすサイズになっているならロット過大です。
初心者は「成行=正解」と思いがちですが、薄商いでは逆です。成行は便利ですが、滑りコストが増える局面では、指値でコストを管理する方が長期的に勝ちやすいです。
数値例で理解する:同じチャートでも薄商いだと期待値が変わる
例えば、ある銘柄の普段の板が「1ティックあたり2万株」並んでいるとします。この時、成行買い5,000株は売り板の一部を食うだけで、ほぼ1ティック上で止まります。ところが薄商いで「1ティックあたり3,000株」しかないと、同じ5,000株の成行で2ティック以上飛ぶことがあります。
重要なのは、飛んだこと自体ではありません。飛びの後に“戻りも同じだけ速い”ことです。つまり、薄商いでは「ブレイク=継続」とは限らず、「ブレイク=往復」も増えます。だから、先に説明した通り“2回目だけ取る”が効きます。
さらに、損切りも同じです。普段は2ティックで切れたのに、薄商いでは3〜6ティック滑る。これが「勝てていた手法が急に勝てなくなる」原因です。戦略そのものではなく、約定の質が変わっているのです。
典型的な失敗と修正:負け方をパターン化して潰す
薄商いの日の負けは、実は同じ形に収束します。以下の3つが多いはずです。
失敗1:飛びつき
1回目の飛びで入って、押しで刈られる。
修正:日誌に「1回目で入ったか」を記録し、1回目エントリーを物理的に禁止する(アラートだけ鳴らし、2回目まで待つ)。
失敗2:損切りの遅れ
VWAP割れや節目回復を見て「戻るかも」で粘り、滑って大負け。
修正:損切り条件を“価格”ではなく“状態”で決める(例:VWAP割れ後、戻りが弱く、歩み値が売り優勢のままなら即)。
失敗3:ロット過大
普段のロットのまま入り、滑りで一発退場。
修正:薄商い判定が出たら、ロットを半分以下に強制。ルールに「例外なし」を入れる。
応用:FX・暗号資産での“薄商い急変動”はどう違うか
同じ薄商いでも、FXや暗号資産は日本株と性質が異なります。日本株は取引所の板が見え、呼値やストップ高/安などの制度があり、急変動の“形”がある程度パターン化します。一方、FXは分散市場で板が見えにくく、流動性は時間帯で大きく変わります。暗号資産は取引所ごとに板があり、アルゴが支配的で、急変動が常態化しやすいです。
それでも共通する実戦ポイントは同じです。
・流動性が落ちる時間帯(例:FXの東京昼、暗号資産の特定時間)を把握し、ロットを落とす
・1回目のブレイクに飛びつかず、戻り→2回目だけを狙う
・損切りは遅らせず、滑る前提で資金管理を組む
市場が違っても、“薄い板での急変動”は似た事故を起こします。だからこそ、ここで作ったルールセットは、資産クラスをまたいで応用できます。
まとめ:薄商いの急変動は“予測”ではなく“設計”で勝つ
薄商いの日の急変動は、当てに行くほど危険です。勝ちやすいのは、①薄商いを数値で判定し、②急変動を分類して、③2回目だけを取り、④滑り前提でロットを落とし、⑤早めに利確する、という設計を徹底した人です。
今日からできる最短の一歩は、監視銘柄を絞り、薄商い判定を入れ、2回目だけを記録することです。そこで事故が減ってきたら、型を増やす。順番を守れば、薄商いの急変動は“怖い日”ではなく“取れる日”に変わります。


コメント